
ディスクブレーキの作動油であるブレーキフルード。作動油と書くとオイルのようなイメージで、オイルと言えば水を弾くと想像しがちですが、実はブレーキフルードは湿気が大好き。フルード交換やエア抜きの際にブリードバルブがフルードで湿ったままだと、真っ赤に錆びることもあります。そんな時は慎重に取り外して新品に交換しましょう。
バルブに付着した水分で内部からサビが成長することもある
ブレーキホースはアフターマーケットパーツに交換してあるが、ブリードバルブは対照的に赤サビに覆われている。バイク好き、メンテナンス好きなら、ブレーキホース交換と合わせてバルブも交換すれば良いのに……と思うことだろう。
工具を当てる六角部は、スパナでは空振りするほど大きくナメており、中心部分の穴も奥まで錆びているようだ。キャリパー側も工具が当たったような傷がいくつも付いているので、外そうとして諦めた過去があるのかもしれない。
ディスクブレーキのキャリパーには必ずブリードバルブ(ブリーダープラグ、ブリードスクリューと呼ばれることもあります)が付いています。パスカルの定理を使って、マスターシリンダーのピストンを押した力をキャリパーピストンに伝えるのがブレーキフルードの役目ですが、この時フルード内にエアーが混入していると、レバーを握った力がフルードのエアーを圧縮するために使われてしまいます。そのため、経路内のエアーを追い出す出口としてブリードバルブを利用します。
フロントブレーキの場合、レバー何度かポンピングしてから握り込み、バルブを1/4回転程度緩めてすぐに締め付けることでブレーキホースやキャリパー内部のエアーをブリードプラグから押し出すことができます。エアーの噛み込みがあるとレバーストロークが深くタッチが曖昧になりがちですが、ブリードバルブからしっかりエアー抜きすることでカチッとしたタッチが得られます。
メンテナンスでもカスタムでも、ディスクブレーキでフルード交換をした際にはエアー抜き作業は必須ですが、エアーが抜けた後のブリードバルブの後処理も重要です。ブレーキフルードは作動油と呼ばれることもありますが、水分を弾くオイルではなく、空気中の水分を取り込むことで沸点が低下するため定期的な交換が必要であることからも明らかなように吸湿性のある液体です。
そんな液体がブリードバルブに付着していたら、それこそサビの温床となります。ブレーキキャリパーはアルミ製なので赤サビが発生することはありませんが、そのキャリパーに付くブリードバルブだけが真っ赤に錆びているのを見たことはないでしょうか?それがフルード残りによるサビです。
ブリードバルブには上部に付くべきゴムキャップが外れたままだと、中空のバルブ内に水分が入って内部でサビが進行することもあります。その結果、通路が塞がったり、逆にバルブ先端とキャリパーの接触面の密着度が低下してフルード漏れの原因になることもあります。
- ポイント1・ブレーキフルードは吸湿性が高い液体なので、ブレーキメンテ後にブリードバルブに付着したままだとサビの原因になる
- ポイント2・中空部分への水分の浸入を防ぐため、ブリードバルブのゴムキャップが重要
雑に扱うと破損しやすい中空構造なので要注意
ロッキングプライヤーで掴んで取り外すと、ネジ部分にもサビがびっしり。ゴムキャップがない状態でバルブの上部から雨水などが浸入して、先端の横穴から入り込みブレーキフルードと反応した可能性がある。僅かに錆びていない先端の円錐部分がブレーキキャリパー側のフルード出口をシールしているので、この状態でもフルードは漏れていない。ただし、サビで太ったネジを着脱することでキャリパーの雌ネジを傷つける危険性は当然ながら高まる。
錆びたブリードバルブを無傷で取り外せたのは良かったが、交換用の新品バルブの手持ちがなかったので、次善の策として中古品を使用する。その場合ネジ径とピッチが合っているのはもちろんだが、先端の円錐部分に傷がないことを確認する。ブリードバルブの先端がいつも湿りがちな場合、キャリパーとピッタリ密着せずブレーキフルードがジワジワと滲み出している可能性がある。何度エアー抜きしてもしばらくするとタッチが悪くなる時も、バルブとキャリパーの接触部分に問題がある可能性がある。
錆びたブリードバルブは交換が必要ですが、中心部が空洞で通常のボルトに比べて強度が低いので取り扱いに注意しなくてはなりません。腐食で脆くなった六角部はスパナではナメやすいので、取り外す際は最低でもメガネレンチを使用します。それでもナメそうならロッキングプライヤーを使いますが、強く握りすぎると潰れたりネジ部分がキャリパー内部に残った状態で折れてしまうこともあります。
ロッキングプライヤーでは破壊しそうな時に試してみる価値があるのが、内側に左ネジの螺旋が刻まれたターボソケットと呼ばれる工具です。この工具をラチェットハンドルに取り付けて、六角部がナメかかったボルトナットやブリードバルブを反時計回りに回すことで、螺旋が食い込んで緩めることができます。ターボソケットを使えば必ず緩められるわけではありませんが、ロッキングプライヤーなどと併用してみると良いでしょう。
それでも緩まない、またはネジ部分がキャリパーに残ったまま折れてしまった場合には、
中空部分に逆ネジ状のエキストラクターをねじ込んだり、折れた先端に別のボルトを溶接して回すこともあります。溶接で熱が加わると、素材の膨張率の違いによってネジ部分の固着が解消されて緩みやすくなるメリットがありますが、失敗すれば被害が拡大するおそれがあるので、信頼できるバイクショップなどにお願いするのが良いでしょう。
もっとも、ブレーキメンテナンスを行った際に適切な後処理を行っていればこうしたリスキーな作業は不要です。
- ポイント1・中空のブリードバルブは通常のボルトより強度が低いので、サビで固着した際は破損に注意しなくてはならない
ブリードバルブに付着したブレーキフルードはパーツクリーナーで洗浄して、必ずキャップを装着する
新品のブリードバルブを装着するまでの中継ぎであっても、ラバーキャップは必ず装着しておく。フルードに冒されたり紫外線などの経年劣化によって柔軟性が低下して、機能がない状態でバルブの上に被さっているだけのキャップも脱落前に交換しておきたい。
エアー抜きなどのブレーキメンテナンスを行えば、ブリードバルブ周辺にブレーキフルードが付着するのは避けられません。付着したフルードをサビの原因にしないためには、作業後にパーツクリーナーや水道水でバルブ周辺をしっかりすすぎます。特にバルブ中心の穴は、パーツクリーナーのノズルを差し込んでスプレーして完全に追い出すことが重要です。
また、経年劣化で硬化して紛失することも多いゴム製のバルブキャップも、必ず装着しておきましょう。ほんの小さな部品ですが、屋外保管の車両にとっては雨水の浸入を防止できる重要な役割を果たします。
ブリードバルブのサビに気づいた時には、固着する前に早めに新品に交換します。その際、キャリパーが純正であれば純正部品のバルブを入手すれば間違いありません。またアフターマーケットにはサビに強いステンレス製のブリードバルブもありますが、こうした製品を購入する際はネジ部のサイズが合ったものを選ぶことが大切です。ステンレス製ブリードバルブを販売しているデイトナのデータによれば、M7×P1.0、M8×P1.25、M10×P1.0の3種類のネジサイズがあります。
たとえブレーキフルードが付着しても、ブリードバルブはある日突然錆びる部品ではありません。ホイールの内側に隠れて見えない自動車のキャリパーならともかく、大半のバイクのブレーキキャリパーは外から見える場所にあるはずです。バイクに乗るたびにブリードバルブを指さし確認するほど神経質になる必要はありませんが、バルブキャップの有無やサビによる変色はチラッと見る程度でも気づくはずです。また定期的に洗車をしていればブリードバルブの変化も分かるはずなので、状況が悪化する前に適切な対応をすることが重要です。
- ポイント1・ブリードバルブに付着したブレーキフルードはパーツクリーナー水で確実に洗い流す
- ポイント2・アフターマーケットのブリードバルブに交換する際は、ブレーキキャリパーのネジサイズに合った製品を選択する
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