バイクの回転部分に必ず組み込まれているベアリングの中で、代表的な物と言えばボールベアリングです。回転部分のフリクションロスを低減し、部品の摩耗を防ぐために必要なベアリングは、適切な潤滑があれば簡単に壊れるものではありません。しかし何らかの原因で破損して交換する際には専用工具=ベアリングプーラーが必要です。ここではベアリングの内輪にチャックを掛けて引き抜くパイロットベアリングプーラーの使い方を紹介しましょう。

異物混入やサビはベアリングの寿命に含まない


クランクケースに圧入されたボールベアリングの例。左側はシャフトが貫通するため内輪は貫通穴だが、右側は内輪の奥に壁がある止まり穴に圧入されている。この場合、裏から叩くことができないのでベアリングプーラーで手前に引き抜いて取り外す。

ブッシュやプレーンメタルベアリングやボールベアリングは、回転する部品の間にあって抵抗を軽減し、軸の位置を決めるための重要な機械要素部品です。中でもボールベアリングはエンジン、ホイール、スイングアームピボットなどバイクにとって要となる部分に組み込まれています。

普段はスムーズに回転しているベアリングに何らかの不具合が発生した場合、我々ユーザーはしばしばそれが寿命であると捉えがちです。しかしベアリングの働きからすると、それらはユーザー側の何らかのミスによる故障であり、本質的な寿命とはボールが接して回転する内輪や外輪の表面が剥がれる状態を指すそうです。つまりホイールベアリングに雨水やホコリが入ったり、エンジン内部の切り粉がカウンターシャフトの転がり面に巻き込まれて傷が付いたり、ロックするような症状は明らかな故障だと言えます。

正しく使用していても摩耗していくタイヤやブレーキパッドは違って、ボールベアリングは理想的な環境があれば長く使用できます。自動車のホイールベアリングなどは当たり前のように10~20万kmの使用が可能です。しかしノンシールタイプのボールベアリングが装着されたホイールで、アクスルシャフトのダストシールが経年劣化で硬化したような場合、浸入した水分によってベアリングが錆びることがあります。これもベアリング自体の原因ではありませんが、ユーザーの立場からすれば寿命のようなものでしょう。ただ、ボールベアリングの名誉!?のために言っておくとすれば、ベアリング交換の大半は寿命というより故障を原因とするもののようです。

POINT

  • ポイント1・タイヤやブレーキパッドと違い、使用条件を誤らない限りボールベアリングが自然に摩耗したり寿命を迎えることは少ない
  • ポイント2・バイクのベアリングを交換する理由としては異物の混入やサビなどの故障によるものが多い

ベアリングを取り外す場合は交換が大前提


反対側のクランクケースに圧入されたベアリングは左右ともシャフトが貫通するため、裏側から叩くことができる。圧入時の抜け止めが付いているので叩く際は内輪となり、鋼球が外輪と内輪に食い込むため外したベアリングは再使用できない。

これに対して、故障や異常がなくても、ホイールのペイントやエンジンオーバーホールなど、カスタムやレストア作業に伴ってベアリングを取り外す場合があります。この場合でも、一度外したボールベアリングは再使用しないのが原則です。ボールベアリングは外輪と内輪の間に鋼球が配置されており、それぞれの中心が一直線上にある状態で機能します。

ベアリングを取り付ける際、内輪を軸に圧入するベアリングなら内輪を押し、穴に圧入するベアリングは外輪を押すのが必須となっています。しかし取り外す際は、多くの場合軸に圧入したベアリングなら外輪を引き上げ(または押し出し)、穴に圧入したベアリングなら内輪を引き上げ(または押し出し)なければなりません。この時、内輪と外輪の一方だけに強い力が加わってしまい、その結果スムーズな回転を妨げてしまう場合があるため、一度外したベアリングは再使用しないことになっています。

POINT

  • ポイント1・ボールベアリングを取り外す際には想定外の力が加わるため、再使用せず新品に交換する

内径にぴったり合うチャックを使用することが重要


ベアリングに挿入するチャックのサイズが同じでも、引き抜き工具の違いによってステータイプのベアリングプーラーとスライディングハンマータイプのベアリングプーラーは異なる。ベアリングプーラーの種類によっては、チャックを共用してスライディングハンマーだけオプションで設定されている製品もある。チャックのダブりを避けるなら、別途ハンマーを追加できるプーラーを選択するのが良いだろう。


ベアリングの周囲にステーを立てづらい場合でも、スライディングハンマーならチャックさえ掛かれば引き抜くことができる。ハンマーを斜めに引くとチャックやベアリングが圧入された部品自体を傷めることがあるので、チャックに沿って真っ直ぐ引き上げる。


圧入されたベアリングがハンマーの重りの慣性力によって簡単に引き抜ける。ステーを立てる余裕があっても、スライディングハンマーの方が手早く作業できるためこちらを好む作業者も少なくない。


バイクメンテナンスでベアリングプーラーといえばこのスタイルが定番だろう。チャックの両脇にステーを立てて、ステーに直交するハンガーの長いボルトをねじ込み、ボルトを回り止めしながらナットを締め込む。ベアリングが抜けずにチャックだけ滑って上がってしまう時は、チャックのプッシュボルトのねじ込み不足だ。

パイロットベアリングプーラーはホイールベアリングやクランクケースに圧入されたボールベアリングを取り外す工具がです。この工具は内輪の内径寸法に適合したチャックの爪を掛けて手前に引き抜きます。ホイールのような貫通穴であればベアリングの裏側から内輪を叩くことができますが、手前に引き抜くパイロットベアリングプーラーがあれば止まり穴に圧入されたベアリングを取り外すことができます。

この工具のカギとなるのは、内輪に取り付けるチャックです。ベアリングの内径はφ8、10、12、15、17、20mm……と規格で決まっていて、十字に切れ込みの入ったチャックを貫通させてプッシュボルトで内輪に押しつけます。チャックの先端は胴体部分より僅かに広がった爪状になっており、貫通した内輪の面取り部分に掛かって固定されます。チャックが単純な円筒状だと強く圧入されたベアリングに対して滑って外れてしまう可能性がありますが、チャック先端の爪が内輪に食い込むことで確実に取り外せるようになっているのです。

このため、ベアリング内径より僅かに直径が大きい爪を貫通させる際に抵抗を感じますが、だからといって1サイズ小さいチャックを使ってはいけません。チャックの寸法は爪部分以外の円筒部分で決まっており、内輪に爪が掛かった上で円筒が密着することでベアリングを引き抜くことができるからです。

チャックを引き抜くためのツールは、ベアリングが圧入されている周囲に余裕があれば2本のステーとハンガーを立ててボルトナットを使用します。ホイールベアリングやスプロケットハブなどのベアリングを抜く際はステーの接地点を確保しやすいですが、圧入部分に対してチャックを垂直に引き上げため、ステーとハンガーを使用する際は2本のステーの接地面が水平であることが条件となります。そしてステーと直交するハンガーの長いボルトをプッシュボルトにねじ込み、ナットを締め込むとボルトが引き上げられてベアリングを引き抜くことができます。

一方、ベアリングの周辺が狭くてステーが立てられない場合は、スライディングハンマーを使用します。プッシュボルトにスライディングハンマーを組み付け、ウェイトを引くことでチャックに衝撃を与えながら引き抜きますが、この際はハンマーを抜き方向に真っ直ぐ引くことが重要です。

ベアリングプーラーがあればベアリング交換も戸惑うことなく実践できます。場所によってステーとスライディングハンマーの使い分けが必要ですが、エンジンでも車体でもさまざまな作業をを行うために揃えておくとよいでしょう。

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