親指と人差し指がつりそうになるほど突っ張って運んだ先で、ボルトやナットを落下させた時の落胆と腹立たしさは経験者なら誰もが共感できる感情でしょう。そんな時に重宝するのが磁力やフリクションでボルトナットを保持できるソケットです。ここではスプリングとボールを使い、磁石がつかない非鉄金属や樹脂ナットにも使えるグリップソケットの利便性に注目してみましょう。

「落ちないで」と願う時ほど無情に落下するボルトナット


画像は自動車の例だが、袋状に組み合わされたパネルの奥に取り付けられたドアミラー固定用のボルトを外す際にソケットの先端に指先を添える隙間さえなく、非常に不安定な状態。ソケットのすぐ横にマグネット式のピックアップツールを待機させておいて、落下しそうになったらすかさず磁石に貼り付けるという手もあるが、失敗すれば真っ逆さまだ。


このソケットはコーケン製ではないが、スプリングとスチールボールのフリクションでボルトの二面幅をつかむことで、落下させることなく着脱できる。ボルトを締める際もこの状態でドアミラー側の雌ネジ部分に運び、指でエクステンションバーを回してネジが噛み合ったことを確認してからラチェットハンドルで締めることで、カジリなどのトラブルを防止できる。

目視で確認できているのに、スパナやメガネレンチでは回せないボルトやナット。バイクや自動車のメンテナンスでは頻繁に遭遇する状況です。新車を組み立てる工場では、基礎に土台を作って柱を立てて壁を貼る家屋の建築と同様に、フレームに近い順に部品を取り付けていきます。そのため一度完成すると、最初に取り付けた部品は外しづらくなります。

手が入らないボルトナットを回すには、工具のアクセスを邪魔する部品をあらかじめ外しておくことで作業が容易になるのは確かです。しかし、いちいち手前の部品を取り外すのが面倒なので、作業時間を短縮するためにも手が届きづらい奥のボルトナットを緩めたいわけです。スパナやメガネで回せなければソケットレンチの出番になりますが、手が届きづらい場所にあるボルトナットほど作業時の緊張感が高まります。

ソケットレンチである程度緩めても、ボルトナットが指先が届かない場所にある場合は、そのままソケットで緩め続けなければなりません。ネジが抜ける瞬間にソケット内にボルトナットが入っていれば良いですが、抜けた瞬間にソケットから落下したら最悪です。そんな設計をする方が悪いと文句を言っても後の祭りです。

外す時だけでなく、締め付ける際も同様の緊張とリスクがあります。ボルトでもナットでも、最初の数山は指先で締めることでネジ山のカジリがないことを確認でき、その後工具で増し締めするのが理想です。

しかし指でつまんだ状態では取り付け場所まで届かなければ、ソケットに差し込んで運ぶしかありません。この時、ソケットとボルトの境目に指先を添えながらギリギリまでガイドして、いよいよ雌ネジに届きそう……という瞬間に落下させてしまったら、もう落胆しかありません。

画像の作業は自動車のものですが、ドアミラーの取り付けボルトは完全にドアパネルの内側に取り付けられています。そのため着脱するにはソケット工具が必須ですが、指先でボルトに触れることもできないので、着脱作業は慎重に行わなければなりません。ソケットからボルトが外れれば、袋状に組み立てられたドアパネルの底に落下です。完全に底部まで落ちればピックアップツールで拾い上げることもできますが、途中でパワーウィンドウのリンクに引っかかったりすると厄介です。

そんなトラブルを予防するため、ソケットの六角穴にマスキングテープを詰めたり、グリスを糊代わりにするというテクニックもありますが、あらかじめ落下防止策が施された工具を使うというスマートな手段もあります。

POINT

  • ポイント1・スペース効率を重視するバイクや自動車のメンテナンスでは、指先が届かない場所のボルトナットを着脱しなくてはならない場合もある

抵抗になりつつ軽い力で着脱できるコーケンのナットグリップソケット


コーケン製のナットグリップソケット。ソケットに巻かれたスプリングが小さな鋼球を押すことでボルトやナットの頭をはさんで落下を防止する。低頭ボルトやナットでもホールドできるよう、鋼球を六角穴の入り口近くに配置しているのがポイント。


指先が届く部分のボルトナットでも、ソケットに差し込んだ状態で運ぶことで着脱が容易になることは多い。ナットグリップソケット+スピンナーを組み合わせれば、本締め以外の作業効率が大いに向上する。


軸長が600mmもある超ロングタイプのT型ハンドルの先端にナットグリップソケットが付いたコーケン製のT型ユニバーサルレンチ。ソケット差し替え式の方が汎用性は高いが、手が届かないような場所でソケットが外れたらかなりピンチなので、このレンチは軸とソケットをユニバーサルジョイントで連結している。


軸が長ければボルトから離れた場所から作業できる利点がある一方、長い軸が別の場所に干渉する場合もある。そんな状況に対応できるよう、ユニバーサルジョイントを使用している。


画像のような状況でソケット+エクステンションバーとラチェットハンドルの組み合わせでは、フレームやエンジンにハンドルが当たって振り角が制限されてしまう。そこで長軸のレンチを使えば、何にも邪魔されずT型ハンドルを連続的に回すことができる。その上、先端のソケットにはナットグリップが付いているので、緩んだボルトを真上に引き上げても落下することはない。

工具に興味のあるライダーの中には、ボルトナットを保持できるソケットがあることを知っている人もいるでしょう。中でもソケット内に磁石をセットしたマグネット内蔵ソケットはポピュラーです。それと同様に愛用するユーザーが多いのがナットグリップソケットです。

ナットグリップという名称はソケット工具専門メーカーの山下工業研究所(ko-ken)の登録商標ですが、ソケットの六角穴の対辺にセットされた小さな鋼球をスプリングで押さえることで、ボルトやナットに抵抗を与えて落下を防ぐのが特徴です。磁力に頼らないことでステンレス製やアルミ製、樹脂製など磁石が着かない素材でも使用でき、切り粉や金属がソケット内に付着しない利点もあります。

鋼球を押さえるスプリングが弱いと落下のリスクがあり、強ければ保持力は強力になりますが、着脱時の抵抗感が大きくボルトナットへの傷付きが心配と、磁力で引きつけるマグネット内蔵ソケットよりセッティングが難しいものの、ボルトやナットにソケットを押し込む際には確実なクリック感があり、ソケットから外す際にも妙に突っ張らずスッと外れる味付けは、ソケット工具専門メーカーならではの開発力とノウハウが発揮されています。

ボルトが下向きに取り付けられた場所、すなわちソケットが完全に下向きになるような状況でも指を添えることなく引き上げられ、締め付ける際も落下の心配がないので雌ネジの入り口を慎重に探りながら作業できます。上で紹介したドアミラーの袋部分のボルト着脱では、ソケットとボルトは水平に移動する作業となりますが、落下させると回収に手を焼く場所での安心感は抜群です。

ナットグリップタイプのソケットをエクステンションバーと組み合わせることで、ボルトナット周辺に組み付けられた部品に干渉されることなく着脱できるメリットもあります。画像で紹介しているのは600mmの長軸の先にユニバーサルジョイント付きナットグリップソケットを組み合わせたコーケン製のT型レンチで、ラチェットレンチではハンドルの振り角が制限されるような場面でも、遙か上空からハンドルをクルクルとスピーディに回し、外れたボルトをそのまま引き上げて回収できます。

通常の六角ソケットに対して製造時の加工が増えて部品点数も多いため、価格が上がるのは仕方のない話ですが、作業内容に応じて長さの違うソケットを使い分けるように、商品度の高いサイズはナットグリップタイプを所有しておくことで「これは落としそうかなぁ……」と思えるボルトナットも、不安なく着脱できるようになります。

POINT

  • ポイント1・ボルトナットの脱落防止手段には磁力を使うマグネットタイプと、物理的な抵抗を利用するフリクションタイプがある
  • ポイント2・フリクションタイプのソケットは非鉄金属のボルトナットに対応し、ソケット自体が金属粉などで汚れない利点がある
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