クラッチレバーの操作でクラッチプレートとフリクションプレートの隙間が変化して駆動力を断続する多板クラッチ。クラッチプレートがクラッチボスと、フリクションプレートがクラッチハウジングと噛み合いますが、クラッチボスやクラッチハウジングが摩耗すると断続時の誤動作につながることがあります。クラッチミート直前のレバーに違和感がある時は、プレートだけでなくクラッチボスやハウジングの状態もチェックしてみましょう。

クラッチボスとクラッチハウジングはプレートで叩かれ続けることで摩耗が進行する


クラッチレバーを握るとクラッチプレートとフリクションプレートが離れて、クラッチレバーを離すと両プレートが密着して動力を断続するのがクラッチの役目。クラッチプレートとフリクションプレートを複数枚ずつ組み合わせるのは接触面積を稼いで滑りづらくするためだ。両方のプレートが擦れ合いながら回転する半クラッチ状態が長く続くとフリクションプレート表面の摩擦材の摩耗につながる。


フリクションプレート外周の凸がクラッチバスケットのドッグと噛み合い、クラッチプレートは内周の凸がクラッチボスとのスプラインと噛み合う。クラッチを切ると両プレートの凸がドッグとスプラインの表面をスライドして離れ、クラッチがつながる際に凸が噛み合うことでドッグとスプラインを叩くことで段付き摩耗が発生する。エンジンを始動するとクラッチボスとクラッチバスケットは一緒に回転するが、ニュートラルの間はクラッチボスがつながるメインアクスルが空転しているので駆動力は伝わらない。


メインアクスルのナットを外すとクラッチボスとクラッチハウジングを取り外すことができる。クランクシャフトの回転はクラッチハウジング→フリクションプレート→クラッチプレート→クラッチボス→メインアクスルの順に伝達される。

湿式か乾式の違いはありますが、大多数のバイクは「多板式」と呼ばれるクラッチを採用しています。多板式と対になるのは「単板式」で、これはバイクであればモトグッツィやかつてのBMW、自動車のマニュアルミッション車に採用されています。

表面に摩擦材が付いたフリクションプレートと金属板のクラッチプレートを交互に重ね合わせているのが多板式の特徴で、双方のプレートはそれぞれクラッチハウジングとクラッチボスと一緒に回転します。その上で、クラッチレバーの操作によって両プレートの隙間が開いたり閉じたりすることで動力を断続しています。

クラッチプレートとフリクションプレートはクラッチスプリングの圧力で密着しますが、エンジンが発生する強力なトルクでスリップしないよう、クラッチプレートはクラッチボスと、フリクションプレートはクラッチハウジングと、それぞれ凸凹によって動力を伝達しています。クラッチプレートは内径に凸凹があり、フリクションプレートは外径に凸凹があります。

バイクが停止している状態でクラッチを握り、ギアを1速に入れてつなぐ際にはクランクシャフトと共に回転するクラッチハウジングと、ミッションにつながってまだ回転していないクラッチボスとの間には相当の回転スピード差が生じます。その状態から徐々にクラッチをつなぐことでフリクションプレートからクラッチプレートに回転力が伝わり、メインシャフト、ドライブシャフトと伝達されることでリアタイヤが回り始めます。

この時、2種類のプレートの凸凹部分はクラッチボスとクラッチハウジングに強い力で押しつけられます。エンジン回転数を上げてクラッチを勢いよくつなぐ、レースのスタートのようなクラッチミートを行えば、衝撃はさらに大きくなります。またクラッチがつながった状態でも、スロットルの開閉をラフに行うことでプレートがクラッチボスとクラッチハウジングを叩く動作となってしまいます。

こうした操作によって、クラッチボスとクラッチハウジングのプレート接触面に段付き摩耗が生じることで、さまざまな影響が生じます。

POINT

  • ポイント1・多板クラッチのクラッチプレートとフリクションプレートはクラッチスプリングで圧着されながら、クラッチボスとクラッチハウジングと機械的に噛み合いながら動力を伝達する
  • ポイント2・クラッチ断続時にクラッチプレートとフリクションプレートに叩かれることでクラッチボスとクラッチハウジングに段付き摩耗が発生する

段付き摩耗がクラッチミート時の異音やジャダーの原因になることも


クラッチハウジングのドッグはクラッチを断続するたびにフリクションプレートの外周凸部でチョップされるような力が加わり、回転方向に段差が生じる。半クラッチを丁寧に行い、クラッチがつながった状態でむやみにスロットルを開閉しないなど、扱い方次第で摩耗を軽減できるが、構造的には走行距離の増加によって段付き摩耗が進行するのは致し方ない。


クラッチバスケットのドッグの段付き摩耗はヤスリなどで修正しやすいが、クラッチボスのスプラインの凸凹は工具が入りづらく修正しづらい。段差をならそうと無理をすれば、かえって段差がきつくなりクラッチの切れに悪影響を与える原因になってしまうので注意が必要だ。

バイクメーカーによっては、クラッチボスやクラッチハウジングの段付き摩耗を「ピッチング」と呼ぶこともあります。プレートに叩かれた部分が規則的に縦方向に凹むためか、クラッチミート時に車体が前後に揺れる症状によるものかは分かりませんが、段付き摩耗によってクラッチプレートとフリクションプレートが断続する際に不規則で余計な動きが生じます。

フリクションプレートとクラッチハウジングでは、プレート外周の凸がハウジングの凹を叩くことで、叩かれた面に段付き摩耗が生じます。するとクラッチレバーを握ってクラッチプレートとフリクションプレートの隙間を広げようとした時にクラッチハウジングの段付き部分にプレートが引っかかり、クラッチの切れが悪くなる場合があります。クラッチをつなぐ際も同様で、プレート外周の凸がハウジングの摩耗部分に引っかかることでスムーズなクラッチミートを邪魔することがあります。

段付き摩耗がさらに進行すると、クラッチレバーを握ることでプレッシャープレートの圧着力が抜けても、クラッチプレートとフリクションプレートの隙間が充分に開かず、常に半クラッチのような状態になったり、停止時にニュートラルが出づらい、ニュートラルから1速にシフトすると大きなショックが伝わるなどの不具合にもつながります。

クラッチボスやクラッチハウジングの段付き摩耗を抑制するには、クラッチ操作を丁寧に行うことが有効です。半クラッチを長く使いすぎるとクラッチプレートとフリクションプレートの接触面が過熱して不具合の原因になりますが、適度に使うことでクラッチボスやクラッチハウジングへのダメージを低減できます。

半クラッチをうまく活用するにはクラッチレバーやクラッチケーブルのフリクションロスを減らすことも有効です。ケーブルの潤滑不良で半クラッチ領域のコントロールが分かりづらいと、どうしてもクラッチミートが雑になります。クラッチレバーのピボットボルトのグリスアップも同様です。レバーストロークの初期段階がスムーズであれば半クラッチのコントロールも容易になり、クラッチミート時の衝撃を軽減できればクラッチボスやクラッチハウジングの段付き摩耗も抑制できるというわけです。

一方、湿式と乾式の違いも段付き摩耗に影響します。クラッチの扱い方やクラッチケーブルの潤滑が重要なのはどちらも同じですが、エンジンオイルやミッションオイルに浸っている湿式の方がクラッチ断続時の衝撃が軽くなるのは確かです。乾式クラッチは湿式に比べてタッチがシャープなのが持ち味ですが、ハウジングを叩く力もダイレクトに伝達されます。その上、接触面の衝撃を緩和する油膜もないのですからクラッチ操作時は優しく行うような配慮をした方が良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・クラッチハウジングが段付き摩耗するとクラッチが切れづらい、シフトチェンジがしづらいなどの不具合につながることがある
  • ポイント2・段付き摩耗を防ぐにはクラッチ操作を丁寧に行うのはもちろん、クラッチケーブルやクラッチレバーのフリクションロスを軽減することも重要

長期保管車はクラッチプレートとフリクションプレートの張りつきにも注意


走行距離が少なくても経年変化でクラッチプレートに錆が発生する場合がある。この程度ならクラッチの切れに違和感はないが、エンジンオイルやミッションオイルの汚損の原因になるので、クラッチのメンテナンス時に気がついたらセットで交換する。


クラッチプレートとフリクションプレートが密着した状態で長期間放置すると、サビの影響で2種類のプレートが一体化してしまう。こうなるとクラッチレバーを握ってもプレートが離れないのでクラッチは切れず、ギアを入れるとクランクシャフトの回転力がいきなりミッションに入力してエンストしてしまう。このレベルで錆びると、スクレーパーやマイナスドライバーを使わないと固着が剥がれない。

クラッチボスやクラッチハウジングが段付き摩耗した場合、それが軽度であればヤスリやサンドペーパーで凸凹をならすことで改善できます。しかしプレートで叩かれて凹んだ部分に合わせて削ると回転方向のクリアランスは拡大するため、摩耗がさらに加速する結果につながりかねないので注意が必要です。

クラッチボスとクラッチハウジングとは別に、クラッチ操作に影響を与える要因として鉄製クラッチプレートのサビがあります。これは長期間乗る機会がなく保管されていたバイクでありがちな症状で、クランケース内の湿気によってクラッチプレートが錆びてフリクションプレートの摩擦材に食い込み、クラッチレバーを握ってもクラッチがつながったままにになるものです。

クラッチプレートとフリクションプレートが一体化すると、停止状態からギアを1速に入れた途端に車体が勢いよく走り出そうとして、多くの場合はその場でエンストします。この場合もまったく半クラッチがない状態でエンジンの動力がミッションに伝達されるため、クラッチボスとクラッチハウジングに大きな力が加わります。

クラッチが張り付きが軽症なら、エンジン回転が勢いよく入力した衝撃で張り付きが解消されることもありますが、プレート同士ががっちり張りついてしまったら何度も1速に入れてもエンストするばかりなので、クラッチを分解して強制的に剥がさなくてはなりません。その際にクラッチプレートのサビが顕著な場合、フリクションプレートの摩擦材が剥離しているような時には無理に再使用せず、新品部品に交換しましょう。

POINT

  • ポイント1・長期保管車でクラッチプレートとフリクションプレートが張りついている場合、両方のプレートを新品に交換する

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コメント一覧
  1. リポビタン爺 より:

    個人的には大好きやけど
    誰向けの記事?

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