
スプリングワッシャーやダブルナットなどの物理的手段ではなく、ねじロック剤はケミカルの力でボルトナットの緩み止めを行います。一度硬化すると簡単に緩まないのが特長ですが、メンテナンスなどでいざ緩めようとすると固着して回らず苦労することも少なくありません。そんな時は無理をせず、ヒートガンやポータブルバーナーで加熱しましょう。
金属に触れた状態で空気が遮断されると硬化するねじロック剤
ボルトナットにねじロック剤が塗布されているか否かはサービスマニュアルで確認できる。またマニュアルがなくても、正立フロントフォークのシートパイプやブレーキローターの取り付けボルトにはねじロック剤が使われていることが多い。画像の低頭六角穴付きボルトはねじロック剤に加えて錆びも併発しているので常温では六角穴を傷めるリスクがある。ちなみにねじロック剤を製造するメーカーによれば、ボルトにねじロック剤を塗布するとネジ山の隙間を埋めるため、サビを防止できるメリットがあるとアピールしている。
ボルトナットやビスで固定された部品は、どれも簡単に緩んだり外れないことが求められます。中でもブレーキを初めとした安全性に直結する部分を固定するねじに使用されるのがねじロック剤です。
ねじの緩み止めにはスプリングワッシャーを併用するのが一般的ですが、スプリングワッシャーは取り外しを前提としています。それに対してねじロック剤は一度塗布して組み付けたら、取り外す機会が少ない場所に用いられるのが特徴です。
ネジロック剤には液体タイプとスティック状の半固形タイプがあり、どちらも嫌気性の樹脂を主成分としています。空気が遮断された環境で硬化するのが嫌気性樹脂の特性で、さらにねじロック剤は金属に触れることで硬化します。液体タイプのねじロック剤がボトルの中で硬化しないのは、ボトルの素材が樹脂だからです。
締め付け部分に塗布されたねじロック剤は、雄ネジと雌ネジの隙間に浸透した状態で硬化します。接着剤として雄ネジと雌ネジを貼り付けるのはもちろんですが、ねじの隙間を埋めることで振動や衝撃による緩みも防止します。緩み止め降下を期待する際にはボルトの締め付けトルクを大きくするのが一般的ですが、大きなトルクを加えられない細いねじで確実な緩み止め性能が求められる際にもねじロック剤は有効です。
視点を変えれば、金属製のスプリングワッシャーをねじロック剤に変更することで大量生産時のコストダウンや軽量化にも大きなメリットがあり、ワッシャー分のスペースを省略できるので機械のコンパクト化にも寄与します。これらはいちユーザーの立場ではあまり関係のないことですが。
数々のメリットが挙げられるねじロック剤ですが、緩みづらい長所は外しづらい弱点につながります。強いトルクで締め付けられたボルトや、スプリングワッシャー併用のボルトナットも緩みづらいですが、接着剤が充填されるねじロックの方が緩める際の手間が多くなります。なにしろ硬化した接着剤は樹脂となってネジ山に密着するのですから。
ねじロック剤は使用条件に応じていくつかの強度が用意されています。よく知られるロックタイト社の場合、低強度、中強度、高強度の3グレードに分類されています。これらは硬化後にねじを緩める際に必要なトルクで区分されており、低強度と中強度はハンドツールで取り外せる程度のロック性能となっています。ねじロックというと何でもかんでもガッチリ固着するイメージを持っている人もいるかも知れませんが、部品を着脱する場所では中強度を使います。
- ポイント1・ねじロック剤は金属に接触した状態で空気が遮断された環境で硬化してボルトナットの緩みを防止する
ねじロック強度の仕様によって加熱が必須なタイプがある
ブタンガスやプロパンガスを使用するトーチは、ねじロック剤だけでなくベアリングを組み付ける際にハウジング側を加熱する際にも使える。電気式のヒートガンより高温になるが、塗装面は使えずピンポイントで加熱すると歪みの原因になるので注意が必要。
ロックタイト社の高強度タイプのねじロック剤を取り外す際は、260℃以下の高温に加熱が必要な場合がある。ヒートガンでその温度まで上昇するまで待つのは時間が掛かるので、トーチを遠火の強火で操ってボルトを加熱する。
外れたボルトに塗布してあったねじロック剤は青色の中強度で、一般的にはハンドツールで取り外し可能とされている。だが熱を併用することで金属部品の膨張も期待できるため、より容易に緩めることができる。ボルトを交換する際、あらかじめ新品部品にねじロックが塗布されていることもあるが、外した部品を再使用する場合はネジ山に残ったロック剤を除去してから新たに塗布して組み付ける。
低強度、中強度に対して、一度締めたら外れて欲しくない場所に使用するのが高強度タイプです。液体タイプの場合、中強度も高強度もボトルから滴下した時にはどとらも液状ですが、ロックタイトの場合メーカーのサイトに「局所的な加熱が必要な場合があります(260℃以下)」と註釈があるほどで、硬化後の強度はまったく異なります。
加熱が必要なほどねじロック剤が効いているボルトを無理矢理緩めようとすれば、ボルトの頭をなめたり、場合によってはボルト自体が折れるリスクがあるとも説明されています。それだけ強固な固定に関する性能を追求したのが高強度タイプとなるわけです。したがって高強度タイプのねじロック剤が塗布された部品を取り外す際は、常温で回そうとせずあらかじめ加熱した方があらゆる点で無難です。
熱が有効なのは高強度タイプだけとは限りません。ねじロック剤の使用温度範囲の上限目安は150℃(ロックタイトの場合)とされており、それ以上では接着能力が担保されていません。接着剤の樹脂成分も高温では劣化してしまいます。
中強度であっても、ボルトや部品の破損を防止する目的で加熱することは有効です。ここで紹介している低頭タイプの六角穴付きボルトの場合、六角棒レンチが浅くしか刺さらないため、大きなトルクを加えるとナメやすいのが弱点です。ブレーキローターを固定するため中強度のねじロック剤が塗布されており、常温ではかなり強固な手応えを感じますが、ボルトの先端側からガストーチで加熱することで、ねじロック剤なしのボルトと同等の緩め力で取り外すことができました。部品が塗装されている場合は直火ではなく、ヒートガンを使って加熱します。
ねじロック剤はねじを固定することを目的としたケミカルなので、緩める際は力まかせではなく、熱を効果的に併用して安全に取り外すことを心がけましょう。
- ポイント1・高強度タイプのねじロック剤を塗布したボルトナットを緩めるさいは局所的な加熱が必要だが、中強度タイプであっても加熱は有効
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200度以上の加熱は金属組織を変化させるのはご存じなのだろうか?
危険な行為であると思います。