燃料タンクとキャブレターの途中で流路を切り替えるための燃料コックには、一般的に切り替えレバーの作動性とガソリンの気密性を両立させるゴムパッキンが組み込まれています。このパッキンが劣化するとガソリン漏れの原因となりますが、コックの構造によっては内部パーツ交換で修理が可能な場合もあります。

ガソリンが触れた後に放置することで劣化が進むゴムパッキン

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1973年に登場したヤマハのレジャーバイク、チャピィの燃料コックは初期型から負圧式だった。バイクに不慣れな女性ユーザーをターゲットとしたときに、いちいち止めるときにコックをOFFにする手間を省きたかったのかも知れない。しかし必要な時にはエンジンを始動せずガソリンをキャブに流せるよう、ON /RESに加えてPRIポジションを備えている

 

原付から大型車までスクーターを除くほとんどのキャブレター車に装着されているのが燃料コックです。走行中のガソリン残量に応じてONとRES(リザーブ)を切り替える燃料コックは燃料タンクとキャブレターの間に装着されており、構造によって重力式と負圧式に分類されます。

重力式はONとRESに加えてOFFの位置があり、レバーをOFFにしておけばコックからキャブレターへのガソリンが遮断されます。裏を返せばレバー位置がONやRESではガソリンが常にコック内を通過してキャブレターに流れ込もうとします。キャブレターのフロートチャンバー内にガソリンがあればフロートバルブが流路を止めるためガソリンも止まりますが、万が一フロートバルブとバルブシート間に異物が噛み込んだり、フロートがパンクして浮力が低下するなどキャブレター側に不具合が発生すると、ガソリンがフロートチャンバーに流れ続けてオーバーフローの原因になるので、停車中や保管中はレバーをOFFにしておくのがセオリーです。

対して負圧式コックは、エンジンの吸気側から取り出した負圧でコックのダイヤフラムを作動させてガソリンを断続します。ゴム製の薄膜であるダイヤフラムには、スプリングによってガソリン流路を止める方向に力が加わっており、エンジンが止まっている時はキャブレターにガソリンは流れません。エンジンが始動するとダイヤフラムに加わった負圧でスプリングが縮まり流路が開き、レバーで選択されたONかRESを通じてキャブレターにガソリンが流れ込みます。したがってバイクを保管する際はレバー位置がONかRESであっても、キャブが勝手にオーバーフローすることはありません。

ただしPRI(プライマリー)ポジションがある負圧コックは事情が若干異なります。PRIにはエンジンの負圧がなくてもガソリンが流れるバイパスのような役目があり、例えばキャブをオーバーホールしてフロートチャンバーを空にしたような場合に、エンジンが始動しなくてもガソリンを供給できます。しかしPRIにしたまま停車すると重力式コックのONと同じ状態になり、燃料タンクからキャブに向かって常にガソリンが流れてしまうので注意が必要です。

ガソリンの流路を切り替えるレバーの取り付け部分にはゴム製のパッキンが組み込まれており、その弾力によってスムーズなレバー操作と流路からのガソリン漏れを防止しています。コックパッキンには様々な形状がありますが、円盤状のパッキン面にいくつかの穴があるのが一般的です。このうち2つの穴は燃料タンク側のONとRESのガソリン取り出し口に接続され、もう1つはキャブレターにつながります。負圧式コックでPRIがある場合は、ダイヤフラムバイパス流路となる4つめの穴がある場合もあります。

このパッキンにはガソリンに耐性のあるゴムが使われますが、経年劣化は避けられません。使用頻度が高ければ問題はないのですが、長期間乗らない間にパッキンが乾燥してしまうと、柔軟性が失われたりひび割れが発生することがあります。負圧式コックの場合、先の通りダイヤフラムが流路を閉じるとコックパッキンにガソリンが触れなくなるため(内部構造によってそうでないコックもあります)、保管期間が長く続いてコックレバー部分のガソリンが揮発してしまうと、パッキンが乾燥して劣化が始まるようです。

そしてこのパッキンが劣化すると、レバー部分からガソリンが滲むようになります。ここで掲載する機種の場合、ダイヤフラムが負圧で開くとレバー側にガソリンが流れる構造なので、エンジンが始動するとレバーの根元にジワジワとガソリンが染み出してきます。またPRIでも同様に滲みます。

 

POINT

  • ポイント1・燃料コックのレバーの根元には燃料漏れを防止しながらレバーをスムーズに作動させるためのゴムパッキンが組み込まれている
  • ポイント2・経年劣化、中でも一度ガソリンが触れた後に乾燥することでパッキンが硬化しガソリン漏れを起こすことがある

パッキン交換可能なコックならアッセンブリー交換を回避できることも

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40年以上無交換だったレバーパッキンはプラスチックのように硬くなり、細かなひび割れが無数に生じていた。純正部品が手に入らない、または非分解式の場合はどうにもならないが、カチカチのパッキンにグリスを塗ることで一時的に機能を回復することもあるが、幸い現在でも純正部品が入手できるので新品に交換する。

 

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コック下部のカップフィルター合わせ部分のパッキンも新品が入手できた。古いパッキンは柔軟性がなく、カップを強く締めても潰れる手応えがまったくない。このパッキンでガソリン漏れを防ごうとカップを締めすぎると、柔らかい亜鉛ダイキャスト素材にダメージが及ぶこともあるので、レバーの根元と合わせて交換しておくべき。

 

こうなった場合、非分解タイプでアッセンブリーでしか部品設定されていない燃料コックでは丸ごと交換するしかありません。絶版車となり部品販売が終了されるとオーナーにとってはかなりの痛手となります。

その一方で、分解可能で内部パーツが単品で供給されるコックもあります。ここで画像を掲載しているコックは48年前に製造された機種のものですが、現在もレバーとカップフィルターの純正パッキンが供給されています。こうした部品は機種をまたいで共通化されていることも多いため、おそらく後年式の別の機種でも使われた実績があり、そのため現在でも購入可能なのだと思われます。

もっと年式の新しいバイクの例を挙げれば、キャブレター時代のホンダCB400スーパーフォアの燃料コックは非分解式でアッセンブリー供給のみの設定でしたが、同じ400ccネイキッドのカワサキゼファーはレバー根元の円盤状のパッキンとOリングを単品で購入でき、分解して組み替えることが可能でした。ただし人気車種での場合、アフターパーツメーカーが互換性のある燃料コックをリリースしている場合もあるので、純正部品以外による補修が可能な場合もあります。

燃料タンクがらみのトラブルと言えばタンク自体のサビがもっともポピュラーですが、それに次いで頻発するのが燃料コックからの滲みや漏れです。愛車の燃料コックが分解可能でパッキンが入手可能であるなら、症状が軽いうちに交換することをお勧めします。

 

POINT

  • ポイント1・燃料コックにはアッセンブリー状態でしか入手できない非分解式と内部パーツが交換できるタイプがある
  • ポイント2・交換用のパッキンが入手できる燃料コックは年式が古くてもリペアが可能

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