
もはや一過性の流行りではない80年代以前に生産された旧車ムーブメント。絶滅危惧種とさえ言われている2ストロークエンジンは、その心臓部であるクランクシャフトのコンディションが良くなければ、最高のパフォーマンスは発揮できない。そんなエンジンパーツは交換するものではなく「修理」するのが今も昔も当たり前である。ここでは、大排気量2ストロークエンジンのクランクシャフト修理が、どのようなものなのか?再確認してみよう。
ASSY交換ではなく分解修理の時代
オーバーホールによってオイルシールやベアリング、クランクピンにビッグエンドベアリングを交換し終えたカワサキ500SS用クランクシャフト。センターシールと呼ばれるオイルシールのシール性が低下すると、それぞれの気筒の一次圧縮が行き来してしまい、本来の爆発燃焼を得られなくなってしまう。そうなるとアイドリングが不安定になり、フル加速時にパンチ感を得られないものとなってしまう。
職人技で手際よく高精度な組み立て
分解前に主要寸法が測定され、その後、手際よく分解される。分解された各パーツはワイヤーバフなどで汚れ取りが行われ、分解前の寸法データに従い手際良く組み立てられていく。人気モデルの2ストローク車、カワサキH1やH2用パーツは、コンロッド、クランクピン、ベアリング、サイドメタルなどがセットになったコンロッドキットがスペシャルパーツとして販売されている。メーカー純正補修パーツは販売中止になって久しい。
最終仕上げは職人技と勘で決まる!!
油圧プレスを使って職人技で組み立てられていく。検査台を使ってクランクの芯や振れ具合をダイヤルゲージ測定。組み立て精度を徐々に高めつつ、手際良く組み立てられていく。最終調整時には大きな銅ハンマーでクランクウェブを叩いて振れ数値を小さくしていく。
一目瞭然のビフォー→アフター

↑↑↑ビフォー/修理作業前↑↑↑

↑↑↑アフター/修理作業後↑↑↑
依頼前は薄汚れており、カーボンで真っ黒になっていたクランクシャフトだが、オーバーホール依頼後、完成時には別物の美しさへと蘇る。美しさだけではなく、クランクの芯出し振れ取りも最善に仕上げられる。
半永久的に使えるラビリンスシール
ヤマハ車は250YDS3(1964年モデル)からオイルシールではなく、半永久的に利用することができる「非接触のラビリンスシール」を採用している。この技術をカワサキやスズキの2ストロークマルチエンジンモデルへの転用や、センターシールが弱点だったホンダNSR250Rへも採用した「ラビリンスシール仕様」のクランクシャフトが大好評の昨今。撮影協力いただいた井上ボーリング(埼玉県川越市)では、ラビリンスシールを通じて2ストローククランクシャフトの再生を積極的に展開している。
見た目だけの仕上がりではなく、エンジン内部まで仕上げられたフルレストア車は、末永く愛し付き合うことができる。バイクの将来を考えたエンジンオーバーホールは、可能な限り積極的に行いたいものだ。
撮影協力:iB井上ボーリング
- ポイント1・新品部品が入手できないのなら分解修理
- ポイント2・内燃機加工職人に依頼して高精度な仕上がりを目指そう
- ポイント3・マルチエンジンならオイルシールからラビリンスシールへ
クランクシャフトの内燃機加工は「クランクの分解、部品交換と組み立て、芯だし」などの作業によって行われる。クランクシャフトの内燃機加工のひとつにダイナミックバランスがあるが、これは分解できない一体式クランクシャフトを専用機器の上で連続的に高速回転させ、その状態でバランス測定するといったものだ。組み立て式クランクシャフトの場合は、コンロッドが組み込まれているため、ダイナミックバランスは測定できない(コンロッドを振り回すようなバランス取りはできない)。
分解可能な組み立て式クランクシャフトの「芯だし」をできる内燃機業は、もはや数少ない存在だ。ここでは、埼玉県川越市にある井上ボーリング(2022年で創業69年になる)で、組み立て式クランクシャフトのオーバーホールの様子を撮影させていただいた。オーダー受注量をモデル別にランク付けすると、
◆第1位◆ヤマハRZ系
◆第2位◆モンキーやエイプのホンダ4ストミニ系
◆第3位◆2スト3気筒のカワサキトリブルとスズキGT系
となるそうだ。番外編としては、カワサキ空冷Z系のクランクシャフトやホンダNSR250Rが年々増えているそうだ。多い少ないに関係なく、様々なモデルのクランクシャフトの内燃機加工修理を受注しているのが井上ボーリングなのだ。
加工修理となると、交換部品の準備が必要不可欠になる。井上ボーリングでは、人気モデルに関して交換部品を在庫している例もあるようなので、エンジン分解時にコンロッドにガタがあったり、クランクベアリングから音が出るなどの不具合に気が付いたときには、井上ボーリングWebの掲示板などを通じて、相談してみるのも良いだろう。
新品部品が無くなったら「万事休す」なケースは確かにある。しかし、エンジンパーツの中には、部品交換ではなく「修理」によって蘇る部品があることを知っておきたい。そんなエンジン部品の再生を具現化してくれるのも、内燃機加工プロショップの素晴らしいところと言えるだろう。
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