体の芯から冷え切る冬場のメンテナンスでは、ゴムや樹脂部品もカチカチに硬化します。新品ならまだしも、長く使って変形グセがついた部品は着脱もひと苦労。そんな時に重宝するのがドライヤーやヒートガンの「熱」です。ちょっと温めて柔軟性が回復するだけで部品の着脱がウソのように容易になります。

カプラーの爪やハーネスチューブも冬場の方が割れやすい


絶版車のカスタムがブームだった頃はパワーフィルター装着やレーシングキャブレターへの交換が盛んに行われたが、ノーマル仕様への回帰傾向が強い現在ではエアクリーナーボックス付きの車両が多い。そうなると、経年変化で硬化したキャブレターホルダーやキャブレターダクトがメンテナンス時の障壁になる。

冬場のメンテナンスで辛いのは、工具もバイクもキンキンに冷えてしまうことです。冷たい工具を握りしめているといつしか指先の感覚も鈍くなり、ボルトナットをポロポロ落としてしまい、それを探すのにまたひと手間掛かったりします。

同様に樹脂部品も冬場は柔軟性が低下していろいろ大変です。電装系の大動脈であるハーネスチューブは、複数の配線をひとつにまとめてフレームにクランプされており、フレームのヘッドパイプからヘッドライトケース内に引き込まれる部分は太いチューブが使われています。

ハーネスチューブは摩擦や繰り返しの屈曲に耐えられる強度を保証するためある程度の肉厚が確保されていますが、経年変化とともに冬場の温度低下で柔軟性がなくなると、プラスチックのように割れてしまうことがあります。ステアリング部分のハーネスチューブが割れると内部の配線が剥き出しになるだけでなく、割れたハーネスチューブの断面が配線の被覆を削いで芯線が露出してショートの原因になることもあるので注意が必要です。

さらに経年変化で硬化したカプラーを切り離そうとして爪を押し込んだ途端にパキッと割れてロックが効かなくなるトラブルも、夏場より冬場のメンテナンスでありがちな事例です。劣化したゴムや樹脂は季節に関わらず脆くなっていきますが、特に冬場は気温の要因で破損しやすくなるので慎重な作業が必要です。

POINT

  • ポイント1・気温が低下する冬場はゴムや樹脂の柔軟性が低下する
  • ポイント2・ハーネスチューブが硬化して割れると内部の配線を傷つけてショートの原因になることもあるので、破損を発見したら早めに補修する

冬場にキャブレターを取り外すなら走行直後がおすすめ


ゴムが柔らかければ手で押し込むだけでも装着できるが、クセがついてカチカチになったホルダーにキャブレターを差し込むのも大変。インシュレーターバンドを目いっぱい緩めてもすんなり入らない時はテコの力で押し入れざるを得ないが、4連キャブのステーを曲げないように慎重に作業する。

オーバーホールやセッティングのためにキャブレターを着脱する際、シリンダーヘッド側のキャブレターホルダーとエアクリーナー側のキャブレターダクトをいかにストレスなく抜くかが作業上のポイントになります。

ホルダーとダクトという名称は画像を掲載しいているカワサキ車のパーツリスト上の呼称であり、他メーカーでは別の呼び方をしているものもありますが、シリンダーヘッドとエアクリーナーボックスに挟まれたキャブレターにとって、前後のゴム部品は強敵です。

吸気抵抗を減らしながらキャブレターを揺らさず保持するため、ホルダーとダクトは短い距離で硬いゴムを使用しています。金属製のインシュレーターバンドを緩めても簡単に引き抜けることはありません。4気筒エンジンの4連キャブならなおさらです。

このゴムの硬さが、冬場の作業で障壁となります。ほんの僅かでもエアクリーナーボックスをが後退できるようならキャブレターから遠ざけ、キャブレター本体を後方にずらしながら左右どちらかに引っ張り出しますが、柔軟性が低下したホルダーやダクトがキャブレターにガッチリはまってビクともしない場合も少なくありません。

走行できない長期放置車両の場合は仕方がありませんが、実動車両のキャブレターをメンテナンスする場合、それが冬場の作業であれば、一度走行してエンジンに熱が入った状態で取り外し作業をするのがおすすめです。夏場であれば走行後はしばらく待って熱が冷めてから……となりますが、冬場のゴムは加温されて熱が残っている間に作業する方がキャブにとっても押したり引いたりの余計な力が軽減される利点があります。

POINT

  • ポイント1・シリンダーヘッドとエアクリーナーボックスに挟まれたキャブレターを取り外す際は多少なりとも力業が必要になる
  • ポイント2・冬場にキャブレターを取り外す際は、走行後でエンジンの熱がキャブレターホルダーやキャブレターダクトに伝わっている間に作業すると良い

キャブレター取り付け時はヒートガンでキャブレターダクトを加温して裏返しておく


ドライヤーやヒートガンでホルダーやダクトを加温する際は、あぶりすぎて過熱にならないよう小まめに観察する。経年劣化で硬化した部品を慎重に温めても、新品部品ほどしなやかになるわけではないが、適度に加温してキャブレターダクトの開口部を折り返せばクルンときれいに裏返りダクト自体へのダメージも軽減できる。


インシュレーターバンドで締める10mmほどを折り返すだけで、キャブレター装着時の引っかかりは大幅に少なくなる。ダクトが新品でも中古でも、4連キャブをセットする際はダクトを裏返すことをおすすめしたい。

キャブレターのメンテナンスに合わせてキャブレターホルダーとキャブレターダクトを新品に交換するのであれば、車体へのキャブレター装着でそれほど苦戦することはないでしょう。しかし旧車や絶版車でホルダーやダクトを流用する際は、あらかじめ加温してゴムを柔らかくするのが必須です。

4連キャブの場合、キャブ同士のスロットルバルブの開度を揃える同調が重要ですが、カチカチのホルダーに強い力で押しつけながらこじることで、それぞれのキャブボディの整列がズレるリスクがあります。それを正すためにキャブレター装着後にエンジンを始動して同調を合わせるわけですが、4つのキャブボディを串刺しにしていることの多いバイスターターシャフトにストレスを与えないためにもこじったり捻ったりする力はなるべく小さい方が良いのは明らかです。

また低温で硬化したゴムにキャブレターを押しつけることで、ひび割れや切断するリスクもあります。本来は柔軟性のあるゴムがキャブレターを押しつけた程度で破損してしまうのなら、それ自体が寿命のサインだと捉えることもできますが、あえて壊すようなことはしなくてもよいでしょう。

ドライヤーやヒートガンであぶったり、お湯に浸けたり乾燥器に入れるなど、ホルダーやダクトを加熱するにはいくつもの手段が考えられます。部品を外して温めると、シリンダーヘッドやエアクリーナーボックスに装着している間に温度が下がって硬化してしまう懸念がありますが、エアクリーナーボックスからダクトを取り外してキャブレタージョイント部分を裏返すには、単体で加温するのも有効です。

ダクトの裏返しは、キャブレターを挿入する際のクリアランスが広がるので是非とも実施したいテクニックです。ドライヤーやヒートガンを用いる際は過熱に注意しながら温め、バンドでクランプする部分をエアクリーナーボックス側に折り返します。これで広がる隙間は10mmほどですが、その10mmで4連キャブレターの装着が大幅に楽になります。

固着したボルトナットを緩める際にトーチで加熱することが有効なのはよく知られていますが、ゴムや樹脂部品であっても硬化が深刻な冬場は熱を加えると良いことを覚えておけば、いざという時に役立つはずです。

POINT

  • ポイント1・取り外したキャブレターを装着する際はキャブレターダクトを折り返して隙間を広げる
  • ポイント2・キャブレターホルダーやキャブレターダクトのゴムが硬化している時はヒートガンやドライヤーなどで加温する

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