
不動車再生と言っても、その車両が不動車になる以前、つまり「走っていた頃のコンディション次第」で作業方法には様々な違いが出て当然だろう。ここでは、補修部品を見つけ出すことができたので、内燃機加工でオーバーサイズピストンを組み込んだスーパーカブを題材に、不動車再生に関する「判断基準」は、どのように考えたら良いのか!?再確認してみよう。
旧車オーナーにとってスペア部品は死活問題
旧車のなかでも人気モデルの場合は、アフターマーケットやサードパーティと呼ばれる分野で純正リプレイス部品、リプロダクション部品が数多く製造販売されている例もある。一方、不人気モデルや60年代以前のモデルの場合は、人気モデルでもリプレイス部品が存在しない例は数多く、決して珍しいものではない。当時物と呼ばれる純正部品を見つけた時には、将来のことを想定して、購入=スペアパーツとしてゲットしておくのが賢い選択かも知れない。ピストンに限らず、車体系ならゴム部品がその代表例と言えるだろう。
現代技術で真円真直にボーリング加工
オーバーサイズの新品スペアピストンを持っていたので、エンジンをバラして、スタンダードボアの擦り減ったシリンダーから、新品ピストン&新規ボーリング+ホーニングを行ったシリンダーへ組み換えた。内燃機加工は専門のプロショップへ依頼しよう。2ストエンジンか4ストエンジンか、また、ボアサイズによってもピストンクリアランスはことなるが、今回はやや詰め気味に15~20/1000ミリで指定した。メーカーのサービスマニュウルにある指示値を指定し加工依頼しよう。仕上がってきたシリンダーボアに新品ピストンリングを挿入したら、合口隙間は加工前と比べて狭くなった(0.25~0.30ミリくらいがこのピストンでは最適値)、これでコンプレッションアップを期待できる。
取材協力/iB井上ボーリング https://www.ibg.co.jp
組み付けの際には周辺パーツにも目配り
新品ピストン&ボーリング済シリンダーを組み込む際には、周辺パーツにも気を配らなくてはいけない。ピストンピンクリップは、カット断面にバリが出ていることがあるのでオイルストーンで研磨除去しよう。ピストンスカートの前後エッジも軽く当たるていどに面取りし、各種ガスケットには新品部品を利用し、オイル漏れが無いようにOリングも新品部品に交換しよう。
組み付け時には調整確認作業の徹底
組み立て作業が完了したらタペット調整を行い、ロックナットはしっかり締め付けよう。ミニバイクレースのパドックにいると、けたたましいメカノイズでピットレーンへ戻ってくるバイクが意外と多い。そのノイズの原因は、タペット調整時にロックナットの締め付けトルクが不足していて、走行中にロックナットが外れてしまったことによるノイズ発生が多い。社外部品のレーシングヘッドの中には、アジャストスクリューではなく、タペットシムでクリアランスを調整するタイプもあるほどだ。ロックナットを締め付けた後に、もう一度、シックネスゲージでクリアランスを測定しよう。
ホンダ横型エンジンを搭載したスーパーカブの初期シリーズには、OHVエンジンが搭載されていた。このOHVエンジンは、初代C100シリーズの中でも最後期型。1958年に登場したOHVエンジンのC100シリーズは、設計変更を繰り返しながら1958年から1966年までの8年間製造された。58年59中期までのエンジンは、砂型クランクケースを採用していたことでも知られている。
- ポイント1・不動車再生を行う時には、いきなり作業開始する前に、不動車になった以前の状況を確認してみよう
- ポイント2・修理再生に取り掛かる前に、何が問題なのか(エンジン始動不備の原因)、あらかじめ想像してみよう
- ポイント3・エンジン内部に問題がありそうなときには、分解を想定し、資料を見て事前検討しておこう
どれほど前に生産され、誕生したモデルが旧車と呼べるのか?人それぞれ、ライダーそれぞれの感覚や印象で、違いがあって当然だろう。70年代からバイクの乗り始めた者にとっては「70年代以前のモデル」、80年代からバイク生活になった者にとっては「80年代以前」といったような印象もある。バイクに乗り始めた当時の「憧れ」を強く抱き、引きずるうちに、そのバイクが旧車と呼ばれるようになり、ひとつのカテゴリーを構築している昨今。人それぞれで旧車に対する年代的な違いがあるのは、当然と言えば当然で、だから特定の年式で括ることができないのも旧車なのだ。2020年代に入った現在からすれば「昭和」のバイクは間違いなく旧車である。最近、バイクに乗り始めた20歳前のライダーからすれば、90年代後半のバイクでも、すでに立派な旧車と呼べるはずだ。
昭和30年代の高度経済成長から、昭和が終わるあたりまで、日本の大手バイクメーカーは日本国内で数多くのバイクを生産してきた。その後、地産地消ではないが、需要がある地域で生産する「海外生産」率が一気に高まり、気が付けばもはや国内は空洞化状態。そんな生産管理の影響で、組み立て部品の調達も海外依存になり、国内での部品生産も少量になっているのが現在である。そんな時代の反映で、メーカー純正部品の保有率が劇的に減り、旧車ライフを楽しみたくても、楽しみにくい、楽しめない時代へと、徐々に移行しているのは明らかだろう。
様々な場面で「摩擦」が繰り返されるのがレシプロエンジン。金属部品であっても、長年の利用で擦り減ってしまうもの。だからこそ、質の良いエンジンオイルを使って、よりハイレベルな潤滑を実現したいものだが、不動車を購入したときなどは、過去にどのような使われ方をされてきたのか?一台一台、エンジンのベースコンディションには大きな違いが出て当然だろう。走行距離がほぼ同じ2台のバイクがあったとしても、A車のエンジン内は真っ黒け……。一方、B車のエンジン内は、金属部品の地肌がはっきりクッキリ見えるほどの美しさをキープ。いったい、この違いは、何故、発生するのか?答えは単純明快!!「エンジンオイルの交換頻度の違い」である。
大型モデルは、摩擦箇所が多く熱量も高いことから、高品質かつ早め早めのオイル交換を推奨する例が多いが、それは原付クラスの小排気量モデルでも同じである。非力な馬力の分、爽快な走りを繰り返すと、どうしても常用高回転走行となり、エンジンオイルは劣化しやすくなる。また、市街地ユースがメインで、一度に乗る距離が少ないから「オイルも長持ちする」といった間違った認識のライダーもいる。エンジンが温まったり、冷えたりの繰り返しは、一気に長距離を走ったエンジンよりも、エンジンオイルの劣化が早いものだと知っておこう。特に、冬場などは、温度差によってエンジン内部に結露が生じ、エンジンオイルに水分が混じりやすい傾向になってしまう。
また、オイル交換後に試運転する際は、エンジンを温めて、ある程度の距離を走り、暖気中に発生した結露=水分をしっかり吐き出しておきたいものだ。特に、マフラー内に水分が残留すると、内側からサビが発生し、気が付いた時には「マフラーに穴が……」とお話を聞くことが多い。どんな走り方をしてましたか?と質問すると「自宅近所をちょろちょろっと走ることが多かったかな?」との返答。それでは結露を吹き飛ばすことができず、マフラー内に水分を溜めるためのエンジン始動&試運転!?だったかのようだ。
エンジンパワーが、明らかに低下してきた!?始動性が悪くなってきた!?白煙が出始めた!?などなど、そんなときにはエンジンコンディションを回復したくなるもの。コンディション回復にも様々な手段があるが、根本的な回復には、心臓部であるピストンとシリンダーのコンディションを確認しなくてはいけない。過去ログでは、2ストエンジンのピストンリング摩耗に触れているが、4ストロークエンジンでも、それはまったく同じである。2ストエンジンのピストンリングと比べれば、4ストエンジンのピストンリングは「数倍以上の耐久性、耐摩耗性」があることで知られている。2スト、4ストを問わず、エンジン性能にとって大切な要素のが、圧縮=コンプレッションである。それを維持する役割を持つのが、ピストンリングでありピストンなのだ。エンジン分解した際には、まずはピストンリングをピストンから取り外し、シリンダーボア内に単品で挿入してみよう。リングの合口ギャップの広さで「摩耗の進行度」を把握することができる。
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