
4ストロークエンジンのコンディションを維持するには定期的なオイル交換が不可欠ですが、ドレンボルトを外しても必ずしもすべてのオイルが抜けるわけではありません。長期間に渡って少しずつ残ったオイルが、場合によってはエンジンに悪影響を与えることもあります。それを確認するには、オイルパンを取り外して内部をチェックすることが有効です。
ドレンボルトがクランクケースの底に付いていても、エンジンオイルは空にならないこともある
オイル交換は走行後しばらく経って、あるいはアイドリングで油温を高めてから行うのがセオリー。ただしあまり高温だとヤケドの危険性もあるので要注意。
3000kmごとや半年ごとなど、取扱説明書による指示やユーザー自身の決めごとで行う4ストロークエンジンのオイル交換。ショップに依頼する場合も自分で行う場合も、ある程度暖機した後に古いオイルをドレンボルトから排出して、車体を前後左右に揺すったりしばらく待った後にボルトを取り付けて新油を注入するのが一般的な手順です。
オイル交換時に必要なオイル量は取扱説明書やサービスマニュアル、またはエンジンに貼付されたステッカーなどに記載してありますが、そこに「全容量」「オイル交換時容量」「オイル、オイルフィルター交換時容量」など複数の数値が示されている場合があります。
このうち、「オイル交換時容量」と「オイル、オイルフィルター交換時容量」が異なるのは理解できます。カートリッジタイプでもエンジン内蔵タイプでも、オイルフィルターを取り外せばその分多くのオイルが排出されるからです。では「全容量」と「オイル交換時容量」の違いは?
これはエンジン組み立て時にすべての部品がほぼ乾いた(防錆用の油分程度が付着した)状態で注油する量と、既にエンジン内に入っているオイルを抜いてから注油する量の違いとなります。これを見ると、ドレンボルトを外しただけではエンジンオイルの全容量は完全には抜けきらないということが分かります。
確かにドレンボルトを外しても、カムシャフトホルダーや燃焼室周辺がオイルに浸っているエンジンはありますし、粘度のあるオイルがきれいさっぱりエンジン下部に流れ落ちるとは考えられません。さらにはエンジンで一番低い場所にあるオイルドレンから、そこにあるすべてのオイルが排出されるとも限りません。
最新のスーパースポーツモデル用エンジンの中には、バンク角が深いコーナリング時にもオイルポンプがオイルを吸い上げられるよう、深さを確保したものもあります。しかしクランクケース下部にマフラーが配置される昔ながらのエンジンでは、平面的なオイルパンも少なくありません。
こうしたオイルパンではエンジン内部に古いオイルが残留しがちです。どうやってもドレンから抜けないオイルが残るため、「全容量」と「オイル交換時容量」の違いが発生しますが、通常はオイル交換時容量を守って作業すれば注油量が過剰になることはありません。
しかし、バイクの年式や使用するオイル、積極的に添加剤を使用する場合には添加剤の種類によって、オイルパンに不純物が生成されて残る可能性があります。
ここで紹介するのは長期不動状態だったカワサキZ1系エンジンの例ですが、オイルを抜いた後でオイルパンを外したところ、内側にゲル状の異物がたっぷり溜まっていました。これがエンジンオイルに含まれる添加剤が変質したものか、市販の添加剤成分なのか、オイル自体がこうなるのか、不動期間がなければ変質しなかったのかは分かりませんが、1970年代に製造された絶版車を四十数年後に手に入れてオイルパンを外したらこうなっていた、というわけです。
ドレン部分からオイルを抜くたびに、毎回オイルパン内のオイルがすべて排出されれば、もしかしたらこうした異物も生成しなかったのかも知れませんが、若干でも残ることでチリも積もれば山になる可能性はあるということです。
- ポイント1・エンジンオイル量に「全容量」と「オイル交換時容量」がある場合、オイル交換時にエンジン内部に残留分が残っている
- ポイント2・さまざまな条件が重なることで、エンジン内部に残ったオイルが変質することがある
オイルパンが外れるか否かはエンジンの構造によって異なる
カワサキZ1系エンジンのオイルパンは、マフラーさえ外せばフレームに干渉することなく取り外すことができる。オイルフィルターエレメントが貫通する部分を境に、クランクシャフト部分とミッション部分の2部屋に分かれている。
この2部屋は明確に区分されているわけではないが、迷路のような仕切りがありオイルパン底部を流れるオイルにとって一定の抵抗となっている。そのため、ミッション下部に溜まったゲル?ヘドロ?のような異物はオイルドレンボルトがわに流れず、同じ場所に溜まり続けていたらしい。
溜まっていたのはエンジンオイルで溶かしたグリスのような物質。エンジンオイルに含まれる添加剤成分なのか、市販のオイル添加剤なのか、中古車で購入した絶版車なのでまったく分からない。エンジンオーバーホール済みであることが明確になっているなら心配不要だが、履歴不明な場合は念のため確認しておいた方が良いかも知れない。
オイルパンの中に何が残っているかは開けてみないと分かりませんが、そうなると取り外して中を見てみたいと思うユーザーもいることでしょう。しかしそれが可能か否かはエンジンの構造によって異なります。
ここで紹介しているカワサキZ1系エンジンは上下に分割されるクランクケースを持ち、ロアケースの下部に蓋をするようにオイルパンが取り付けられているので、オイルパン下部の邪魔するマフラーなどを取り外しておけば単体で外れます。この時フレームのダウンチューブと干渉することもありません。
これに対してホンダモンキーを筆頭とした左右分割のクランクケースの場合、クランクケース下部にオイルパンはありません。ドレンボルト部分に向かってオイルが流れやすい形状になっていますが、抜け残りを確認したいとなればクランクケースを分解する、つまりエンジンをオーバーホールしなくてはなりません。
- ポイント1・オイルパンを取り外せる機種は内部を確認できるが、着脱できるオイルパンを持たないエンジンもある
オイルパンを外したらオイルポンプのストレーナーも要チェック
オイルパンの汚れ具合を見てしまうと、当然オイルポンプの状態も心配になる。クランクケース下部に取り付けられたオイルポンプにパーツクリーナーを吹き付けるだけでもある程度きれいになるが、それだけでは安心できないほど汚れている。
ストレーナーネットは2/3ほどが汚れに覆われていた。この車両は長期不動車だったため、長い間をかけてこのような状態になったのだろうが、走行中のゴミや異物がこれだけ付着していたことに違いはない。汚れにしても異物にしても、ある日突然いきなり付着することはなく、定期的にオイル交換をしていても徐々に堆積するものだ。それを思えば、どこかのタイミングでオイルパンやオイルポンプの確認を行うのはエンジンにとって有益といえるだろう。
オイルパンに異物が溜まっていた場合、オイルポンプの確認も必要です。このZ系エンジンのストレーナーネットには明らかなゴミに混ざったゲル状の異物も付着していました。ゲル状物質は油温が上昇すれば液体に変わるのかも知れませんが、この状態でエンジンを始動するのは当然ですが気が進みません。
もし油温が上がってもネット表面がこのままなら、オイルポンプが圧送できるオイルの量にも影響が出るかも知れません。するとエンジンオイルを交換しても潤滑不良が発生する可能性も否定できません。
ひと言でオイル管理をしっかり行うといっても、旧車や絶版車にとっては簡単なことではありません。新車で購入したバイクであれば、使用するエンジンオイルも自分で把握できますが、中古車として入手した場合は履歴が分かりません。エンジンオイルと市販の添加剤の相性によっては、オイル自体に何らかの変化が生じて変質することがあるかもしれません。
メンテナンスの履歴や管理によって状態はまちまちなので、一概に何年経過したからオイルパンのチェックが必要とは言えませんが、普段からエンジンオイルを交換していても抜けきらない残滓がこのように変質している可能性があることも知っておくと良いでしょう。
- ポイント1・オイルパンを取り外した場合は、オイルポンプの状態も合わせて確認しておく
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