
現行車の中型モデル以上で主流となっているシールチェーンに対して、1970年代以前の絶版車の定番であり、現在でも原付クラスを中心にポピュラーなのがノンシールチェーンです。ノンシールチェーンはシールチェーン以上に定期的な潤滑が必要ですが、ゴムシールがない分、洗浄用のクリーナー選びには自由度があり、汚れ具合によっては洗浄用の油脂に漬け込むことも可能です。
ピンとブッシュが直接接触するノンシールチェーンは定期的な潤滑が不可欠

現行モデルでも原付や原付2種クラスでは一般的なノンシールチェーン。リンクプレートの間にOリングが挟み込まれていない分、リヤタイヤを空転させた際はシールチェーン装着車より長時間回るが、エンジンで駆動力を与えるとリンクピンとブッシュの潤滑を保つグリスがないため、フリクションロスが大きくなりがち。それを避けるには定期的なチェーンメンテナンスが欠かせない。

ノンシールタイプの420チェーンはクリップジョイント式が大半で、クリップはプライヤーなどで簡単に着脱できる。そのためチェーンの汚れが目立つ場合は、チェーンを車体から取り外して単体で洗浄することもできる。クリップを取り付ける際はU字状に閉じた側を進行方向に向ける。
シールチェーンとノンシールチェーンの比較において、走行時のフリクションロス低減とロングライフ化の両面でシールチェーンが有利なのは明らかです。駆動力を伝達するチェーンの構造を見たとき、大きな力が加わるコマ同士をつなぐリンクピンとブッシュの隙間にグリスが封入されたシールチェーンは潤滑面で有利なのは明確です。
シールチェーンが市販車で標準装備されたのは1970年代中盤で、当初は大型車向けの630サイズから実用化が始まり、やがて530や520、428サイズへと小型化が進み、適用車種も中型クラスまで拡大されました。
リンクピンとブッシュの間に封入されたグリスが漏出しないよう、プレートの間に挟み込まれたゴムシールが抵抗になるという意見もありますが、その抵抗感はあくまで手で捻った程度で感じるもので、エンジンの駆動力が加わった際に問題になるほどではありません。それよりも、潤滑が重要なリンクピンとブッシュ間に高品質なグリスが封入され、砂利やホコリやゴミで汚されない方が、チェーンの性能を長期間持続させるためには重要です。
裏を返せば、今も原付クラスを中心とした小排気量車に採用されることが多いノンシールチェーンは、シールチェーン以上にメンテナンスが重要だということです。なぜなら摩耗とライフの要となるリンクピンとブッシュが直接接触する構造だからです。そもそもチェーンはそうした構造で、現在でも産業用ではノンシールタイプが一般的です。
ただし高速で回転しながらトルクの変動も大きいバイク用のドライブチェーンについては、摩耗とフリクションロスを低減する目的からシールチェーンが開発された経緯があります。したがって、中型車以上の機種に比べてエンジン出力や車重などの負荷が軽いとはいえ、適切なメンテナンスを行わなければ、シールチェーンよりも劣化スピードが早まるのは必定です。
ノンシールチェーンにチェーンルブを塗布する際に、スプロケットの歯と接するローラー部分を中心に塗布しがちですが、最も重要なのはリンクピンとブッシュの隙間に油分を浸透させることです。ローラーとスプロケット間の油膜も必要ですが、チェーンが伸びる主原因はリンクピンの摩耗なので、プレートの合わせ面からリンクピンとブッシュ間に塗布する油分の方がより重要です。
しかし、専用のチェーンルブを塗布したところで、回転するチェーンに加わる遠心力によってやがて油分は流出してしまうので、定期的な注油が不可欠です。また油分が飛散すると同時に、走行中にチェーンに付着する砂利やホコリなどの汚れが入り込む場合もあります。
こうした汚れがヤスリのように作用するとリンクピンやブッシュの摩耗が加速して、チェーンの伸びが進行してしまいます。つまりチェーンルブを上塗りするばかりでなく、根本的な汚れをしっかり洗浄してから注油しなくてはならないということです。
繰り返しになりますが、シールチェーンはあらかじめこの部分にグリスが押し込まれ、ゴムシールで封入されているためベストな潤滑状態が持続します。チェーンメーカーが推奨するシールチェーンに対する注油は、リンクピンとブッシュ間ではなくプレートとゴムシール間や、ブッシュとローラー間に対して行います。
また洗浄についても、ブッシュとローラーやプレートとゴムシールに付着した汚れを洗い流すための作業であり、ゴムシールにダメージを与えるような洗剤やケミカルを使わない配慮が必要です。
- ポイント1・フリクションや摩耗の原因となるリンクピンとブッシュの摺動部にグリスが封入されたシールチェーンはノンシールチェーンに比べて必然的に寿命が長くなる
- ポイント2・リンクピンとブッシュの潤滑面で不利なノンシールチェーンの寿命を延ばすには、シールチェーン以上のメンテナンスが必要
デリケートなゴムシールがない分、思い切って洗浄できるノンシールチェーン

灯油や古いガソリンを洗油代わりとして、金属製容器に入れたチェーンをブラシで洗浄する。あまりに汚れがひどいと流れ出した汚れが再びチェーンに付着する場合もあるので、途中で洗油を交換する。堆積したチェーンルブが固着してリンクの動きが渋いチェーンの場合、洗浄によってリンクがスムーズに動くようになることもあるが、これはリンクピンとブッシュの潤滑が完全になくなったことが原因なので、フリクションロスが低減したと勘違いしないように。

チェーン各部に入り込んでいた砂利や汚れが染み出して容器の底はザラザラになった。スプレータイプのチェーンクリーナーは、洗浄成分で溶かした細部の汚れをガス圧で吹き飛ばす効果があるが、一個一個のリンクを洗浄するには忍耐力と時間が必要となる。それに対して漬け置き洗いは、洗浄後に脱脂乾燥が必要だが効率的に洗えるのが利点となる。

洗浄後はすべてのリンクがスムーズに動くことを確認する。部分的に固着している場合、リンクピンとブッシュが焼き付くなどのトラブルが発生していることが考えられるので交換が必要。スプロケットと噛み合うローラーがサビなどで固着して回転しない場合もチェーンを交換する。こうしたチェックは車体に装着された状態よりチェーン単体で行う方がより分かりやすい。

洗浄液が残っていると、せっかく塗布したチェーンルブが流れ落ちてしまうこともある。リンクピンとブッシュの隙間に入った洗浄液は抜けづらいので、エアーブローやパーツクリーナーで脱脂乾燥後にチェーンルブをスプレーしよう。チェーンとタイヤの間に厚紙を置いておくことで、タイヤやホイールにチェーンルブが付着することを防止できるのでおすすめ。

チェーンルブはローラーだけでなく、リンクプレートの隙間にスプレーすることでリンクピンとブッシュの間に行き渡らせることが重要。チェーンルブには膜厚が厚く定着性の良さをアピールする製品もあるが、ノンシールチェーンに使用する場合は定着性と共に浸透性の良さも重要となるので、製品の特長をよく読み選択しよう。
ノンシールチェーンの洗浄は、リンクピンとブッシュ間のグリスやそれを封入するためのゴムシールに対するダメージを考慮する必要がありません。そのため、清掃についてはシールチェーンよりも思い切った方法で実践できます。チェーンクリーナーを使用するのも正解ですが、原付クラスに多いクリップジョイントタイプのチェーンなら、車体から取り外して洗油に漬け込んでしまうのです。
洗油として使用することが多い灯油を金属製のバットに入れて、そこにチェーンを漬けてブラシで擦ると、ブッシュとローラー、リンクピンとブッシュの隙間の汚れが面白いように流れ出てきます。スプレータイプのパーツクリーナーでも同様の効果はありますが、洗油の場合は長時間浸しつつ作業できるため、チェーンルブが粘土のようにこびり付いたチェーンにとってより効果的です。ちなみにシールチェーンの場合、使用する洗浄液やケミカルの種類によってゴムシールが膨潤したり損傷することがあるため、シールチェーン対応のクリーナーが必須で洗油も使用してはいけません。
チェーンルブを塗布する前に洗浄を励行している場合、洗油に浸しても汚れが染み出してくることは少ないですが、ここで紹介するようなメンテナンスをサボり気味の原付の場合、想像以上の勢いで洗油が濁り、細部に入り込んでいた汚れが流れ出してくることもあります。ローラーを回すとザラザラした手応えがあったり、リンクを曲げるとギシギする感触があるようなときは、漬け込み洗浄を行うと良いでしょう。
ただし、洗油で洗浄を行った場合は、チェーンルブが溶解して定着しづらいこともあるので、チェーン内部に残った洗油をエアーブローで吹き飛ばしたり、パーツクリーナーで脱脂してから新たに給油するようにします。またその際は、目に付きやすいローラーだけでなく、潤滑のカギとなるリンクピンとブッシュにも油分が行き渡るよう、プレートの隙間を狙って注油することも重要です。
1960年代のバイク雑誌のメンテナンス記事では、ノンシールタイプのチェーンをエンジンオイルで煮るという記載もありました。油温を上げることで流動性を高め、チェーン各部に行き渡らせる狙いがあったのでしょうが、走行すれば遠心力で飛散することに違いはありません。その時代に比べれば、現在のチェーンルブは様々な添加剤によって浸透性や摩擦低減能力や定着性などすべての性能が向上しているので、スプレーケミカルを塗布することで潤滑目的は充分に達成できます。
- ポイント1・ゴムシールへのダメージを考慮しなくて良いノンシールチェーンは洗浄力の高いクリーナで清掃できる
- ポイント2・浸透性の高いチェーンクリーナーを使用した場合、クリーナー成分を洗浄乾燥させた後に新たなチェーンルブを給油する
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