燃焼室で圧縮された混合気が燃焼する際に発生する爆発的な圧力によってピストンを押し下げ、クランクシャフトを回転させるのが内燃機関にとって、いかに圧力を逃がさないかが鍵になり、そのためにあるのがピストンリングです。ここではピストンリングの不具合によって発生するトラブルのひとつ「オイル上がり」を通して、重要性を再確認します。

ピストンリングはフリクションロスにならずコンプレッションのキープも必要

オイル上がり症状のシリンダーからピストンを抜いてみると、オイルリングが露出してもほぼピストン径のままでまったく張力がない。これではシリンダー内壁のエンジンオイルを掻き落とせず、セカンドリングとトップリングの合い口隙間を通って燃焼室に入ってしまう。

ピストンリング溝から大きくはみ出している=張力がしっかりあるトップリングとセカンドリング。オイルリングは波型のスペーサーを上下のサイドレールで挟む格好で、サイドレールはトップ、セカンドリングと同様にリング溝からはみ出すほどの張力があって正解。このピストンのサイドレールはリング溝から出ておらず、これではシリンダーの油膜をコントロールできない。発生頻度としてはごく稀だが、リング割れや摩耗とは別に張力低下がオイル上がりの原因となる場合がある。

オイル上がりを起こした車両は海外生産モデルで純正部品が入手できなかったので、ボア径やピストンリングの寸法からサードパーティ製のセットを購入。偶然うまく使えたのでラッキーだったが、ピストンに適合するリングを入手できない場合、入手可能な他機種用ピストン&リングセットを探して対応できることもある。

エンジンがスムーズ作動するには各部に適度なクリアランスが必要です。シリンダーとピストンに注目すると、エンジンの仕様によって異なりますが3/100~5/100mm程度設けられています。これはエンジンが作動して各部が熱膨張してもかじらないための必要な隙間です。

その上で混合気の燃焼によって発生する圧力を漏らさないよう、シリンダーに密着して摺動しているのがピストンリングです。エンジンに興味のあるライダーであればご存じの通り、一般的な4ストロークエンジンには3種類のピストンリングがセットされています。一番上のトップリングはピストンとシリンダーの隙間から抜けようとする圧縮圧力を防ぎ、セカンドリングとオイルリングで潤滑に必要な油膜を調整。またトップリングとセカンドリングには、燃焼の際にピストンが受けた熱をシリンダーに伝導する役割もあります。

ピストンとシリンダーの気密性を高めるにはピストンとピストンリング、ピストンリングとシリンダーの隙間をできるだけ小さくするのが理想ですが、金属同士が直接接して摺動すれば焼き付きの原因になるので適正な油膜は不可欠です。またシリンダーの壁面に均等に押しつけられるよう外向きの張力も必要です。ピストンリングをセットしたピストンをシリンダーに挿入する際には、リングとシリンダーの金属同士が擦れるような手応えがありますが、実際の作動時にはピストンとシリンダーの間にエンジンオイルによる油膜が存在するため、焼き付くことはありません。

焼き付きは懸念されますが、エンジンオイルがより多く接するようピストンリングの張力を弱めに設定すれば良いというわけではありません。シリンダーの壁面に付着するオイルが多すぎると燃焼室内に残り、混合気が燃える際に一緒に燃焼するからです。

4ストエンジン用のオイルは2スト用と違って燃焼するように設計されていないので、カーボンデポジットとしてピストンやピストンリングに付着したり、白煙となってマフラーから吐き出される原因となります。またピストンリングの張力を弱めることで圧縮圧力がリングとシリンダーの隙間からクランクケース側に通り抜け、ブローバイガスの原因となります。

POINT

  • ポイント1・ピストンリングには圧縮圧力保持・ピストン熱の伝導・潤滑面の油膜管理など重要な役割がある
  • ポイント2・圧縮圧力をブローバイガスとして漏らさない気密性と、フリクションロスにならない張力を両立するためピストンリングは時代と共に進化してきた

合い口隙間の拡大や張力低下がオイル上がりの主原因

オイルリングのスペーサー形状はピストンリングメーカーや機種によって異なる。スペーサーの上下を挟む薄いサイドレールは、ピストンストロークに連動して弁のように僅かずつ傾き、シリンダー内壁に付着した余分なオイルをスペーサー側に流し、ピストンリング底の穴を通してクランクケース内に環流している。

新たなオイルリングはサイドレールがリング溝からしっかりはみ出しており、ピストン径まで縮めるには指で相当握り込まなくてはならない。この状態ならオイル上がりを防ぐことができるはずだ。

張力の高い新品ピストンリングでシリンダーを組む際は、スリーブの端部でリングを折らないよう溝内に収めることが重要。指で押さえても良いが、ここではバンドタイプのピストンリングコンプレッサーを使用した。

ピストンピンを支点にピストンが傾かないよう木片で養生して、シリンダーをピストンにかぶせていく。コンプレッサーのバンドがピストンリング全周を押さえた状態でシリンダーの下端でバンドを押し下げれば、スリーブに引っかかることなくリングを挿入できる。

ピストンリングに必要な張力は長年にわたってピストンリングメーカーが研究を重ね、今なお燃費と環境対策とエンジン性能向上を目指して進化を続けています。1960年代以前、ピストンリングの素材は鋳鉄でオイルリングは1ピースタイプが一般的でしたが、70年代以降は素材はスチールとなりオイルリングはサイドレールとスペーサーと組み合わせた3ピースタイプが普及しました。

スチール化によって鋳鉄時代より薄く張力の高いリングが実現し、シリンダーとの接触部分の面圧アップとフリクションロス低減を両立し、3ピース化によってシリンダー壁面のエンジンオイルを効果的に掻き落とすことができるようになりました。

ピストンリングとシリンダーの間はエンジンオイルで潤滑されているといっても、ピストンリングの性能が永続的であるとは限りません。長期間にわたってエンジンオイル交換をサボり続ければ粘度や油膜強度が低下して、焼き付きには至らなくともリング表面が摩耗することで合い口隙間が拡大することがあります。トップリングの表面には耐摩耗性向上のための表面処理が施されていますが、そこに傷が付くことで圧縮圧力の保持力が低下してブローバイガスの増加を引き起こす可能性があります。

摩耗だけでなく、ピストンリングには張力低下という問題もあります。ピストンリングをピストンにセットするとリング溝から外側に飛び出し、シリンダーに挿入する際には指やピストンリングコンプレッサーで縮めなくてはなりません。その張力がシリンダー内での圧力保持に役立っているわけですが、何らかの理由でテンションが下がると不具合が生じます。

中でも厄介なのが、オイルリングの張力低下による「オイル上がり」です。トップリングとセカンドリングの張力低下も圧縮漏れとブローバイガス増加につながり問題ですが、シリンダー内壁のエンジンオイルを掻き落とす主役であるオイルリングの張力が低下すると、オイルが燃焼室に入って混合気の燃焼時に一緒に燃えるため、マフラーから白煙を吐き出します。燃焼室にエンジンオイルが入る原因としては、吸気バルブのステムシール摩耗に端を発する「オイル下がり」もあります。一般的に始動時に白煙が出るはオイル下がりで、高回転や高負荷時であればオイル上がりであると判断できます。

オイル上がりの場合、シール性を高めるケミカルで一時的に症状を軽減できる場合もありますが、根本的にはピストンリング(オイルリングが原因でも3本セットで交換するのがセオリーです)を交換するしかありません。オイル管理不良による摩耗であればライダーに原因がありますが、レアケースとしてリング自体の素材や製法、製造ロットによって張力低下するリングに当たってしまう場合もあります。これは不運としか言いようがありません。

また長期不動車を久しぶりに再始動した際に、一時的にオイル上がりのような症状が出た後に白煙が治まることがあります。原因とひとつとして考えられるのは、オイルによるリング固着です。不動状態で長い時間をおくことで、オイルによってピストンリング溝にはまった状態でピストンリングが固着し、一時的に気密性が低下することでオイル上がりが発生。しかしピストンやリングの温度が上昇してオイルの粘度が低下し、さらに新しいオイルが循環して洗浄されることで自由に動けるようになり張力も回復する場合があります。不動状態が長く続いた後であれば、洗浄作用のあるフラッシングオイルを使用した後にエンジンオイルを交換して様子をみることをお勧めします。

自分のバイクのマフラーから白煙が出ているか否かを、ライダー自身が走行中に知ることは簡単ではありません。特に初期のオイル上がり状態だと、バックミラーに映る量も僅かなのでなおさらです。ただ、夜間走行時に後続車両のヘッドライトに照らされることで、白煙が霧のように見えることもあるので、何か異常を感じたらバイクを停めてニュートラル状態でスロットルを大きめに開けて、オイル上がり症状が発生していないか確認しておきましょう。

POINT

  • ポイント1・エンジンオイルがシリンダーとピストンの間を伝って燃焼室に入るオイル上がりはピストンリングが原因となる場合が多い
  • ポイント2・ピストンリングの張力低下によるオイル上がりは走行距離が少なくても発生することもある

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