
キャブレターボディの下部にあるフロートチャンバーは、燃料タンクのガソリンを一時的に溜めておくだけでなく空燃比にも影響を与える重要な部分です。この底部にドレンボルトが備わるキャブの場合、チャンバー内のガソリンを簡単に排出できます。数ヶ月ぶりにエンジンを掛ける時や長期不動車のメンテナンスを行う際には、始動前にチャンバー内のガソリンをフレッシュにすることで始動性の向上が期待できます。
フロートチャンバーのドレンボルトを緩めればキャブレターを外さなくても内部の状況が想像できる

キャブレターのドレンボルトを緩めるとフロートチャンバー内のガソリンを排出できる。チャンバー自体の容量はさほど大きく見えないが、数十mlのガソリンが入っているのでエンジンに垂れ流しにすることなく、必ずウエスやペットボトルを切って作った容器などで受けること。またチャンバー内の汚れを確認できるよう、ウエスを用いる際は使い古しのではなくなるべくきれいな物を使用する。

2気筒や4気筒用キャブレターのドレンボルトを回す際は軸の長いドライバーがあると重宝する。ケーヒンCVKキャブで対辺3mmの六角穴付きドレンボルトには、工具ブランドのストレートから発売されてる長軸スリムタイプのT型レンチの作業性が抜群。

4気筒用キャブレターでドレンボルトがすべて同じ向きに取り付けられている場合、軸の長いドライバーが必須で、なおかつエンジン周りの部品との干渉を避けるためできるだけ軸が細い方が良い。ドレンボルトがプラス頭やマイナス頭のビスの場合、チャンバーから外れたボルトはドライバーから落下してしまうが、六角穴付きのキャップボルトならレンチ先端から外れることなく手元まで運ぶことができる。
キャブレターのセッティングにとって最も大切な条件のひとつが、フロートチャンバー内の油面が安定していることです。油面が安定する=ベンチュリー底部からチャンバー内部のガソリンまでの距離が一定であることで、スロージェットやメインジェットがら吸い上げられるガソリンが安定し、ジェットのサイズに応じた空燃比となるからです。
フロートチャンバーには燃料タンクから流れ込むガソリンのため池であると同時に、ガソリン内の汚れやゴミをより分ける沈殿槽としての役割もあります。新車から間もないバイクならガソリンタンク内もきれいですが、中古車や絶版車の中にはタンク内部にサビが発生するものや、給油口から砂や雨水が入ってしまうこともあり、燃料コックのフィルターで捉えきれない分はキャブレターに流れていきます。
異物がキャブレターを通じてエンジン内に供給されればトラブルの原因になることもあり、さらにジェットやガソリンの通路に詰まることでキャブ自体の機能が損なわれる場合もあります。
そうしたトラブルを防ぐためフロートチャンバーには一定の深さがあり、燃料タンクから入ったガソリンはチャンバー内部に溜まり、さらに重いゴミはチャンバーの底に溜まることで、キャブからエンジンに吸い込まれないようになっています。ちなみに、燃料ポンプでガソリンを圧送するフューエルインジェクション車は、ガソリンを噴射するインジェクター部分にガソリンを溜めておくチャンバーはありません。ガソリンを溜めておくのは燃料タンクだけで、タンク内に設置された電動式の燃料ポンプ(インタンク式の場合)の入り口に取り付けられたフューエルストレーナーでタンク内の汚れを取り除いています。
話をキャブレターに戻すと、燃料タンクからフロートチャンバーに流れ込んだガソリンは、時間の経過によって徐々に劣化します。ある石油メーカーのホームページには、ユーザーごとの使用環境や条件が異なるガソリンなどの燃料油には品質保持期限を設定していないものの、気温の変化が少ない冷暗所での保管でも3カ月程度を目安に早めの使用を推奨しています。ライダーによっては、3カ月を待たずに給油することもあるでしょうが、もっと長い期間乗らずに過ごすこともあるかもしれません。
そんな時に実践しておきたいのがフロートチャンバー内ガソリンの入れ替えです。フロートチャンバー底部にボルトやビスがある場合、これを緩めるとチャンバー内部のガソリンを排出できます。燃料コックが負圧式でPRI(プライマリー)ポジションがある場合、レバーをここに合わせると負圧によらず重力落下式になるため、ドレンボルトを緩めてフロートが下がると燃料タンクからガソリンが流れ続けます。これによって燃料ホース内のガソリンも入れ替えできますが、ドレンボルトを閉じるかコックをPRI以外のポジションに動かさなければガソリンが排出され続けるので注意しましょう。
排出されたガソリンから新品時とは違う異臭がする時には、ガソリンが劣化してジェットやニードルにワニスなどが付着しているかもしれないので、チャンバーのガソリンを入れ替えるだけでなく、キャブレターを取り外して内部パーツの清掃を行った方が良いでしょう。ワニスなどでジェットが詰まると、チャンバー内部のガソリンが新しくなっても混合比が正常にならず、エンジンも完調にならないことが多いからです。
- ポイント1・フロートチャンバーにドレンボルトがある機種の場合、ドレンボルトを緩めてチャンバー内部のガソリンを排出できる
- ポイント2・長期保管車などでチャンバー内のガソリン劣化が判明したらキャブ本体を取り外して清掃を行う
ドレンから排出したガソリンにサビやゴミが混ざっていたらフロートチャンバー内部も要確認

決まったジェットサイズを変更することはほぼない市販車用純正キャブレターに対して、汎用のレーシングキャブレターであるケーヒンFCRはキャブセッティング時にフロートチャンバーを外さずジェット交換ができるよう14mmのレンチで着脱する大きなドレンボルトを装備している。

フロートチャンバー内のガソリンをステンレス製のバットに排出したところ、ガソリン自体はフレッシュだったものの砂状の汚れが混ざっていた。燃料ホースの途中にはフィルターを装着しているが、その網の目を通り抜けるほどの小さなサイズの汚れである。

フロートチャンバーを外すと、ドレンボルトから抜けなかった細かな砂状の汚れが残っていた。燃料タンクから剥離したサビであれば見た目から明らかだがそのようなものではなく、どちらかと言えば海岸で見られるようなサラサラの砂状の物質。保管場所は海から離れておりオーナーは心当たりはないそうだが、走行中にこれだけ溜まってしまうのは通常ではそうそうあり得ない。燃料タンクの清掃はもちろん、給油口周辺やドレンパイプが閉塞していないかなどの確認も必要だ。
フロートチャンバードレンから排出されたガソリンに透明感がなく茶褐色で腐敗臭がするのとは別に、サビや砂利などが混ざっていた時にもチャンバーを外して内部を確認します。大半のドレンボルトはチャンバーの一番低い場所にありますが、ボルトを外したからといってチャンバー内のガソリンが完全に抜けきるわけではありません。
ここで紹介するレーシングキャブレターのケーヒンFCRの場合、燃料タンク内のサビや汚れがフロートチャンバーに溜まっていました。燃料ホースの途中にフィルターを設置しているにも関わらず、網の目より細かい分がフィルターを通り抜けてチャンバー底に到達していたのです。
FCRキャブはメインジェットの交換を容易にするためドレンボルトのサイズが大きく、チャンバー内部のガソリンも簡単に抜くことができます。ボルトを外した際に流れ出たガソリンに砂状の異物が見られたためフロートチャンバーを外したところ、チャンバー底部にも大量の堆積物が残っていたというわけです。
この例では、幸いジェットやキャブボディ内の通路への影響は確認されませんでしたが、さらに多くの汚れが流れ込み続けたらどうなっていたかは分かりません。こうした不具合を見逃さないためには、チャンバードレンから排出するガソリンは、汚れが判別しやすいきれいなウエスやペットボトル、金属製のバットなどで受けると良いでしょう。どうせ捨てるのだからと汚れたウエスにガソリンを排出すると、流れ出した汚れを見落としかねません。
腐敗したガソリンでジェット類が汚れている場合も、燃料タンクのサビがチャンバー内に溜まっている場合も、それぞれ適切な対策が必要です。タンク内には異状はなくフロートチャンバー内のガソリンだけが劣化、腐敗している場合はキャブレターをクリーナーケミカルでしっかり洗浄します。その際、ジェットやジェットニードルなどの部品を取り外して単品で洗浄し、キャブボディ側の通路にもクリーナーを流し込んで洗浄します。
一方、キャブ内部に腐りはなく燃料タンクのサビや汚れが落ちてきている場合、タンク側の対策が必要です。錆びたタンクにはサビ取りケミカルを使用しますが、サビ取りの前に汚れを取り除くためにガソリンを抜いた後に中性洗剤と水またはお湯で脱脂洗浄を行うのがサビ取りを成功させるコツです。
タンク内の汚れがサビでなく砂や土系だった場合、給油口が原因となることもあります。特に注意が必要なのがタンク上面と給油口がフラットなタイプです。この手のタンクは走行中や保管中の雨水や汚れがタンクキャップ内側に溜まる構造で、それらは給油口周辺のドレンパイプからタンク外部に排出されるようになっています。しかしこのパイプが詰まると汚れや雨水が給油口付近に溜まり、キャップを開けた際にタンク内に入り込んでしまうことがあります。
ガソリンスタンドで給油口周辺が常に水浸しならさすがに気づくでしょうが、屋外保管中に雨に降られて知らぬ間にキャップ本体とパッキンの隙間から染み入ることもあります。このような場合、タンク内の清掃だけでなく給油口のドレンパイプの機能や、パイプにつながるドレンホースの途中が折れ曲がっていないななどを確認しましょう。
フロートチャンバー内に溜まるガソリンの量は燃料タンクの容量に比べれば僅かです。しかしチャンバー内のガソリンから得られる情報は少なくありません。通勤や通学などで毎日乗っているのであれば必要性は低いですが、たまにしか乗る機会のない趣味のバイクであれば、定期的にフロートチャンバー内のガソリン確認を行うのも良いでしょう。
- ポイント1・フロートチャンバーのドレンボルトを取り外してもキャブレターの種類によってチャンバー内の汚れがすべて排出されない場合もある
- ポイント2・フロートチャンバー内の汚れが燃料タンクから流れてきたものである場合はタンク側の洗浄やサビ取りなどの対策を行う
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