
バイクを気持ち良く走らせるための3要素として知られているのが「走る」「曲がる」「止まる」の機能を充実させること。その3要素を高次元でバランスさせることで、スポーツ性能はより研ぎ澄まされていくものだ。ノーマルサスペンションのままでも、メンテナンスやオーバーホール(OH)次第で、想像以上の走りを得られるように!!
目次
ショックユニットうんぬん以前に作動性確認
高性能であることがウリとなっているスーパースポーツ&レーサーレプリカモデルで楽しく走りたいのなら、定期的なサスペンション・メンテナンスが必要不可欠である。フロントフォークだけではなく、リアショックユニットも定期的にオイル交換したいものだ。ショックユニット本体の性能低下を疑う前に、各リンク機構の摺動部や軸受け部分の作動性&潤滑状況を確認することが何よりも重要。実は、リヤサスペンションの作動性悪化は、これらの部分のコンディション低下によるところが多いのだ。メンテナンス以前に「リヤの作動性が悪いからリヤショックを交換して……」といったお話を聞くことがあるが、それ以前にやるべきことを実践しよう。
ノーマルサスでもOH可能な仕様も!?
ヤマハのレーサーレプリカモデルで知られるTZR250Rシリーズは、初代1KT⇒2AW⇒2XV、後方排気の3MAシリーズ、そしてV型エンジンの3XVシリーズと、すべてオーバーホールが可能な純正リヤショックを採用している。アフターマーケットの高性能品へ交換する前に、サスペンションのプロへOH依頼するのも悪くない。今回は埼玉県春日部市のテクニクスへ作業依頼した様子をご覧いただこう。
撮影協力:テクニクス https://technix.jp/
プロショップの仕事は違う!!
後々のオイル交換やガスチャージを想定したオーバーホールメニューがお勧めである。ここではテクニクスオリジナルのアルミ削り出しシールヘッドに、スライドブッシュや各種しン品オイルシール類を組み込む。バンプラバーも当然に交換である。
窒素ガス封入弁を追加で加工
フリーピストンを内蔵した高圧窒素ガス封入式リヤサスペンションなので、後々のガス封入やリセッティングを可能にする窒素ガス用のバルブを追加装着。専用の加圧針を介してガス封入することができる頼もしいパーツの追加だ。取り付けにはボディ本体へのねじ穴加工が必要だ。
手際良く分解し、オイル&シール交換実践
非分解式リヤショックは、ダンパー本体エンドに組み込まれるシールヘッドをカシメで固定しているため分解できないが、分解可能なタイプは、エンドキャップが低圧入されているケースが多い。タガネでキャップを外す作業から開始。ダンパーシリンダーの内側にシールヘッドの抜けを防止する大型のCクリップが組み込まれる。さらにシールヘッドを抜き取ると、ダンパーピストンの抜け防止用Cクリップもある。これらのCクリップを2本とも抜き取るとダンパーシャフトごと引き抜くことができ、同時に、ボディ内部からオイルが流れ出る。オイル漏れが無かったので、オイルはほぼ全量残っていたが、汚れで粘度は落ち、めんつゆのような柔らかさだった。
オイル室とガス室のセパレーター
ダンパーシリンダーボディー内部に組み込まれている(押し込んである)フリーピストンを抜き取る。高圧窒素ガス圧1Mpa(10kg/cm2)で、このピストンがダンパーオイルに押し付けられる構造だ。高圧窒素ガス対応の追加弁加工をダンパーボディに施す。この追加バルブを取り付けることで、後々、追加でガス封入することができるようになる。
可能な限り分解洗浄
分解したダンパーロッドAssyに締め付けられているアイエンドは、ネジロック剤の塗布によりカチカチに固定されている。ここではロッドを専用クランプで固定しガストーチでアイエンドを炙った。大型万力+専用クランプでピストンロッドを固定した状態でアイエンドを緩める。こんな作業時にクリペックス製プライヤーレンチが威力を発揮。トーチ炙りでロック剤が解け、膨張して緩めやすくなる。アイエンドを取り外したら、ダンパーロッドに組み込まれる部品を順序良く、裏表を間違えないように分解していく。分解後、入っていた通りの組み順を崩さないようにタイラップで仮止めしておくそうだ。
オイルシールやブッシュメタルも交換
テクニクスオリジナルのシールヘッドに周辺部品を組み込む。ピストンロッドブッシュを圧入し、ダンパーロッド穴の中にオイルシールとバックアップを組み込む。組み立て専用グリスを塗布してオイルシールリップにダメージを与えないように慎重に。キャップ型のダストシールはデベソ構造でリップの外側にスプリングが組み込まれている。リップやスプリングにダメージを与えないようにソケットを利用して万力で平衡を保ち圧入。シャフトへダンパー部品を組み付け終えたらシールヘッドを組み込む。シールヘッドがテクニクス製のオリジナル部品になったことで、後々のオーバーホールが容易に行えるようになる。最後に劣化消滅していたバンプラバー(ウレタン)を適正サイズにカットして組み込む。
高圧窒素ガスを封入
窒素ガス封入式ダンパーの場合は、フリーピストンが内部に組み込まれる。このピストンにガス圧が掛かり、ダンパーオイルへのエアー噛みを無くし、オイルの流動性を常に安定化させている。フリーピストンを任意の位置まで押し込んだ後にダンパーオイルを注入する。このフリーピストンの位置データが減衰力を左右するらしくテクニクスにはノウハウがある。ダンパーオイルはユーザーの好みで硬さを指定できる。そして、エアーバルブをレンチで固定し、窒素ガスの封入は注射針式なのでバルブは締め切り固定だ。純正リアサスでもこのようなバルブ付きモデルがあるが、そんなモデルは定期的にガスチャージしたいものだ。リヤサスペンション専用の窒素ガス封入用機器を使ってガスチャージする。窒素ガスは温度変化に対して圧力変動が少ないのが特徴だ。ここでは1Mps(旧表示なら約10km/?)チャージ。
- ポイント1・ ショックユニット本体を疑う前にリンク機構がスムーズに作動するか確認しよう
- ポイント2・ リヤショックには完全非分解仕様と分解OHが可能な仕様がある
- ポイント3・ リヤショックのOHはプロショップへ依頼しよう
「シーズンオフになるとモトクロッサー用前後サスペンションのオーバーホール依頼が多く忙しかったですが、最近はスーパースポーツモデルや大型ネイキッドモデル、それに旧車用リヤショックのオーバーホール依頼が増えています」とは、サスペンションのプロショップで知られる、埼玉県春日部市のテクニクススタッフ。例えば、ヤマハXJRシリーズの純正オーリンス(ツインショック)は、オイル漏れや滲みが発生しやすくオーバーホール依頼が多いモデルだそう。そのオイル漏れを対策するために、テクニクスではダンパーロッド用ブッシュを交換できるオリジナルのシールヘッドを開発。その部品を使ったオーバーホールメニューが、ユーザーやバイクショップに大反響で、日常的に数多くのオーバーホール依頼が舞い込んでいるそうだ。
市販車用オーリンスに限らず、メーカー純正リヤショックの多くは、ダンパーロッドの軸受けブッシュが無く、ロッドをシールヘッドが直に受け、摺動しているケースが多いらしい。したがって、シールヘッド摺動部の減りでダンパーロッドにガタが出て、結果的にオイル漏れを起こしてしまう。旧車用リヤショックもブッシュレス構造が多く、同じ考え方でオーバーホールやオイル漏れ対策を施すことができる。そのような状況を踏まえ、テクニクスが提案しているのが、旧車用純正リヤショックの「モダナイズ」。ダンパー本体を分解できることが最低条件になるが(カシメ固定式で分解できないモデルも数多い)、分解さえできれば、ダンパーロッドの太さがよっぽど特殊なサイズでない限り(特殊サイズ用のオイルシールが無い)、どうにか対処できるようにしているそうだ。
今回の作業では、外部から窒素ガスを充填できるバルブを追加し、マシンオーナーの要望でやや硬めのダンパーオイルをチョイス(硬さ違いのオイルを指定できる)。シールヘッドは、ブッシュ、オイルシール、ダストシール、Oリングなどを組み込むテクニクス仕様。このタイプの部品を組み込むことで、次回以降のオーバーホールコストは安くなるようだ。モダナイズによって1KT用ヤマハ純正リヤショックは、性能をフルに引き出せるようになった。高性能リヤショックへの換装も素晴らしいが、トータルコストを考えた場合、今回のような純正リヤショックのオーバーホール&アップデートも、実に魅力的である。純正リヤショックの性能やオイル漏れが気になりはじめたら、まずは分解可能か否か、リヤショックボディを確認点検してみるのが良いだろう。
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