オーバーホールやセッティングでキャブレターをいじった時に、シングルでも多連キャブでも重要なのがエアースクリューやパイロットスクリューの調整です。どちらも締め切り状態からの戻し回転数の基準値が決まっていますが、最終的にはエンジンコンディションに応じて微調整を行います。その際にアングルドライバー、パイロットスクリュードライバーと呼ばれる工具を持っているとデリケートな調整をスムーズに行えます。

キャブレターをエンジンに装着すると調整しづらくなるパイロットスクリュー

レーシングキャブレターの代表格であるケーヒンFCRキャブレター。装着する機種によってホリゾンタルかダウンドラフトのボディ形式、ボア径とキャブピッチを選択しなくてはならないが、ジェットやニードルの組み合わせはエンジンのチューニング内容やマフラーの仕様によってオーナーがセッティングする。スロージェットのサイズを決める際に、パイロットスクリューの戻し回転数が重要な手がかりになる。

市販車用の純正キャブレターの場合、スロー系の調整機能はエアースクリューかパイロットスクリューのどちらか一方が装着されるが、FCRキャブの場合はスローエアージェットをスクリューに交換することで、エアースクリューとパイロットスクリューの両方で調整できるようになる。一見すると便利だが、一方を開けすぎで他方を締めすぎのような状態でアイドリングを合わせると、スロットルを開けた時に濃すぎてかぶったり薄すぎてパワー感がない状態になってしまう。

パイロットスクリューはキャブボディ下面にあり、フロートを取り付けてエンジンに組み付けた状態では回しづらい。FCRキャブの場合、エアースクリューは1回転戻し、パイロットスクリューは1・1/2回転戻しでかぶらず、薄すぎないようなスロージェットを選択すると、スロットルを開けた際に回転がスムーズにつながる。

キャブレターの調整機構の中で、エンジンに装着した後でセッティングを行うものといえば同調調整、エアースクリュー調整、そしてパイロットスクリュー調整です。同調調整は2気筒以上のキャブのスロットルバルブの開度を揃える作業で、アイドリング時にインテークマニホールドに発生する負圧を測定して合わせることで混合気の吸入条件を整えます。

エアースクリューやパイロットスクリューはというと、どちらもスクリューを閉じきった状態から開く(戻す)ことで通路が徐々に開いて、エアースクリューであればキャブが吸い込む空気が増え、パイロットスクリューならアイドリングからスロットル開度が小さい領域の混合気の量が増えていきます。

どちらのスクリューも、アイドリング状態からスロットル開け始めの扱いやすさに大きな影響を与えると同時に、スロー系のセッティングの善し悪しの判断材料にもなります。パイロットスクリューの場合、機種によって若干の幅はありますが、多くの場合は締め切りからの戻し回転数が1・1/2回転から2回転ぐらいの間でアイドリングが安定し調子が良くなるのが正常と言われています。

例えばキャブセッティングでスロージェットのサイズを変更した際に、パイロットスクリューを3回転戻さないとアイドリングが安定しなかったら、そのスロージェットは穴径が小さすぎると判断します。逆に1/2回転戻しにしないとカブリ気味になる時は、スローが大きすぎます。

スロージェットのサイズに関わらず、吸い出される混合気量をパイロットスクリューで増減して帳尻を合わせられるのなら問題ないと思えるかもしれません。しかしパイロットスクリューの戻し回転数はスロージェットセッティングのバロメーターなので、3回転まで戻さないとアイドリングしない状態で走行すれば、スロットルを開けた時にスローポートから吸い出されるガソリンが少ないため、低速域でのパワー感がスポイルされてしまいます。逆に1/2回転まで絞ってアイドリングが安定する場合は、スロットルを開けた際に過剰なガソリンが吸い出されるため、低速域でカブリ症状が発生する可能性が高まります。

スロージェットのセッティングが外れていても、アイドリング領域だけであればパイロットスクリューの戻し回転数調整で帳尻を合わせられることもあります。しかし一定の範囲を外れると、スロットルを開けた途端に不具合が生じることもあるので、戻し回転数が1・1/2回転から2回転ぐらいの間に収まるようにスロージェットを選定することが重要です。

その上で、エンジンにキャブレターを装着してなお微調整を行うことで戻し回転数のベストを探るのがパイロットスクリュー調整のキモですが、機種によって調整作業の難易度がかなり異なります。その理由はパイロットスクリューの位置にあります。パイロットスクリューはスロージェットで計量されたガソリンとスローエアージェットで計量された空気が混ざり合った混合気として吸い出されるパイロットアウトレットの途中に組み込まれており、したがって調整する際はキャブレターの下部から上向きにねじ込まれたスクリューを回すことになります(一部のキャブはトップカバー側にスクリューがあります)。

キャブレター単体であればパイロットスクリューを回すのも難しくありませんが、エンジンに装着するとシリンダーやクランクケースが近くなりドライバーが届かなくなってしまいます。また差し替え式ドライバーのビット単体を指で回せばどうにか調整できる場合もありますが、パイロットスクリューは1/4、1/2回転単位で反応してしまうため、適当に回せば良いわけではなく、調整量=戻し回転数を正確に把握することも重要です。

POINT

  • ポイント1・パイロットスクリューを調整することでアイドリング時の混合気の量を増減できる
  • ポイント2・キャブレターの真下に付くことが多いパイロットスクリューは、キャブをエンジン取り付けた状態で普通のドライバーで回すことは難しい

ベベルギアで回転方向を変換して超ショートビットでスクリューを回すアングルドライバー

アングルドライバーやパイロットスクリュー調整用ドライバーにはいくつかのタイプがある。これはモーションプロの製品。

先端の差し替え式ビットは対辺1/4インチの六角形で、いわゆる市販のヘキサゴンビットと互換性がある。ドライバーには5種類のビットが含まれているが、パイロットスクリューに多いマイナス溝が付属ビットと合わなければ、汎用ビットを使用しても良い。

グリップとグリップエンドのハンドル部分には刻み線があり、ハンドルを回した角度が視覚的に分かる。ハンドルを一周するとドライバービットも一周するので、1/4回転や1/8回転といったデリケートな調整もビットを見ずに手元で行える。

インシュレーターやクランクケースとの干渉が絶対にないとは断言できないが、スタッビドライバーでも干渉してしまうほど狭い場所にあるパイロットスクリューも回せるのが特長。4気筒エンジンの場合、シリンダーごとに吸気能力に若干の差がある場合もあり、その場合はパイロットスクリューの戻し回転数にも若干の違いが出る。基本の1・1/2回転戻しから大きくずれなければ、キャブごとに戻し回転数が異なっても問題はない。

こうしたパイロットスクリュー調整作業で重宝するのがキャブドライバー、アングルドライバー、パイロットスクリュー調整用ドライバーといった名称で販売されている特殊なドライバーです。こうしたドライバーは、軸の先端に組み込まれたベベルギアの働きでグリップを回すと軸の先端で90度向きが変わるのが特長です。さらに回転方向が変わった先のドライバービット長が短く、クリアランスが狭い場所でもスクリューが回せるのも通常のドライバーにはない個性となっています。

このドライバーを使えば、クランクケースとの隙間が狭く通常のドライバーやスタッビタイプのドライバーでも回せない4連キャブのパイロットスクリューも、エンジンから取り外すことなく調整できます。パイロットスクリューの調整時は、スロットルをアイドリング状態にしたままスクリューを回します。1・1/2回転戻しを最初の戻し回転数として、2回転以上戻してエンジン回転数が上昇すれば、現状のスロージェットは薄い可能性があり、1回転戻しよりさらに締め込んだ時にエンジンが力強くアイドリングするようなら、スロージェットが濃いかも知れません。

純正キャブレターの場合、エンジン本体やマフラーの仕様を大きく変更しない限り、スタンダードのセッティングから大きく外れることはないはずです。しかしレーシングキャブや他機種の純正キャブを流用する場合、ベースとなるセッティングがないため、ある程度の見当をつけて初期セッティングを行わなくてはなりません。

キャブセッティングはスロージェット、ジェットニードル、メインジェットの順に行うことはこれまでにも何度か説明してきましたが、スロージェットを決める際にはパイロットスクリューの戻し回転数に注目することが必要で、そのためにはエンジンに取り付けて始動した状態で調整回転数を知ることが重要なのです。

キャブ調整用アングルドライバーが優れているのは、グリップと軸部のメモリを活用することで作業時には見えないビット先端の回転状態を把握できる点です。最初の1・1/2回転戻しから1/4回締める、1/2回戻すといった微調整も、パイロットスクリューやビットの先端を見ることなく把握できます。

ここで紹介しているのはモーションプロ社の製品で、軸とビットホルダーのベベルギアが完全に露出しており、異物等の噛み込みの心配はある一方でギアケースなどを省略することで極限までコンパクト化しているのが特長です。ビットの差し込み部分は対辺1/4インチの六角形で、通常の差し替えタイプのビットを装着することも可能なので、ドライバーに付属しているマイナスビットのフィット感が悪い場合は汎用のマイナスビットを使用することも可能です。製品によっては付属ビットしか組み合わせることができないドライバーもある中、既存のビットが使える汎用性の高さが魅力です。

回転方向を90度変換できるアングルドライバーはパイロットスクリュー調整の必須アイテムと言っても過言ではない存在です。ただしエンジンとキャブレターの組み合わせによっては、すべてのバイクで必ず使えるとは限りません。とは言えキャブレター裏側の窮屈な場所にあるパイロットスクリューを、戻し回転数を数えながらスタッビドライバーで調整するのは現実問題として困難です。

このアングルドライバーには差込角6.3sq.のソケットビットも付属しており、ラチェットハンドルが届かないような場所にあるボルトやナットに対してソケットドライバーとして使うこともできます。さまざまなバイクいじりを楽しむサンデーメカニックならば、キャブレターメンテナンス用にこうしたドライバーを持っておくのも良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・アングルドライバー、パイロットスクリュー調整ドライバーがあればエンジン取り付けたキャブのパイロットスクリューを調整できる
  • ポイント2・スクリュー部分が見えなくてもグリップ部分の目盛りで回転数を把握できる

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