
ドラムブレーキのライニング残量に比べてディスクブレーキのパッド残量は確認が容易で交換時期も把握しやすいのが特徴です。摩耗が進んで交換する際も、ホイールを外すことなくパッド交換できますが、古いパッドを外してピストンを押し戻して新しいパッドを装着するだけでなく、いくつかの作業をついでに行うことで新品パッドの効果をさらに引き出すことができます。
走行距離が短ければパッドは摩耗しないが、劣化は進むこともある
ブレーキを掛けるとキャリパー自体が横移動して制動するピンスライド式キャリパー。キャリパーサポート側にスライドピンが固定されているものもあるが、2003年式SR400の場合はキャリパー固定用の2本のボルトがスライドピンとなっている。
ブレーキパッドはキャリパーサポートをフロントフォークに付けたままでも交換できる。だが摩耗したパッド粉で汚れたキャリパーサポートごと洗浄するため取り外した。パッドはパッドスプリングの張力によってキャリパーサポートにとどまっている。
限度近くまで摩耗したパッドと、デイトナ製ゴールデンパッド。ブレーキパッドはローターを挟み込むことで運動エネルギーを熱エネルギーに交換する。だからパッドは熱くなるのだが、摩耗して厚さが減少するとパッド自体の体積も減少するため熱を溜めきれなくなり=熱容量が減少し、摩耗の進行が早まっていく。まだ半分ぐらい残っていると思っていても、あっという間に3割、2割程度と減っていくのはそのためだ。
キャリパーサポートに取り付けられた2個のパッドスプリングは上下同じ部品で、もう1個のスプリングがサポートのコの字フレーム側に付く。タイヤの回転方向、パッドダストの飛散方向にあたるサポート上側(画像右側)に汚れが集中している。キャリパー本体を丸洗いしても、その奥にパッド粉まみれのキャリパーサポートがチラチラ見えるのは気持ちの良いものではないし、パッドスプリング表面がガサガサでは新品パッドがもったいない。
スポーツモデルはもちろんのこと、スクーターや小排気量車の多くにも装着されているディスクブレーキ。求められる性能やバイクのグレードによって、片押しなのか対向なのか、2ポットなのか4ポットなのかといった違いはあるものの、ホイールとともに回転するブレーキローターを両面からパッドで挟み込むという原理は共通です。
そしてブレーキをかける機会が多いほど、またバイクの速度が速いほど=運動エネルギーが大きいほど、パッドの摩耗は進行します。ドラムブレーキは外からブレーキシューを目視確認できないため、シュー表面のライニングの減り具合が分かりませんが(機械式ドラムブレーキはレバーやペダルの遊び量増加で摩耗を知ることができますが)、ディスクブレーキのパッドはキャリパー後方やホイールセンター側などから覗き込むことでブレーキパッドの端部を確認できることが多く、そこでパッド残量が分かります。
ブレーキパッドが摩耗する最大の要因は、言うまでもなく走行距離です。たくさん走ればブレーキをかける機会も増えるので、当然パッドは減っていきます。削れたパッドは粉末状になってキャリパーピストンやキャリパー、ホイールに付着するため、パッドを直接確認しなくても減り具合を想定することができます。マスターシリンダーのリザーバータンクのフルード量からも、パッドの残量を想定することができます。
ブレーキパッドが摩耗したらメンテナンスが必要なのは当然ですが、滅多に乗らずに走行距離も伸びないバイクであっても、ブレーキ周りのコンディション維持に有効なメンテナンスもあります。
キャリパーピストンの揉み出しはその代表例です。ピストン表面にパッドダストがそれほど付着していなくても、中性洗剤やブレーキパーツクリーナーで清掃してMR20メタルラバーやシリコングリスを適量塗布することで、キャリパーシールとの潤滑が維持され、ピストン表面のメッキの保護にも役立ちます。
同様に、数年単位でパッド交換をしていないバイクでは、走行距離に関わらず片押しキャリパーならキャリパースライドピン、片押しでも対向でもパッドスプリングの状態も確認しておきたい部分です。ドラムブレーキと違って作動部分が露出しているディスクブレーキは、露天で車体カバーをかけて保管していると雨水などの影響を受けやすい傾向にあります。
頻繁に走行しているバイクなら走ることで水分が飛び、制動時に熱が加わることでまた乾燥します。しかし置きっ放しが続くと徐々にサビが進行する場合があります。例えばスライドピンの動きが悪くなればキャリパーもスムーズに動かなくなり、パッドの偏当たりや引きずりを誘発します。またパッドの上下や背面に組み込まれるパッドスプリングの摺動面が錆びると、ブレーキをリリースした際のパッドの戻りが悪くなり、やはりひきずりの原因になることがあります。
スライドピンもパッドスプリングも、適切にグリスアップされていれば簡単に錆びるものではありません。しかし、走行距離が少なくパッドの摩耗もそれほどではないと甘く見ていると、思った以上に状況が悪化している場合もあるので注意が必要です。
ブレーキローターとパッドのクリアランスはきわめて微小で、そのクリアランスを保つためにキャリパーピストンやパッド、片押しキャリパーの場合はキャリパー本体もスムーズに作動することが重要です。そのためにもパッドの摩耗具合とは別に、周辺部品の潤滑状況の確認もおろそかにしないよう心がけましょう。
- ポイント1・走行距離が増えることでブレーキパッドの摩耗が進行するのは当然だが、乗らずに保管し続けることで劣化する部分もある
キャリパーサポートやパッドスプリングの清掃と潤滑で見た目もアップ
こびりついたパッド粉を洗い落とすには、中速乾か遅乾タイプのパーツクリーナー、またはお湯で希釈した中性洗剤を使うのが定番。速乾性のパーツクリーナーでは、汚れの奥に浸透する前に揮発してしまい、作業効率が上がらない上にクリーナーの無駄遣いになってしまう。
ブラシを使って汚れを擦り落とす。お湯に浸かっていれば気になる部分を何度でもブラッシングできるので、納得いくまで洗浄できる。キャリパーのスライドピンが入るシリンダー部分に水が入るのは仕方ないが、入った水はウエスや綿棒でしっかり拭き取っておく。キャリパー組み付け時にはピンにグリスを塗布するが、ここに水分が残ったままだとサビのリスクになる。
ブレーキパッドがスムーズにスライドするように、パッドスプリングに少量のグリスを塗布する。塗りすぎるとパッド粉が付着して固まり、かえって動きを悪くする原因になりかねない。また言うまでも無く、余分に塗ったグリスがローターやパッドに付着すれば非常に危険だ。
フロントフォークにキャリパーサポートを取り付け、裏面にシムを取り付けたパッドをセットする。パッドスプリングの張力があるのでパッドはスカスカに動くことはないが、何かに引っかかり動きが渋く感じる時はパッドを外してスプリングとの当たり面を確認する。今回はスプリングを外さなかったが、スプリング単体で洗浄して復元する際に、キャリパーやキャリパーサポートに対して逆組みしてしまい、うまく組めないミスもある。け時にはピンにグリスを塗布するが、ここに水分が残ったままだとサビのリスクになる。
スライドピンを兼ねたキャリパーマウントボルトをしっかり締め付ける。キャリパーピストンの洗浄と揉み出しを行った後でピストンをキャリパー奥に押し込めば、キャリパーとパッドが干渉することはないはず。ただし押し込まれたピストンがパッドに当たるまでブレーキはまったく利かないので、走行前にブレーキレバーを何度も握って当たりを確認する。また走行前に前輪を浮かせて空転させて、パッドが引きずっていないことも確認しておく。
キャリパースライドピンやパッドスプリングの清掃や潤滑は、ブレーキパッド交換時についでに行うのがベストです。ブレーキパーツの構成にもよりますが、片押しキャリパーの場合はパッド交換時にキャリパー本体を取り外す場合も多く、また取り外さないまでもスライドピンを軸にキャリパーを回転させることになるため、ピンの潤滑状態やスムーズに動くか否かが確認できます。
またパッドを着脱する際にパッドスプリングから取り外す際に、接触部分に油分がなく金属同士の引きずりを強く感じれば、パッドのスライド状態があまり良くなかっただろうことが想像できます。
作業実例を紹介する2003年型ヤマハSR400の場合、キャリパーサポートにキャリパーを取り付ける2本のボルトがスライドピンとなっており、パッドを交換する際は同時にピンのコンディションも確認できます。またキャリパーサポートにセットされたパッドには上下と背面に板バネ状のスプリングが組み込まれており、これもまたパッド交換と同時に取り外して状態をチェックすることが可能です。
このSRの場合、パッドが使用限度近くまで摩耗しており、キャリパーピストンやパッドスプリングには大量のパッド粉が付着していました。そこでキャリパーはキャリパーで洗浄しつつ、パッドスプリングはキャリパーサポートと一体でフロントフォークから取り外して中性洗剤で清掃します。この時、スライドピンの受け側に水が入るので、清掃後はエアーブローしたり綿棒やウエスを使ってしっかり拭き取っておきます。スライドピンを組み付けた後でピンの根元までゴムブーツで覆ってしまうため、水分が残っていると抜けなくなってしまうからです。
パッドスプリングを清掃したら、パッドと接する部分に摩耗や傷がないことを確認します。パッドのストローク(移動量)はほんの僅かなので、大きく引っ掻くような傷が付くことはほとんどありませんが、新しいパッドの当たり面が傷や摩耗による段差に引っかかれば、スムーズな動きが阻害される原因となります。
スライドピンやパッドスプリングに異状がなければ、グリスを塗布して復元します。スライドピンは極圧性と耐水性に優れたウレア系やリチウム系、パッドスプリングは耐水性と温度変化に強いブレーキ用を使うと良いでしょう。スライドピンはさておき、パッドスプリングに使用するグリスは流れづらいものを選び、また過剰に塗らないように注意します。
ブレーキパッド交換というと、主役のパッドに注目しがちですが、主役の働きをサポートするパーツにも注意を払い、適切なケアを忘れないようにしたいものです。
- ポイント1・ブレーキパッド交換時にスライドピンやパッドスプリングを入念に洗浄しグリスアップすることで、キャリパー作動時のフリクションロスを軽減できる
この記事にいいねする