エンジンの回転を安定させる弾み車であると同時に、バイク用エンジンでは発電機や点火タイミングを決める部品としても重要な部品がフライホイールです。エンジンオーバーホールやポイント点火車のメンテナンス時に、クサビの原理でクランクシャフトにがっちり食いついたフライホイールを外すには専用工具=フライホイールプーラーが必要です。

ボルトやナットを外してもフライホイールは外れない


フライホイールを固定するナットやボルトは、フライホイールに回り止めをした状態で緩める。インパクトレンチがある場合は、一気に緩めることでナットやボルトを傷めることはない。締め付けはインパクトではなく、回り止めした上でトルクレンチを使って締め付ける。


このエンジンのフライホイール側に雌ネジが切ってあるので、雄ネジタイプのフライホイールプーラーを使用する。このプーラーは本体の両側に異なるネジ径となっており、2種類のフライホイールに対応する。またクランクシャフトの端部を押すネジ(十字の部品)も2種類の雄ネジがあり、この部分でも異なるフライホイールに対応できる。十字のネジを手で締めたら、最後にハンマーで叩くと衝撃でフライホイールが浮き上がる。


クランクシャフトの端部が雄ネジであることから、フライホイールを固定するネジはナットであることが分かる。差し込み部分がテーパーになっており、ナットを締め付けることで抵抗が増して外れづらくなる。専用工具がないからといってハンマーなどで叩くと、フライホイール内側のマグネットやクランクシャフトを破損するリスクがある。

クランクシャフトの端に取り付けられているフライホイールには、ピストンの往復運動を滑らかな回転運動にする働きと、オルタネーターによる発電やスパークプラグへ電気火花を送る働きがあります。自動車用エンジンの場合、フライホイールはクラッチとセットとなって動力伝達にも使われています。

現行車にとってエンジントラブル以外でフライホイールを取り外す機会は多くはありませんが、絶版車や旧車の中で小排気量車にとってはメンテナンスの一環として外すことがあります。それはフライホイールの内側にスパークプラグに点火火花を飛ばすコンタクトブレーカーを内蔵したエンジンが多かったためです。

ピストンは上死点に達する手前でスパークプラグに火花を飛ばすにはピストンの位置を把握することが重要で、それにはコンロッドによってピストンとつながっているクランクシャフトを利用すると都合が良いわけです。そこでクランクシャフトに組み込まれるフライホイールの軸部をカム形状として、回転に合わせてコンタクトブレーカーのポイントを開閉していたのです。そのため、走行距離が増えて接点が摩耗したコンタクトブレーカーを交換する際に、付随する作業としてフライホイール着脱を行う必要があったのです。そしてポイント点火車が廃れて無接点点火ばかりとなった現在でも、フライホイールの回転で点火時期を決めているエンジンは少なくありません。

クランクシャフトとフライホイールに限らず、エンジンでも車体でもボルトナットでつながれた部品同士が簡単に外れて良い部分はありません。しかしクランクシャフトの端で弾み車としての質量を与えられて回転するフライホイールはことさら緩んだり外れることは許されません。またポイントを開閉する旧車や絶版車にとっては、フライホイールとクランクシャフトの位置がずれれば、即座にエンジンは停止していしまいます。

そのため、クランクシャフトとフライホイールの接合部はテーパー形状となっていて、フライホイール中心の固定用ボルトまたはナットを締めると、くさびが食い込むように両者が強く締結するようになっています。また回転方向に回らないよう、組み付け位置を決めるキーも組み込まれています。

ズレや脱落防止が重要なのは確かですが、この構造によってボルトやナットを取り外しただけではテーパーががっちり食いついているためフライホイールを取り外すことはできません。そこで登場するのがフライホイールプーラーです。

POINT

  • ポイント1・ボルトやナットで締結されているクランクシャフトとフライホイールは、それらを取り外しただけでは外れない

フライホイールの構造に応じて適切なプーラーを使い分ける


このエンジンはフライホイールに雄ネジが付き、雌ネジ型のフライホイールプーラーを使用する。発電や点火用のコイルがエンジンカバー側に付くためフライホイールが凹型で、そのためネジ部分が露出した雄ネジとなっている。クランクシャフト端部にねじ込まれたナットはすでに取り外してある。


フライホイールの雄ネジにプーラーの雌ネジをねじ込み、ソケット六角部をモンキーやプライヤーで固定した状態で中央のボルトをねじ込む。クランクシャフト端に接したボルトをさらに締め込むと、反力によってフライホイールが浮き上がる。


このエンジンのフライホイールはナットではなくボルトで固定されている。ボルトを取り外すにはフライホイールに回り止めを施して、インパクトレンチなどで勢いよく緩めると良い。


先のフライホイールと異なり中心部分には雌ネジも雄ネジもなく、本体の3カ所の雌ネジにボルトをねじ込み、ハーモニックバランサープーラーと呼ばれるプーラーを使用する。このタイプも中心のボルトをねじ込むことでクランクシャフトの端部を押し込む。

クランクシャフト端部からフライホイールを真っ直ぐ引き上げて取り外すのがプーラーの重要な役割です。テーパーが噛み合ってるぐらいなら……とハンマーなどでフライホイールの外周を叩いて外そうとすれば、デリケートなクランクシャフトが曲がってしまうリスクがあります。特に組み立て式と呼ばれるクランクシャフトは打撃や衝撃は厳禁です。

Webikeのショッピングページではいくつものフライホイールプーラーが販売されていますが、どのプーラーを購入しても使えるというわけではありません。フライホイール自体に切ってあるネジにプーラー本体をねじ込み、プーラーのボルトを締め込むことでクランクシャフトの中心を押し、その反力でフライホイール本体が外れるというのが流れですが、フライホイールのネジにもいくつかの種類があります。

ここで紹介する実例のうち2種類は小排気量車用エンジンですが、一方はフライホイール側が雌ネジなので雄ネジタイプのプーラーが必要で、もう一方はフライホイールが雄ネジでプーラーが雌ネジでなければ外せません。またもう1種類のエンジンはフライホイールの中心部分ではなく、複数のネジ穴にボルトをねじ込んでクランクシャフト端を押すタイプのプーラーが必要です。さらにこれらとは別に、フライホイールに回り止めをセットしてボルトだけをねじ込んで取り外すタイプもあります。

バイクのエンジンメンテナンスではさまざまな専用工具が必要になります。バルブスプリングコンプレッサーやクランクケースなどが代表的なアイテムですが、これらは専用工具の中では機種をまたいで使える分、汎用性が高いといえます。これに対してフライホイールプーラーは、ネジが合わなければまったく機能しないので使い回しができません。

インターネットでさまざまな情報がありますし、工具も通販で簡単に購入できます。しかし誤った情報で間違った工具を入手して作業を進めると、肝心な部分で暗礁に乗り上げてしまう危険もあるので、愛車のサービスマニュアルがある場合は専用工具の部品番号を確認したり、作業が二度手間になっても実際のフライホイールでネジ部分の形状やサイズを確認することをお勧めします。

POINT

  • ポイント1・フライホイールによって適切なフライホイールプーラーを選択してから作業する

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