原付からビッグバイクまで、マニュアルミッション車の大半が採用しているクラッチはエンジン内でオイルに浸った状態で作動する湿式多板式です。オイルが付着していても保管状態によってはスチールプレートが錆びることもあり、サビが発生しなくてもスチールプレートとフリクションディスクが張りつくこともあります。シフトペダルを1速に入れるとガクン!とエンストする場合は、クラッチカバーを外して内部を点検してみましょう。

2種類のプレートで動力を断続しているクラッチ


クラッチ部品の中で、最も外側にあるのがプレッシャープレート。クラッチスプリングがプレッシャープレートを押すことで、フリクションプレートとスチールプレートが圧着されてエンジンの動力がミッションに伝わり、後輪を駆動する。本来、ボルトとスプリングを取り外せばプレッシャープレートは手で取れるはずだが、長期放置中にスチールプレートを張りついてしまい、工具で剥がさなければならない状態になってしまった。


プレッシャープレート下のフリクションディスクとスチールプレートも一体化していたので、フリクションディスク外周の爪に工具を挿入して一枚ずつ丁寧に剥がす。純正部品が確実に手に入るなら交換前提で取り扱ってもかまわないが、部品の供給が心配な半世紀前の機種の場合、たとえ再使用が不可能であっても細心の注意を払って作業したい。

クランクシャフトの回転をミッションに伝えたり切り離したりするのがクラッチの役割です。バイクのクラッチの大半は湿式多板式で、一部に乾式多板や乾式単板式クラッチもあります。湿式に対するのが乾式で、多板に対するのが単板です。

湿式クラッチは湿った状態、具体的にはエンジンオイルやミッションオイルの中にクラッチが浸っており、オイルによる冷却やクラッチ断続時の衝撃緩衝効果が期待できます。これに対して乾式クラッチは空気中で断続を行い、油膜がないため断続時のフィーリングが明確というメリットがあります。

エンジンの動力を伝達するため、多板クラッチにはフリクションディスクとスチールプレートと呼ばれる2種類の円盤が交互に積み重ねられています。そして排気量や馬力が大きなエンジンほど、接触面積を稼ぐためにディスクとプレートの枚数が増えていきます。

例えば50cc時代のホンダモンキーやゴリラのマニュアルクラッチは、フリクションディスクもスチールプレートも1枚ずつしかありませんが、2018年式ヤマハYZF-R1は10枚のフリクションディスクと9枚のスチールプレートを使用しています。クラッチスプリングで2種類のプレートを密着させることで、スリップすることなくエンジンの動力を伝達しています。

クラッチレバーを握ると同時に、2種類のプレートに加わる圧力が抜けると動力も切り離されますが、一部に引きずりが残ると動力が完全に切れず、シフトが入りづらかったり停止時にニュートラルが出づらいといった症状が発生することがあり、これに対処するため2つのプレートの間にクッションリングと呼ばれる部品を採用しているエンジンもあります。

ここで紹介するヤマハの1960年代の2スト90ccモデル、HS1もクッションリングを使用する1台で、4枚のフリクションディスクの内側に4本のゴム製のクッションリングが組み込まれています。このリングはクラッチがつながった状態にある時は両側からスチールプレートに押しつぶされて、クラッチレバーを握ってクラッチスプリングが縮むとゴムの弾力性によってフリクションディスクからスチールプレートを押し離します。ヤマハ車にはクッションリングを採用する例が多く、後年のRZ250にもリングが入っていたようです。

POINT

  • ポイント1・大多数のバイクが採用する湿式多板クラッチは、フリクションディスクとクラッチプレートをエンジンオイルまたはミッションオイルの中で断続する

クラッチ張りつきの主要因はエンジン内の湿気によるサビや摩擦材の変質


フリクションディスクの摩擦材に用いられる素材は、古くはコルク材から始まりゴム系やペーパー系、化学繊維などさまざまなものがある。湿式クラッチの場合は、スチールプレートとオイルの中で圧着されることになるので、油膜があっても滑らない摩擦力が必要なことは当然ながら、半クラッチで中途半端に擦れた状態でも焼損したり破損しないことが重要。クラッチの張りつきでフリクションディスクの土台から摩擦材が剥がれてしまった場合は、そのディスクは使用できない。


張りついたクラッチを1枚ずつ剥がしていくと、フリクションディスクの摩擦材剥離は限定的だった。フリクションディスク内径のさらに内側にある黒い輪がクッションリング。フリクションディスクより僅かに厚くスチールプレート内側の爪に接しており、クラッチレバーを握ってディスクとプレートが剥がれると、プレートの爪を押し広げてクラッチの引きずりを軽減する。こうした部品をまったく使わないクラッチもある。


クランクシャフトで駆動されるクラッチアウター(クラッチバスケット)外側の切り欠きに、フリクションディスク外周の爪が掛かる。対してクラッチバスケット内側のクラッチボス外周の凹部分にスチールプレート内側の凸部が掛かる。ディスクとプレートを交互に重ねてクラッチスプリングで圧着することで、クラッチアウターの回転がクラッチボスに伝わり、ボスがつながるメインアクスル(ミッション)を回して後輪を駆動する。


クラッチの張りつきが軽度の場合、再使用が可能なこともある。スチールプレート表面にサビや摩擦材が付着したままだとクラッチの動作が不安定になるので、表面の凹凸がなくなるまでサンドペーパーでならしておく。

クッションリングはクラッチレバーを握った時にクラッチの切れを良くする働きがありますが、レバーを離せば2種類のプレートはぴったり密着します。そしてこの状態が何年も十何年も続くうちに、フリクションディスクとスチールプレートが完全に張りついて一体化し、クラッチレバーを握ってもクラッチが切れなくなることがあります。

代表的な原因がスチールプレートのサビです。湿式多板式クラッチはエンジンオイルやミッションオイルに浸っていますが、円盤部分すべてが完全にオイルの中に沈んでいるわけではありません。クラッチカバーの内側ではありますが、オイルに浸らず空気中に露出している部分に関しては、クランクケース内の湿度の変化によって鉄板であるスチールプレートが錆びることがあります。絶版車や旧車の場合、フリクションプレートの摩擦材が変質してスチールプレートに張りついてしまうこともあります。

フリクションディスクとスチールプレートが張りつくと、クラッチレバーを握っても実際にはクラッチは切れません。レバーを握ればクラッチスプリングが圧縮され、2種類のプレートを押しつけるプレッシャープレートの圧力は抜けますが、肝心のプレートが張り付きによって一体化しているので、エンジンとミッションは動力がつながったままで、半クラッチも何もないのでギアを1速に入れればいきなりエンストします。

握ったクラッチレバーをいきなり離した時のような挙動で驚きますが、半クラッチをミスした時との最大の違いは、クラッチレバーを握った状態でもギアを入れると発進しようとすることです。

クラッチの張り付きが軽度な場合、突然ギアがつながる際の衝撃がきっかけでディスクとプレートが剥がれてクラッチが切れることもありますが、サビや固着が酷い場合はクラッチを分解しない限り解決しません。

逆に言えば、張りついたフリクションディスクとスチールプレートが剥がれれば、クラッチの機能は回復します。ただし、プレートのサビや摩擦材の劣化、損傷の程度によっては、部品交換が必要になることもあります。ここで紹介する張りつき例では、スチールプレートのサビが軽度でフリクションディスクの摩擦材の損傷もなかったので、プレートのサビを落として再使用することができました。

ディスクとプレートの張り付きを防ぐため、長期保管が予想される際にクラッチレバーを握った状態でタイラップなどで縛って離しておくというテクニックも知られています。ただしクラッチスプリングが圧縮されたままになるため、バネのヘタリを懸念する意見もあります。プレートが張りつかないよう定期的に乗ることが一番の対処方法ですが、もしクラッチレバーを握って1速に入れた途端にガクッ!とエンストするようなことがあったら、クラッチ張り付きの可能性を疑ってみましょう。

POINT

  • ポイント1・長期間に渡って不動状態にすることで、スチールプレートのサビやフリクションディスク表面の摩擦材の変質によってクラッチが切れなくなることがある

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