バイクに必要な電力を生み出すオルタネーターは、多くの場合永久磁石とステーターコイルの組み合わせで成り立っています。ステーターコイルがクランクケースカバー側に付く場合、ケース内から外に引き出す部分にゴムグロメットが付きますが、経年変化によってオイル滲みが発生することがあります。オイル滲みは液体ガスケットによって止められますが、この時、ステーターコイルの配線を確認することが重要です。
ステーターグロメットからのオイル滲みや漏れはトラブルにカウントされない?
1960年代の旧車には直流発電仕様があるものの、それ以外の大半のバイクの発電系は交流のオルタネーター仕様で、レギュレートレクチファイアによって直流化した電気で車体各部の電装品を作動させ、バッテリーを充電しています。
オルタネーターはエンジンの仕様や排気量によってまちまちですが、中型以上のバイクの多くは三相交流で発電しており、ステーターコイルから3本の出力線が立ち上がっています。またエンジンによってオルタネーターの取り付け位置もまちまちですが、クランクシャフト端部にフライホイールを兼ねたマグネットを装備したエンジンでは、ステーターコイルがクランクケースカバー側に取り付けられているのが一般的です。
こうしたエンジン構成の場合、ステーターコイルの出力線はケースカバーの一部を切り抜き、密封状態を保つためのゴムグロメットを通してエンジン外部に引き出されます。オルタネーターのチェックといえば三相の交流の電圧や電流がバランスよく出力しているか、レギュレートレクチファイアの機能は正常か否かが重要ですが、もう一点、見た目の善し悪しを分けるポイントとして、グロメット部分からのオイル滲みの有無も重要です。
絶版車のオルタネーターグロメットのオイル滲みや漏れといえば、カワサキZ1シリーズが有名です。オルタネーター配線は左クランクケースカバー下部から引き出されており、この部分のグロメットが製造以来無交換の場合、十中八九滲みや漏れが発生していると言っても過言ではありません。約半世紀前には柔軟性に富んでいたであろうグロメットも月日の流れの中で収縮し、エンジン内部のオイルを止められなくなるのはどうしようもありません。
エンジンからオイルが漏れてくるのは不具合には違いありませんが、ではトラブルかと言えば必ずしもそうとは言えません。特に絶版車の場合、20年も30年もあるいはそれ以上昔のゴム部品に過大な期待を寄せるのは酷でもあります。加齢による自然な劣化は機械でも我々人間でも避けられません。Z1シリーズに限らず、グロメット部分からオイル漏れを生じている場合は、部品が単品で購入できるのなら交換し、設定されていない場合はケース内側を脱脂洗浄した後に耐油性の液体ガスケットを塗布することで対処できます。
- ポイント1・クランクケースカバー内側にオルタネーターのステーターコイルを取り付けているエンジンは、経年劣化によって配線を取り出すグロメットからカバー内のオイルが滲んだり漏れることがある
- ポイント2・カバー内側からグロメット部分に耐油性液体ガスケットを塗布することでオイル漏れを止めることができる
経年劣化で想像以上に劣化していることがあるステーターコイル配線
オルタネーター配線からのエンジンオイル漏れの対策を行う際に確認しておきたいのが、ステーターコイルから立ち上がる配線やコネクターの端子部分の状態です。三相交流のオルタネーターは3組のステーターコイルから3本の配線(黄色が多い)につながり、ケースカバーのグロメットから引き出されて車体側のハーネスにつながります。この接続にはギボシ端子やコネクターが使われていますが、導通時に発生する熱や経年劣化によってコネクター本体が溶解したりギボシカバーが真っ黒に焼けていることも少なくありません。
端子部分に熱がこもってもオルタネーターから発生するエネルギーが大きいのですぐさま導通不良になることはなく、またサーキットテスターで測定しても抵抗値が極端に大きくなることはありません。しかしギボシやコネクターの端子が焼けることで大電流を流す際に抵抗が増えるのは確かで、接続部で流れが滞って熱に変わります。一般的な金属は温度が上昇することで電気抵抗が上昇するため、発電された電気は流れづらくなります。
オルタネーター配線に限らず、電気の流れが滞り気味のギボシ端子やコネクター部は加熱が促進される傾向にあります。端子の接触面積によって許容される電流量が決まっていますが、それを超える電流を流した場合=大きな電力を消費する電気アクセサリーを装着した場合にも端子が過熱して破損する場合があります。
ステーターコイル配線のグロメットからオイルが滲んだり漏れた場合は、ステーターコイルが固定されたクランクケースカバーを取り外すので、ここで車体側との接続部となるコネクターやギボシ端子の状態を確認して、焦げや焼けがある場合はステーターコイルと配線の接続部分からコネクター、またはギボシ部分までの配線を新作するのが最善策です。こここで紹介するバイクの場合、コネクターの端子が溶解していたのがステーターコイル側ではなく車体側でしたが、その場合も配線を新規に製作する工程は同じです。
ここで気をつけたいのが配線の太さです。元の配線より細くなると電流が流れる際に過熱するおそれがあるので、少なくとも元と同じ太さの芯線を持つ配線を使用します。また既存の配線との結合方法も重要です。芯線がしっかり密着しなければ抵抗増加の原因になるので、かしめやハンダ付けなどで確実に結合することが重要です。
グロメットからのオイル滲みやオルタネーター配線の過熱はすぐさまトラブルに直結するタイプの不具合ではないかもしれません。しかし停車中のバイクからオイルが滴り落ちたり、コネクター部分が短絡して充電不良になれば事は重大です。そうならないためにも、オルタネーター周辺に異変がないことを定期的に確認するという心がけが重要です。
- ポイント1・ステーターコイルから車体側のハーネスにつながる配線や接続部分に焼損がある場合は部分的に配線を取り替える
- ポイント2・新たに取り付ける配線の太さや結合部の養生は確実に行う
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