絶版車や旧車の長期不動車であれば、かなりの高確率で燃料タンクは錆びているものです。変質して異臭を放つものもあれば、さらに進行してすっかり干からびてしまったものもあります。タンク内のサビにはケミカルが有効ですが、タンク内部が乾燥している時には太めの針金などで引っ掻いて、内部のサビをあらかじめ剥がすことでケミカルの反応が活発になります。
カサブタのように堆積したサビは乾いているうちに掻き落としたい
給油口から覗いたタンク内部に湿気がなく錆びている時には、建築用番線などの硬い針金で底板や接合部分を擦ってサビやワニス状に硬化したガソリンを掻き落とす。塗装面に剥離剤を塗った時に傷付いた部分から先に剥がれだすように、中性洗剤やサビ取りケミカルを使う際にもサビや油汚れの上から反応させるより、地肌が露出している部分が多い方が反応が進みやすくなることが期待できる。
サビの深さによって出てくる量は異なるが、ただ単にタンクを逆さまにするより針金でガリガリと突っついてから逆さまにする方が何倍も大量のサビの粉が出てきた。変質したガソリンでタンク内がウェット状態だったら、これほどの収穫は得られない。またこれだけの量のサビを中性洗剤とサビ取りケミカルで除去するより、作業時間も大幅に短縮できる。
燃料タンク内のガソリンを消費しないまま放置すると、空気や湿気が触れることで劣化し、それが引き金となってタンク自体が錆びることもあります。温度や湿度の変化が大きい場所にバイクを置くことでタンク内に結露が生じ、その水分によってサビが進行することもよくあります。
劣化したガソリンはタンクキャップを開けた途端に強烈な異臭を放つのですぐさま分かります。これはウエスに染み込ませて処分するしかありませんが、さらに時間が経過することで「サビが発生しているのにタンク内が空になっていた」というパターンもあります。そもそもガソリン残量が少なかった、キャップが開いていた、コックが開いていた(壊れていた)などいくつかの原因が考えられますが、タンクのサビ取りの中でも内部が乾燥している場合はある意味ではラッキーです。
燃料タンクのサビ落としをする際は、最初からサビ取りケミカルを使うのではなく、中性洗剤で洗浄を行うと良いのは以前の記事(https://news.webike.net/maintenance/54675/)でも説明しています。タンク内が腐ったガソリンで汚れている段階から高価なサビ取りケミカルを使うのはもったいないし、中性洗剤による脱脂洗浄によってたとえサビまみれであってもタンクの地肌が露出すればケミカルが反応しやすくなるのがその理由です。そしてサビが発生していてもタンク内が乾燥していれば、ケミカルを使用するまでの事前準備がさらにはかどります。
乾燥したサビはカサブタのような状態になっていることが多く、ドライバーやスクレーパーで擦ると容易にポロリと剥がれることもあります。錆びたガソリンタンク内も同様で、乾燥することで想像以上に容易に鉄板の地肌から剥がれる場合も多いのです。少なくとも、お湯で希釈した中性洗剤やサビ取りケミカルを注入するより、物理的な摩擦の方が即効性があります。
ガソリンタンクの内部は形状が複雑で、ワイヤーブラシを隅々まで届かせるのはまず無理です。現実的には建築現場の基礎工事で使われる番線や、針金ハンガーを伸ばして何本かまとめた物で底板や奥を突くようにしてサビを叩き落とすのが良いでしょう。この時、素材にサビが浸食していると底板に穴が開いてしまうこともありますが、その程度で穴が開く場合は中性洗剤やサビ落としケミカルを使っても結果は同じなので、できるだけ多く剥がしておいた方が後の工程が楽になります。
- ポイント・燃料タンク内のサビが乾いている時は、乾いた状態でできるだけサビを掻き落とす
サビと鉄板地肌が交互に現れれば中性洗剤でもそれなりに落ちる
接触面積が小さい針金で突く限りカサカサのサビはいつまでも出続けるので、大きなカサブタがおおむね取り除けたら中性洗剤で油分を洗浄する。サビ取りケミカルは金属のサビに反応するので、サビの上に付着したガソリンや油分を除去するのは洗剤の仕事だ。燃料コックの取り付け部分が雄ネジの場合、チューブを差し込んで折り曲げるだけで栓ができる。
中性洗剤をお湯で希釈しながらタンク内に注入して充分に攪拌する。変質したガソリンが残っているような場合、洗剤で洗うことで明らかにサビ取りケミカルの利き具合が向上する。またこの中性洗剤である程度のサビまでは除去できる。
中性洗剤で洗浄した後は水道水でしっかりすすぎ洗いを行う。
燃料タンク内の乾性のサビを針金などで突くとボロボロと剥がれ落ちてきますが、それだけですべてのサビは落ちないので、次の工程では中性洗剤を使います。錆びたタンクに中性洗剤が効くことは前出の過去記事でも紹介していますが、洗剤に含まれる界面活性剤がタンクの地肌とサビの間に浸透することでサビを引きはがす効果が生じます。
中性洗剤がサビの下に潜り込むためには、タンクの地肌全面がサビに覆われているより、部分的に地肌が露出している方が有利です。食事の後で食器を洗う際にも、皿の全面に油膜が張っているより、部分的に陶器やガラスが露出している方が洗剤が境界から割って入り汚れを浮かせやすくなるのと同じ理屈です。
針金でガリガリ突いただけでは部分的なサビしか落ちないにせよ、一部でも鉄板が露出することで洗剤の浸透性はグッと向上します。タンク内に腐ったガソリンが残っていたりヘドロ状になって溜まっていると、サビはカサブタのようには剥がれません。だからタンク内が錆びるのはアンラッキーですが、そのサビが乾いていればラッキーなのです。
タンク内が乾いていればサンドブラストを使うこともできると考える人もいるかも知れません。実際、口金から目視できる範囲であれば針金で突くより均等にサビを落とすことができます。しかしタンク内にブラストガンを挿入し、研磨材の勢いを減衰させずに到達できる範囲は限られており、その割にはタンク内に残った研磨材の回収に苦労します。研磨材とサビの硬さを比較すると研磨材の方が硬く、キャブレターやエンジンに入り込むのは好ましくありません。つまり労力の割に得られる結果は大きくないというわけです。
- ポイント1・カサブタのように乾燥したサビをある程度こすり落として地肌を露出しておけば、残った油分を中性洗剤で洗浄する際の落ちが良くなる
- ポイント2・サンドブラストは乾いたサビに対して有効だが、剥離範囲が限定される上に研磨材回収の手間が掛かりすぎるのが問題
準備が整ってからサビ取りケミカルを使えば効果は倍増する
ここまでが準備段階で、ようやく本命のサビ取りケミカルを注入する。ここで使用しているのはデイトナ製のガソリンタンク錆取り剤&コーティング。1リットルの原液を5~10倍に希釈して使用できる。画像のラベルは黒色だが、現在の製品は赤色ラベルとなっている。
希釈は水でも良いが、お湯の方が反応が活性化する。サビが落ちるまでの時間はサビの程度と現役の希釈度によって前後するが、数時間から12時間程度を1サイクルとして、サビが残っている時は再度温度を上げて注入してみよう。
このサビ取りケミカルは1回使い捨てではなく、何度か繰り返して使用できる。タンクから排出した液はサビをろ過して保管しておく。
昨今の燃料タンクのサビ取りケミカルの主流は環境に優しい中性タイプで、表記上の主成分は界面活性剤であることが多いようです。界面活性剤という点では食器用の洗剤と同様ですが、サビ取りケミカルは鉄のサビに反応するよう調製されているので当然ながら明確な効果があります。
その効果を最大限に引き出すには、繰り返しになりますがサビ取りケミカルに仕事をさせる前の段取りがキモになります。針金で突くだけで剥がれるサビがあるのに、それをサビ取りケミカルを使って取り除くのはもったいないのです。また程度によっては中性洗剤で落ちるサビもあるのに、そこでサビ取りケミカルを使うのももったいない。
針金で突いても希釈した中性洗剤でも落ちない頑固なサビこそ、専用に開発されたサビ取りケミカルを使うべきであり、多少の手間が掛かってもそれを惜しまず行うことで、仕上がりのクオリティは段違いで良くなります。
このように作業の順を追っていけば、最初の段階でタンク内が乾燥している時は勢いに任せて洗剤を注入するようなことはせず、作業としては地味ですがタンク内をガリガリと引っ掻き回すことが結果的にサビ取りの近道であることが理解できることでしょう。
- ポイント1・中性タイプのサビ取りケミカルは界面活性剤の作用を利用しているので、タンク内面がサビで覆われているより鉄板が露出している部分がある方が作用しやすい
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