ABSやPPなど、主に外装に用いられる樹脂パーツには様々な利点がありますが、破損すると補修しづらい欠点もあります。問答無用で要交換となる場合は別ですが、補修で対応できそうな場合に強い味方となるのが溶接タイプの補修アイテムです。金属製のピンを埋め込むだけでなく、溶接棒が付属するタイプなら加熱で痩せた母材の盛りつけ補修も可能です。

コードレスタイプなら電源確保不要で樹脂パーツの補修ができる

01_20-768x513

全国展開の工具ショップであるストレートで発売中のプラスチックリペアキット。コードレスで2種類のこて先を使い分けられる本体とABS、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)用溶接棒がセットとなっている。溶接棒の色はすべて黒だが、補修するパーツと同素材を使用するのが溶接を成功させるコツ。1990年代後半以降のバイクなら、素材の種類はパーツの裏に記載されていることが多い。

 

02_08-2-768x513

割れたサイドカバーボスの台座修理にあたり、溶接部分が汚れていると溶接しづらいので、中性洗剤などで洗浄した後に患部をアセトンで拭く。ABS素材はアセトンが接着剤代わりになるので、綿棒で付着させるだけで接着が始まることもある。表面に付着すると塗装が傷むのでアセトンの扱いには注意が必要。

 

03_09-2-768x513

クラック部分を元の形状に修正しながらこてで加熱して溶接する。接合面の素材の厚みが明らかに異なる場合、薄い方が先に溶けてしまうため厚い方を優先して加熱するのがコツ。また最初は複数のポイントを点付けで固定して、形状が復元できてから全体を溶接する。加熱直後は樹脂が柔らかく押さえた指を離すと変形してしまうこともあるので、温度が低下して固まってから手を離す。

 

04_10-1-768x513

補修部分が欠損したり加熱によって溶け落ちてしまったときには溶接棒で肉盛り補修を行うと良い。この際に溶接棒だけを加熱して補修部分に盛っても簡単に剥がれてしまう。母材を溶かしながらさらに溶接棒を溶かし込んで全体の強度を確保する。この際、溶接棒で盛り上がる部分が他のパーツに干渉しないように形状を整えるようにする。

 

複雑な形状に成型でき軽量なプラスチックは、バイクの外装パーツにとって不可欠な素材です。特にスクーターやスーパースポーツモデルなど、車体全体をカバーで覆われた機種では、樹脂パーツなしではデザインも成り立たないほどです。

しかし転倒や取り扱いのミスなどでひとたび破損すると、補修は簡単ではありません。パネル同士が複雑に重なり合うスクーターの外装を取り外すには作業手順を守ることが重要ですが、これを怠って無理な力を加えると、思ったよりも簡単にツメが折れたりピンが欠けることも珍しくありません。

成型時に複雑な形状にデザインできるのが樹脂のメリットですが、その分構造は複雑かつ繊細で、破損箇所がほんの僅かでも元通りの強度を確保するのが難しいことも少なくありません。損傷具合が「こりゃダメだ」と諦めがつくほどひどければ交換するしかありませんが、ボス折れ、ピン欠け、クラック程度なら補修した上で再使用したいという事例もあるはず。

そんな時に重宝するのがプラスチックリペアキットです。ABSやPPなどの樹脂を接着できる接着剤があり、さらにABSはアセトンでも接着は可能ですが、破損状況によっては接着面積が少なく充分な強度が確保できないこともあります。特にツメ欠けやボス折れは接合部の小ささに反して加わる力が大きいため、一度接着しても再び破損してしまうことも少なくありません。

ここで紹介するプラスチックリペアキットは、熱によって樹脂を溶かしながら接合する溶接機タイプの補修アイテムです。工具ショップストレートで販売されている画像のキットはリチウムイオン電池によってコードレス作業が可能で、補修する樹脂の素材に応じて材質の異なる溶接棒をセットしています。

溶かして着けるという作業では、電気工作用のはんだこてを転用するのも一般的ですが、通常のはんだこてに比べてこて先の面積が大きく広範囲を加熱できるのが特徴で、こて先を交換することで溶かした溶接棒を送り込みながら接合や盛りつけられるのも特徴です。

 

POINT

  • ポイント1・接着剤では充分な強度が確保できない樹脂補修で活躍するのが熱による溶着補修
  • ポイント2・母材を溶かしながら接合することで補修前と同等の強度まで回復するのが樹脂溶接の最大の特長

補修だけでなくワンオフパーツ製作や部分加工にも便利

05_11-1-768x513

樹脂パーツの補修や工作で分離した部品を取り付ける際にもプラスチックリペアキットによる溶接は便利。接合面な溶かしながら一体化させますが、断面形状はなるべくピッタリ合うように成形しておいた方が良い。

 

06_12-768x513

ストレートのリペアキットではオプションとなる溶着ピンヘッドを使用して金属ピンを溶かし込む。補修部分の肉厚が薄い場合、ピンの波型形状が表面に現れることがある(突き抜けなくても表面にヨレが出る)ので慎重に作業する。ここでは分厚いエアークリーナーケースの加工なので、深く打ち込んで強度を確保してから隙間を溶接で埋めていく。

 

母材を溶かしながら接合するという点では金属の溶接と同じ原理を利用するプラスチック補修は、加熱した金属製のピンをクラック部分に溶かし込む補修方法とは仕上がりが若干異なります。

金属ピンを溶かし込む場合、ピンとピンの間はクラックがそのまま残るため、力を加えた時にヒビ割れが露出します。割れたカウルを裏側からピン補修して表面をパテで補修しても、グイッとひねるとパテごと割れてしまうこともあります。

これに対して溶接的補修では、接合部分の樹脂を溶かして一体化させることで破損部分を連続的に補修できるため強度面でも安定した仕上がりとなります。接合部分の面積が小さい場合、加熱によって母材が溶け落ちることが懸念されますが、そのような場面では溶接棒を追加して肉盛りすることで強度を上げることが可能です。

ただしはんだづけや金属の溶接と同様に、樹脂溶接でも溶接棒が母材に溶け込まないと強度は出ないので、母材が溶けてから溶接棒を溶かし込んで一体化させることが重要です。またこの時、熱を加えすぎると母材自体が大きく溶けて変形、破損することもあるので、裏側から補修する際は補修部分の表側を指で支えて温度や変形の有無を確認しながら作業します。

さらにこのキットには、オプションとして溶着ピン用の二叉ヘッドも用意されており、加熱した金属ピンを補修部分に溶かし込むことも可能です。溶接補修だけでは強度的に不安を感じる時に金属ピンを併用することで、より強度の高い補修ができます。

接触や転倒など明らかなアクシデント以外でも、取り付けビスを強く締めすぎてひび割れたウインカーレンズやテールレンズ、樹脂製ヘッドライト筐体の補修でも溶接補修が有効です。現行車はもちろんですが、ちょっと古いバイクのオーナーにとっても熱で補修できるプラスチックリペアキットは重宝するアイテムになることは間違いありません。

 

POINT

  • ポイント1・カウルやカバーなどの外装パーツだけでなく樹脂製のウインカーレンズやテールレンズも溶接で補修できる
  • ポイント2・金属製の溶着ピンと溶接の併用により強度をさらに向上できる

この記事にいいねする


コメントを残す