ガソリンと空気を混合して、エンジンが必要とする混合気を作るのがキャブレターの役割です。キャブの構成要素にはスロージェット、メインジェット、ジェットニードルなどがありますが、このうちジェットニードルはスロットル開度に応じてガソリンの流量を変えることができます。ここではスロットル開度が小さい領域の混合比に影響するストレート径について解説します。

ストレート径、クリップ段数、テーパーの3つの要素でセッティングを行うジェットニードル


新車の吸気系はインジェクションばかりなので、キャブレターのセッティングを実践できるのは旧車や絶版車ばかりということになる。レーシングキャブレターはエンジンやマフラーに合わせてセッティングするのが前提なのに対して、純正キャブは純正セッティングでずっと走り続けられると思っているライダーも多いはず。だがエンジンのコンティション変化やエアークリーナーボックス取り外しなどのカスタムによって、純正キャブであってもセッティングが必要になることもある。

エンジンが吸い込む空気量に合わせてインジェクターから燃料を噴射するフューエルインジェクションに対して、穴径や隙間が異なるジェットやニードルでガソリンをアナログ的に計量して吸い上げさせているのがキャブレターです。

エンジンが吸う空気が少ない時はガソリンも少なく、吸う空気が多い時はガソリンも多くするため、キャブレターはジェットやニードルなど複数の部品と複数の通路を使い分けています。スロットル全閉のアイドリング時には、パイロットジェットで計量されたガソリンがスローポートから吸い出されています。

スロットルを開いていくと開度に応じてエンジン回転が上昇します。キャブレターの構造についてはこれまで何度か説明しましたが、バイク用で一般的な可変ベンチュリー形式キャブではスロットル開度に応じて空気が流れるベンチュリーの面積が変化します。ベンチュリー面積を変化させるスロットルバルブの下部には爪楊枝のようなジェットニードルが取り付けられ、ニードルジェットなどと呼ばれる穴に刺さっています。この穴の下部にはメインジェットがあり、ここで計量されたガソリンがジェットニードルとニードルジェットの隙間からベンチュリー内に吸い出されます。

メインジェットで計量されたガソリンが吸い出されるジェットニードルとニードルジェットの隙間はメインノズルと呼ばれ、走行時のガソリンはこのメインノズルから供給されています(一部スローポートからも供給されます)。

ニードルジェットに刺さったジェットニードルは、スロットルバルブの上昇に伴いニードルジェットから抜け出し、ジェットニードルが爪楊枝のように先細りになっていることからジェットニードルとの隙間は徐々に広がっていきます。それによってメインノズルから吸い出されるガソリンの量が増えていき、スロットルバルブが開くことで流量が増える空気とうまく混合してエンジン回転が上昇していきます。

キャブセッティングにおいては、スロージェットやメインジェットの穴径が注目されがちですが、メインノズルから吸い出されるガソリンの流量にとってジェットニードルも大きな役割を果たしています。さらにジェットニードルには、ストレート径、クリップ段数、テーパー角という3つの変化要素があります。またジェットニードルはスロットル開度1/8~3/4あたりの混合比に大きく影響することから、街乗りではメインジェットよりむしろジェットニードルの方が重要であるとの見解もあるほどです。

POINT

  • ポイント1・キャブレターのメインノズルから吸い出されるガソリンの量は、ジェットニードルとニードルジェットの隙間の大きさで決まる
  • ポイント2・ジェットニードルにはストレート径、クリップ段数、テーパー角の3つのセッティング要素がある

スロットルバルブ開度が小さい領域で効くのがストレート径


バイクメーカーがニューモデルを開発する際は、エンジンからマフラーまでひとつの仕様で市販するため、キャブセッティングが一度決まれば変更の必要はない。そのため純正ジェットニードルの中にはクリップ段数が変更できないものもある。この場合、スロットルバルブの開度が増えて、ニードル先端に向かって細くなるテーパー部分の高さを変えられないため、1/2付近のセッティング変更ができないという特徴がある。


負圧キャブのバキュームピストンの動きはスロットル開度と直接連動しないため、ジェットニードルのセッティングは難しい。しかしエンジンが発生する負圧によってピストンが僅かに開いた時にはストレート部分でガソリンを計量するので軽視できない。

スロットルバルブの開度はキャブレターの形式によって判断方法が異なります。スロットルケーブルがスロットルバルブに直接つながっているピストンバルブ式キャブは、スロットルを1/4開けばスロットルバルブは1/4開き、1/2開けば1/2開く比例関係にあります。

一方スロットルケーブルはバタフライバルブを開閉し、エンジンが発生する負圧によってスロットルバルブ=バキュームピストンが動く負圧式キャブの場合、スロットル開度とバキュームピストンの開度が連動するとは限りません。しかしながら、スロットルバルブ開度に対するジェットニードルの作用は同じです。

スロットルバルブ開度が小さい1/4~1/8開度あたりでは、ジェットニードルは根元付近までニードルジェットに刺さっています。この時、ガソリンはニードルのストレート径とジェットの隙間から吸い出されます。

ここでストレート径が適正値より太い場合、ジェットとの隙間は小さいため必要なガソリンが吸い出されず混合比は薄くなります。アイドリングは安定しているのに走り出しでトルク感がないような時、ストレート径が太いかも知れません。

逆に適正値よりストレート径が細いとジェットとの隙間が大きくなるため混合気が濃くなります。スロットルの開け始めでカブリ症状が出る場合、ストレート径が細いかも知れません。

スロー系のセッティングはスロージェットの影響度も大きいため、ジェットニードル単体ではなく総合的な判断が重要です。ただ、スロージェットやパイロットスクリューでスロットル全閉付近のセッティングに納得できたのに、実走行でトルク感希薄でスカスカだったり、ギクシャクとしたカブリ症状が出る場合には、ストレート径のミスマッチを考慮して対応することが有効です。

POINT

  • ポイント1・スロットルバルブの開度が増えると、ストレート径、クリップ段数、テーパー角の順でセッティングに影響する
  • ポイント2・ジェットニードルのストレート径はスロットル開度が小さい領域で影響し、街中の走行時に重要

ストレート径の相対比較はノギス一本でできる


2本のニードルのストレート部分をノギスで挟んだ時に、落下した方が細い=混合比が濃くなると判断できる。マイクロメーターを使えば0.01mmまで測定でき、一般的に0.01mm単位で直径が異なるジェットニードルの絶対値を知ることができる。だが単にどちらが太いかを知りたいならこの方法で充分に役立つ。

前項でジェットニードルのストレート径が適正値より細い太いと書きましたが、実際のセッティングでは現状が濃く感じる場合には薄くするためにストレート径を太く変更し、スカスカでトルク感がない場合にはストレート径を細くして混合気を濃くした上で状況を判断します。あくまでエンジンが吸い込む空気量が主役で、それにガソリン量を合わせるのがキャブセッティングということになります。ガソリンを現状よりたくさん入れれば馬力が向上するだろうと考えても、空気が入らないことにはかぶるだけです。

裏を返せば、エンジンに入る空気量が変化した際には何らかのセッティング変更が必要になる可能性があるということです。例えばエアークリーナーボックスの吸気口のサイズを拡大すると、スロットルを開けた際のボックス内部の負圧の状態が変化します。その際に空気がより多く入ることもありますし、吸気口を拡大したことでボックス内の負圧が低下することもあり、それぞれの状態に応じたセッティングが求められます。

ジェットニードルのストレート径は、キャブレターメーカーやセッティングパーツメーカーの仕様によって左右されるものの、直径が0.01mm変わるごとにガソリンの流量が10%前後変化するよう設定されていることが多いようです。具体的な変化の幅はニードルジェットの穴径との関係性もありますが、0.01mm太くすれば薄くなり、細くすれば濃くなるということです。

ストレート径のセッティングを変更する場合、実際の太さが何ミリであるかということもさることながら、現状からどちらに振りたいのかを決めることも重要です。ニードルに刻印されたストレート径の数値はとても小さく読み取りづらいこともあり、そんな時に役立つのがノギスを使った相対比較です。

2本のニードルのストレート部分をノギスで挟むと、細い方はくちばしから滑り落ちます。この方法を使えば、絶対値は分からなくても、現状より太いニードルか細いニードルかをすぐさま選択できます。

レースの世界ではセッティングパーツをシビアに管理していますが、作業が立て込むと番手による管理が怪しくなることもあります。そんな時の判断方法として、プロのレースメカニックもストレート径をノギスで測定してジェットニードル選択時の一助にすることがあるそうです。純正キャブのジェットニードルの中には寸法刻印がないものもあるので、そうしたキャブをオーバーホールしたり、部品を入れ替えるような場合には、走り初めで効き目のあるジェットニードルのストレート径をノギスで測って置くことで、セッティングの参考になるはずです。

POINT

  • ポイント1・直径が異なるジェットニードルをノギスで挟めば0.01mmの違いもすぐさま判断できる
  • ポイント2・現状より混合気を濃くしたいのならストレート径を細く変更し、。薄くしたいなら太いニードルに変更する

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