
どんなバイクにとってもガソリンタンクのサビは面倒なものです。中でも車体全体がカバーで覆われた大型スクーターの場合、タンクを取り外すまでが大仕事となります。タンクに使われている鋼板の防錆性能は優秀ですが、燃料ポンプや口金などがサビの発生原因になることもあります。サビの発生を抑えるのに効果的なのは、劣化したガソリンを入れっぱなしにしないことです。
ビッグスクーターはガソリンタンクにたどり着くまでの作業が面倒すぎる

ホンダの250ccスクーター、フォルツァ(MF08)のガソリンタンクは足元のセンタートンネル内にある。スポーツバイクユーザーであれば「たかがタンクを外すだけ」なのに、シート下のトランクやステップやフロントカウルのインナーパネルまで広範囲の外装パーツを外さなければたどり着けない。タンク本体をフレームに固定しているのはボルトとナット4個だけだが、重なり合ったカバー類が邪魔でこうならざるを得ない。

タンク自体はフレームの下から抜き出す。この手前で燃料ポンプに接続されたホースとコネクターも外しておく。メーカーで新車を組み立てる際は、フレームにタンクを取り付けるのが最初の工程で、その後カバーやカウル類を上から重ねて行くと思われる。そのためタンクを外すにはカバー類の多くを外さなくてはならない。

バットに敷いた古タオルにほぼ満タンの腐ったガソリンを排出すると、汚れやサビ具合がよく分かる。結構な量の錆びた鉄のような固まりが出てきたので、タンク素材自体がかなり錆びていると想像していたのだが、原因は別の場所にあった。

サビが酷かったのは給油口の口金部分とこの燃料ポンプ。モーター本体が真っ赤に錆び、フロートタイプの燃料計もサビで固着していた。劣化したガソリンで煮締まったストレーナーはパーツクリーナーや中性洗剤で洗ってもきれいにならないが、モーターに12Vを直結するとモーターは回転した。
ガソリンタンクのサビは、ガソリンが劣化したり水分が混入することで発生します。裏を返せばガソリンが劣化する前に消費して給油することを繰り返せば、錆びる間もありません。かつては長期保管時にはタンクは満タンにしておくのがお約束でしたが、現在では空っぽの方が良いともされています。ただし燃料系統がインジェクションになった現在では、タンクが空でも燃料ポンプ内に残ったガソリンが劣化してワニスとなり、ポンプモーターが固着することがあるので、一概に空タンクなら大丈夫と言えないのが難しいところです。
不幸にしてタンクが錆びてしまったら洗浄とサビ取り作業が必要ですが、スクーターの場合はそのタンクにたどり着くまでにいくつものハードルが待ち構えている場合があります。
ここで紹介するのは十数年間車庫内に放置されたスクーターで、ほぼ満タン状態だったタンクからは腐ったガソリン臭が漂い、給油口から覗くタンク内の液体は真っ茶色でした。それ自体はスポーツバイクと同じ光景ですが、このスクーターの場合はタンクを外すために外装パーツの多くを取り外さなくてはなりません。
タンクが装着されているのはシート前方、ライダー足元のセンタートンネル下で、フレームにぶら下がっているため下に降ろすことになります。タンクを固定するボルトを緩めるには足元のカバーを取り外し、そのカバーを外すにはフロントカウルの内張を外し、シートやシート下トランクボックスやフロアステップも取り外さなくてはなりません。
ビッグスクーターブームだった2000年代の250ccスクーターは高級感の演出に躍起になっており、外装パネルの継ぎ目のビスやボルトもできるだけ目立たないよう取り付けられています。またパネル同士の重なりも複雑で、車体下部のカバーを外すには上から順に外さないとツメが割れたりパネルに傷が付く原因にもなります。
大量の隠しネジを探しながら取り外し、カバーやパネルを取り外しながらガソリンタンクにたどり着くまで、この機種の場合はメーカーのパーツリストに記載された標準整備時間は3時間となっていました。この数字はバイクショップやディーラーのメカニックを想定したものなので、初めて作業を行う際にはもっと時間を要するかも知れません。ただガソリンタンクを外すだけで3時間も要する上に、大柄な車体から取り外された外装パーツを置いておく場所も必要となれば、その手間はガソリンタンクが露出しているスポーツバイクの比ではありません。
ショップなどに作業を依頼すれば作業時間分の工賃が発生するため、サビ取りやタンク交換作業に要するトータル費用がスポーツバイクより高額になるのは致し方ありません。作業の手間やコストを考えれば、サビを防ぐための努力が重要というわけです。
- ポイント1・フレーム下に取り付けられたスクーターのガソリンタンクのサビ取りはタンクの取り外し作業が大きな手間になる
タンク自体より燃料ポンプや給油口からサビが発生する?

燃料ポンプ取り付け穴からタンク内部を確認すると、燃料ポンプや給油口から落ちたサビが溜まっているものの、タンク素材自体にサビは発生していなかった。使用されている防錆鋼板の性能がよほど優秀なのだろう。ちなみに、ポンプ取り付け穴の裏側にはマウント部分の強度を出すため円盤状の口金が溶接されているが、この口金の表面は真っ赤に錆びていた。

タンク単体のサビ取りはスポーツバイクでもスクーターでも同じ。燃料ポンプはモーターや燃料計などサビが発生している部分を取り外して、蓋代わりにハウジングだけを取り付けて水を注入。サビ取りケミカルを使う前に洗浄を行うのだ。

全容量の1/3程度の水を入れたら中性洗剤を加える。タンクの洗浄や塗装部品の脱脂洗浄用として高い性能を誇るのがママレモン。注入後キャップを取り付けて思い切りシェイクする。洗剤中の界面活性剤の作用によって、軽度なサビならこの時点で落ちてしまう。

中性洗剤を使った洗浄が終わったら、サビ取りケミカルの出番だ。榮技研の花咲かGタンククリーナーは1リットルの原液を最高20倍まで希釈でき、繰り返し使用できる(使用回数が増えるほど効果が低下する)。この液は希釈済みの中古品で、カセットコンロで50℃程度まで加熱してからタンク内に注入した。給油口の口金付近に空気溜まりができやすいので、タンクの向きを変えながら空気を追い出す。

花咲かG溶液の温度が下がらないよう毛布で包んで12時間程度反応させる。猛暑の夏に車の中に入れておけば、逆に液温が上がることもある。口切りいっぱいまで入っていると膨張して溢れることもあるので、車室内でサビ取りを行う際は漏れても良いように養生しておくこと。

サビ取りが終わったら、中古の花咲かG液を保管しておくポリタンクに戻す。タンク内のサビが入らないよう、ジョウゴにストレーナー代わりのタオルを被せておく。

一度のサビ取り作業でこれだけのサビを落とすことができた。タンク内に残ったサビはホースの水で入念にすすぎ流しておく。

給油口の口金部分のサビがきれいに落ちたことで、サビによるクレーター状の荒れ具合が明らかになった。タンク本体内面はきれいなままなので、本体の防錆鋼板と口金部分の素材の違いがサビの有無を左右していると想像できる。サビの根が残っていると再びサビが発生するので、この時点で徹底的に駆逐しておくことが重要だ。
パズルのようなカウルやカバーを外してフレームから降ろしたタンクから、腐ったガソリンを抜くとタンク内には意外な光景が広がっていました。ガソリンタンクのサビと言えばタンク側面や底板がサビによってカサブタ状に凸凹に荒れるのが当然ですが、このスクーターのタンク内面はほぼ無傷で、サビやヘドロのような汚れは給油口の口金と燃料ポンプに集中していました。
これはタンク本体の防錆鋼板の性能が優れているのに対して、口金や燃料ポンプ、またポンプをタンクに固定するマウント部分に使われている材料はタンク本体ほどではないということを示していると言えるでしょう。もちろん、給油口も燃料ポンプのマウントもタンク内の部品なので、中性洗剤で洗浄した後にサビ取りケミカルを注入してサビ取りを行います。
このように錆びるのは年式の新しいバイクの防錆鋼板の常識なのか、タンク本体がカバーやカウル内に隠れるスクーターと露出するスポーツバイクでは使用している材料に違いがあるのか、この車両に関しては偶然このように錆びたのかは分かりませんが、口金やポンプのマウント部分をサビ取りケミカルに充分に漬け込むことで内部のサビをきれいに取り除くことができました。
タンク本体のサビ取りとは別に、インジェクション車で問題になるのが燃料ポンプです。このスクーターのポンプモーター、燃料計ユニット(センダーゲージ)、燃料フィルターはすべてサビと汚れでコーティングされており、特にフィルターの汚れは洗剤やパーツクリーナーに浸してもまったく落ちる気配がありませんでした。さらに残念なことに燃料ポンプはアッセンブリー設定で、フィルターのみの交換はできません。
12V電源を直結したところモーターが作動してポンプは生きていることが確認できましたが、汚れたフィルターを再使用するのは気が進まずネットオークションで入手した中古ポンプに交換。キャブレター車なら燃料コックの交換程度で済みますが、タンク内に燃料ポンプを組み込んだインタンク式のインジェクション車の場合は、スポーツバイクでもスクーターでもサビ取り作業時は燃料ポンプの心配もしなくてはなりません。
旧車や絶版車のメンテナンスやレストアを趣味としているバイクいじり好きにとって、錆びたガソリンタンクの洗浄やサビ取り作業は手間さえ惜しまなければ難しい作業ではないかもしれません。しかし250ccクラスのビッグスクーターを相手にする場合は、複雑で面倒な外装パーツの着脱作業があることを覚悟することが必要です。
- ポイント1・タンク自体が錆びていなくても、給油口や燃料ポンプに発生したサビでタンク内部全体が汚れてしまう
- ポイント2・燃料ポンプにサビが発生するとアッセンブリー交換になるためサビ取りとは別にコストが発生する
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