
空気と混ざったガソリンは混合気と呼ばれ、それを吸い込むのが「吸入バルブ」。爆発→燃焼→膨張した燃焼ガス(排気ガス)をマフラーへ向けて排出するのが「排気バルブ」のはたらきである。そんな吸排気バルブ「周辺部品」は、コンディションが良くないと、思い通りのはたらきをしてくれないもの。エンジンの好調不調を大きく左右する吸排気バルブのコンディションとは、果たしてどのようなものなのだろうか?
使い込まれた吸排気バルブの正体
使い込まれた吸排気バルブ。左の排気側バルブシート面にはカーボンが堆積している。右の吸気バルブは、一見ではバルブシートとしっかり当たっているように見えるが、アタリ面は摩耗して凹んでいる。カーボンを噛み込みんだり、バルブシートが凹になったフタリ面では、「良い圧縮」を維持することができず、圧縮漏れを起こす原因になる。おそらくこの旧排気バルブを組み込んでいたエンジンは、アイドリング不調だったはずだ。圧縮漏れによって、一発一発の爆発力が低下していたはずだ。
バルブフェース研磨で再利用可能
アメリカ製のバルブ研磨専用機。45度の角度でバルブフェース=バルブのあたり面を研磨修正中。日本車の細いバルブステムの場合は、寸法的に利用できないモデルもあるが、旧車の2バルブエンジンには、使い勝手がすこぶる良いバルブ研磨専用機だ。バルブステムを素早くチャッキングしても、芯が出やすい設計には工夫がある。
高性能なスイス製バルブシートカッター
正式にはスイスのミラ社製バルブシートリフェーサー、いわゆる高性能バルブシートカッターだ。自動で機器のヘッドを振って動かして、自らバルブガイドの芯を探り出し、その後、本体を固定する使い勝手の良さ。作業効率、精度、いずれも良く、バルブシートカットの作業性が格段に良くなる。
使い過ぎ、走り過ぎの実例……
摩耗が進行し、遂には破損したバルブガイド。ガイド内径の中心がズレて偏摩耗している様子を見て取ることができる。ガイドを支えるシリンダーヘッド側の孔が拡がってしまう原因にもなる。ヘッド側の孔がガタガタになったときには、外径がオーバーサイズになったバルブガイドを新規削り出し製作依頼することもできる。そのようなトラブルへ至ると、市販のバルブガイド外寸では適合しなくなってしまうのだ。頼りになるのが内燃機加工のプロショップだ。
バルブステムシール付きで白煙対策
本来ならバルブステムシールの装着されていない旧型ハーレー・ダビッドソンのエンジンだが、撮影協力をいただいた埼玉県のiB井上ボーリングでは、エンジンオイル下がり対策=マフラーからの白煙対策で、バルブステムシールの取り付けが可能なバルブガイドの製作依頼に対応している。バルブステムが太いハーレーには、国産の4輪車用ステムシールを流用しているそうだ。このiBオリジナルのバルブガイドは大好評らしい。長年に渡って製造され続けているH-D製Vツインエンジン。内燃機加工依頼で、サイドバルブ時代、ナックルヘッド、パンヘッドを加工するのは現在でも珍しくない。それがハーレーの素晴らしさだろう。
取材協力:iB井上ボーリング https://www.ibg.co.jp/
- ポイント1・ 部品交換ではなく「研磨再生」で再利用できるケースもある旧排気バルブ
- ポイント2・ ボアアップキットを組み込んだときなどは、ノーマルヘッド対応部品だからといってそのまま復元せず、各部を分解点検してみよう
特定部品が「悪い状況=不調」なときには、その周辺部品にも必ず影響が出ているものと考えよう。例えば、クラッチレバー操作が重く感じるときには、何らかの問題があり、その周辺にも、何らかの問題が及んでいると考えよう。購入以来、乗ってばかり、走ってばかりで、肝心なメンテナンスを怠ってしまうと、いつしかバイクの機能部品は性能低下してしまうもの。クラッチレバー操作が重く感じる時、最初に疑うのがクラッチワイヤー。ケーブル内を洗浄して、ケーブルオイルやグリスを注入することで、動きが渋かったクラッチワイヤーは明らかに操作感が軽くなる。それだけではない、クラッチレバーピボットボルトの締め付け状態によっても、レバーそのものの作動性が低下しているケースもある。ピボット周辺のグリス切れで作動が重くなっていることもある。
クラッチレバー周辺やクラッチワイヤーではなく、エンジン側のクラッチレリーズと呼ばれる部品の潤滑不良によって、操作感が重くなってしまうことも多々ある。このように、単純に「クラッチレバーが重い」といっても、その患部はひとつだけではないので、周辺部品、関連部品のメンテナンスや点検も必ず実施するように心掛けたいものだ。そんな「ついで」のメンテナンスによって、バイクのコンディションは必ず良くなるものだ。
4ストロークエンジンにとって、極めて重要な部品が「旧排気バルブ」である。長年に渡る走行によって、バルブやバルブ周辺部品は、少なからず摩耗してしまうものだ。バルブガイドの中を上下作動するバルブは、その摺動部(軸部分)をバルブステムと呼ぶ。過走行エンジンになると、そのバルブステムを受けるバルブガイドの内径が摩耗によって拡大してしまうことがある。そうなると、バルブガイドを入れ換えしなくてはいけないが、そのような作業を依頼するのが内燃機加工のプロショップ。純正部品でバルブガイドが無くても、内燃機加工ショップならバルブガイドの削り出し製作を依頼できるので安心だ。
仮に、バルブガイドが摩耗していたとすれば、吸排気バルブの作動はすりこぎ状態になっているため、バルブシートのアタリも相当に悪くなっていると考えられる。
一般的には、
1.過走行によってバルブシートのアタリが広がる。
2.連続摺動によってバルブガイド内径が摩耗拡大する。
こんな順序で部品の摩耗は進んでいくが、それを越えると
3.バルブステムが摩耗してしまう。→旧排気バルブを新品部品へ交換。
となってしまう。そうならないためにも、早め早めのメンテナンスが大切になる。単純なシートカット&擦り合わせで済んだものが、バルブガイドの交換やバルブフェース加工、さらには、バルブシートり入れ換えが必要になってしまう「負の連鎖」に至るケースもあるのだ。そんな状況にならないためにも、常に高品質なエンジンオイルを利用し、定期的なオイル交換を欠かさずに行うことが大切になるのだ。
エンジンパワーの低下に気が付き、エンジン腰上を分解オーバーホールする際には、ピストンリングの交換やピストンのオーバーサイズ化(ボーリング&ホーニング仕上げ)だけではなく、バルブシートカットや擦り合わせを行い、バルブガイドにガタがある際には、バルブガイド交換も視野に入れたメンテナンスが必要不可欠なのだ。それが絶好調エンジンへの第一歩である。
「モンキーを88ccにボアアップしました!!」といったお話はよく聞くが、ノーマルヘッド用ピストンキットだから「ヘッドはそのままで復元しました……」といったお話も聞くことがある。そんな時こそ、旧排気バルブを外して、カーボンの除去やバルブシートの擦り合わせを行うだけでも、より一層のパワー感を得られるようになるので、部品交換やメンテナンスの実践時には、肝心の修理箇所だけではなく、その周辺にも気を配るように心掛けるようにしよう。
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旧排気って。気づかないのかね?