
上位モデルやメーカー純正他機種用パーツや、メーカーの垣根を越えたパーツアップデートを楽しむことができるのが、メーカー純正パーツを利用した「純正流用チューニングカスタム」の醍醐味だろう。ディープなところでは純正流用ピストンを組み込むボアアップ。簡単に楽しむことができるのが「バックミラーの交換カスタム」だろう。70年代に流行ったカワサキZ2ミラーの純正流用や、ミラーステーを短く加工する「Z2ショートミラー」などが、流用カスタムを一般的にした最たる仕様と言われている。ここでは、ホンダダックスのエンジンチューニングで装着した、「ホンダCD90(HA03型)純正パーツを流用した」2次クラッチ化をリポートしよう。
目次
キックスプリング折れが発生
エンジンチューニングの繰り返しで分解&パーツ交換=試運転を行っていたら、キックアームが戻らないことに気が付いた。確かに、キックを踏み込んだときにバチッとイヤな音も聞こえた気がした。そこでキックシャフトを分解するとキックスプリングが折れて出てきた。まさかキックギヤの破壊!?なんて思ったが、不幸中の幸い。実は、飛び込みギヤ仕様の通称「A」キックと呼ばれる時代は、エンジンチューンでキック始動が重くなると(ハイコンプレッション化によって)、ギヤ破壊が発生しやすいことで知られている。後期型で通称「B」キック方式と呼ばれる常時噛み合い+ラチェット式のキックギヤになってからは、ギヤの破壊がほぼ無くなった。今回はバネ破断で良かった。手持ちの中古キックバネを並べ、伸びが少ないパーツを組み込むことにした。
CD90用中古純正パーツを購入したが……
現在は廃番部品だが、以前はCD90用ホンダ純正クラッチカバーを利用したコンストラクター製2次クラッチキットパーツも発売されていた。今回は中古部品を購入し、取り付けてみることにした。組み込んだ後に、使い込んでいたクラッチディスクやプレートの摩耗が発覚して「クラッチ滑り」が起こってしまっては組み立て作業が2度手間になってしまう。そこで、コンストラクター製の新品強化クラッチキットを組み込むことにした。
ボルトオンできないパーツの組み合わせ
このクラッチキットはモンキーやダックス系エンジンに対応したものなので、ホンダ純正CD90用エンジンにはクランクシャフトに大型フライホイールや遠心フィルターの装備が付くが、このパーツを組み込むとそれらのパーツ装備は無くなってしまう。したがってエンジンオイル交換を頻繁に行わなくてはいけない。プライマリーギヤだけキタコ製パーツを購入した。クラッチアウターの裏側にはスラストワッシャスペーサーとスラストベアリングが入り作動性の向上が改善されている。組み込み時にはスーパーゾイルスプレーを利用した。また、クラッチセンターとフリクションディスク&プレートを組み込みつつ、フリクションディスクを重ねるときには摩擦材の裏表にオイルスプレーをしっかり吹き付けた。実は、他のコンストラクター製クロスミッションキットが組み込んであるため、ホンダ純正CD90用クラッチ部品では寸法的なツジツマが合わないことも発覚!!
クラッチセンターのボス深さは現物合わせ
異なるコンストラクター製チューニングパーツを組み合わせているため、単純に寸法違いが発覚。そのままでは組み立てることができないため、クラッチセンターボスの座の高さを旋盤加工で調整しつつ、さらにスペーサーを組み込んで寸法的なツジツマ合わせを行ってみた。これで何とかなった。
純正キックギヤを回り止め特殊工具に
旋盤加工によってクラッチユニットは何事も無かったように組み込むことができた。クラッチ全体を持ち上げてスペーサーを追加することでも対応できたが、回転マスは軸受け側へ寄った方が、振動が少なくて絶対に良い。横型エンジン「A」キック時代の飛び込みギヤが、クランク&カウンターシャフトの回り止めギヤ=特殊工具として使い勝手がとにかく良いのでオススメです。これぞ廃物利用!!針金を曲げたようなストッパー部分がツマミになり使い勝手が良好なのだ。フライホイールの役割をする一次クラッチ仕様から普通のバイクのような二次クラッチ仕様になったダックスエンジン。ただし、このキットを装着したことでクランクシャフト用の遠心フィルター機能が無くなってしまった。
クラッチワイヤーも流用加工で自作
チューニングエンジンなので寸法が合致した専用クラッチケーブルが無い。そこでワンオフケーブルを制作することにした。中古のCD90用ケーブルのアウターを利用し、インナーケーブルだけは最新のステンレス製に交換するなどの作動性向上対策を行ってみた。ケーブルエンド金具の固定には電気工事用のハンダポッドが使い勝手良好。
- ポイント1・同系列エンジン搭載モデルの純正部品は流用可能なケースもある
- ポイント2・中古部品を組み込む時には消耗部品をあらかじめ交換しておくのがベター
- ポイント3・完全ボルトオンではなくても、コンストラクターのスペシャルパーツを頼ることで理想が現実になることも
ホンダ横型6ボルトエンジンを搭載したバイクの数やユーザー数は想像以上に多く、現在でも複数のパーツコンストラクターから、6ボルト時代のモデル用スペシャルパーツが販売されている。余談だが、6ボルトエンジンでも、前期に生産されたモデルには、クランクシャフト軸が短い、通称「Sクランク」仕様が多く、後期モデルでは「Lクランク」と呼ばれる、クランク軸が若干長いタイプが多いようだ。12ボルト仕様のモデルへ順次切り換わるまで、6ボルト車は生産され続けてきた。80年代に起こった空前のバイクブームを貫き生産され続けてきたこともあって、その保有台数は世界的かつ想像以上に多い。それがホンダ横型4ストロークミニ系エンジンである。ユーザーニーズがあるからこそスペシャルパーツが開発される図式は、この横型エンジンにも当てはまっている。
ここでは、同じ系列クランクケースを持つ兄貴分モデル、ホンダCD90やベンリー90S用2次クラッチユニットを、一次クラッチ仕様のホンダダックスに純正流用チューニングで取り付けてみた。50/70ccモデルの横型エンジンシリーズは、クランクシャフトの延長上にクラッチユニットを持つ「一次クラッチ」を採用していたが(スーパーカブやモンキーやゴリラも同様)、エンジンパワーやトルクに勝るCD90やベンリー90Sの場合は、プライマリーギヤを介したミッションシャフト軸上にクラッチを持つ「2次クラッチ」を採用。プライマリーギヤによって減速されるため、クラッチ摺動面に対する摩擦力が低下し、クラッチ容量を稼ぐことができるのが、2次クラッチ仕様のアドバンテージである。現代のスーパーカブやグロムなどの横型4ミニエンジンは、クランクシャフト上にワンウェイクラッチを持ち、エンジン回転の上昇=遠心力の強弱によって駆動力をコントロールし、クラッチの断続操作は2次側に装備されるクラッチユニットが担当する仕様となっている。こんな構造によってクラッチのトータルパフォーマンスは大きく向上しているのが特徴となっている。
過去にはホンダCD90系純正クラッチカバーを流用した「キタコ製スーパークラッチキット」といった商品も発売されていたほど、このCD90系2次クラッチは注目の部品でもあった。キタコ独自開発のプライマリーギヤを組み合わせることで、一次クラッチを標準装備する横型エンジン搭載モデルにも装備可能になるのがこのキットの特徴だった。廃番になって久しいパーツだが、キタコ製プライマリーギヤを入手できたので、ホンダCD90用純正2次クラッチパーツを利用し、ダックスを2次クラッチ仕様に改造してみた。工作機械(旋盤)があれば精密な加工ができて良いが、そうは簡単に実践できないことも理解している。しかし、自分専用の作業場やガレージに工作機械を導入すれば、このような部品加工も比較的容易に実践することができるようになる。バイクを新規に「増車」するのも良いが、バイク環境の整備を推し進めることで、このようなエンジンチューニングをサクッと楽しむことができる環境にもなる。バイクいじりを末永く楽しみたいと考えるのなら、このような環境整備も、是非、知っていて頂ければと思います。
完成したダックス号で試運転に出掛けたところ、2次クラッチになった上にクランクが軽くなったことで(一次クラッチ無し仕様+ストロークアップクランク)、エンジンのピーキーさが顕著になり、まるでチューンド2ストロークモデルに乗っているような印象になった。ちょっと大袈裟な表現ではあるが、そんな印象だった。ボアアップ×ストロークアップによって排気量アップしたエンジンには、どんな仕様であれ「2次クラッチ」が必要不可欠だと感じられた結果となった。
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