
エアクリーナーボックス内に装着されたエアクリーナーエレメントは、空気中のゴミや異物を取り除きエンジンコンディションを好調に維持するために不可欠な部品です。エレメントの素材には不織布やろ紙やウレタンフォームがあり、中でもウレタンフォームは軽量で洗浄して繰り返し使える利点があります。しかし経年劣化でボロボロに崩壊することもあるので、定期的なメンテナンスが必要です。
ウレタンフォームを使ったスポンジフィルターでも、不織布を使う乾式フィルターでもエレメント詰まりがエンジン不調につながる
街中を低速で走行することが多い2ストロークの原付スクーターは、エンジンのクランクケースからキャブレターに向かって一次圧縮が吹き返すこともあり、エアクリーナーボックスの底にガソリンや2ストロークオイルが溜まるチューブ(右下)が付く(4ストローク車のエアクリーナーボックスにも乳化したオイルを溜めるチューブが付く)。
キャブレター車でもフューエルインジェクション車でも、メーカーが市販車を開発する際には必ず吸気系のセッティングを行いますが、その際にエアクリーナーエレメントはきわめて重要な要素となります。エレメントにはウレタンフォームにオイルを染み込ませた湿式タイプ、ろ紙や不織布を使用する乾式タイプ、ろ紙にオイルを染み込ませたビスカス式の3タイプがあり、いずれもゴミやホコリを捕捉、吸着して取り除きます。
エンジンが吸い込もうとする空気がエレメントを通過する際には一定の抵抗となりますが、メーカーではエアクリーナーボックスの入り口からボックス容積、エアクリーナーエレメントの抵抗までを含めて開発時にセッティングを行っています。そのため「多少の異物吸い込みなど気にせず吸気抵抗を減らしたい」とエレメントだけを取り外すと、それが原因でセッティングがズレてしまうことがあります。
同様に、エアクリーナーボックスの吸気口をむやみに拡大するのも吸気系のバランスに影響を与える場合があります。キャブレターやインジェクションのセッティング変更を前提としているならまだしも、「何となく抵抗になっていそうだから」という理由だけで取り外すのは止めておいた方が良いでしょう。
吸気系のバランスでは、エレメントが目詰まりしてエンジンが必要充分な空気が吸えなくなるのも問題です。走行距離が増えるにつれて徐々に汚れていくエレメントの影響は分かりづらいですが、キャブレター車の場合はエレメントが目詰まりすることで、エンジンが発生する負圧がフロートチャンバーに大きく加わることになり、結果的に空燃比はガソリンが濃い状態になります。
インジェクション車の場合はエアクリーナーボックス内の圧力や流入空気量などの変化でECUが補正対応するかも知れませんが、エンジン内に流れる空気量が減少すればエンジンパワーが低下するのは当然です。
チューニングやカスタム好きにとっては、エアクリーナーエレメントはエアクリーナボックスと共にすぐさま取り外したい余計な部品かも知れません。しかし空気中に漂うゴミやホコリはエンジンにとって大敵であり、まさに今般私たちの生活にとって身近なマスクと同様に不可欠な装備です。その一方で、つけっぱなしも性能低下の引き金となるので、定期的なチェックが不可欠です。
- ポイント1・湿式、乾式を問わず、市販車の吸気系はエアクリーナーエレメントがあることを前提にセッティングが決定されている
- ポイント2・走行時のホコリや汚れなどでエレメントが目詰まりを起こすと、キャブレター車であれば空燃比が濃く変化するので洗浄や交換が必要
吹き返したガソリンやフィルターオイルがウレタンを劣化させて崩壊するとエンジン不調に直結する
チューブ内のガソリンやオイルを放置するとエアクリーナーボックスの底に溜まり、スポンジがずっと浸ってしまい劣化が進行する。またオイル溜まりがなくても、経年劣化によってボロボロに分解してしまうため定期的なチェックが必要。
ウレタンフォーム(スポンジ)にオイルを染み込ませた湿式エレメントは小排気量車に装着されることが多く、細かく折り曲げたろ紙をフレームに組み付ける乾式タイプに比べて軽量で、水分が付着してもろ過性能が低下しづらい特徴があります。
その一方でガソリンやオイル、有機系のケミカルがウレタンフォームの組織に影響を与える場合があります。具体的にはスポンジ自体が簡単に裂け、破れ、崩壊します。劣化したスポンジはまるでカステラのようにポロポロとほぐれて、エンジンの吸気によって吸い込まれます。
年代的に見るとウレタンフォームのエレメントはキャブレター車に多く、バラバラに崩壊したスポンジがキャブレターに付着すると、始動不能や走行時の不調などさまざまな不具合を引き起こします。スポンジフィルターに穴が開いて吸気抵抗が減少し、エンジンの調子が良くなるということはありません。
ガソリンや油分で崩壊したスポンジの一部はホコリのようにフワフワと舞いますが、一部はコーティングされた砂糖菓子の破片のようにベタベタと吸気系に張りつきます。それらキャブレターの吸気通路であるベンチュリーに留まったり、ガソリンの出口を塞ぐこともあります。構造的には小さな穴がいくつも開いているだけのように見えるキャブレターですが、それらの穴で空気とガソリンが精密に計量されており、汚れが詰まることで空気やガソリンの流量が変わり始動不能などの影響が出ます。
取扱説明書やサービスマニュアルには6カ月、12カ月ごとに状態を確認して、必要に応じて洗浄と給油を行うよう指示がありますが、バイクショップで点検を行っているユーザー以外でどれほどの人が定期的にエアクリーナーエレメントを着脱確認しているでしょうか?
昨今の時節柄、駐輪場の隅にしばらく置きっ放しにしておいたスクーターを引っ張り出して乗ろうという人も多いでしょうが、そういうバイクこそタイヤの空気圧チェックと合わせてエアクリーナーエレメントのチェックを行うことを強くお勧めします。
- ポイント1・ウレタンフォームの湿式スポンジフィルターはガソリンや油分の付着、経年変化によって劣化してボロボロに崩壊する
- ポイント2・取扱説明書やサービスマニュアルの点検サイクルに従ってメンテナンスすることが重要
純正部品がなくて汎用フィルターを使用する際はガソリンやオイルに冒されない製品を選択する
ちょっと捻るだけで簡単に裂けてしまうほど脆くなっているが、外枠が原形をとどめていれば汎用のスポンジに写し取れるのでラッキーだ。さらに状態が悪いようなら、エアクリーナーボックスに厚紙を当ててフィルター部分の形状をトレースする。フィルターがボックス本体とカバーに挟み込まれるタイプであれば、隙間ができないよう形状を決める。
スポンジは自在に変形できるので、実際のフィルターより若干大きめにカットしてもボックスに押し込むことができる。デイトナ製のターボフィルターシートは、スポンジの密度が粗い黄色面と、密度が細かい黒色面の二重構造で、黄色面をエアクリーナーボックスの吸気側、黒色面をキャブレター側に向けるのが一般的な使用方法。
純正エアクリーナーエレメントはフィルターオイル(2ストロークオイル)でウェット状態にしてから組み付けるが、デイトナのターボフィルターは乾式タイプなのでオイルは不要。汚れたら中性洗剤でもみ洗いして再使用できる。
エアクリーナーエレメントを交換する際、その機種の純正部品を入手するのが最も安心です。エアクリーナーボックスはケース本体とカバーという構成が一般的で、純正エレメントは両者の間に隙間なく装着できます。また純正部品として供給される部品素材であれば、一定期間の耐久性も保証されます。
これに対して純正部品の販売が終了してしまった機種や、純正部品を待つことなくすぐに使えるのが汎用タイプのスポンジフィルターです。バイクのエアクリーナーエレメント用に開発された汎用素材であれば、ガソリンやオイルで変質する心配も少なく、ゴミやホコリのろ過性能も考慮されています。
代表的な汎用フィルタースポンジのひとつが、デイトナ製のターボフィルターです。この製品は粗目と細目のポリウレタンフォーム巣材を重ねることで、高い吸入効率とろ過性能の両立を図っているのが特徴です。容易にカットできるため、エアクリーナーボックスの中でシート状で使用する場合もフレームに巻き付けて使用する場合でも、形状にぴったり合わせて製作できます。
バイク用品メーカーがエアクリーナーエレメント用に開発したスポンジなら心配ありませんが、ホームセンターなどで販売されているスポンジを流用する際は注意が必要です。使用素材がポリウレタンフォームであっても、ガソリンやオイルに対する耐久性は組成によって異なるため、中には短期間で劣化してしまう物もあります。エアクリーナーエレメントに使うのであれば耐ガソリン、耐油性に優れたスポンジを選択しましょう。
- ポイント1・専用のフレームを使うことが多い乾式やビスカス式エアフィルターに対して、スポンジタイプのフィルターは純正部品だけでなく汎用品で製作できることが多い
- ポイント2・汎用スポンジを使用する際は、耐油耐ガソリンでエアクリーナーエレメント対応のスポンジを選択する
この記事にいいねする