現状コンディションの良否に関係なく、分解した「ついで」に実践しておきたいメンテナンスがある。状況把握しておきたい!!、目視確認しておきたい!!、といった箇所がバイクには数多くあるのだが、特に、なかなか分解する機会がないフロント周りやステアリング周りを分解する機会があるときには、ステアリングステムベアリングのコンディション確認=目視確認とグリスアップを施そう。
滅多に無いフロント周りの分解
前周りを分解するような機会はなかなか無い。フレームを吊り上げることで作業性はもっとも安定するが、必ずしも恵まれた作業環境ではないことも多い。とはいえ、走りの印象を大きく左右するステアリングステムベアリングのコンディションは定期的に点検し、必要に応じて分解洗浄グリスアップ、打痕があるときにはスチールボール&ボールレースを新品部品に打ち変えたいものだ。
低年式モデルはベアリング紛失に要注意!!
旧車や低年式モデル、小排気量モデルの多くは、バラバラになるスチールボールとボールレースを組み合わせた部品を採用している例が多く、分解時には、スチールボールが落下してしまうことが多い。そんな環境にある部品のため、分解時には作業手順が極めて重要になる。その方法は、ステムブラケットを保持してトップナットを緩め、まずはアッパーベアリングのスチールボールをすべて取り外す。次に、いよいよステムブラケットを下げて抜き取るが、その瞬間にバラバラのスチールボールが落下してしまうことがある。そこで、ブラケット下に「小型バケツ=子供用の砂場遊びサイズ」を当て、落下してしまうスチールボールを受けるのが良い(バケツの底に新聞紙やウエスを敷きクッションにすることで弾き飛ばしてしまうこともない)。また、仲間がいるときには、落下するスチールボールをバケツで受けてもらいながら、作業者がマグネット棒を隙間に差し入れ、スチールボールを磁気吸着しても良い。特に、低年式モデルはグリス切れでスチールボール吸着されず「ポロポロッ」と落ちてしまうことが多いからだ。
洗浄&コンディション確認が基本
ボールレースをウエスで拭き取り、明らかに打痕が残っているときにはボールレースを打ち抜き新品部品に交換しよう。打痕は無いものの放置期間が長く、サビが発生しているようなときには、スチールウールと防錆オイルスプレーで磨いてサビを除去しよう。ボールレースがきれいになったら、グリスをたっぷり塗布して接着剤代わりにスチールボールをくっつけて安定させよう。常時回転する部品ではないため、多めのグリスがゴミ除去代わりの役割を果たしてくれる。アッパーベアリングはアウターレースにスチールボールを並べ、ロアベアリングはインナーレースにスチールボールを並べて組み立てるのが良い。
機種ごとにやり方が違う締め付け方法
ステムパイプの締め付け状況でステアリングの作動性は大きく変化する。転倒後などはナットが衝撃で緩んだり、ステムシャフトがごくわずかに伸びることでステアリングにガタが発生する。ブレーキング時に前周り(ステアリング周辺)から「コツッ」と音が出たり振動を感じるときには、ステムシャフトを締め付けるトップスレッドナットの緩みを疑うことができる。逆に締め付けすぎてしまうとゴロゴロ感が発生してしまい、ベアリングレースがダメージを受けやすくなってしまう。このトップナットの締め付けは実にシビアで、メーカーやモデルによって、その管理方法が異なる。グイッとしっかり締め付けてから緩めて、再度締め付け直す方法や、トルクレンチで数値管理する方法。また、締め付け角度で管理する方法もある。いずれにしても重要なのが、インナー・アウターのボールレースが既定位置まで確実に圧入されていること。そうでないと、後々カダが発生してしまうことになる。また、分解時に作動性が良いときには、その締め付け位置をマーキングで再現したり、トルクレンチ(フックレンチの取り付けは90度アングルをキープ)で数値データを事前に確認しておくことで、経験則を増すことができる。
- ポイント1・低年式モデルはベアリング=スチールボールが単体なので落下紛失に要注意
- ポイント2・天井に梁がある作業場ならフレームを吊り上げる作業方法がベスト
- ポイント3・スチールボールの保持にはグリスの粘着性を利用
- ポイント4・コンディションが良いときに締め付け状態を数値化しておくのも一考
前輪が設置しているフロント周りを分解するのは大変。タイヤ交換のために前輪を取り外すだけでも大仕事になってしまうことが多い。フロントスタンドがあれば、比較的簡単に前輪を持ち上げることができるし、ブレーキの引きずり確認やキャリパーメンテナンスの際にもフロントスタンドの存在はありがたいものだ。しかし「フロント周り全体」を持ち上げようと考えると、これがなかなか大変になる。作動性が渋い!かも……?と感じた時には、フロントフォークを引き抜いて分解メンテナンスするものだが、フロントフォークを抜き取る作業なら、フロントスタンドだけでも事足りてしまう。
問題はそこから先だ。前周りが無くなると、どうしても確認したくなるのがステアリングステムベアリングの作動性だろう。目の前に裸になった前周り、ステアリング周りがあらわになれば、誰もがその作動性を確認したくなるはずだ。ステアリングステム(アンダーブラケット)+トップブリッジ、2本のフロントフォーク、前輪+ブレーキ部品が取り付けられた状態だと、それら各種部品の重さが加わるため、作動性判断がしにくいことが多いのだ。そんな特徴がある前周りだが、フレームのステアリングヘッドパイプにステアリングステムとトップフブリッジだけが残された状態になると、ステムベアリングの作動性を確認したくなるものだし、その状態にならない限り、明確な作動性を知ることはできない。
しかし、ステムブラケットの下からステムシャフトに差し込んで前周りを持ち上げるフロントスタンドを利用していると、ステムベアリングの作動性確認はできない。
そんなとき、作業場天井に「梁」や「Iビーム」と呼ばれる鉄骨があれば、タイダウンベルトなどでフレームを吊り上げることができるし、モデルによってはダウンチューブ下に専用ジャッキを掛けて前周りを持ち上げることもできる。前周りを持ち上げるための吊りスタンドなども販売されているので、サンデーメカニックなら、それらのメンテナンスインフラを充実させた中で、作業に取り組みたいものだ。フレームをベルトで吊り上げるタイプなら重力の関係でメンテナンス中の車体が倒れてしまうことはないが、ダウンチューブやエンジン下にジャッキを掛けて持ち上げると、バランスを崩して車体が安定しないことが多いので、例えばメンテナンスリフターの天板上で前周りを持ち上げるような際は、天板とリア周りをタイダウンベルトで締め上げて車体を固定することで、メンテナンス性は圧倒的に良くなる。タイダウンベルトはトランポ専用ではないことも覚えておこう。
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