
2ストロークエンジンでも4ストロークエンジンでも、絶版車でも現行車でも、燃焼室内に圧縮した混合気にスパークプラグで着火する点火時期が重要です。そして絶版車や旧車で一般的なポイント点火方式の場合、ユーザー自身が点火時期を正しく設定しなくてはなりません。2ストの場合、上死点前のピストンの高さを基準に点火時期を決めることが多く、その際に使えるのがプラグ穴にセットするマイクロメーターヘッドです。
点火時期を正しく合わせるには正しい上死点位置を知ることが重要
マイクロメーターヘッドは0.01mmまで測定できるマイクロメーターからフレームを取り去ったような形状をしている。このゲージはマイクロメーター的な使い方ができ、シンブルを1周回すと中心のスピンドルが1mm動く。マイクロメーターヘッドはシンブルとスピンドルの動きがシンクロするが、このゲージはロックネジを緩めればスピンドルが自由に出入りするのが特徴。
シリンダーヘッドにセットする前にシンブルの0とスリーブの目盛り線を合わせて、スピンドルのロックネジを緩めてフリーにする。スピンドル上部には落下防止のOリングが付く。
トランジスタ点火やCDI点火など、点火装置に摩耗要素のない無接点タイプのエンジンでは、点火時期を決めるローターやステーターコイルはクランクシャフトとクランクケースの定められた位置に固定すれば問題なく機能します。
しかし絶版車や旧車に多いポイント点火の場合、クランクシャフトやカムシャフトで開閉するコンタクトブレーカーを着脱したら、開閉タイミングをユーザーやメンテ作業者が行う必要があります。コンタクトブレーカーは物理的に開閉する部品なので、経年変化や摩耗により点火時期がずれることもあり、それを修正することも必要です。
2ストでも4ストでも、スパークプラグの点火時期はきわめて重要です。シリンダー内を上昇するピストンが圧縮上死点に達する前の適当な時期でプラグに火花が飛ぶようコンタクトブレーカーのポイントを開かなくてはならず、その位置は4ストの場合は上死点前のクランクシャフト角度で、2ストの場合は同じく上死点前のピストン位置で決めています。
角度で決める4ストの場合、ポイントが開く角度=点火時期が上死点前20度と指定されていれば、フライホイールやポイントカムに記されている上死点を示すTマークと、点火時期を示すFマークを頼りにポイントが開くタイミングを決めます。
それに対して2ストの場合、TマークやFマークが付いている機種もありますが、そうした合わせマークがないエンジンもあります。この場合、何を基準に点火時期を決めれば良いのでしょうか?
ここで参考になるのが、点火時期を決めるピストン位置です。すべての機種を確認したことはありませんが、ヤマハの空冷2ストロークエンジンの場合、単気筒でも2気筒でもおおむね上死点前1.8mm±0.15mmという数値が多いようです。つまり下死点から上昇したピストンが上死点手間1.8mm±0.15mmに来た時点でポイントが開くようコンタクトブレーカーの位置を決めれば、エンジンやフライホイールに合わせマークがなくても点火時期を合わせることができるわけです。
点火時期をクランクシャフトの角度で示そうがピストンの位置で示そうが、その基準となるのはピストン上死点であることはこの説明から明らかです。ということは、点火時期を決定するには正確な上死点位置を把握することが重要ということです。フライホイールやポイントカムにTマークがあるエンジンならそれを参考にすれば良く、一方上死点の手がかりになるヒントがないエンジンの場合、ピストンの動きを測定して上死点位置を割り出します。そこで役に立つのがダイヤルゲージやマイクロメーターヘッドタイプの専用工具です。
4ストのような吸排気バルブを持たない空冷2ストエンジンのシリンダーヘッドは構造が単純で、ダイヤルゲージの測定子やマイクロメーターのスピンドルをプラグ穴から挿入すれば、ピストントップに直接触れることができます。
プラグ穴にゲージを固定してクランクシャフトを回転させると、ピストンが上死点に近づくにつれてダイヤルゲージの数値が大きくなり、上死点で針の動きが止まり、上死点を過ぎてピストンが下降すると数値が小さくなるので、針が止まる位置でダイヤルゲージの目盛りをゼロに合わせて、そこからクランクシャフトを逆転させて上死点前1.8mm±0.15mmまで下がったところでポイントが開くようにコンタクトブレーカーの位置を調整します。
- ポイント1・TマークやFマークのない2ストロークエンジンのコンタクトブレーカーで点火時期を決めるには、サービスマニュアルなどの資料に記載された上死点前のピストン高さを活用する
スピンドルにピストンが接触した時点でポイントが開くよう設定する
本体をプラグ穴にねじ込み、クランクシャフトを回してピストンが上昇するとスピンドルが上部に突き出し、上死点まで来ると止まる。上死点を過ぎてピストンが下がり始めるとスピンドルも下がるので、上死点付近でクランクシャフトを正逆交互に回してスピンドルが止まる位置を確定し、ロックネジをしっかり締め付ける。これでシンブルの0が上死点となる。
クランクシャフトを逆回転させてピストンを上死点前に下げ、シンブルの目盛りを基準にスピンドルを1.8mm下げたら、ピストンがスピンドルに触れるまで正回転にゆっくり回して上昇させる。ロックネジが緩いと、ピストンに押されてスピンドルが動いてしまうのでしっかり締め付けること。またネジをガッチリ締めても、クランクシャフトを勢いよく回せばスピンドルは動いてしまうので、慎重に上昇させることが重要。
文字盤の目盛りを読むダイヤルゲージに対して、マイクロメーターヘッドタイプのゲージは作業者が数値を設定するのが特徴です。マイクロメーターヘッドとは、0.01mm単位で長さを測定できるマイクロメーターからフレームを取り除き、スリーブ、シンブル、スピンドルと呼ばれる部品だけを使った測定工具です。
画像はその一例ですが、上部のシンブルは1回転で1mmを測定でき、シンブル外周の数字は0.1mm単位となります。つまり0の位置からシンブルを時計回転に1周して3の位置に合わせたら、中心のスピンドルは1.3mm前進します。
これをどのように点火時期設定で使うかというと、まず最初にゲージ本体をプラグ穴にねじ込んで固定します。2ストロークエンジンのプラグのネジ穴はφ14が多いので、このゲージのネジもφ14となっています。
スリーブの目盛りとシンブルの0の位置を合わせ、上部のロックネジを緩めてスピンドルが上下自由に動くようにすると、スピンドル先端がピストン上部に接触して止まり、そこからゆっくりクランクシャフトを回すとスピンドルが徐々に上昇。上死点を超えてピストンが下降するとスピンドルも下がるので、スピンドルの突き出しが最大になったところでロックネジを締め込みます。スリーブとシンブルの目盛りは事前に0で合わせてあるので、ロックネジを締めた段階で目盛り0でピストン上死点ということになります。
上死点が決まったらクランクシャフトを適度に逆回転させ、ゲージのシンブルを時計方向に1回転と8の目盛りまで回すと、スピンドルはピストン上死点位置より1.8mm突き出した状態になります。その上で、ゆっくり慎重にクランクシャフトを正回転させ、ピストンがスピンドルの先端に接触したら、そのクランク位置が上死点前1.8mmということになります。
ダイヤルゲージを使った測定では、上死点で目盛りを0に合わせたらゲージを見ながらピストンを逆転させて、上死点前1.8mmの位置で止めて点火時期を決定します。一方、マイクロメーターヘッドタイプのゲージは数値で設定した点火時期にピストンを合わせるのが特徴です。メーカーのサービスマニュアルに記載されているのはダイヤルゲージ式が大半ですが、少数派のマイクロメーターヘッドタイプも得られる結果は同じです。
0.01mmまで測定できるダイヤルゲージの方が正確なようにも思えますが、ほんの僅かな振動でも針がブレやすいダイヤルゲージに対して、位置を決めたスピンドルにピストンを接触させるだけで点火時期が決まるマイクロメーターヘッドタイプの方がダイヤルゲージの取り扱いに慣れていなくてもミスが少ないメリットがあります。
絶版車や旧車の人気は高まる一方の中、メンテナンスフリーの現行車に対してポイント点火はメンテナンスが欠かせません。興味半分でコンタクトブレーカーをいじっていまい、エンジンが掛けられなくなってしまったというミスやトラブルもあります。最初から完全に理解することは難しいですが、2ストロークエンジンの点火時期はピストンの高さで決めることが多く、実際の作業では上死点を見つけてから上死点前のピストン位置を測定することで点火時期が分かる、という流れがあることを理解しておきましょう。
- ポイント1・ピストン位置を数値で読むダイヤルゲージに対して、マイクロメーターヘッドタイプのゲージはあらかじめピストン高さを設定して使用する
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これは何という製品で、どこで買えるのでしょうか?
マイクロメーターヘッドタイプ で検索するとヒットしますよ。プラグホールのピッチに合うかは自分で調べる必要がありそうです。