
旧車や絶版車オーナーにとって親しみ深いキャブレターはシンプルながら奥深く、ジェットやニードルなどの細かな部品の状態次第でコンディションが左右されます。特にデリケートなのが、スロットル開度が小さな領域を受け持つスターター系やスロー系。キャブと言ったらメインジェットやジェットニードルじゃないの?というオーナーほど、スロー系の再確認が必要かも知れません。
街乗り中心ならメイン系よりスロー系のセッティングや同調の方が重要!?
洗浄前(左)と洗浄後(右)のキャブレターの比較。ベンチュリーに付着した汚れは下部のエアーポート内にも及んでいる可能性がある。ここから吸い込まれたエアーはスロージェットとメインジェット部分に流れ、ジェットで計量されたガソリンと混ざり霧化しやすい状態になってポートから吸い出される。エアーポート内の汚れで通路が狭まると空気が減少し相対的にガソリンが増えるため、混合比が濃くなる傾向に変化する。だがジェットを絞ればベンチュリーの流量と釣り合わなくなるのでセッティングがずれてしまう。/color]
先端部分に吹き返しの影響によるカーボンが付着したパイロットスクリュー。さらに症状が進行してカーボンが堆積すると、始動性の悪化やアイドリングの安定性低下につながることもある。戻し回転数を多くしないとアイドリングが安定しない時は、スクリューを取り外して状態を確認する。このようにカーボンが付着していたら、スロージェットからパイロットアウトレット、スローポートにキャブレタークリーナーを行き渡らせて洗浄しておくと良い。
パイロットスクリューとともにスロットル低開度で重要なスタータープランジャー。基本的には冷間始動時に必要な濃い混合気を作るためのパーツだが、経年劣化によってシール性が低下することでチョークレバーを戻していてもガソリンが流れてしまい、アイドリング時の混合比が濃くなる原因となることがある。
スタータープランジャー先端のゴムパッキンはスターター系のガソリン通路を開閉する部品で、チョークレバーを引かなければ通路を閉じている時間の方が長い。その間にゴムが硬化して気密性が低下することがある。また長期不動車の中にはスターター経路内のガソリンが変質して画像のような緑青が吹いたり、この状態で開閉することでプランジャーやキャブ側に傷がつき、やはり気密性低下の原因となることがある。
キャブレターから供給される混合気は、エンジン回転数によって増減する吸入空気量とスロットル開度によって変化します。スロットルが閉じている時は吸入空気量が少ないためエンジン回転数が低く、スロットルを開ければ空気が大量に吸い込まれるため混合気量も増えて回転数が上昇することは、ライダーなら誰もが知っているはず。
そしてスロットル開度が変化する時、キャブレター内部では役割分担が自律的に行われています。冷間始動時にチョークレバーを作動させると、吸入空気を強制的に遮断するチョーク機構、またはスタータープランジャーの作用によって通常より濃い混合気を作って始動性を向上させます。
アイドリングからスロットル開度1/4前後の領域では主にスロー系が働きます。スロー系はスロージェットでガソリンを計量しつつ、エアースクリューかパイロットスクリューで調整を行います。エアースクリュー仕様の場合、キャブレター内に取り込む空気の増減を調整し、パイロットスクリューはキャブ内で空気とガソリンが混ざった混合気を増減させます。
そしてスロットル開度が1/4以上になってくると、いよいよメイン系の出番です。メインジェットで計量されたガソリンはベンチュリー部分に突き出たメインノズルから吸い出されます。この時メインノズルに刺さったジェットニードルとの隙間によって、最終的なガソリン量が決まります。
スロットル開度については、スロットルワイヤーがスロットルバルブを直接開閉するピストンバルブ式キャブと、ワイヤーはバタフライバルブを操作し、エンジンが発生する負圧によってバキュームピストンが作動する負圧式キャブでは若干解釈が変わります。スロットルグリップにマーキングを施し、手元でスロットル開度を読み取れるようにしても、バタフライバルブの開度とバキュームピストンの開度が一致するとは限らないからです。
そうした違いはあるものの、ここで改めて注目したいのは普段の街乗りで使用するスロットル開度です。低いギアで加速するごく短時間は開度が大きくなることもありますが、シフトアップして車の流れに乗る時にはグッと開度が小さくなるはずです。1000ccを超えるビッグバイクになると、自分ではフル加速だと思っていてもスロットル開度は1/2ぐらいしか開いていなかったということも少なくありません。
これは何も気合いや根性が足りないというわけではなく、交通ルールに則って走行する以上、スロットル全開を維持できるシーンなど皆無だと言うことです。高性能キャブレターを装着しているカスタムマシンなら、本領を発揮させる上でもメイン系のセッティングにこだわりたいのは当然ですが、だからといってスロー系をないがしろにすることはできません。純正仕様に多い負圧式キャブでも同様です。
ここでもう一度スロー系に注目すると、重要な働きをしているのがパイロットスクリューです(今回はエアースクリュー仕様は割愛します)。スロットルバルブが閉じた(アイドリングできる程度開いた)状態で、スロージェットを通った混合気はパイロットアウトレットに運ばれ、パイロットスクリューで最終的に流量を調整します。
サービスマニュアルにはパイロットスクリューの標準戻し回転数が記載されており、基本的にはその数値に合わせます。しかし現実にはエンジンを始動してスクリューを微調整し、エンジン回転数が最も高くなった状態に合わせます。それがアイドリング時の吸入空気量に対して最適なガソリン量となるからです。
次にアイドリング状態からスロットルを開くと、パイロットアウトレットとともにスローポートも開き、スロージェットで計量されたガソリンが供給されます。スロットルを開くとパイロットアウトレットより大きな負圧がスローポートに掛かることで、パイロットアウトレットの影響度は低下します。
アイドリングから発進加速するスロー系のセッティングは、低速域の扱いやすさに直結します。パイロットスクリューの戻し回転数が少なくアイドリング時の混合比が薄いと、スロットルの開け始めでパワー感が少なくスカスカな印象になります。逆に戻し回転数が多いとスロットルを開けた時に濃い混合気が流れるためガツガツ、ギクシャクしたエンジンフィーリングになりがちです。そしていずれの場合も、スローポートから流れ出す混合気とのつながりが悪くなり、スロットル開度が小さい領域を使う発進加速などで扱いづらさを感じる原因となります。
パイロットスクリューとエアースクリュー(スローエアージェット)が併設されるケーヒンFCRキャブレターの場合、アイドリングから開け始めの混合気がスロージェット、パイロットスクリュー、エアースクリューの3要素で決まるためセッティングが難しいですが、純正キャブの場合はスローエアージェットは固定なのでスロージェットが純正スタンダードサイズならパイロットスクリューだけで調整を行います。
それなら混合比は大きく変化しないと思うかも知れませんが、そうとは限りません。パイロットスクリューはスロットルバルブよりエンジン側にあり、エンジンからの吹き返しによるカーボンが付着することがあります。パイロットアウトレットはとても小さな穴で、ガソリンはその穴とスクリュー先端のテーパーの狭い隙間から吸い出されるため、カーボン汚れが流量に影響を与える場合があります。
またパイロットスクリューの戻し回転数を決める際は、スクリューが止まるまで締めてから戻しますが、この際に締める力が強すぎると先端のテーパー部分やポート内側を傷める危険性があるので注意が必要です。スクリュー先端が傷付けばガソリンの流量に盈虚が及ぶこともあります。
パイロットアウトレットやパイロットスクリューが影響するのはスロットル全閉から1/4ぐらいまでの領域ですが、排気量の大きなバイクにとっては実はもっとも多用する領域でもあります。メインに注目したい気持ちを抑えて、スロー系の重要性をあらためて理解しておきましょう。
- ポイント1・キャブレター内部のパーツはスロットル開度に応じて役割が分担されている
- ポイント2・パイロットスクリューやスロージェットはスロットル開度が小さな領域を受け持つが、街乗りでもっとも多用する部分なので役割は非常に重要
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