
リヤサスペンションをスムーズにストロークさせるため、ドライブチェーンには機種ごとに適切なたわみが設定されています。走行距離が増えてチェーンのたわみが増えた場合は適正になるような調整が必要で、その際にはスイングアーム左右のアジャスト量を同じにすることが重要です。スネイルカムを用いるバイクであれば、カム山の位置で合わせられるため調整作業が容易にできる利点があります。
チェーンプーラーの左右ズレが各部の偏摩耗の原因になる

ヤマハトリッカーの場合、サイドスタンドで立てたバイクに荷重を加えることなく、前後スプロケット中央部のドライブチェーンの振れ幅が40~50mmであれば適正なたわみ量となる。たわみ量は機種ごとで異なるので、取扱説明書やスイングアームに貼付されたコーションラベルなどで確認すること。

アクスルナットは大きなトルクで締め付けられているので、緩める際も締める際もメガネレンチやソケットレンチを使用する。アクスルナットに対応するほど大きなサイズのメガネレンチがなくモンキーレンチを使用する際は、ナットにピッタリ接してガタが出ないよう調整してから回す。
スイングアームピボットを支点としてスイングアームが揺動するバイクは、リヤタイヤのストローク量によって前後スプロケット間の距離が変化し、すべての位置でチェーンが突っ張りすぎず遊びすぎない量のたわみが設定されいます。このたわみ量は定期的にドライブチェーンとスプロケットの清掃と注油を行っていても、走行距離が増えるにつれてドライブチェーンが伸びるため、徐々に大きくなっていきます。
たわみ量が規定の範囲を超えた場合はアクスルシャフトのアジャスター部分で調整を行いますが、この調整はこだわればこだわるほどデリケートな作業となります。スイングアームの目盛りとアジャスターの目盛りを合わせるスライド式調整機構の場合、スイングアーム左右の目盛り合わせが目見当になりがちです。また目盛りの間隔が広い場合もあいまいになりがちです。そもそも、スイングアームやアジャスターの目盛りの精度がどこまで正確なのかも分からない部分もあります。
チェーンアジャスターの左右ズレの許容度は人それぞれでしょうが、ズレが大きくなることでいくつもの弊害が生じます。アジャスターの左右が揃わないと、スイングアームピボットシャフトとリヤアクスルシャフトが平行でなくなり、その結果リヤタイヤの接地面が車体中心から左右どちらかにずれることになります。
タイヤ接地面のズレはホイール回転面のズレとなり、ドリブンスプロケットの回転面もつられてずれることで、トライブチェーンが噛み合う際に歯面が斜めに当たってしまい、スプロケットやチェーンが偏摩耗する原因にもなります。
そのためアジャスターの目盛りに頼らず、スイングアームピボットボルトからアクスルシャフトまでの距離を測定するコンパスのような器具も存在します。コンベックス(巻き尺)で測定しても良いのですが、何mmという絶対値ではなくたわみ量調整では左右アクスル間の距離を合わせれば良いので、相対比較が可能なコンパスタイプが重宝されるようです。
アジャスターの目盛りを頼りにする場合でも、アクスルシャフト間の距離を頼りにする場合でも、アクスルシャフトのナットを締め付ける前にチェーンとスプロケットの間にドライバーの軸や丸めたウエスを挟んでチェーンを張っておくことも重要です。チェーンにテンションを与えることでアクスルシャフトが前方に突っ張り、アジャスターのガタや遊びがなくなることで調整時の正確性が高まります。
またアクスルナットを締めた後で、ドリブンスプロケット後方からスプロケットとチェーンの位置関係を目視で確認することも有効です。ドリブンスプロケットからドライブスプロケットに向かうチェーンの流れに対して、ドリブンスプロケットが真っ直ぐに沿っているか斜めを向いているか、これもまた目見当にはなりますが、繰り返し確認することで違和感を察知できるようになっていきます。
ドライブチェーンには適切なたわみ量が必要なのは間違いありませんが、いざ調整する際には想像以上にデリケートな作業が要求されるのもまた事実です。
- ポイント1・ドライブチェーンのたわみ量が増加した際はスイングアーム後端のチェーンアジャスターで調整する
- ポイント2・スライドタイプのチェーンアジャスターは本体とスイングアームの目盛りや距離の測定によって左右がズレないよう慎重に調整する
微調整で難はあるが左右合わせはやりやすいスネイルカム

スネイルカムを回転させると直径が徐々に大きくなり、アクスルシャフトが車体後方に移動するためチェーンが張ってたわみ量が少なくなる。カワサキ車のエキセントリックカムのようにも見えるが、スネイルカムのアクスルシャフトは常にスイングアーム中心を移動するため、エキセントリックのようにアクスルシャフトが上下方向に動いて車高が変わることはない。

調整前の5から2目盛り引いた位置で左右のカムを合わせてたわみ量を確認する。アクスルナットを緩めすぎるとスネイルカムやアクスルシャフトの遊びが増えてたわみ量が正確に測定できないので、アクスルシャフトが前後にスライドする最小限の緩め量で良い。

リヤタイヤを回してスプロケットとチェーンの間にウエスやドライバーの軸を挟むことで、アクスルシャフトが車体前方に引っ張られてスネイルカムとストッパーが強く密着する。その状態でたわみ量を確認することが重要。

この画像には写っていないが、たわみ量の確認を終えてアクスルナットを締め付けるまではチェーンとスプロケットにウエスなどを噛ませて、アクスルシャフトを突っ張った状態にしておく。
アジャストボルトでチェーンスライダーを引く(または押す)タイプのたわみ量調整は、こだわるほどに実は微妙な作業が必要です。これに対してトレール車で採用例が多いスネイルカム式の調整機構はずっとシンプルです。
カタツムリを意味する名称どおり、渦を巻くように半径が徐々に変化するプレート状のスネイルカムの外縁には等間隔に凹凸があり、スイングアームのストッパーと噛み合うことでアクスルシャフトの位置を決めています。たわみ量を調整する際は左右のカムの凹を数えて合わせるだけで、微妙な前後調整をすることなくアクスルシャフトの左右を同じ量だけ引くことができます。
アクスルシャフトのナットを締め付ける際にチェーンとスプロケットの間に詰め物をして、タイヤを回してアクスルシャフトにテンションを掛けた方が良いのはスライドタイプのアジャスターと同じですが、スイングアームの左右を何度も見返して目盛りの位置を確認しなくて良いのは圧倒的に楽です。
ただし、たわみ量の調整がスネイルカムの凹とストッパーが噛み合う場所でしかできない特徴が、微調整ができないという弱点になる場合もあります。カムの外周には凹の数が刻印されている場合がありますが、「5」の位置ではたわみが多いが「6」ではたわみが少なく張り気味になる可能性もあります。もちろん、1段階でたわみ量のが大きく変わらないように凹のピッチが設定されていますが、どっちつかずにならないとも限りません。
とはいえスネイルカムによってチェーン調整の手間が軽減されるのは間違いありません。たわみ量が多いまま走行を続けると加減速時にチェーンに振動が発生してピンやプレートにダメージが発生するリスクが増加します。トレールモデルはオンロードモデルに比べてホイールトラベル量が多いため、一般的にチェーンのたわみ量が大きく設定されています。
そのためたわみ量が増えるとしなりや振動が増加し、チェーンスライダー以外の部分でプレートとスイングアームと接触してしまうとチェーン切断につながる恐れもあります。そうしたトラブルを避けるためにもチェーンのたわみ量は定期的にチェックし、必要に応じて調整を行うようにしましょう。
- ポイント1・段階的に調整できるスネイルカム式アジャスターはスライドタイプより引き量を合わせやすい
- ポイント2・カム外縁の凹の位置でしか固定できないので、理想のたわみ量に合わせられない場合もある
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