
定期的にオーバーホールすることで、常に安定性能を発揮してくれるのがサスペンション。ここでは、サスペンションのプロショップでは、どのようにオーバーホール作業が進められているのか?そのパートを垣間見ることで、DIYメンテナンスの参考にさせて頂くことにしよう。
撮影協力/テクニクス:https://technix.jp/
オイルシールとダストシールのキット
今回取材させていただいたテクニクスは、オンロード、オフロード、旧車に関係なく、オーバーホール可能で部品調達できるショックユニットなら、基本的にオーバーホールを請け負うサスペンションのプロショップ。テクニクスはイタリアのSKF社製オイルシール&ダストシールキットを取り扱っている。メーカー純正オイルシールやダストシールと比べ、フリクションロスの低減が特徴的なキットパーツだ。愛車に適合したキットがあるなら試してみたい。
機種を問わず寸法管理
我々サンデーメカニックは適合モデルのパーツリストから部品番号を引き出し、部品発注するのが当たり前だが、サスペンションのプロショップでは、サスペンションメーカーからの部品供給や部品寸法で適合部品が管理されている。正立フォークのオーバーホール時には、インナーチューブ側スライドメタルやボトムケースアッパー側受けメタルは新品部品に交換される。
サビ確認と曲がり歪み確認の徹底
メーカー純正サービスマニュアルを見ると(機種やメーカーによってデータは異なる)、インナーチューブの曲がりは1/100mm以内。70年代以前の旧車の場合は、3/100mmを超えるものは部品交換と記される例もある。一般的にインナーチューブの精度は極めて高く。メーカー純正新品部品はほぼ振れゼロなのが当たり前。テクニクスでも曲がりのあるインナーチューブは新品部品に交換される。
曲がりは無くてもサビが………
しばらく乗らずに放置していると、保管環境によってはインナーチューブにサビが発生!! 車体カバーだけの露店保管で大丈夫なのに、湿気が多いところでは、屋内なのにサビがひどく………といったケースも決して珍しくない。深いサビを発見したらインナーチューブ交換だが、代換部品がないときには再ハードクロームメッキ処理依頼で修理することもあるそうだ。リアサスダンパーロッドのサビも同様だ。表面サビなどはラボ内の旋盤にて磨き仕上げされる。
スプリングセッティングの変更
コンペティションバイクの場合は、セッティング変更を依頼されることも当然にある。ダンピングフォースの変更は、ダンパーバルブのシム調整で行われるが、スプリングレートの変更時などは、ビフォー→アフターでスプリングレートを測定。数値化によってライダーも判断しやすくなる。
ボトムケースを覗き見する意味
ストリートバイクでもコンペティションバイクでも、正立フォークならボトムケース、倒立フォークならアウターチューブをのぞき込み、かざした光の線に歪みが出ないか確認。部分的に作動不良を起こす例の原因は、転倒によって発生する凹が多いようだ。修正できるものなら良いが、できないものは部品交換になる。
- ポイント1・プロの作業手順や仕上げ方は、サンメカにとってはお手本そのもの
- ポイント2・ プロの作業&仕上げによって「最高性能」を獲得することもできる
パート毎に分業化することで、それぞれの分野でテクノロジーが追及され、より一層洗練。結果的には、コンプリートマシンの性能が日進月歩で進化していくことになる。バイクにおいても、様々なパーツのスペシャリスト、スペシャルショップが誕生しているのはご存じの通りだが、国内のバイクシーンは、欧米と比べれば、まだまだ分業制が進んでいない。欧米には「こんなものばかり取り扱っていて商売になるの!?」と思えてしまうような専門メーカーが数多く存在する。単品パーツの分野で分ければ、エンジンなら有名どころでピストン専門メーカー、コンロッドメーカーに各種ガスケットをキット販売するガスケットメーカーもある。電気部品なら、IGコイルメーカー、CDIメーカー、トランジスタ点火ユニットメーカー。車体部品なら、メーターの内部部品メーカーや車体各所で使われるダンパーゴム部品専門メーカーなどなどもある。
世界をリードするバイクメーカーが集中していたのが、我らが「ニッポン」(今は昔だが………)。我が国にも部品メーカーは数多く存在するが、あくまで完成車メーカーに対する協力メーカー(部品製造専門メーカー)であり、下請け的立場のため、我々ユーザーに対して、直接的に部品販売する例はごくわずか。
しかし、海外のスペシャルメーカーは、ニッポンとは事情が異なり、そもそもコンプリートメーカーが少ないため、部品メーカーとして独自の進路を歩まなくてはいけなかった。そんな意味では、日本の高性能部品メーカーが、インターネットを通じて「世界中の個人ユーザーに向けて求められる部品を販売」すれば、日本のユーザーだけではなく、世界規模で商売できると思うのだが………。
分業という意味では、頼りになるのがサスペンションのプロショップである。世界規模のネットワークで、我々に高性能商品を提供してくれるのがテクニクスである。サスペンションの重要性は、バイクを知れば知るほど、走れば走るほどに理解できるもの。その証拠に、同社にオーバーホール依頼するライダーは、カテゴリーを問わず年々増えている。コンペティションモデル(ロードレーサーやモトクロッサー)のサスペンション・オーバーホールだけではなく、近年では、純正部品のショックユニット(特にリアショック)のオーバーホール依頼が多く、問い合わせが多いショックユニットに関しては、同社オリジナルの対策部品を開発。オーバーホール性を高めるなどのメリットを生む、パーツのアップデートにも積極的に取り組んでいる。その一例が、ヤマハXJRシリーズに採用されているオーリンズ製ツインショクのオーバーホール&アップデートだろう。テクニクスが開発したシールヘッドに交換することで、性能回復だけではなく、後々のオーバーホールが容易行えるようになるのだ。しかもパーツの見た目は変わらないのだから、XJRシリーズファンにとっては、最高のメニューと言えるはずだ。
ここでは、フロントフォークのオーバーホールに関して、ダイジェストでリポートしているが、サンメカにとっては参考になる内容ばかり。他の業種でも、もっともっと専業化が進むことを期待したい。
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