エンジンのコンディションにとって重要な三大要素のひとつが「良い圧縮」です。燃焼室内の圧縮圧力が充分にあることで、スパークプラグで着火された混合気の燃焼圧力が高まり、理想的なエンジンパワーが発揮できるからです。また2気筒以上の場合はシリンダーごとのバラツキが一定以内に収まっていることも重要です。そして吸気系や点火系のセッティングの前に重要な圧縮圧力を知るために不可欠なのがコンプレッションゲージです。

機種ごとに異なる圧縮圧力の絶対値を知って測定することが重要

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圧縮圧力を測定するコンプレッションゲージの一例。ホース先端のゴムプラグをプラグ穴に押しつけながら測定するものもあるが、この製品はプラグのネジ径に応じたアダプターをプラグ穴にねじ込み、ホースとゲージを接続して測定するタイプ。ゲージを押しつける必要がないので、ひとり測定を行う際にゲージが外れる失敗がないのが特徴。ただし水冷エンジンなどでプラグホール内径が小さいエンジンではアダプターが干渉することもあるので要注意。

 

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圧縮圧力を測定する際はスロットルを全開にして行う。全閉や中途半端な開度ではシリンダーに取り込める空気が少ないため、正しい数値が表示されない。正しい数値とは?という疑問が出るかも知れないが、バイクメーカーが設定する圧縮圧力がスロットルを全開にして測定された数値なので、我々が測定する際も全開にすることで比較検証ができるというわけだ。キック始動の場合はペダルを勢いよく踏み降ろし、セルモーター始動の場合は満充電状態のバッテリーでセルを回す。

 

吸排気バルブが開閉することで混合気の吸入と排気ガスの排出を行い、吸排気バルブが閉じてピストンが圧縮上死点に達する際に燃焼室内の圧力が最大になるのが4ストロークエンジンの作動原理です。

エンジンに必要な3大要素である「良い混合気」「良い圧縮」「良い点火」のうち、良い圧縮はここで作り出されます。自然吸気エンジンの場合、ピストンが下死点に向かう際に発生する吸入負圧によっていかに効率良く空気を吸い込み、吸排気バルブが閉じて圧縮が高まる際にいかに圧縮圧力を逃がさないかがエンジンパフォーマンスを左右します。吸排気バルブが何からの理由で完全に閉じていない、ピストンリングの摩耗や張力低下などによる圧縮圧力の漏れがあれば、混合気の燃焼圧力も低下してしまいます。

キャブレター車でもフューエルインジェクション車でも、エンジンが必要な圧縮圧力を発生できなければ、適正な混合比ににならない可能性もあります。例えばピストンリングの摩耗によって吸入負圧が低下しているエンジンでは、ジェットのサイズやECUのプログラムに対して総体的に空気の量が少なくなってしまいます。これをキャブセッティングのズレであると解釈してしまうと、その後の作業が誤った方向にも進みかねません。それを防ぐためにも、エンジンの圧縮圧力を知ることは重要です。

圧縮圧力の測定で使用する計器がコンプレッションゲージです。プラグのネジ径に適合したアダプターをシリンダーヘッドに取り付け、ホースとゲージ本体をつないでクランクシャフトを回します。キック始動でもセルモーター始動でも、測定時はスロットルを全開にするのが大原則で、セルモーター始動の場合はセルボタンを数秒間押してゲージの針が最上限に達したところで数値を読み取ります。ちなみに2気筒以上の場合、測定シリンダー以外のプラグが残っていると圧縮圧力によるロスが発生するため、すべてのスパークプラグを取り外してから測定を行います。

エンジン内部の摩耗が進行すると一般的には圧力が低下する方向に変化しますが、キャブセッティングのミスやピストンリング(オイルリング)の摩耗によるオイル上がりによってピストントップにカーボンスラッジが堆積したような場合、燃焼室容積が減少して圧縮圧力が上昇することも稀にあるので注意が必要です。そして最も重要なことは、コンプレッションゲージが示す圧縮圧力が正常か否かを判断する際は、必ず機種ごとのサービスマニュアルを参照することです。

ときに「圧縮は●●kPaないとダメだよ」という声を聴くことがありますが、機種によってその数値は実にまちまちです。手近にあるサービスマニュアルで確認した範囲でも、6V時代のホンダモンキーは1000~1200kPa、同じ横型エンジンのジョルカブは1373kPaでした。ヤマハSR400は850~1050kPaなのに対して、水冷3気筒エンジンのナイケンは1331~1713kPaと絶版モデルでは信じられないような高い圧縮圧力となっています。またカワサキZ2の標準値は1050kPaですが、ゼファーχは775~1180kPaの許容範囲が設定されいます。油冷エンジンを搭載したGSF1200は860~1230kPaでした。

たったこれだけの機種でも適正な圧縮圧力にはなかり違いが存在することからも、愛車の圧縮圧力を測定する際には基準となる数値=サービスマニュアルなどに記載された圧力が重要であることが分かるはずです。

 

POINT

  • ポイント1・エンジンにとって必要な「良い圧力」はコンプレッションゲージを使うことで数値として知ることができる
  • ポイント2・適正な圧縮圧力はエンジンによって異なるので測定を行う際はサービスマニュアルなどで数値を確認する

シリンダーごとの圧縮圧力差によってエンジン本体の不調も類推できる

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4気筒エンジンの場合はすべてのスパークプラグを外してからコンプレッションゲージを取り付けて測定を行う。セルボタンを押してクランキングが始まると、圧縮上死点に達するごとにゲージの指針が徐々に上昇するので、上げ止まったところで数値を読む。気筒間の圧力差が大きい場合は、プラグ穴からエンジンオイルを少量入れて再度測定を行う。この際に圧縮圧力が上昇したらエンジン本体、具体的にはピストンリングやシリンダーの摩耗が進行していないかを確認する。

 

「良い圧縮」の具体的数値が機種ごとに異なるのと同時に、マルチシリンダーのエンジンでは気筒ごとの圧縮圧力の差にも注目することが必要です。先の通り圧縮圧力は吸排気バルブがいずれも閉じ、ピストンリングからの吹き抜け状態も一定範囲以内の時に適正値内に収まります。

マルチシリンダーのエンジンは、新車当初はバルブの閉じ具合もピストンリングの張力もおおむね揃っていますが、その後の摩耗や圧力低下が均等に進行するとは限りません。例えば排気バルブにカーボンスラッジが噛み込んで気密性が低下すれば、そのシリンダーだけ圧縮圧力が低下し、こうして発生した偏差が燃焼状態に、さらにはキャブセッティングに影響してエンジンコンディション全体の低下の原因となる場合もあります。

このような不具合の判断条件として、気筒ごとの圧縮圧力の差が示されている機種もあります。先の例ではスズキGSF1200は気筒間の差を200kPaとなっており、これ以上の圧力差がある場合はエンジン側に何らかの問題があるとして点検が必要であると記載されています。

GSF1200の標準値は1230kPaなので、3気筒が1200kPa前後で1気筒だけ1000kPaを示すようならエンジン側の手当が必要ということになります。一般論として圧縮圧力が1000kPa(昔の単位系でいえば約10kg/cm²)あればまず大丈夫という風潮もありますが、マルチエンジンの場合はシリンダー間の差も重要な判断基準となります。

キャブレター車の場合、吸入負圧=シリンダーが吸う力が低下して圧縮圧力も低下すると充分な混合気が吸われなくなるためスパークプラグの焼けが薄くなる傾向になります。これをプラグの焼け具合だけで判断してジェットを濃くしても、そもそもの圧縮圧力が不足しているため症状は改善しません。キャブセッティングを行う際にプラグの焼け具合が重要な判断基準になるのは確かですが、その前提条件としては「良い圧縮」が必要です。その上でマルチエンジンの場合は絶対値だけでなくシリンダーごとの相対的な差を把握することが重要であること知っておきましょう。

過不足なく走行できるから……という理由から、ともすれば吸気系や点火系のモディファイやチューニングに対して疎かにされることもあるエンジン本体のコンディション確認ですが、圧縮圧力が不足している状態では吸気系も点火系もセッティングは決められません。エンジン本体を分解点検するのは簡単ではありませんが、プラグ穴にコンプレッションゲージを取り付けてセルボタンを押すだけでエンジンの内部状況を知ることができるのですから、一度は圧縮圧力を測定しておくことをお勧めします。

 

POINT

  • ポイント1・マルチシリンダーのエンジンにとって気筒間の圧縮圧力差はエンジン全体のパフォーマンスに影響する
  • ポイント2・サービスマニュアルに記載された許容範囲を超える気筒間の圧力差が確認された場合エンジン本体の点検を行う

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