「ああそうだったのか」ちょっと知っておくだけで役に立つフロントフォーク分解時の小ネタ2選

さまざまなメンテナンスを経験することで当たり前のように行ってしまう作業の中には、ビギナーが迷ったりつまづいてしまうことも含まれています。ここでは正立フロントフォークのメンテ時の付帯作業に関して、知っておきたい意外な要注意ポイントを紹介します。

インナーチューブのトップボルトを緩める前にトップブリッジのクランプボルトを緩めておく

正立フォークのトップキャップを緩める際に、キャップが締まった状態でフォークアッセンブリーを抜いてしまうと苦労するが、トップブリッジのクランプボルトを緩めてアンダーブラケットを緩めなければそれだけで回り止めになる。上下ともクランプボルトを緩めるとキャップとインナーチューブは一緒に回るので回り止めの意味がない。一度経験すれば当たり前のことだが、サービスマニュアルでは「車体からフロントフォークを外してトップキャップを外す」としか記載されていないからビギナーは困ってしまう。

アンダーブラケットが締まった状態でトップブリッジだけ緩めておけば、トップキャップは容易に緩めることができる。この状態でキャップを完全に外すとスプリングに押されたキャップが飛び出したり、オーバーホール時にシートパイプを緩めるのに苦労することもあるので、インナーチューブに付いた状態で車体から引き抜くと良い。

フロントフォークのオイル交換でサスペンションを取り外した後でトップキャップを緩めようとすると、インナーチューブがクルクル回ってしまうので苦労するものです。インナーチューブをバイスに挟んで固定した状態で緩めても良いですが、誰もがバイスを所有しているわけではありません。そこで思いつくのが車体に付いた状態である程度緩めておけば、サスペンションを取り外してからキャップを緩めるのが楽になるのでは？ということです。

これは確かに正解で、アンダーブラケットでしっかりクランプした状態ならインナーチューブは回らず、トップキャップを緩めるのは容易です。そしてここで重要なことは、トップブリッジのクランプボルトは緩めておくということです。

トップブリッジのボルトが締まった状態では、インナーチューブを介してトップキャップも締め付けられています。従ってこの状態からキャップを緩めようとしても簡単には回りません。少し考えてみれば簡単な理屈ですが、これに気づかず「トップブリッジがしまっているとトップキャップが緩まない」からと、サスペンションを外してから回り続けようとするインナーチューブと格闘するサンデーメカニックは想像以上に存在します。

ただし、カートリッジ式ではないピストンスライドタイプ（セリアーニタイプ）の正立フォークをオーバーホールする際は、トップキャップでフォークスプリングを圧縮しておいた方がアウターチューブ底部に固定されたシートパイプのボルトを緩めやすいこともあるので、キャップを完全に取り外すのは後にした方が良いでしょう。

トップキャップを着脱する際は、キャップのねじが外れた途端にフォークスプリングの反力で飛び出すので、キャップの上にウエスを掛けて手のひらでしっかり押さえ、インナーチューブ側を回して緩めることをお勧めします。

組み立て時も同様で、手のひらでキャップを押しつけた状態でインナーチューブを回してねじを噛み合わせるようにします。トップキャップのねじはピッチが狭いため、インナーチューブに対して斜めになっていても最初の数山は引っかかってしまいます。フォークスプリングのテンションに抗いながらキャップを回そうとすれば斜めになりやすく、ねじを傷めかねません。

そこでキャップは水平を維持しながらスプリングを縮めることだけに注力して、インナーチューブを回していくと、無駄な力を使うことなくねじも傷めることなく締められるというわけです。

アンダーブラケットクランプ部分の赤サビは極細サンドペーパーで軽く擦る

インナーチューブのサビが深く進行した点サビでなければ、サンドパーパーで優しく擦ることで取り除ける場合がある。フォークオイルでコーティングされた摺動面はさびにくいが、油分がなくカウル付き車両では確認しづらいこともあるアンダーブラケット部分はサビの進行を見逃しがちなので要注意。

ここでは#2000の極細目サンドペーパーに防錆潤滑剤をスプレーして、サビの表面を優しく擦りながらサビを取り除いた。摺動部分に掛かる時は、ストローク方向に直交するようにペーパーを当てることで、オイルシール部分からの漏れの軽減が期待できる。

フロントフォークを車体に取り付けた際はトップブリッジとインナーチューブの突き出しを基準にするのが一般的だが、同時にアウターチューブにアクスルシャフトを挿入するのも重要。突き出し量が微妙に違っていてシャフトがスムーズに通らないこともあるが、転倒したことのある車両ではインナーチューブやトップブリッジ、アンダーブラケットが微妙に曲がったり歪んだりして、アクスルシャフトが通らないこともある。ホイールを組み付ける際にシャフトをハンマーで叩くと、多少ずれていても入ってしまうが、シャフト他単品で挿入すると僅かな歪みも発見しやすい。

フロントフォークの悩みのタネといえばインナーチューブのサビですが、雨が当たりやすい屋外保管車両の場合、摺動面だけでなくトップブリッジやアンダーブラケットのクランプ部分にサビが発生することがあります。中型以下のスタンダードモデルの場合、トップブリッジの素材がアルミでアンダーブラケットはスチール製ということも多く、クランプ部の内面で発生したサビがインナーチューブを錆びさせることがあるのです。

インナーチューブは耐久性の高いハードクロームメッキが掛かっていますが、表面には目に見えない小さな穴があります。アンダーブラケットのクランプ部分に見えるサビは、最初のうちはインナーチューブ表面にだけあるように見えますが、水分が浸透することで内部から錆が進行するため、発見したら早急に対処することが必要です。

摺動部分にありがちな点サビの場合、根本的な対策としては再メッキとなりますが、どちらからといえばアンダーブラケット側から転写されたような赤サビであれば、サンドペーパーで軽く擦るだけで取り除くことができます。具体的には#2000程度の極細目のペーパーに防錆潤滑剤を吹き付けて、できるだけメッキに傷を付けないようサビの表面を軽く擦ります。すでに進行している点サビには対応できませんが、表面に付着したサビであれば、大半の場合はきれいに取り除くことができます。

アンダーブラケットのクランプ部分が錆びている場合は、サビによるバリでインナーチューブにひっかき傷を付けることがあるので、フロントフォークを引き抜く際に注意すると同時に、復元前にはサンドペーパーでクランプ部内面のサビを取り除くと同時に、インナーチューブを差し込む部分はエッジを取るように擦っておくことも有効です。

トップキャップの緩め方もインナーチューブのサビ取りも、作業経験を重ねることで当たり前のように対応できるようになることばかりです。しかしビギナーにとって、サービスマニュアルに掲載されていない小さなポイントが実際の作業で役に立ちます。いざという時に慌てないように、こうしたテクニックを身に付けておきましょう。