スパークプラグに火花を飛ばす点火装置は、1980年代以降はトランジスタ点火やCDI点火などの無接点式が主流ですが、それ以前はコンタクトポイントの開閉によって制御していました。摺動するポイントヒールと電気の流れを断続するポイント接点はいずれも消耗部品で、定期的なメンテナンスと交換が必要でした。原付クラスのポイントはフライホイールの内側に装着される場合が多く、ポイントに到達するにはまずフライホイールを外す必要があります。

フライホイールを外すのはエンジンオーバーホール時だけじゃない

フライホイールの外周に組み込まれた磁石と内部のコイルの作用で発電した電気を断続することでイグニッションコイルに高い電圧を発生させるコンタクトブレーカー。この機種はフライホイール内側にコンタクトブレーカーがあり、点火時期の調整は可能だが本体を交換する際はフライホイールそのものを取り外さなくてはならない。

クランクシャフトの端部に取り付けられたフライホイールは、エンジンの回転を滑らかにするための弾み車ですが、自動車用とバイク用では役割が若干異なります。自動車用のフライホイールはエンジンとギアボックスの中間にあって動力の断続に使われるのに対して、バイク用のフライホイールはまずはエンジンが縦置きか横置きか、つまりクランクシャフトが進行方向に向いているか直行しているかで違いがあります。

バイクの縦置きエンジンはBMWやゴールドウイングなどの一部に限られ、それ以外では原付からビッグバイクまでほとんどの機種が横置きエンジンを搭載しています。すると、クランクシャフトは進行方向に対して直交するため、フライホイールは車体の横に付くことになります。この場合、フライホイールは点火装置の一部として使われることがあります。

具体的には原付クラスから中型クラスまでの機種が該当し、さらに1980年代以前のフライホイールマグネトー&ポイント点火エンジンでは、フライホイールがポイント断続に重要な役割を果たしている機種も少なくありません。エンジンにとってスパークプラグの点火タイミングはとても重要で、ピストンの動きを正確にとらえることが必要です。

その際にクランクシャフトに直結しているフライホイールの角度がピストン位置を知るために最も適当なのです。またフライホイールマグネトー式の点火装置の場合、フライホイールに内蔵された磁石とクランクケースに固定されたコイルの相互作用によって点火に必要な電気を発電しているので、コイルの近くにポイントを設置する合理性もあります。

こうした理由からフライホイール内部にコンタクトブレーカーが内蔵された小排気モデルにとって、点火系のメンテナンスは容易ではありません。高い電圧が流れるポイント接点を開閉する際にはポイント表面に火花が飛ぶことで表面が荒れる原因となり、ポイントを開閉させるポイントカムとポイントヒールも接触しながら回転摺動することで摩耗します。すると走行距離を重ねることで、ポイントが開閉するタイミングが少しずつずれて点火時期も変化し、エンジンの調子が悪化します。

点火時期のずれた時はフライホイール外側からドライバーを差し込んでコンタクトブレーカーの位置を微調整して、フライホイール外周の点火時期を示す「F」の刻印とポイントを開くタイミングを一致させます。しかしポイントとヒールの摩耗が進行すると調整だけでは済まなくなり、コンタクトブレーカー自体の交換が必要になります。

POINT

  • ポイント1・バイクのエンジンではクランクシャフト端部のフライホイール内部に点火装置を内蔵している機種がある
  • ポイント2・ポイント点火のコンタクトブレーカーがフライホイール内部にある場合、ブレーカー交換時にフライホイールの取り外しが必要

フライホイールプーラーはフライホイールホルダーとセットで使う

汎用フライホイールプーラーの一例。この製品は円筒部分にM24×1.0とM27×1.0、十字ハンドル部分にM10 ×1.25、M14×1.5、M16×1.5、M18×1.5の合計6種類のネジがある。フライホイール側の雌ネジにもそれだけの種類があるということだ。

M24×1.0とM27×1.0の円筒部分の雄ネジを使用する場合、十字ハンドルのM10 ×1.25の先端をクランクシャフトの端部に当ててネジを締めることで、テーパーがかっちり噛み合ったフライホイールを取り外すことができる。

フライホイールよりはスクーターのドリブンプーリーを押さえるために使われることが多いバンドタイプのユニバーサルプーリーホルダー。バンドの直径さえ合えばフライホイールにも使用できるが、エンジンによってはホルダーのハンドルが干渉してうまく装着できない場合もある。

フライホイール外面にピンが刺さる孔やスリットがあれば、ピンタイプのユニバーサルホルダーを使用できる。フライホイールを緩め方向に回した時にピンが突っ張るように本体のセット方向を考えてセットする。

フライホイール中心のナットを緩める際も締める際も、ピンタイプの方がバンドタイプよりスリップしない分トルクがしっかり伝達できる。ナットを回す際にホルダーで押さえたフライホイールが回転することはありがちだが、この時スリットに刺さったピンが内側のコイルやコンタクトブレーカーに触れてダメージを与えないように注意が必要。

ネジ径の大きなアタッチメインとをフライホイールに締め込み、十字のハンドルをハンマーで打撃する。この時フライホイールを止めていないとハンドルが回るのと同時にフライホイールも回ってしまうので、バンドタイプのプーラーで押さえておく。ハンドルを締める力は一気に加えた方がはめ合い部分のテーパーが外れやすいので、ハンマーを使うのが効果的だ。

フライホイールが外れると、2組のコイルとコンタクトブレーカーを取り外すことができる。長期不動車の場合、コンタクトブレーカーの接点が腐食したりオイルが付着している場合もあるので、パーツクリーナーで洗浄してサンドペーパーで磨くと良い。

フライホイールの内側にあるコンタクトブレーカーや、ブレーカーとセットで機能するコンデンサーを交換するには、フライホイール自体を取り外さなくてはなりません。クランクシャフトとフライホイールは互いにテーパー形状で、中心のボルトやナットを締めることできつくはめ合わせられています。そのため、ボルトやナットを取り外しただけではフライホイールは外れず、専用工具のフライホイールプーラーが必要です。

フライホイールを観察すると中心部分にネジがあり、このネジ径と適合したフライホイールプーラーを取り付けて中心のプッシュボルトをねじ込むと、クランクシャフト端部が押されてフライホイールが手前に外れます。フライホイール側のネジにはいくつかのサイズがあり、汎用性の高いフライホイールプーラーにはさまざまなフライホイールに使用できるよう何種類かのネジが付いています。

ここではフライホイールのネジが雌ネジタイプの場合を紹介していますが、機種によってはフライホイール側が雄ネジで、雌ネジタイプのフライホイールプーラーが必要になる場合もあります。

さらにフライホイールプーラーを使用する際は、プーラーを締めた際にフライホイールが一緒に回らないよう回り止めをセットすることが必要です。回り止めにはフライホイール外面に穴やスリットがあればピンタイプのホルダーをセットし、ピンを掛けられる穴がないフライホイールにはバンドタイプのプーリーホルダーを使用します。

絶版原付モデルを手に入れて、キックペダルを何度踏んでもスパークプラグに火花が飛ばない時にはフライホイールを確認して、ポイント点火だった場合は点火時期やポイントの状態チェックが必要です。その結果、フライホイール内部のコンタクトブレーカーを交換する際にはフライホイールプーラーと回り止めのホルダーが必要となることを覚えておきましょう。

POINT

  • ポイント1・フライホイールのネジには様々なサイズがあり、ネジサイズに適したフライホイールプーラーが必要となる
  • ポイント2・フライホイールの回り止めとなるホルダーとフライホイールプーラーはセットで使用する

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