フロントフォークインナーチューブのサビを防ぐにはインナーチューブを濡れたままにしないことが重要ですが、その際に見落としがちなのがダストシールとオイルシールの隙間です。ここに浸入した水分は抜けづらい上に、オイルシールの抜け止めに使われているスナップリングに発生するサビがインナーチューブに影響することもあるので、雨水が当たりやすい屋外保管車は特に注意が必要です。

ダストシールの劣化が水分浸入の原因になる

トップブリッジとアンダーブラケットでインナーチューブを固定して、アウターチューブにフロントタイヤが付く正立フォーク。倒立フォークはその逆でトップブリッジとアンダーブラケットでアウターチューブクランプしてインナーチューブ先端でフロントタイヤが付く。正立フォークはその構造上、インナーチューブに付着した雨水などはどうしてもダストシールに向かって流れてしまう。

ダストシールはアウターチューブ上端に圧入されており、外周にマイナスドライバーやシールリムーバーを差し込んでこじると、車体に組み付けられた状態でも剥がすことができる。摺動面に点サビの気配もないフロントフォークだが、ダストシールを通過した水分がスナップリングにサビを生じさせ、赤茶色に変色している。サビの鉄粉がオイルシールにも付着しており、これがリップ面に巻き込まれると傷付きフォークオイル漏れを引き起こすこともある。

バイクに発生するサビの中でも最高レベルに厄介なのが、フロントフォークインナーチューブとガソリンタンクのサビではないでしょうか。どちらも機能面のダメージが大きく、絶版車であれば補修のための部品手配も費用も高くついてしまいます。

このうちインナーチューブのサビは、硬質クロームメッキに付着した水分が目に見えないクラックを通してインナーチューブ素材まで達することで発生します。メッキのサビに関しては何度か説明していますが、装飾メッキでも硬質クロームメッキでも、平滑に見えるメッキ表面にはきわめて小さな孔が存在しており、ここから水分が浸入することでポツポツと点サビが発生します。

この孔は物理的にゼロにはならないため、サビを防ぐにはメッキ部品を湿ったままにしない、あるいは専用のコーティングケミカルで表面を保護するのが有効です。ただしストローク時にオイルシールやダストシールと摺動するインナーチューブについては、ケミカルでコーティング皮膜を作ったとしても耐久性に不安が残るので、水分を近づけないのが最善策となります。

正立フォークのインナーチューブのサビで厄介なのはアウターチューブの上、具体的にはダストシールからアンダーブラケットまでの摺動面に生じる物で、点サビの鋭いエッジがオイルシールのリップを傷つけることでフォークオイル漏れの原因となります。また摺動部分のサビにもグラデーションがあり、フォークオイルによる油膜ができやすい下部より油膜が少ない上部の方がサビが発生しやすい傾向にあります。

そんな中で、一部の例外として注意が必要なのがダストシールとオイルシールの間の空間です。どちらもアウターチューブに圧入されていますが、ダストシールのリップが経年劣化するとホコリや水分の浸入を許してしまうことがあります。スナップリング、サークリップと呼ばれる部品は、アウターチューブの溝にはまることでオイルシールの抜け止めとして機能しています。またオイルシールを交換する際は、スナップリング溝が見えるまで打ち込むという目安にもなります。

ダストシールによって保護されるオイルシールのリップに対して、紫外線を浴びて風雨に直接さらされるダストシールの方が、どうしても劣化速度が速いのは致し方ありません。すると浸入した水分や汚れがオイルシールの抜け止め用に取り付けられたスナップリングに影響を与える場合があります。

ダストシールのリップを通過した水分がスナップリング部分でとどまることでリング自体にサビが生じ、そのサビと湿気によってインナーチューブにもサビが発生してしまうのです。ダストシール内部に水分が入ってスナップリングが錆びても、頻繁に走行しているバイクであればフロントフォークのストロークによってインナーチューブが錆びる間もなくフォークオイルが接するため、防錆効果の点では多少有効です。しかし屋外保管で長期間乗っていないバイクの場合、インナーチューブを伝って雨水が留まり続けてサビが拡大するリスクがあります。

真っ赤に錆びたスナップリングがアウターチューブのリング溝に埋まって外れない、インナーチューブにもサビの輪が生じてしまった……という最悪の結果にもつながりかねません。

POINT

  • ポイント1・インナーチューブの硬質クロームメッキには目に見えないほどの小さな孔があり、そこから浸入した水分によってメッキに点サビが生じる
  • ポイント2・摺動部分にサビがなくても、オイルシール抜け止め用スナップリングのサビがインナーチューブに影響を及ぼすこともある

インナーチューブを守るにはスナップリングを錆びさせないことが重要

ダストシールやスナップリングを交換する際は車体からフロントフォークを取り外す。さらにオイルシールまで交換する場合は、外したフロントフォークをインナーとアウターチューブに分解しなくてはならない。インナーチューブをトップキャップを緩める前に、必ずトップブリッジのクランプボルトを緩めておく。

アンダーブラケットのクランプボルトが締まった状態でトップキャップを緩めれば、インナーチューブが回らないため作業が容易になる。先に車体からフロントフォークを取り外してしまうと、トップキャップを緩める際に何らかの方法でインナーチューブを固定しなくてはならない。

トップキャップが手で回るぐらいまで緩めたら、タイヤやフェンダーを取り外してアンダーブラケットのクランプボルトを緩めてフロントフォークを引き抜く。ダストシールとスナップリングの交換を行う場合、インナーチューブとアウターチューブの分解は必要ない。インナーチューブに点サビがあったりオイルシールも劣化している場合は、フルオーバーホールが必要となる。

スナップリングをサビから守るには、ダストシールリップから水分を浸入させないことが最も有効です。雨天時のツーリングなど走行中に入る程度の水分であれば、雨が上がった後に走行を続けることで乾くこともあるでしょう。問題なのは停めっぱなしで雨ざらしにしてしまうことです。

スナップリングが数週間でさび始めるのか、不動期間が年単位にならないとさびないのかは、保管状況によって異なるため一概には言えません。しかし長期保管で気がついた時には露出部分のメッキに点サビが生じてしまったような場合には、多少の差はあるにしてもスナップリングのサビも覚悟した方が良いでしょう。

オイルシールもダストシールも素材のゴムに柔軟性がありインナーチューブと接触するリップ部分のエッジがシャープなうちは、フォーク内部のオイルを外部に漏らすことはなく、インナーチューブに付着したホコリや水分はダストシールによって掻き落とされるためスナップリングにサビが生じる心配もありません。しかし先の通り、シールの材質が劣化したりインナーチューブの摺動によるリップの摩耗によって締め付けが甘くなり水分が浸入するとスナップリングに腐食が発生し、インナーチューブのサビにつながることもあるので注意が必要です。

スナップリングをサビから守る=インナーチューブをサビから守るには、雨天時の走行や屋外保管を避けるのが最も有効です。しかしすべてのライダーがこの条件を満たせるわけではありません。ただ余儀なく屋外保管をする場合でも、車体カバーを掛けて雨ざらしを避けるだけでもサビ予防策として有効ですし、雨天走行後にダストシールを剥がしてスナップリングの濡れ具合、錆び具合をチェックしておけば、ダストシールの現状を知り、交換が必要か否かを判断できます。

摺動部分に点サビがないのにわざわざダストシールの内側をチェックすることに意味があるのか?と思うかも知れません。しかしそのひと手間を掛けることで、高価なインナーチューブ交換や再メッキを未然に防止できるかも知れません。そう考えれば、足周りやフロントフォークのチェック手段としては難しいことではないはずです。

POINT

  • ポイント1・ダストシールの劣化によってインナーチューブ表面に付着した雨水の切れが悪くなると、スナップリング部分まで浸入してサビを引き起こすことがある
  • ポイント2・雨天走行や洗車後にダストシールをずらして、水分の有無を確認することでシールの劣化具合を把握できる

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