しばらく乗らずに放置したキャブレター仕様のバイクで頻発するのが、キャブ内でのガソリン変質です。古いバイクに触れる機会が多いライダーなら、鼻を突く独特の臭いとフロートチャンバー内の光景も見慣れたものかもしれません。そんなキャブをメンテナンスする際は強力なキャブレタークリーナーが有効ですが、クリーナー使用後の処理にも配慮が必要です。

外せる部品はすべて外してからキャブクリーナーを行き渡らせる


4ストミニのカスタムではファンネルやパワーフィルターを取り付けるため、エアークリーナーボックスを取り外すことも少なくない。このようなカスタムではボックス付きよりも外部環境による影響を受けやすくなる。パワーフィルターを外に向けて露天で保管していれば、キャブに雨水が入ってしまうのも致し方ない。


キックペダルを踏んでも始動する気配がないのでフロートチャンバーのドレンコックを緩めると、変質して異臭が漂うガソリンが出てきた。フロートチャンバー容量は燃料タンク容量よりはるかに小さいので、同じ環境にあってもキャブ内のガソリンの方が先に劣化する。


フロートチャンバー内のガソリンは完全に終わっているが、コックからダイレクトに出てくるガソリンの状態は悪くなく、燃料タンク内は正常と思われる。フロートチャンバー内の劣化ガソリンを捨ててタンク内のガソリンを入れれば始動することもあるが、ジェット類が詰まっていたら望みは薄い。


フロートチャンバーを外すと、腐ったガソリン特有の異臭が立ち上る。ドレンコックを開けて液体が出てきただけまだましだが、放置期間がさらに長いとガソリンが揮発してワニス状の堆積物に覆われてしまう。それらがスロージェットやパイロットポート内で固まると、スプレータイプのケミカルだけでは汚れを取りきれないこともある。


取り外せる部品はすべて外してから洗浄を行う。ジェット類は鉄に比べて柔らかい真鍮系の金属を使っているので、ドライバーの掛かりが悪いと簡単になめてしまう。ジェット専用のマイナスドライバーは刃先の先端が平行で、テーパー仕上げの通常のドライバーよりなめづらいのが特長。それでもジェット側にしっかり押しつけながらトルクを加える。


小さなジェットやニードルはチャック付きのビニール袋にまとめてキャブレタークリーナーをスプレーすることで、クリーナーを節約しつつ漬け置き洗いができる。ジェットの穴が塞がっていても、クリーナーに漬け込むことで汚れが柔らかくなり、パーツクリーナーやエアーブローで吹き飛びやすくなる。キャブクリーナー後も詰まっている汚れは、穴径より充分に細いジェットリーマーと呼ばれる工具や針金で慎重に取り除く。


見えている汚れだけでなく、ジェットやスクリューを外した穴部分にもキャブクリーナーをスプレーする。すべての穴はどこかに通じているので、吹き込んだクリーナーが別の場所から出てこなければ、詰まっている通路を知ることができる。

温度や湿度の変化によって、想像以上に短期間で変質することがあるのがガソリンです。特にキャブレター内のガソリンは燃料タンク内に比べて容量が少ないこともあり、数ヶ月ぶりにエンジンを掛けようとした時にはすでに腐り始めていた……ということもあります。

ガソリンが変質すると粘性の高いワニス状になってフロートチャンバー内に溜まり、スロージェットやメインジェット、混合気が通るポート内に詰まってしまいます。そのためフロートチャンバー内のガソリンを入れ替えただけではエンジンが始動しなかったり、通路が狭くなることで混合気の状態が変わって本調子には戻らない場合も少なくありません。

インジェクション車でも同様で、放置期間が長くなると燃料ポンプやインジェクターに付着したガソリンがワニス化して、ポンプのモーターが固着したりインジェクターのプランジャーが動作不良を起こします。

キャブレター車の場合、辛うじてエンジンが始動するようなら、エアークリーナーとキャブレターのジョイントパイプからクリーナーケミカルをスプレーしてある程度洗浄できることもありますが、キャブ内部の各部をくまなく洗浄するのであればオーバーホールは必須です。汚れが付着する際、通路径が狭い場所にあるガソリンが先に変質します。

具体的にはパイロットジェット(スロージェット)やパイロットアウトレットやスローポート、スローエアジェット周辺です。これらのパーツはアイドリング付近でとても重要な働きをしており、僅かな汚れが残るだけでエンジン回転の安定性やスロットルコントロール性に大きな影響が生じます。単気筒エンジンのシングルキャブならまだしも、4気筒の4連キャブのスロー系が汚れた状態では、安定したアイドリングはとても望めません。

エンジンからキャブレターを取り外して分解するのは、メンテナンス初心者にとってはきわめてハードルの高い作業となるでしょう。しかしキャブセッティングを行うのではなく、単純に分解組み立てを行うだけなら、実はそれほど複雑な作業ではありません。

注意すべきなのは、

  • パイロットスクリュー(エアースクリュー)の戻し回転数を分解前に把握しておくこと
  • 油面に関係するフロートとフロートバルブの接触部分(調整板、ベロなどと呼ばれています)を不用意にいじらない
  • という2点ぐらいです。

    キャブレターからジェットやニードルを取り外したら、すべてキャブレタークリーナーで洗浄します。変質したガソリンを強力に溶解するフォームタイプ(泡タイプ)のキャブクリーナーは使い勝手が良くお勧めです。パイロットジェットやメインジェットの小さな穴が詰まっている時に硬い針金などで突くと穴径が変化してしまう可能性があるので、クリーナーを浸透させて詰まりを柔らかくしてから、穴径と比較して充分に細いキャブレター専用のリーマーを通すといった配慮が必要です。

    ジェットやニードルだけでなく、キャブレター本体のエアーや混合気の通路に詰まったワニスも、クリーナーで入念に洗浄することを忘れてはなりません。

    POINT

    • ポイント1・キャブレター内部のガソリンが変質した場合、内部パーツを取り外してキャブクリーナーで洗浄する
    • ポイント2・キャブレターを分解する際はパイロットスクリュー(エアースクリュー)の戻し回転数を覚えておき、フロート調整板は不用意にいじらない

    洗浄後はパーツクリーナーですすいでエアーブローでクリーナー成分を除去することが重要


    洗浄後にすぐキャブレターを組み立てて走行するのなら良いが、そうでなければキャブクリーナー成分をパーツクリーナーで洗い流しておく。衣類を洗濯する際に、洗剤をすすぐのと同じ理屈で、汚れを溶かしたキャブクリーナーが付着したままでは再び定着してしまう。これで失敗する例が想像以上に多い。ガソリンや水溶性の洗浄液に沈ませてすすいでも良いが、パーツクリーナーをスプレーする方が手っ取り早い。


    エアーコンプレッサーがあれば、すべての通路にエアーが通ることを確認する。エアーブローで通路から排出されたパーツクリーナーにキャブクリーナーの臭いが混ざっていたら、再度パーツクリーナーを吹き付けてすすぎ洗いを行う。キャブクリーナー特有のぬるぬるした手触りがなくなれば、ガソリンを入れずに組み立ててエンジンに取り付けた後も再び汚れが発生することはないはずだ。

    キャブレタークリーナーによってヘドロのようにまとわりついた汚れが除去できても、それで終了ではありません。むしろその後の方が重要です。それがパーツクリーナーを使ったすすぎ洗いです。

    クリーナーで洗浄した後、すぐにキャブをエンジンに取り付けて走行するのであればキャブ内にガソリンが通ることでクリーナー成分は洗い流されます。しかし組み立て後にすぐに乗る予定がない、あるいはエンジン始動確認だけして終わってしまう場合は、キャブ内部に残ったクリーナーが影響を与える可能性があります。

    ここで紹介しているキャブはシンプルなシャッターチョーク式ですが、パイロットやメイン系と別に始動系の通路を持つバイスターター式キャブの場合、汚れとクリーナーが混ざって残留することでスターターのプランジャーが張りついて作動不良を起こしたり、冷間始動時に必要な濃い混合気を送り出せなくなることもあります。

    そうした不具合を避けるために、ジェットやキャブ本体に付着したキャブクリーナーを洗い流すためのパーツクリーナーによる洗浄が有効です。パーツクリーナーを入念にスプレーすることでジェットやキャブの穴に残ったクリーナーを洗浄でき、スプレー缶のガス圧で残った汚れを吹き飛ばすこともできます。

    さらにメンテナンスの環境にエアーコンプレッサーがあれば、パーツクリーナーをスプレーした後をエアーブローすることで、キャブクリーナー成分をさらに効果的に除去できます。パーツクリーナーを吹き飛ばすと同時に、通路径が小さい上にスロットル開度が小さい領域で重要な働きをするスローエアーポートやパイロットアウトレットなどを貫通させることで、パイロット系の機能回復を図ることができます。

    キャブレターにとっては、ガソリンが腐らないよう定期的に走行していれば問題はない話ですが、何かのきっかけで長期不動になり詰まってしまった場合は、キャブレタークリーナーだけでなくパーツクリーナーによる洗浄が重要であることを覚えておきましょう。

    POINT

    • ポイント1・キャブレター内部にクリーナーが残った状態で保管すると新たな汚れの原因になることがある
    • ポイント2・パーツクリーナーですすいだ上にエアーブローしておけば、すぐにガソリンを入れなくてもキャブ内部は再び汚れることなくきれいに保たれる

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