
ブレーキキャリパーピストンとピストンシール、フロントフォークインナーチューブとオイルシールの接触面など、内部の液体を漏らさず接触抵抗を下げたい部分で重宝されるケミカルで最も有名なのがCCIのメタルラバーです。その効果効能は愛用者にとっては当たり前ですが、スプレーひと吹きでフリクションが激減する滑りの良さはまさに感動ものです
キャリパーピストンやインナーチューブとシール面のフリクションは想像以上に大きいこともある

チューブに圧入されているオイルシールのリップ部分は、インナーチューブ表面に付着するフォークオイルによる潤滑が期待できるが、ダストシールのリップとインナーチューブの接触面には基本的に油分がない。サービスマニュアルでフロントフォーク組み立て時にインナーチューブ表面にフォークオイルを塗布するよう指示のある機種もあるが、組み立て後に拭き取った後に潤滑は期待できずダストシールがフリクションロスの原因になる場合もある。

プロメカニックはもちろん、サンデーメカニックの間にもゴム系部品の潤滑スプレーの代名詞として知れ渡っているCCIのメタルラバー。スプレー時の炭酸飲料が弾けるようなプチプチとした感触が特徴的。web!keのショッピングサイトでも販売されており、高いユーザーレビューを獲得している。
フロントフォークやブレーキキャリパーの清掃やオーバーホールを行った際に、一定の経験値があるサンデーメカニックが使用するのがメタルラバーです。脱脂洗浄したインナーチューブやキャリパーピストンの硬質クロームメッキ面にゴムのオイルシールやピストンシールを直接接触させると、樹脂製の下敷きを消しゴムで擦ったときのように大きな摩擦抵抗が発生します。
ただブレーキやサスペンションを作動させれば、キャリパーであればブレーキフルードが、フロントフォークであればフォークオイルがわずかにゴム面に触れることで、完全なドライ状況というわけではなく、ある程度の潤滑性は期待できます。
しかしながらバイクのサービスマニュアルを見ると、とある機種の場合フロントフォーク組み立て時にインナーチューブ外面はフォークオイルで潤滑し、キャリパーピストンシールはブレーキフルード、ピストンシールの外側のダストシールはシリコングリスで潤滑してから組み立てを行うよう指定されいます。これは互いに脱脂状態で組み立てを行うことでシール側に無理な力が加わることを防ぐと同時に、シールとパーツの初期馴染みを促進する目的があると考えることができます。
実際、ブレーキキャリパーピストンのもみ洗いの際に、ピストンをある程度せり出した状態で中性洗剤と歯ブラシで汚れを落として水道水ですすいだ後にキャリパーに押し戻そうとすると、脱脂されたピストンがダストシールに引っかかってスムーズに動かないことも少なくありません。
ここで引っかかりを感じるのはダストシールであり、キャリパー内部のブレーキフルードと接するピストンシールが洗剤で洗われているわけではないので、キャリパーピストンの動きにとって重要なロールバックに影響があるわけではありません。ロールバックとは、制動時にピストンがキャリパー内部を前進する際に断面が変形したピストンが元に戻ろうとする作用のことで、ブレーキレバーから手を離した際にマスターシリンダー内の圧力変化との相互作用でピストンをキャリパー内に引き戻します。
ブレーキキャリパーの場合、レバーをリリースした際にピストンがスムーズに戻るか否かによってパッドの引きずりにも影響します。摩耗したブレーキパッドのダストがキャリパーピストンに付着して作動性が低下すると、引きずりを起こしがちなのもそのせいです。ピストンを洗浄してパッドダストを除去するのが性能回復に効果があるのは間違いありませんが、シールとピストン間の潤滑を行うことクオリティはさらにアップします。だからこそ、サービスマニュアルにもピストンシールやダストシールに対する潤滑が指示されているのでしょう。
フロントフォークも同様で、インナーチューブとシールのフリクションはドライ状態では想像以上に大きいことがあります。フォークオイルが接触する機会が多いオイルシールはさておき、雨水や砂利やホコリの侵入を防ぐダストシールはインナーチューブに対する締め付けがそれなりに強く、ドライ状態だとフロントフォークの初期のストローク感に影響を与えることもあります。
- ポイント1・ゴムと金属部品の摺動部の汚れを清掃することは重要だがドライ状態で接触する際のフリクションロスは想像以上に大きい
- ポイント2・フロントフォークやブレーキキャリパーピストンとゴムシールの潤滑がサービスマニュアルで指示されていることもある
ブレーキフルードと似た成分ながら塗装を侵さずプラスチックにも使える

キャリパーから脱落しない程度までピストンを押し出し、キャリパーボディとピストンの汚れを中性洗剤などで清掃したら、ピストン外周にメタルラバーをスプレーする。ダストシール付きの公道用キャリパーの場合、多くがピストンシールに到達する前にダストシールで掻き落とされるが、ダストシールとピストン間に潤滑成分が浸透することでピストンの動きがグッとスムーズになる。ペースト成分が残るシリコングリスに比べて粘度が低く汚れが付着しづらい利点もある。

ダストシールだけでなくフロントフォークのオイルシールへの塗布も効果がある。インナーチューブにスプレーして何度かストロークさせることでリップ面とインナーチューブ表面に行き渡る。フロントフォークの動き、特に荷重変化が小さい領域での作動性向上が期待でき、シールの締め付けが強い機種ではこれだけで乗り心地が向上する例もある。リヤショックのダンパーロッドも同様で、オイルシールとの間にメタルラバーの潤滑成分が行き渡ることでフリクションロスの低減が期待できる。
ブレーキキャリパーピストンとピストンシール、インナーチューブとオイルシールのように、金属とゴムの接触摺動部分の潤滑に最適なケミカルとして知られているのがCCIのメタルラバーです。そもそもブレーキやクラッチシリンダーの組み付け用ケミカルとして開発されたメタルラバーはポリグリコールエーテルを主成分としています。
この成分はDOT3やDOT4(一部のDOT5.1なども含む)規格のブレーキフルードの成分であるグリコール系と似た性質があり、ピストンシールやダストシールに付着しても悪影響がなく、ブレーキフルードに混入しても溶解するため沸点低下や液中での分離などフルード性能にも影響を与えないのが特長です。
オイルシールの潤滑で問題となるのが、鉱物系の潤滑剤を使用した際のゴムに対する攻撃で、代表的なのがブヨブヨに膨れる膨潤です。エンジンやホイール周りに使われるオイルシールは鉱物油に対する耐性のある材質を使用していますが、ブレーキキャリパーシールはグリコール系のフルードを使用する前提で開発されているため(DOT3、DOT4用の場合)、鉱物系の潤滑ケミカルは厳禁です。
逆に言えばメタルラバーは油圧ブレーキやクラッチのシリンダーやキャリパーのゴムと金属の潤滑目的で開発された製品なので、その点では不安はないということです。余談ですが、メタルラバーを製造するCCIは一方でブレーキフルードの製造開発でも世界的に大きなシェアを持つ専門メーカーでもあります。つまりメタルラバーは、ブレーキフルードのすべてを知り尽くしたメーカーが、フルードとシールに影響を与えず潤滑性や組み付け性を向上させるために開発したケミカルであると言えるわけです。
清掃後のキャリパーピストンにスプレーしてからピストンを押し込むとキャリパー内に気持ちよくスーッと収まり、フロントフォークのダストシールにスプレーすると沈み始めや伸び切りなど荷重が小さな領域でのサスペンションの動きの良さを実感できるのが特徴であるのと同時に、メタルラバーは他の部分でも応用が可能です。
例えばニップルに差し込まれた燃料ホースや負圧ホースが張りついて抜けづらい場合、ピックツールなどで持ち上げた端部からスプレーすることでホースが抜けやすくなります。パーツクリーナーや鉱物系の潤滑スプレーでも同様の効果が期待できますが、ゴムを傷めないメタルラバーならば安心して使えます。
ブレーキフルードに似たポリグリコールエーテルを主成分としながら塗装や樹脂を傷めないことから、スプレーした際にホイールやフェンダーに飛沫が付着しても慌てて水洗いする必要はありません。この性質を応用して外装パーツのゴムグロメットにスプレーしておけば、サイドカバーやカウルの着脱時にグロメットやピンに無理な力が加わらずスムーズな作業が可能になります。
洗浄から潤滑までメンテナンスで便利なケミカルにはさまざまな種類や製品がありますが、その中でもメタルラバーはゴム系パーツの潤滑で不可欠な筆頭アイテムです。
- ポイント1・ゴムシールに影響を与えず金属面との潤滑を確保する油圧ブレーキ、クラッチ向けに開発されたメタルラバー
- ポイント2・ブレーキマスターシリンダーやキャリパー、フロントフォークオイルシールやダストシール、リアショックダンパーロッドなどのゴムシール潤滑で絶対的な性能を発揮する
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