絶版車人気は中型~大型車だけでなく、原付クラスにも幅広く及んでいます。キャブレターやポイント点火とならび、6Vバッテリーもまた現在のバイクしか経験のないライダーにとっては未知の装備からもしれません。6V車の12V化の要となるチャージコイルの発電量アップに欠かせないのが巻き線数のアップです。

6Vコイル+12Vレギュレーターより12Vコイル+12Vレギュレーターの方が間違いなくバッテリー充電が安定する

フライホイールマグネトー点火の一次電源となるソースコイルと、充電&灯火用の電源となるライティングコイルチャージコイルは、フライホイール内側の永久磁石が回転しながら通過する際の磁力によって発電する。絶版小排気量車の6V発電を12V化できるか否かはフライホイールとコイルのクリアランスによって決まる。

フライホイールはクランクシャフト端部のテーパーエンドに押しつけられて固定されているので、回り止めをセットしてセンターナットを緩めたら、フライホイールに専用工具のフライホイールプーラーを取り付け、センターボルトをねじ込んで取り外す。センターボルトをねじ込むとクランクシャフト端部に当たって押すため、フライホイール本体が手前に押し出されて外れてくる。

クランクシャフトを中心に向かい合う2つのコイルは、左がソースコイルで右がライティングコイルとなる。フライホイールが回ってソースコイルが発電した電気はコンタクトブレーカーに流れ、ポイントが開いた瞬間にイグニッションコイルに一次電流が流れる。右のライティングコイルは途中からチャージコイルも巻かれており、灯火系と充電系の電気を発電している。

原付から大型車に至るまで現行車のバッテリーの電圧はすべて12Vですが、1980年代以前のキック始動オンリーの原付モデルは6Vが標準仕様でした。過去に何度か説明したこともありますが、昔の6V車はバッテリーをレギュレーター代わりに使用しており、発電量が大きく過充電状態になると電解液中の水分が蒸発してバッテリーがパンクし、それに合わせて灯火類も切れてしまいました。またバッテリーの状態が良くても、信号待ちなどでエンジン回転数が低くなるとヘッドライトやウインカーの作動が不安定になるという弱点もあります。

昔はそれが当たり前で、定期的にバッテリーの液量をチェックするのが常識でした。しかしメンテナンスフリーバッテリーが主流の現代では、蒸留水を補充する手間が煩雑で、そもそもライダーにそんな習慣もありません。

そんなクラシックな6V電装の12V化は、実用的電気カスタムとして以前から注目されてきました。12V化として簡便なのは、6V仕様の発電系のままレギュレートレクチファイアを12V仕様とする方法です。バッテリーや電球類の12V化も必要ですが、元々の発電用コイル(チャージコイル)の発生電圧が高めに設定されている機種であれば、レギュレートレクチファイアのみの交換でも12Vバッテリーを充電できる場合もあります。

しかし先の通り、電圧を制御するレギュレーターを持たない6V車にとって、チャージコイルにむやみに高い電圧を発生できる能力があったとしても6Vバッテリーの過充電を招くだけなので、エンジンを高回転で回しても12V以上の電圧が出ない場合もあります。その仕様の方が6Vバッテリーにとっては優しいのですが、この場合は12V仕様のレギュレートレクチファイアを装着しても12Vバッテリーは充電できません。

6V仕様の絶版原付車の電装を12V仕様に変更する最も確実な手段は、発電電圧をアップすることです。フライホイールマグネトーとコンタクトブレーカーを組み合わせた、いわゆるフラマグポイント点火仕様のエンジンは、点火用のソースコイルと灯火用のライティングコイル、バッテリー充電用のチャージコイルを備えており、ライティングコイルとチャージコイルは一つのコア(鉄芯)に二種類のコイルを巻いていることが多いです。

コイルに使われる巻線はポリウレタン被覆の細い銅線で、これは電気部品商のECサイトなどから購入できます。チャージコイルとライティングコイルの巻き数を現状の2倍にすれば、発電電圧も2倍になる計算です。発電量が12V以上あれば、12V仕様のレギュレートレクチファイアでバッテリーを充電でき、ヘッドライトやテールランプも12Vで点灯させることができます。

POINT

  • ポイント1・絶版小排気量車が採用する6V電装はチャージコイルの巻き数を倍増させることで12V仕様に変更できる

チャージコイルの巻き直しは回数だけでなく線径の配慮も必要

左が純正の6Vコイルで右は12V仕様の別機種のライティングコイル。取り付けピッチは同じだがコイルの厚みがかなり異なる。銅線は同じような太さだが、12V用は鉄芯が太い分だけ巻き数が多くとれるのでその分発電電圧も高くなる。

12V電装の他機種用ライティング/チャージコイルをボルトオンで流用できればそれにことしたことはないが、純正6V用より厚みがあるためフライホイールに干渉して取り付けできない。

6V仕様のライティング/チャージコイルを元に12V仕様にするには、巻き数を倍にすれば良い。ただしそれによってフライホイール内部やコイル取り付け部分に干渉しては元も子もないので、銅線の線径を細くしながら巻き数を増やす。このコイルの銅線をほぐしていくと、途中で灯火用のライティングコイルと充電用のチャージコイル機能に分岐される。銅線をほぐしながら、それぞれの巻き数を数えておく。

6Vコイルと同じ太さの銅線では巻き数を倍にすると太くなりすぎるので、細い銅線で巻き直しを行う。細くしすぎると断面積不足から流れる電流が少なくなってしまうので、断面積比較で半分程度になる直径の銅線を使用する。また巻きが粗いと巻き終わりが太くなってしまうので、ポリウレタン被覆が傷付かないよう気をつけながらきつく巻き付ける。

純正コイルは巻き終わったらワニスなどで固められているが、そうした材料がない場合はマスキングテープを巻いて緩み止めとしても良い。コイルの原理としては巻き数を倍にすれば電圧も倍になるが、フライホイールなどとの干渉を避けるため細い銅線を使用すると流れる電流が少なくなるので、実際は電圧電流測定を行って確かめる必要がある。

発電用のチャージコイルの巻き数を2倍にすれば発電電圧も2倍になるのは、磁石とコイルと発電量の関係から当然と言えば当然ですが、第1に「コイルの設置スペース」、次に「コイルの線径」という2つの問題をうまくクリアすることが必要です。

第1の問題はソースコイルとチャージ/ライティングコイルがフライホイールの内側にセットされていることに起因します。6Vコイルと同じ太さのポリウレタン銅線を使って巻き数を2倍にすればコイルの太さは当然太くなり、ベースプレートに固定できない、フライホイール内側のマグネットと干渉するといった問題が発生する可能性があります。マグネットとの干渉を避けるためにコイルの巻き数を減らせば、そもそも電圧が上がらないので意味がありません。

限られたスペースでコイルを太らせず巻き数を増やすには、銅線を細くするのが有効です。単純な計算ですが、銅線の直径を元のコイルの半分にすれば、巻き数を倍にしても元のサイズに収まるはずです。ただし、銅線を細くすることで流れる電流が減少するため、電圧は12V以上になってもバッテリーを充電できるだけの電流が発生しない場合があります。

例えばφ1mmの銅線をφ0.5mmにすると直径は半分ですが、断面積は25%になってしまいます。単純に考えると、全力で電気を送っても1/4しか流れないことになり、せっかく電圧が2倍になっても仕事量としては6V電装以下ということにもなりかねません。

25Wのヘッドライトを点灯させる時、電源が6Vなら4.2A程度の電流が必要ですが12Vなら半分の2.1Aで済みます。そこで、φ1mmの銅線に対して半分の断面積となる直径を計算するとφ0.7mmとなり、電流はを流せる量は1/2になっても巻き数を倍にすれば電圧も倍になり、同じ仕事量としながら12V化が図れるというわけです。

ただ、チャージコイルのサイズやフライホイールとのクリアランス等の問題で選択できる銅線の直径に制限が発生して、必要な巻き数が確保できなくなると発生電圧も上がらなくなるので、電圧と電流の帳尻合わせが困難になる場合もあります。そのような時に電圧優先で銅線を細くするとバッテリー充電に使える電流が少なくなり、搭載できる12Vバッテリーの容量も小さくなりかねません。エンジン回転数を上げても発電電流が1A前後しか上がらない場合は、走行中のバッテリーが放電過多になるリスクがあります。

フライホイールマグネトーであれば点火にバッテリーの電力を使わないので走行できなくなることはありませんが、充電なしで走行すれば灯火類が徐々に弱っていくため実用的とは言えず12V化を見送った方が賢明かも知れません。

一方でコイルの巻き直しにより12Vバッテリーの充電ができるだけの電圧電流が発生すれば、6Vの半分の電流でウインカーやブレーキランプが作動するため被視認性が向上し安全運転に役立つためおすすめできます。

POINT

  • ポイント1・巻き数を増やしつつチャージコイルの体積を増やさないよう細い銅線を用いると電圧は上がるが電流が減少することがある
  • ポイント2・チャージコイル巻き直しによる12V化は巻き数増加による電圧アップと線径縮小による電流ダウンを勘案して検討する

この記事にいいねする


コメントを残す