燃料ポンプで圧力を加えたガソリンを霧状にして、燃焼比必要な混合気を作るのがインジェクターの役目です。しかし構造が精緻な分、メンテナンス不足や不動状態が長く続くと不具合が発生することもあります。燃料ポンプが作動してセルモーターは回りスパークプラグから火花が飛ぶのに、始動す気配が全くない時はインジェクターに原因があるかもしれません。

燃料ポンプから送られるガソリン流量を時間で管理するインジェクター

インテークマニホールドに取り付けられたインジェクター(画像中央)には、燃料ポンプで加圧されたガソリンがホースでつながり、電気信号でプランジャーが開閉することで霧状になったガソリンが噴射される。ホースとインジェクターの接続部分はガスケットでシールされているので、インジェクター内部でガソリンが劣化していてもキャブレターで発生するような異臭は漂わない。

イグニッションスイッチをONにすると燃料ポンプが作動し、スパークプラグに火花が飛んでいるにも関わらずエンジンが始動せず、プラグがガソリンで湿らない時はインジェクターの不調を疑う。インジェクターが作動しているか否かを簡単に知るには、マニホールドからインジェクターと燃料ホースを取り外し、両者を結束バンドなどで固定してスターターボタンを押してみる。インジェクターが正常なら、間欠的にガソリンを噴射するはずだ。4気筒エンジンの場合、ガソリンデリバリーパイプにインジェクターを固定してテストする。

筒状のインジェクターには電磁石で作動するプランジャーが内蔵されており、ECUが設定する開弁時間どおりに開閉する。ガソリンの圧力は常に一定で、開弁時間が長くなるほど多くのガソリンが噴射される。

原付からビッグバイクまで現行モデルのすべて燃料系統に使われているのがフューエルインジェクションです。エンジンが吸い込む空気量をスロットルバルブの開度から算出して、エンジン回転数や気温や気圧などの情報と合わせてECUで演算し、インジェクターから最適なガソリン量を供給するインジェクションは、ベンチュリーを流れる空気の圧力や流量によってガソリンがフロート室から吸い上げられるキャブレターに比べてモダンでスマートです。

2000年以降に免許を取得したライダーにとってバイクの燃料系統といえばインジェクターが当たり前で、キャブレターは過去のメカニズムのように思えるでしょう。冷間始動時にチョークを引いたり、暖機するまでエンジンが安定しないキャブレター車を扱うのはやや面倒でもありますが、歴史的にはキャブレターが行ってきた仕事を機械に置き換えたのがインジェクションであって、両者はまったく別物というわけではありません。

キャブレターの内部にはパイロット系、スロー系、メイン系と呼ばれるガソリン流路があり、機械的な切り替え弁があるわけではないのに、エンジンが吸い込む空気の量と負圧に応じてスロージェットやメインジェットからガソリンが流れ出しています。またメインジェットを通過したガソリンはジェットニードルでも計量されています。それらのジェットやニードルを自然に使い分けることで、吸入空気が少ない時はスロージェット、空気量が多くなるとメインジェットが働くようになっています。

これに対してインジェクションはガソリンに圧力を加えて噴射しています。その中心的パーツがインジェクターです。ガソリンは燃料ポンプで加圧された状態でインジェクターに送られ、内部に組み込まれた弁(プランジャー)を電磁石で開閉することでガソリンを噴射しています。エンジンが必要とするガソリンの量は、エンジン回転数が低く負荷が軽い時は少なく、高回転で高負荷になると多くなります。

キャブレターはスロージェットとメインジェットの穴径が異なることでガソリン流量をコントロールしていますが、インジェクションはインジェクターの通電時間で流量の増減を行っています。具体的には、ガソリン量が少なくて良い場面ではプランジャーを短時間だけ開き、多くのガソリンが必要な場面ではプランジャーを長時間開きます。

弁の開閉というと水道栓のようなものを想像するかも知れませんが、インジェクターの開閉は1/1000秒単位で制御されており、吸気バルブの開閉に合わせて適切な量のガソリンを噴射します。そのため燃費や排気ガス中の大気汚染物質の排出量の点で精緻なコントロールが可能となり、キャブレターに置き換わる存在となったのです。

POINT

  • ポイント1・複数のジェットやニードルによってガソリンを計量するキャブレターに対してインジェクションはひとつのインジェクターでアイドリングから最高回転数までをカバーする
  • ポイント2・インジェクション車のガソリン流量はインジェクターへの通電時間で増減させる

インジェクター内部の残留ガソリンがワニス化してプランジャーが固着する

インジェクター不良が疑わしい時は、ネットオークションなどで中古のインジェクターを入手して試してみるのが手っ取り早い。この際は必ず同機種用のインジェクターを使用することが重要。インジェクターには製品ごとに吐出量が設定されており、物理的に取り付け可能であっても吐出量が合わなければ、混合比が合わずエンジン本来の実力が発揮できない。

インテークマニホールドに差し込まれるインジェクター先端には小さな穴がいくつもあり、この穴によって加圧されたガソリンが細かい霧状に噴射される。洗浄する際は燃料ホース取り付け側からクリーナーを流しながらプランジャーに断続的に電気を加えることで、固着が溶解して機能が回復することもある。

インジェクターを交換する際はホースとインジェクター、インジェクターとマニホールド接合部のガスケットを新品に交換する。特にホースとインジェクター間は燃料ポンプによって加圧されたガソリンが流れるので、変形や摩耗した中古ガスケットを使用するとガソリン漏れの原因になる。

外観上は変わりなくても、正常なインジェクターを取り付けてスターターボタンを押すと、クランクシャフトの回転角度などからピックアップで拾った噴射時期に応じてECUから出る信号に従ってガソリンが断続的に噴射される。

DIYでインジェクター内部の洗浄を行うのは難しく、部分的に固着が溶解したとしても規定値通りの噴射量となっているか否かを判断することも難しい。固着したインジェクターは新品交換が理想だが、中古品を使用する場合は完動品であることを確認することが重要だ。

気温や湿度、季節に関係なくスターターボタンを押せばいつでもエンジンが始動するイメージが強いインジェクション車ですが、不動状態が長期間に渡ると不具合が生じる場合があります。ひとつは以前紹介した燃料ポンプに起因するもので、もうひとつがインジェクターが原因となる場合です。

キャブレターの場合、フロートチャンバー内のガソリンが劣化してジェット内部に詰まってガソリンが流れなくなり始動できないパターンがあります。インジェクターの場合も、インジェクターボディ内部のガソリンがワニス化するなどして固着し、プランジャーに開弁信号が送られても作動しない場合があるのです。先の通り1/1000秒単位で開閉するプランジャーにとってレスポンスの良さが重要で、できる限り軽く小さく作られています。そのためガソリンの粘度が少しでも上がると作動状態が不安定になってしまいます。

プランジャーが固着した場合、燃料ポンプで加圧されたガソリンがインジェクターまで運ばれても、噴射できないためエンジンは始動しません。保管状況によっても左右されますが、半年から年単位で不動状態が続くことでインジェクターの固着が生じることもあります。

インジェクション車の場合、イグニッションスイッチをONにすると燃料ポンプが作動してガソリンを加圧します。次にセルスターターボタンを押すとセルモーターが回転し、適切なタイミングでガソリンが噴射されスパークプラグで着火されるとエンジンが始動します。インジェクターが作動しないと燃焼室にガソリンが送られないので、燃料ポンプもセルモーターもスパークプラグも正常であってもまったく始動しません。4気筒エンジンでインジェクターが固着して2気筒や3気筒エンジンになる場合もあります。

キャブレター車の場合は始動時にガソリンが濃すぎてプラグがかぶって始動できないこともありますが、インジェクターのプランジャーが固着した場合はガソリンが流れなくなるためプラグがかぶることはありません。同じ始動不良でも、点火系に原因がある場合はスパークプラグがビショ濡れになることもあります。

プランジャーの固着によってガソリンが噴射しない場合、多気筒エンジンであれば対策としてインジェクターの取り付け位置を入れ替えて確認してみるのは有効です。噴射しないインジェクターをどこに移動しても噴射しなければ、そのインジェクターに問題があると判断できます。ここでは単気筒のスクーターでの対応例を掲載していますが、固着したと思われるインジェクターをネットオークションで入手した中古品と交換したところ、セルスターターボタンを押すと同時に先端からガソリンが噴射されたので固着と断定できました。

固着したインジェクターは正常に作動する部品と交換するのが最も確実です。これに対して、固着したり吐出が安定しないインジェクターのメンテナンスを行う専門業者も存在します。インジェクター洗浄の方法としては、プランジャーを開閉する信号を送りながら洗浄用のクリーナーをインジェクター内部に流し込み、ワニスなどを徐々に溶解して作動を回復させるのが一般的です。この場合、新品のインジェクターを購入するよりリーズナブルに補修できるのがメリットとなります。

不動状態がどの程度続くとインジェクター内部で固着が発生するかは、保管される環境や状況によってガソリン劣化の進行度合いが異なるため一概には言えません。ただ、冷涼な場所より高温多湿の環境下の方がガソリンにとって厳しいことは確かです。インジェクター内部に残留したガソリンはキャブレターのフロートチャンバーのように簡単に抜けるものではないので、内部で変質してプランジャーが固着しないためにも定期的にエンジンを始動して走行するのが最善です。

POINT

  • ポイント1・長期保管等でインジェクター内部のガソリンが劣化してワニスとなりプランジャーを固着させるとエンジンが始動不能となる
  • ポイント2・プランジャーが固着した場合はインジェクター交換か専門業者による洗浄が必要

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