大昔からシリンダースリーブの材質には鋳鉄製が良いとされてきた。そんな鋳鉄スリーブからアルミ+特殊メッキ処理スリーブへ移行し始めたのが70年代。バイクの世界では、イタリアンバイクがいち早く採用したのがアルミメッキスリーブのシリンダーだった。ここでは、話題の「アルミメッキシリンダースリーブ=ICBMシリンダー」の特徴と素晴らしいポテンシャルを再確認してみたい。

鉄よりも軽く放熱性が高いアルミ素材に注目



シリンダーから抜き取ったメーカー純正の鋳鉄スリーブ(左)に対して、専用のアルミ製ムク材から削り出し、メッキ処理を終えたICBMスリーブ。スリーブ単体の重量は、同じサイズの鋳鉄スリーブに対して1/3の軽さだ。鉄とアルミの比重を考えればご理解頂けるはずだ。表面硬度が高く、硬過ぎることからシリンダーとしては慣らしができないのもICBMシリンダーの特徴だ。メッキ内径には、機械的技術で慣らしが終わった状態を作り出してしまう、プラトーホーニング技術が必須となる。

スリーブ状態で特殊メッキを施すICBM



以前は削り出し製作したアルミスリーブをシリンダーへ圧入し、その後、シリンダーごとメッキ処理する段取りだったが、スリーブ筒の状態で特殊メッキを施した後にシリンダーブロックへ圧入する段取りに変更したことで、最小Φ52mmから最大Φ100mmの特殊メッキ済スリーブの製作が可能になった。現在は、Φ66.5mmのカワサキZ1純正オーバーサイズピストンにのみ対応した、メッキ済+プラトーホーニング仕上げ済のICBMスリーブのキット「エバースリーブ(特許取得済)」販売も展開中。同サイズのボア用カワサキZ1なら、全国各地の内燃機プロショップでカワサキZ1用ICBMシリンダーの製作が可能になった。

様々な機種で応用可能なのも特徴



スズキ・ハヤブサ用のボアアップピストンに合せてICBM化を実践したシリンダー。もともとアルミスリーブの純正シリンダーでも、オーバーサイズピストンを組み込みたいならICBMによってアルミスリーブ仕様も可能になる。ヤマハSR用の純正シリンダーとワイセコピストンの組み合わせでICBMシリンダーを製作した実例。右のアルミ製ムク素材の中心に孔加工を施し、薄いスリーブ状に削り出していく。

「柱付き吸排気ポート」だから成せる業



カワサキ大型トリプルばかりではなく、ミドルクラスの2ストトリプル350SS/S2用のICBMシリンダー。削り出しのアルミスリーブにポート孔を加工してからメッキ処理を施し、鋳鉄スリーブを削り落としたシリンダーバレルに新作スリーブを圧入する手順で仕上げられている。ポートの中央に「柱を立てる」、柱付き吸排気ポートにすることで、ピストンの首振りやピストンリングがポート孔に膨張することなく耐摩耗性も格段に向上する。ワークスマシンでは当たり前の技術だが、量産市販車では製造上の問題で柱付きポートは回避されるケースが多かった。

プラトーホーニング+加工精度管理データ



プラトーホーニングが終わったSR-ICBMシリンダーの内径を面粗度計で測定中。この測定技術なしにプラトーホーニングは完成しない。ギザギザの山の上を平面的に加工するのがプラトーホーニング技術。プラトー=高原に対して、ギザギザの谷がクロスハッチ溝となり、その溝が潤滑油を保持する大切な役割を誇る。面粗度計の測定結果グラフはプリントアウトされ、納品時にユーザーへ渡される。グラフ線の上側がピストンの摺動側。こちらには突起部が無くプラトー=高原形状。反対側に深い「油溝保持溝=クロスハッチ」が形成されている。オイル保持溝によって摺動面は通常の1/10の滑らかさになる。

取材協力:iB井上ボーリング https://www.ibg.co.jp/

POINT

  • ポイント1・ 圧倒的なシリンダー内径硬度、耐放熱性、耐熱伝導性を誇る特殊メッキ処理
  • ポイント2・ ピストンと同じくアルミ素材のシリンダーを採用するため、膨張係数が小さくピストンクリアランスを小さくできる
  • ポイント3・ 特に2ストロークエンジンではその短所をリカバーできる新規製作入れ換えスリーブ

内燃機加工のプロショップとして、創業70周年を迎えようとしているのが埼玉県のiB井上ボーリング。70年代には、世界的に有名なメーカー製ハーレー・ダビッドソン用ビッグボアシリンダーの製造を担当。国内シーンでは、バイクメーカー純正の補修用シリンダー=純正パーツ供給部品の製造を請け負っていた、実力のある内燃機加工のプロ集団である。同社が「メッキ内径仕上げ」の技術を展開し始めたのは1980年代の後半のこと。バイクメーカーからの依頼で、特殊メッキを施したアルミシリンダーの加工を開始したときだった。以前は、鋳鉄スリーブ仕様が多く、それが一般的だったが、80年代後半以降のスポーツモデルの多くが「メッキシリンダー化」されていった。そんな時代からメッキシリンダー製造に携わってきたのが井上ボーリングだったのだ。

バイクメーカーから依頼された仕事を担当してきたのが当時の「製造部」で、その技術を一般ユーザー向けの「サービス部」で応用。一般ユーザー向けに技術提供することで、「そのメリットを感じて頂けるはず」と考えたのも井上ボーリングだった。ビッカース硬度で示される「表面硬度」の差が、2桁も違うため、圧倒的な耐久性を誇り、軽量でしかも放熱性が良く、同じアルミ製ピストンとの膨張率も極めて近いため、ピストンクリアランスを一定に保つことができのもアルミメッキシリンダーの特徴だった。しかも焼き付きにくく滑りが良い=摺動抵抗が少ないという、シリンダーにとっては理想的な性能!!それを、より多くの一般ユーザーに提供したいと考えたのである。

最大の問題は「メッキ処理の段取り」にあった。量産シリンダーと同等の「電解メッキ」を施すには、機種ごとに高いコストを投じてメッキ専用治具や電極、ホーニング用ダイヤモンド砥石を製作する必要があった。つまり新しい機種に取り組むたびに、膨大な費用=コストが必要だったのだ。そんな課題に対して、アイデアで乗り越えたのが井上ボーリングだった。機種ごとに治具や電極を作らずに済む方法である。完成したシリンダーにメッキ処理を施すのではなく、スリーブ=筒の状態で先にメッキを施し、メッキ済スリーブをシリンダーバレルに圧入。その後、ホーニングで内径を仕上げるという段取りを採用することで、シリンダー形状の影響を大きく受けずに「メッキ治具を共通化できる!?」と考えたそうだ。この方法で、様々なサイズのスリーブにメッキ処理をしていただけるよう、メッキ業者からの協力も取り付けることができたそうだ。多様化追求の研究を始めてから、約10年の歳月を費やしたそうだ。現在では、2ストエンジンでも4ストエンジンでも、
内径の仕上げ寸法で「φ52~100mm」まで対応できる体制が整い(4輪のポルシェやメルセデスユーザーからのニーズでΦ100mmにも対応)、すでに数多くのモデルでこの技術を実践。数多くのユーザーから大好評を頂いている。

以前なら、鋳鉄スリーブ製作で修理依頼されていたユーザーでも、ICBMの提案をすると、納得を頂き受注に至るケースが増えているそうだ。また最近では、ユーザーから突然、ICBMで仕上げて欲しいとのオーダーシート入りで修理部品が届くケースも増えてきたそうだ。特に、早くから手掛けていたカワサキ500SS/H1や750SS/H2のICBM人気は絶大で、もはや通常のオーバーサイズ加工ではなく、アルミメッキシリンダーのICBMかつ、吸排気ポートにガイド柱を持つ「柱付きICBM」の依頼が増えているそうだ。ハイパワーを追求した空冷2スト時代のモデルは、吸排気ポートを大きく設計しているのが特徴。その大きなポートが影響して、ピストンリング張力でピストンリングエッジとの排気ポートのエッジが引っかかりやすく、その分、各摺動部の摩耗速度も早いことで知られていた。アルミスリーブの新作は、NC工作機械によって行うため、吸排気ポートに「ピストンの首振りを防止するガイド柱付きのデータでスリーブ製作」することで、よりスムーズなピストンの往復運動が可能になるスリーブを製作。
柱付きICBMシリンダーを組み込んだユーザーからの高い評判がクチコミで広がり、特に、大排気量ビッグボアの2ストロークエンジンでは、柱付きICBMの検討例が増えている。そんな一台に、オフロードバイクのパイオニアであるヤマハDT1があり、柱付きICBMの素晴らしさは、徐々に浸透しつつあるようだ。

そんなICBMシリンダーの中でも、一番普及しているモデルがカワサキZ1。現在では、他の内燃機加工のプロショップでもICBMシリンダー化できるように、需要が多いカワサキZ1シリンダーのみ、標準オーバーサイズボアの特殊メッキ&プラトーホーニング済のスリーブを供給する「エバースリーブ(特許取得済)」販売も展開。大きな話題を集めている。井上ボーリングが主張し続けている「モダナイズ」というコンセプトにも、ICBMは確かな技術となっている。モダナイズとは、特別なチューンナップではなく、ノーマルスペックのままでも、現代の加工技術や現代の素材&表面処理技術などを採用することによって、製造当時には弱点を抱えていた旧車エンジンでも、気持ち良くスムーズに稼働するエンジン仕様に作り変えること。そんなコンセプトを掲げ、エンジンが持つ弱点を現代技術で克服するという素晴らしい成功例のひとつが、まさにICBM技術なのだ。

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