
原付スクーターやビジネスモデル、ビンテージバイクでは当たり前だったドラムブレーキは、ブレーキライニングの摩耗によってレバーやペダルの遊びが変化するのが特徴のひとつです。遊びが増えた=摩耗が進行した目安になるので、ディスクブレーキよりも交換時期が掴みやすいという面もありますが、摩耗したライニングのダストがドラム内に溜まるため定期的にチェックして清掃することが有効です。
ドラム内に溜まったブレーキダストはブレーキクリーナーで洗い流す
ライニングが削れたダストが溜まったままだと、ライニングとドラム内面に挟まって摺動面に傷をつけることもある。もちろん、削れた粉ではブレーキの効きも悪くなる。ダストを清掃したら、ついでにホイールベアリングの状態も確認しておこう。
ブレーキを掛けた際に発生する摩擦によって車速をコントロールするブレーキの原理は、ディスクブレーキであってもドラムブレーキであっても同様です。作動方法に注目すると、ディスクブレーキの大半がブレーキフルードによる液圧を使っているのに対して、バイクのドラムブレーキはワイヤーやロッドを使って機械式が一般的です。
自動車のブレーキにもディスクとドラムがありますが、バイクと違ってどちらも液圧で作動しています。バイクのディスクブレーキは、パッドが摩耗するに従ってキャリパーピストンのせり出し量が増えて、パッドとローターのクリアランスが一定に保たれますが、これは液圧で作動させているためです。
自動車のドラムブレーキも液圧で作動させているため、ブレーキシューのライニングが摩耗すると、これを作動させるためのホイールシリンダーのピストンが徐々に押し出され、ドラムとのクリアランスが一定に保たれる様になっています。このため、主にコンパクトカーやビジネスカーの後輪に用いられるドラムブレーキは、ライニングが摩耗してもブレーキペダルの遊びが増えることはありません。
もしバイクのドラムブレーキでも液圧作動式が主流であれば、ライニングの摩耗によってドラムとの隙間が拡大してブレーキレバーやペダルの遊びが増えるということはありません。また、液圧で作動させるのであれば、自動車と同様にドラムブレーキでもABSを作動させることが可能です。
機械式ドラムブレーキを採用するバイクが販売終了になったり、ディスクブレーキに仕様変更して販売が継続されるようになった背景には、2018年10月以降に発売の新型車及び2021年10月以降に販売される継続生産車にABS装着が義務化されたことが大いに関係しています(原付一種は除外、原付二種はABSまたはCBSを装着)。
自動車に比べてドラム径が小さいバイクは、油圧で作動するホイールシリンダーを収納するのも難しく、またドラムを油圧化するよりディスクブレーキを装備する方がコスト面でもメリットがあったのでしょう。
そういった理由から今後ニューモデルでドラムブレーキを装着する車両は原付クラスに限られますが、一方で世の中にはまだまだ多くの機械式ドラムブレーキ車が現存し、元気に走行しています。そしてそうした機械式ドラムブレーキは「ブレーキライニングが摩耗するとドラムとの隙間が増加する」ため「ワイヤーやロッドのアジャスターで隙間を調整する」作業が不可欠です。
アジャスターを調整することで、ドラム内部でブレーキシューを外側に押し広げるブレーキカムが作動し、ブレーキが若干利いたような状態になります。実際にはライニングが摩耗しているのでドラムに接触することはありませんが、これはパッドの摩耗に伴って徐々にキャリパーピストンがせり出すディスクブレーキと同じ作業を人力で行っていることになります。
ブレーキローターやドラムに押しつけられて摩耗したライニングは粉末状のダストになります。ディスクブレーキの場合はキャリパー周辺やホイールといった目に触れる場所に付着するのに対して、ドラムブレーキの場合はドラム内に溜まります。汚れが目立たないという点ではドラムの方が勝るとも言えますが、ライニングの削りカスがドラム内に溜まっているのは良くはありません。
そこでブレーキシューの交換時以外でも、遊び調整を行うのに合わせて定期的にドラム内部の洗浄を行いましょう。ディスクブレーキと違って、ドラムブレーキの内部を洗浄する際はホイールを外さなくてはならないため、そこでひと手間増えるのが難点です。またドラムブレーキのダストはディスクブレーキのダストとは異なり、ドラム内に粉末状で存在するためエアーブローで吹き飛ばすのは厳禁です。必ずパーツクリーナーで洗い流してウエスで拭き取るようにします。
ブレーキダストは大きさや硬さがまちまちで、堆積したダストがライニングとドラムの間に挟まると摺動面を傷つける場合もあります。またワイヤーやロッドのアジャスターでは猶予があっても、実際にブレーキシューを目視することで摩耗状況をより明確に把握できるメリットもあるので、限界まで減るまで乗りっぱなしにするのではなく、使用途中でもチェックを兼ねて清掃を行うのが有効です。
- ポイント1・油圧式ディスクブレーキはパッドが摩耗しても遊びは一定だが、機械式ドラムブレーキはライニングの摩耗で遊びが増えるので調整が必要
- ポイント2・ドラムブレーキのライニング摩耗粉はドラム内部に堆積するので、清掃時はホイールを着脱する
ブレーキシュー交換時には鳴き止めに有効なグリスを塗布
ブレーキアームによってブレーキカムが回転してシューを押し広げる。1個のカムで作動するリーディングトレーリングタイプでは、ドラムの回転方向に押しつけられるシューをリーディングシュー、その逆側をトレーリングシューと呼ぶ。
ブレーキレバーやペダルから手足を離した時に確実にシューが閉じるよう、張力の強いリターンスプリングが組み込まれている。グリスアップや交換でシューを取り外す際は、一方のシューをゆっくり立てるように折り曲げ、スプリングのテンションを緩める。
カッチン音とはディスクブレーキにおけるキャリパーとパッドの接触音のことで、このグリスを塗布することで粘性によって金属音を防止できる。ブレーキシューが接触するアンカーピンやカムに塗布しても音消しに有効だ。
ブレーキシューを取り付ける際は取り外し時と逆に、一方のシューを所定位置にセットしておき、アンカーピンとカムに角部を引っ掛けた反対側を倒すように押し広げる。
ブレーキシューの拡張方法により、ドラムブレーキはリーディングトレーリングタイプとツーリーディングタイプに区別されます。前者はシューを拡張するブレーキカムがひとつで、後者は2つのカムでシューを作動させます。ディスクブレーキが登場する1960年代後半までは、スポーツモデルのドラムブレーキはツーリーディングで、スタンダード車はリーディングトレーリングと使い分けられていました。
ブレーキの摺動面にとって油分は厳禁ですが、カムやアンカーピンといったブレーキシューの端部には適切な潤滑が必要です。ここでいう潤滑とは、ベアリングのような回転運動を滑らかにするためのものではなく、どちらかと言えば油分による粘性で衝撃を吸収するためのものです。
画像で紹介しているリーディングトレーリングタイプのブレーキシューは、アンカーピンとシューを拡張するカムで支えられています。カムが開くとアンカーピンを支点にシューが左右に開いてドラム内面に押しつけられます。シューがドラムに触れると、その力は支点であるアンカーピンに伝わりますが、レバーやペダルの踏み込みが浅くシューの圧着力が弱い間は、アンカーピンに接したシュー自体が振動することがあります。
ここでピンとシューの接触部分にグリスがあると、振動を吸収して異音の発生を軽減または抑えられます。もちろん、シューとピンが強く押される際の摩擦を軽減でき、摩耗も防止できます。
カムとシューのヒール面も同様で、粘性の高いグリスを塗布することで、ライニングとドラムが軽く触れた際のシューのビビリ音を消すことができると同時に、接触部分の摩耗を防止できます。ただしグリスを過剰に付けすぎるとブレーキダストが付着する原因となり、ライニングとドラムの間に流れてしまうのはとても危険なので、使用するグリスはブレーキに適した製品を選択することが重要です。
ドラムブレーキはディスクブレーキのようにライニングの残量を外部から見ることができませんが、ひと手間を掛けてブレーキダストの清掃とライニング残量チェックを行えば長期間に渡ってブレーキ性能を維持することができます。
- ポイント1・アンカーピンとカムにブレーキ用グリスを適量塗布するのは、潤滑とビビリ音を防止するために有効
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