ブレーキの引きずりやドライブチェーン潤滑不足は外から見える、ライダーが認識しやすい不具合なのに対して、ホイールやサスペンション稼働部の潤滑状態は分かりづらくメンテナンスも先送りになりがちです。だからこそ、決定的なダメージを受ける前にグリスアップを行うことが重要。タイヤを浮かせてホイールを回したり、サスペンションを外してスイングアームを動かしてフリクションを感じたら、清掃と潤滑で機能を回復しましょう。

車重の重さでフリクションロス増加が分かりづらいのが足周り


フリクションが増加していても車重や駆動力が加わるとホイールは回されてしまうが、ベアリングを回すことで実態が掴みやすくなる。ドライブチェーンやブレーキのメンテナンスでタイヤを取り外す機会があれば、ホイールベアリングを指で回して引っかかりやゴロゴロ感がないことを確認しておく。アクスルシャフトに対するグリス塗布はシャフト自体の防錆効果になるが、SRの場合はスプロケットハブのグリスニップルを通じてグリスアップできる。


クラッチケーブルを引くのに力を要する分、クラッチレバーのピボット部分の潤滑が疎かになることも少なくない。ピボットボルトとレバーの接触部分の潤滑不足によって摩耗が進行してレバーがガタガタになり、遊びが大きくなったレバーを操作し続けることでレバーホルダーが摩耗する悪循環につながる。分解せずグリスアップするには、狭い隙間にグリスを送り込めるハンディタイプのグリスガンがあると便利。


モノショックのリンクベアリングやブッシュは潤滑状態が相当劣悪になっても作動するが、そうなるとサスペンションの性能は期待できない。ブッシュの表面は耐摩耗性に優れた硬質クロームメッキ仕上げが多いが、メンテ不足によってメッキ剥離や段付き摩耗を起こすこともある。ホイールを外してスイングアームを上下左右に揺すって、ガタつきが感じられたら徹底メンテが必要だ。

タイヤの空気圧がバイクの操縦性に大きな影響を与えることは、ライダーなら誰もが意識したことがあるでしょう。バイクを押して駐輪場に出し入れする際に何だか重く感じて空気圧を測定したらかなり減っていた、というのはありがちなパターンです。

そして路面と接するタイヤ、ホイールの回転を支えているホイールベアリングもまた、ホイールのフリクションや操縦性を左右する重要なパーツです。ホイールベアリングには内輪と外輪を回転させる鋼球を潤滑するためにグリスが塗布してありますが、そのグリスの性能が低下して効力が薄れることで滑らかな回転が失われフリクションロスの増加につながります。

ベアリングには鋼球やグリスが外部から見えるオープンタイプと、ゴムシールや金属シールで内輪と外輪の隙間が塞がれたシールドタイプがあります。オープンタイプは走行中にタイヤが跳ね上げた雨水やホコリが侵入しやすくグリスの劣化が早いと言われることもありますが、ホイールハブを観察すれば分かる通り、オープンタイプでもシールドタイプでもベアリングの外側にはダストシールがあり、シールの機能が健全ならオープンタイプだから汚れが早い、ということはありません。逆に言えば、シールドタイプであっても回転するベアリングを潤滑し続けることでグリスの性能は劣化します。

ただし、ベアリングのグリスはエンジンオイルやフロントフォークオイルなどの潤滑油より寿命は遙かに長く、10万kmノーメンテというのも珍しくありません。

とはいえ100台のバイクがあれば症状も100パターンで、もっと短期間でフリクションが増加する場合もあります。足周り部品の潤滑不足が掴みづらいのは、そこに車重が加わっているためです。タイヤを浮かせてホイールを回すとスムーズに回らずすぐに止まってしまうのに、押し歩きでは違和感がないのも車重による慣性力が働くためです。

その傾向はリアサスペンションにも当てはまります。2本ショック車の場合、作動部はスイングアームピボットだけです(実際にはショック上下のエンドアイ部分にも回転力が働きますが)。一方リンクを使用するモノショック車では、スイングアームピボット以外にリンク部分にもいくつかのピボットがあり、ピボットを構成するカラーとベアリング(またはブッシュ)はグリスによる潤滑が不可欠です。

リアサスの潤滑不良の影響はホイールベアリングよりも明確に現れます。リアタイヤが路面のギャップを踏んでスイングアームを押し上げると、その力はリンクのピボットを伝達されてリアショックを縮めます。その際リンク式のモノショックは、リンクのレバー比の働きによって、ストローク量が小さい時はリアショックの圧縮を小さく、スイングアームが大きく動いてストローク量が増えるとリアショックを大きく縮めます。これが入り口はソフトで奥で踏ん張るモノショックの特徴です。

しかしピボットの潤滑不良でリンクの動きが渋くなると、スイングアームの動きがリアショックに伝わる手前で減衰されてしまいます。またリンクが正しく動かないことで入り口が柔らかく奥で踏ん張る特徴も阻害され、落ち着きのないドタバタとした動きになってしまいます。

こうしたサスペンションを分解清掃して新たにグリスアップすると、僅かな荷重変化にリアサスが追従して驚くこともあります。清掃前の状態によっては、サスの踏ん張りがなくなり柔らかすぎると感じることもあるほどです。しかしそれが本来の姿であり、リンクのフリクションに頼った減衰力は間違いであることを理解することが重要です。

POINT

  • ポイント1・ホイールベアリングやリアサスペンションは車重が加わることで潤滑不良を体感しづらい
  • ポイント2・リンクを使用するモノショック式リアサスペンションは、リンクのグリス不足によってサスペンションの性能が大幅に低下する

分解せずグリスを塗布できるグリスニップルも活用したい


ヤマハSR400のグリスニップルはグリスアップ時に取り付けて使用するパートタイム式で、工具ケース蓋の裏側に付いている。中古車などで紛失している場合、純正部品として購入できる。


スイングアームピボットシャフト端部のフランジボルトを取り外してグリスニップルを取り付け、グリスを圧入する。グリスガンのノズルはニップル先端にぴったりフィットするものを使用する。圧入されたグリスはシャフトの横穴からスイングアーム内のブッシュに送られ、ブッシュの穴からニードルベアリングとの摺動面に塗布される。


SR400のピボットシャフトは両端の雄ネジをナットで締め付ける構造で、グリスニップルも左右端部に取り付けてグリスを圧入する。機種によってはスイングアーム側にグリスニップルが付く場合もある。いずれの場合もグリスが汚れすぎている場合は先に清掃した方が良く、その際にはスイングアームを取り外してブッシュを抜き、パーツクリーナーで洗浄してから新しいグリスを圧入する。


スイングアームに圧入されたニードルベアリングとブッシュの潤滑不足により、ブッシュの表面がこのように荒れてしまうこともある。これではベアリングが滑らかに転がらずスイングアームの動きも悪くなる。このようになった場合は交換するしかない。


SR400の場合、ドリブンスプロケットキャリア(純正部品名称はハブクラッチ)にもグリスニップルがある。ここから圧入されたグリスはホイール左右のベアリングの隙間を決めるスペーサーの横穴からアクスルシャフトに塗布される。

ホイールやリアサスペンションをグリスアップには、それらを取り外しても車体が倒れないような準備が必要で、作業環境によっては難しいこともあるでしょう。そんな時に便利なのがグリスニップルです。グリスニップルは先端にワンウェイボールがあり、専用のグリスガンを接続することでグリスを注入できます。

グリスニップルはどんなバイクにも付いているわけではなく、年式が新しくなるほど省略されているのが残念なのですが、多くのライダーに馴染みがあるところではヤマハSR400のスイングアームやドリブンスプロケットキャリアに付いています。

防水タイプのブレーキパネルやステンレス製ケーブルが普及する1970年代以前の旧車の中には、フロントドラムブレーキパネルに取り付けられたスピードメーターギアやクラッチケーブルにグリスニップルが付いた機種もあります。そうした時代のバイクにとってのグリスアップは、今よりずっと切実であり必要不可欠だったわけです。

SRの場合、ピボットシャフト端部のニップルから注入されたグリスはスイングアーム支持部のニードルベアリングに行き渡り、ブッシュとの潤滑を確保します。古いグリスが残った状態で新しいグリスを補給するため、スイングアームを外してベアリングやブッシュを清掃してグリスアップする方がより効果的なのは確かです。しかし足周りを分解することなく要潤滑ポイントにグリスを塗布できるメリットは大きいので、グリスニップルがあれば活用することをおすすめします。

POINT

  • ポイント1・グリスニップルからグリスを注入することで潤滑部分を分解する手間が省略できる
  • ポイント2・メンテナンスの間隔が長い場合はニップルからの注入より分解清掃後のグリスアップが望ましい
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