
ウインカーやディマースイッチを操作した際の「グニャッ」とした手応えは不快なだけでなく、内部部品の摩耗や損傷の原因にもなるので適切なメンテナンスが必要です。その際、スイッチの中身だけではなく見た目にも注目したいもの。スイッチハウジングの文字が消えていても操作を誤ることはありませんが、カサカサの文字が鮮やかになるだけでハンドル周りが見違えるように美しくなります。
デカール以前のスイッチハウジングならスミ入れが使える
雨水やブレーキフルードが入り込んだりスイッチ端子が腐食したり、良かれと思って塗布したグリスが固まったり、絶版車のスイッチハウジングの中ではさまざまな経年変化が発生する。内部がグチャグチャなら外部も推して知るべし……という場合が多いので、せっっかく部品を取り外すのなら見た目もリフレッシュしておきたい。
再塗装を前提としたサンドブラストで古い塗装と汚れを一掃。剥離剤でも効果は同じだが、水洗い後に中性洗剤で入念に洗浄することが重要。フロントブレーキのリザーバータンク破損で長期間に渡りブレーキフルードが付着していた右側スイッチは塗膜だけでなくハウジング自体もダメージを受けている。
スイッチハウジング本体はブレーキフルードやパーツクリーナー、溶剤などに対して圧倒的な強度を発揮するガンコートでペイント。塗膜を硬化させるには180℃の高温で1時間の加熱が必要。
ホーンボタンのラッパマークやチェンジペダル近くのシフトインジケーターなどの表示は、誰が運転しても迷わないようにするための装備です。実際にバイクを運転する際に、ラッパマークやインジケーターを確認して操作するライダーはいないでしょうが、車検付きのバイクでそれらが薄くなったり剥がれている場合にはチェックされることもあります。特に、逆輸入された絶版車を中古新規登録するような時に経年劣化を指摘される場合があるので注意が必要です。
実用面だけを見ればスイッチの位置や操作方法は指の感覚で覚えていることも多く、ハウジングの文字の有無は大した問題にはならないでしょう。しかし見た目においてはそれなりに重要です。すり減ったハンドルグリップゴムがグレード感を低下させるのと同様に、カサカサのスイッチハウジングもまたバイク全体のレベルを下げてしまいます。
現代のハンドルスイッチ素材は樹脂製が大半ですが、1980年代以前の絶版車ではアルミ合金を主体とする金属製が主役でした。機種によってポリッシュ仕上げと塗装仕上げが使い分けられますが、各スイッチの動作を示す文字や記号はハウジング自体に刻まされているものも多く存在します。
製造から長い年月を経ることで、接点の腐食や可動部のグリス劣化など、絶版車のハンドルスイッチの内部は多かれ少なかれダメージを受けています。それがスイッチノブの作動性悪化などの原因となりますが、ハウジングや文字のペイント劣化が重なることでさらにくたびれ感が増してしまいます。
樹脂ハウジングに文字がプリントされたスイッチや、シールを貼り付けるスイッチの場合、スキャナーや画像ソフトとパソコンを組み合わせて使えるユーザーなら、スイッチハウジングに貼り付けるステッカーを自作できる場合もあり、またレタリングシートで純正スイッチ文字に近い書体を探してワンオフ製作している器用なユーザーもいます。
これに対してスイッチハウジング自体に文字が入っているタイプであれば、補修は容易です。多くの機種ではハウジング上の文字は凹になっているので、ここに着色したい文字色の塗料を流し入れれば良いのです。細かい部分にうまく塗れるかどうか自信がないという人もいるでしょうが、プラモデル制作を趣味としている方ならご存じの通り「スミ入れ」の要領で多めに塗ってはみ出した部分は拭き取れば良いのです。
- ポイント1・絶版車のハンドルスイッチの中には、再ペイントによってハウジングの文字が再現できるものがある
ハウジングのベース塗料をしっかり硬化させてから色を入れる
アクリル塗料の缶スプレーを適当な容器にスプレーして、爪楊枝で文字の凹部に流し込む。細筆を使っても大半がはみ出してしまうほどの細い文字、浅い凹部には爪楊枝の方がむしろコントロールしやすい。ヘッドライトスイッチのLIGHTの文字は、白を乾燥させてから黄色を重ね塗り。
はみ出した部分はシンナーを含ませたティッシュでサッと拭き取る。シンナーをつけないと黄色のペイントがハウジング上に広がり、つけすぎると凹部から黄色が吸い取られてしまうので頃合いが難しい。下地がガンコートなので、凹部のスミ入れは何度失敗しても気楽にやりなおしができる。
やり直した結果、右スイッチのLIGHTの文字は白にした。ブレーキフルードで荒れた表面をペーパーでならしすぎると文字が浅くなるので手加減せざるを得ず。左スイッチに比べて見栄えがあまり良くないのが残念。しかし本体を塗り直して文字をスミ入れしたことでグレード感が大幅に向上したのは間違いない。
劣化したグリスでネバネバになった内部を洗浄すると同時に、塗装が剥がれたハウジング本体を再ペイントするタイミングが文字補修のチャンスです。
ここではカワサキKZ900のスイッチで実践していますが、マスターシリンダーのリザーバータンクから漏れたブレーキフルードで塗装が冒され、内部にもしっかり浸透したスイッチハウジングは脱脂洗浄後、サンドブラストで塗装を完全に剥離して下地を整えています。
元の状態によってはハウジング自体の塗装はそのまま生かして文字だけ塗装したいこともあるかも知れません。その場合は表面の汚れや油分を除去するため、文字部分を中心に中性洗剤と歯ブラシで丁寧に洗浄することが重要です。パーツクリーナーとウエスでいい加減に拭いた程度では、文字部分に入れた塗装が簡単に弾かれてしまうこともあります。
下地まで剥離した場合は脱脂に関して心配は無用です。しかしハウジング本体と文字色に使用する塗料の組み合わせや、文字を入れるタイミングには配慮が必要です。ここで紹介する機種をはじめ多くのスイッチでは、黒ベースに白文字という組み合わせが一般的かと思われますが、ハウジングの凹部に白色を流してはみ出した部分を拭き取るという手順では、下地塗料を冒さないペイントを選択することが重要です。綿棒やウエスではみ出した白ペイントを拭き取ろうとしたら、下地の黒色まで落ちてしまったら元も子もありません。
こうしたトラブルを防ぐには、重ね塗りを考慮した塗料を選択し、ベース色を充分に硬化させることが重要です。ここではブレーキフルードに対する耐久性を考慮してガンコートでスイッチハウジングを塗装しています。ガンコートはブレーキフルードだけでなくシンナーなど強い溶剤に対する耐性も高いため、文字色に使う塗料がラッカーでもアクリルでも、はみ出した部分をシンナーで拭くことができます。
ハウジングをウレタン塗料で塗装した場合、溶剤が強いラッカー塗料で文字入れを行うとウレタン塗膜がダメージを負うリスクがあるので、アクリル塗料や水性塗料を使った方が余計なリスクを軽減できるでしょう。
文字色が白かそれ以外かでも注意したい点があります。使用する塗料の種類にもよりますが、白に比べて下地が透けやすい(隠蔽力が低い)黄色や赤色を黒の上に直接塗ると発色が悪くなることがあります。それを避けるには、一度白色で塗ってから黄色や赤文字を塗り重ねることをお勧めします。白塗装を硬化させる手間は掛かりますが、白の上に黄色を重ねることで発色が鮮やかになります。
ハンドルスイッチのリフレッシュはメンテナンスの中では地味な部類ですが、見た目も操作性も作業前後の差が極端に大きく現れる作業です。気になっているけど見ないフリをしているオーナーは、プラモデル気分で取り組んでみてはいかがでしょうか。
- ポイント1・スイッチハウジングのベース色の上に文字色を重ねる際は下地塗料を充分に硬化させた上に塗り重ねる
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