
空気中の水分を吸収しやすく、吸湿率の上昇とともに沸点が低下する性質を持つブレーキフルードは、一般的に2年ごとの交換が指定されています。しかし保管状況等によってどれほどの水分、湿気にさらされるかはまちまちで、中にはもっと短期間で吸湿率が高くなる可能性もあります。そんなときにフルードの吸湿率を測定し、交換時期か否かを表示するブレーキフルードテスターがあれば、客観的な判断が可能になります。
グリコール系フルードのウェット沸点は吸湿率わずか4%程度

リザーバータンクの中で透明だから吸湿率が交換基準に達していないとは断定できない。アメリカの交通省であるDOT(Department of Transportation)が定めた規格では、DOT3フルードのドライ沸点は205℃以上でウェット沸点は140℃以上、DOT4は230℃以上、155℃以上となっているが、吸湿率がウェット沸点基準値の3.7%となっても突然色が変わるわけではないからだ。
エンジンオイルと同様に、ブレーキフルードやクラッチフルードは定期交換が必要です。そして走行距離で交換時期を判断するエンジンにオイルに対して、公道走行で使用するブレーキフルードは使用期間を基準にすることがほとんどです。
その理由はDOT3、DOT4規格のブレーキフルードの主成分であるエチレングリコールに空気中の水分や水蒸気を吸収する性質があり、水分が混ざることでフルードの沸点が低下してしまうためです。
ブレーキを掛けた際にブレーキローターやブレーキパッドに生じる摩擦熱は、キャリパーを通じてブレーキフルードにも伝導し、サーキット走行時にはパッドの温度が300℃以上になることもあります。この熱はキャリパーピストンやキャリパーボディである程度は吸収放熱されますが、それでもフルードの温度が200℃近くに上昇する場合もあります。
もし水道水でブレーキを作動させたとしたら、そんな高温では沸騰してしまい、水の中に気泡が生じてエア噛み状態になりベーパーロック現象が発生してブレーキが利かなくなってしまいます。そこで沸点が200℃以上のエチレングリコールを使用しているのです。
ただ、先のようにエチレングリコールには水分を吸収しやすい性質があり、水が混ざったブレーキフルードは沸点が下がっていきます。ブレーキフルードの規格であるDOT規格によれば、吸湿率0%、新品のDOT4フルードの沸点(ドライ沸点)は230℃以上なのに対して、吸湿率が3.7%になると沸点(ウェット沸点)は155℃以上まで低下するという資料があります。これは吸湿率3.7%でも沸点155℃以上の性能を有することでDOT4の規格を満たすという意味ですが、レースのような使い方でフルード温度が200℃以上になる場合には沸騰するリスクがあることを示しています。
レース用のマシンであれば、参戦ごとのメンテナンスを行う際にフルード交換も行うでしょうが、街乗り用では明確な基準を決めづらいため、サービスマニュアルでは2年ごとの交換を指定します。これは250cc以上の車検付きのバイクは車検前の点検時に交換するという習慣づけをする意味合いもあってのことでしょう。またメーカーがさまざまなテストを行った上で、一般的には2年に一度で問題ないと判断したのだと思われます。さらには街中やツーリングユースでブレーキパッド温度300℃、ブレーキフルード温度が200℃にもなる状況は皆無なので、ウェット沸点が155℃まで低下しても即座にベーパーロックにはつながらないと判断しているのかも知れません。
最低でも2年に一度交換しておけば一応安心というわけですが、ブレーキフルードがどの程度の水分を吸収するかは使用状況や保管状況によってまちまちです。一年中、エアコンの効いたガレージ内で保管しているバイクと、屋外保管でツーリング中に雨天走行を行うことの多いバイクでは条件が大きく異なります。場合によっては、2年よりもっと早くウェット沸点の基準である吸湿率3.7%を超えてしまうことがあるかもしれません。
- ポイント1・ブレーキ使用時に高温となるブレーキフルードには、ベーパーロック防止のため沸点が高いエチレングリコール主体(DOT3、DOT4)のフルードが用いられる
- ポイント2・ブレーキフルードに水分が含まれると沸点が低下するため、一般的には2年間ごとに交換する
フルード中の水分量を測定して使用可否を表示するブレーキフルードテスター

ブレーキフルードテスターの一例。形状はさまざまだが、筒状の本体に2本のテスターリードがあり、これをフルードに接触させることで抵抗値を測定して吸湿率として表示する。具体的な数値と言うより、交換が必要か否かを表示するテスターが多いようだ。

新品フルードや吸湿率が低い場合、正常で交換不要を示す緑のLEDが点灯する。未使用でも一度開栓したフルードは徐々に吸湿するので(特に缶のキャップ付近が錆びている場合は怪しい)、使用前に容器に移して測定しておくと良い。

すぐさま交換を要するほどではないものの、水分が混入したフルードは黄色のLEDが点灯する。自動車のブレーキ系統のように経路が長く交換時に多量のフルードを要する場合はしばらく間を置いて吸水率の進行具合を確認するのも良いが、マスターシリンダーとキャリパーが近いバイクなら、作業は面倒ではないからこの時点で交換しても良いだろう。

新しいフルードをマスターシリンダーから送る際もキャリパー側から逆送する際も、リザーバータンク内のフルードはあらかじめ吸い出しておく。この際タンク底部のポートが露出するとエアー噛みの原因になるので、エアー抜き時間を短縮するために古いフルードを僅かに残しておくのがコツ。
あくまで2年ごとの交換スパンにこだわるか、不安だからもっと短期間で交換するか。短期間の場合は1年なのか半年なのか。短期間で交換すれば、フルードの性能の高い部分を使い続けることができますが、ほとんど劣化していないフルードを頻繁に交換するのは過剰整備でもあります。そんな場面で有効なのはブレーキフルードテスターです。
いくつかのメーカーから製品が発売されていますが、どれも2本のテスターリードをリザーバータンク内のフルードに接触させて電気抵抗を測定することで吸湿率を表示します。表示方法は針式とLED表示式があり、どちらのタイプもフルード中の水分が3%以上だと交換が必要であると表示するものが多いようです。ちなみに、吸湿率の基準は先に挙げたDOT規格によるものです。
ここで紹介しているテスターの表示は緑、黄、赤の3段階表示で、吸湿率が3%以上の場合は赤色のLEDが点灯します。見た目で紅茶のような褐色に変色していれば問答無用で交換すると思いますが、透明度を保ちつつ1年程度を経過したフルードがまだ使えるのか?そろそろ交換した方が良いのか?を迷うような時に、テスターによる測定は頼りになります。
「迷うぐらいなら交換した方がスッキリする」という考え方もできますが、まだ充分に使えるにもかかわらず感覚だけで捨ててしまうのはもったいないものです。テスターをどこまで信用するかという別の問題もありますが、電気系のチェックでサーキットテスターを使用するのと同様に、判断基準として活用するのはブレーキメンテナンスでは有効となるはずです。
ブレーキフルードテスターで吸湿率が高が高いことが分かり、交換時期と判断したブレーキフルードの入れ替えを行う際、エアー抜き作業の手間を考えてマスターシリンダーやブレーキホースやキャリパーにエアーを混入させたくないと考えるのは当然です。その際に新たなフルードをマスターシリンダーからキャリパーに送る方法と、キャリパーからマスターシリンダーに向けて逆送する方法があります。
マスターシリンダーのリザーバータンク内の古いフルードを吸い取り、新しいフルードを満たしてブレーキレバーを握ってキャリパーに送る方法が一般的ですが、このやり方だと新旧のフルードが混ざりながらキャリパーに向かうため、完全に入れ替わるまでに一定の時間が必要で、ブレーキレバーを繰り返し握らなくてはなりません。
これに対してシリンジなどでキャリパーのブリーダープラグからフルードを注入する逆送式は、キャリパーやホース内の古いフルードを新しいフルードで強制的に押し上げていくため、完全入れ替わりまでのフルード使用量を節約できる利点があります。しかし長期間交換作業を行っていない場合、キャリパー内部に蓄積した汚れがマスターシリンダーに押し込まれてしまうという欠点もあるため、フルードが茶色く変色している時は逆送しない方が無難です。それ以前に、キャリパーのオーバーホールを行った方が良いでしょう。
- ポイント1・ブレーキフルードの吸湿率を示すブレーキフルードテスターを活用することで交換時期を判断できる
- ポイント2・使用期間にかかわらず吸湿率基準でフルード交換を行えば、より効果的なブレーキメンテナンスが実践できる
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