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エンジンが発生する負圧の強さと吸気流量に応じて、フロートチャンバー内のガソリンが自然に吸い上げられるのがキャブレターの特長です。パイロットジェットやメインジェット、ジェットニードルのサイズを変更してガソリンの流量を調整するのがキャブセッティングですが、セッティングを行う前に大前提となるのがフロートチャンバー内のガソリンの油面を確認しておくことが重要です。

フロートチャンバー内の油面で空燃比が変化する?

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1970年代の絶版車であるカワサキKZ900用純正キャブレターはミクニ製VM26。経年劣化や摩耗によって調整がシビアになる面もあるが、セッティングの前段階として油面を調整し、4つの油面を同レベルに揃えることが重要。

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洗浄やオーバーホール作業でフロートやフロートバルブを取り外すのは、絶版車ではしばしば行われる作業である。このキャブレターはフロートバルブが収まるバルブシートと呼ばれる部品も取り外すことができる。これらの部品を交換した場合、フロートバルブとフロートの接触が変わる場合があるので、フロート高さや実油面測定が必要となる。

内燃機関が開発された初期の頃からフューエルインジェクションが普及するまで、吸入空気とガソリンを混合するのはキャブレターの役目でした。そして現在でも、環境対策のため厳しくなった排気ガス規制に対応できなくなったことが原因で主役の座をインジェクションに譲ったものの、キャブレターという部品自体が機能できなくなったわけではありません。むしろ複雑な制御を行わなければ機能しないコンピュータ制御のインジェクションに比べて、自然の摂理だけで働くキャブレターはシンプルながら賢い部品です。

エンジンが吸い込む空気がキャブレターの中を通過すると混合気になる際、ベンチュリーと呼ばれる通路内に発生する圧力の差を利用しています。昔はそれを霧吹きに喩えて説明しましたが、今では霧吹き自体がレアな存在になっているので分かりづらいかもしれません。ですが、ベンチュリー効果と呼ばれるその現象によって、フロートチャンバー内のガソリンが自動的に吸い上げられ、ベンチュリー内の空気と混ざり合って燃焼室に吸い込まれ、燃焼することでエンジンが作動します。

エンジンの種類によって異なりますが、アイドリング時の1000~1500回転から1万回転近くのレッドゾーンまで回転数が変化することで、エンジンが吸い込む空気の量も変化します。その際に必要なガソリンが吸い出されないとエンジンは充分な力を発揮できません。そのためにパイロットジェット(スロージェット)、メインジェット、ジェットニードルなどの内部パーツの組み合わせによってセッティングを行います。

しかしもうひとつ、フロートチャンバー内のガソリンが吸い上げられやすいか否かを決定する条件に「フロートチャンバー内の油面高さ」があります。キャブレターボディの下に付いているフロートチャンバーには、燃料タンクからガソリンが流れ込んでおり、油面の高さが一定になるようフロートバルブによって調整されています。

この時、空気が流れるベンチュリーから油面までが近ければガソリンは容易に吸い上げられ、距離が遠ければ吸い上げるために大きな力が必要になります。霧吹きと同様に今では見る機会が減りましたが、地面を掘って作った井戸から水を引き上げる際に、浅い井戸なら楽ですが、深い井戸だと労力を必要とするのと同じです。フロートチャンバー内の油面には大気圧が掛かっているので、ベンチュリーを流れる空気の量と速さが同じなら、油面が高い=井戸が浅い方が、低い=井戸が深いよりガソリンが多く出ようとします。

これは何を示すかと言えば、ジェットの口径が同じであっても油面の高さによってフロートチャンバーから吸い出されるガソリンの量が変化するということです。燃料タンクからフロートチャンバーにガソリンが流れ込むと、フロートが浮き上がってフロートバルブが閉じて、油面は一定のレベルで止まります。その時の高さは機種ごとに定められており、油面が正常であってはじめてキャブセッティングが可能になります。

もし油面が基準値より低ければ、ガソリンはベンチュリー内に出て行きづらい状態になり、エンジンに吸われる混合気は薄くなります。逆に油面が高ければ簡単に吸い上げられてベンチュリー内に出て行くので、混合気は濃くなります。

プラグの焼け具合や走行フィーリングでキャブセッティングが合っていないと感じた時、ジェットやニードルを調整したくなると思いますが、空燃比の濃い薄いは油面によっても左右されます。これは単気筒より2気筒、4気筒エンジンの方が大きな影響を受けます。4気筒キャブのジェットの番号が同じなのに、プラグの焼け具合にバラツキがある場合、油面が原因で空燃比にバラツキが生じている可能性もあります。したがって、ジェットを交換するより前に、4つのキャブの油面が揃っているか否かを確認する方が重要であり、油面を揃えた上で初めてジェットのセッティングが可能になるのです。

POINT

  • ポイント1・フロートチャンバー内の油面の高さによって、キャブレター内部を流れる空気の条件が同じでもガソリンの出やすさ=空燃比が変わる
  • ポイント2・2気筒以上のキャブレターの油面が不揃いだと、ジェットセッティングが同じでも空燃比がバラつく原因になる
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油面を知る方法にはフロート高さ測定と実油面測定がある

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フロートチャンバーを外したキャブレターを逆さまにして、フロートピンを上に徐々に傾けていく。フロートの調整板とフロートバルブのロッドが軽く接触した位置で、ボディの下端からフロート下部までの距離を測定する。この角度を僅かに変えるだけで、調整板がロッドを押し込むこともあるので要注意。フロートの断面が円形の場合、メインジェット位置が最も低くなっているキャブが多いので、この部分で測定する。

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実油面を測定するフューエルレベルゲージは、キャブレターの形式によって構造が異なる。フロートチャンバーのドレンスクリューを緩めた際にドレンパイプからガソリンが流れ出すタイプであればホースタイプのゲージを差し込むだけで良い。一方、ドレンスクリューを抜かないとチャンバー内のガソリンが出ないタイプのキャブは、ドレンスクリューと交換するタイプのゲージを使用する。KZ900用キャブの場合は後者なので、画像のようなゲージを使用する。

フロートチャンバー内の油面は、チャンバー内のガソリンで浮き上がるフロートによって決まります。フロートピンを支点に揺動するフロートにはガソリン通路を開閉するバルブが付いており、チャンバー内のガソリンが吸い出されて油面が下がるとバルブが開いて燃料タンクからガソリンが流れ込みます。

バルブの開閉タイミングを知るには、キャブレターボディとフロートの浮きの高さを測定する方法と、フロートチャンバー内の実油面を測定する方法があります。前者はキャブからガソリンを抜いてフロートチャンバーを取り外し、専用工具のフロートレベルゲージによってボディ下端からフロート下端までの距離を測定し、サービスマニュアルに記載された数値と異なる場合はバルブが接するフロートの調整板を曲げて調整します。

この高さ調整は簡単なようで意外な難しさがあります。フロートが浮き上がってバルブを閉じると書きましたが、このバルブにはスプリングで支えられたロッドが付いており、実際にはロッドと調整板が接しています。フロートが揺動してバルブが閉じた際には、調整板とロッドが軽く接する位置で測定するのが基本ですが、ほんの僅かにフロートを動かすだけでロッドが動くため、測定のための基準が取りづらいのです。また、フロートピンとフロートの接触抵抗によって、フロートの高さが影響を受けることもあります。基準値に対して一定範囲でプラスマイナスの誤差が許容されているので、極端に神経質になることはありませんが、4気筒の4連キャブを合わせるには気を遣います。

これに対して、実際にフロートチャンバーにガソリンを入れた状態で行うのが実油面測定です。この測定方法はフロートチャンバーのドレン(排出口)の構造によって測定できるキャブとできないものがあります。測定可能であれば、専用工具のフューエルレベルゲージをフロートチャンバーのドレン部分に接続して、キャブレターからガソリンを流し込みます。すると大気圧によってフロートチャンバー内とゲージ内の油面が同レベルになるので、その数値をサービスマニュアルに記載された標準値と比較して、外れている場合はフロートの調整板を曲げてバルブが閉じる位置を変更します。

フロート高さ測定と実油面測定のどちらでも油面を合わせることができますが、実油面の方が信頼できるという意見もあります。フロートチャンバーを取り外し、キャブ本体を逆さまにして測定するフロート高さは、キャブの角度が僅かに変わるだけでフロートがバルブを押さえる力が変化するデリケートさがあります。

一方、実油面測定はキャブレターが実際に機能する状態、つまりキャブボディにフロートチャンバーが付いてガソリンが流れ込んだ状態で測定するため、より実態に即しているというのがその理由です。ただしフロートチャンバーにドレンスクリューがあり、スクリューを緩めた時にドレンパイプからガソリンが流れ出すキャブでなければこの方法は使えません。

POINT

  • ポイント1・フロートチャンバー内の油面を調整する際には、フロート高さを基準とする場合と実油面を基準にする場合がある
  • ポイント2・どちらの測定方法にも一長一短がある

フロート高さでも実油面でも、サービスマニュアルに記載された数値に従うことが重要

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サービスマニュアルに記載された「サービスフューエルレベル」が実油面となる。3±1mmというのは、キャブボディとフロートチャンバーの合わせ面から「下に」3±1mmであることを示している。つまり標準値内の上限でも合わせ面下2mmということになる。

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実油面を測定する場合、キャブは正立状態でフロートチャンバーにガソリンを流して行う。前後の傾斜角を大きくしすぎると実油面が変化するので、できるだけバイクに装着された状態を再現する。ただ、バイクで登れる急坂程度の角度であれば影響が出ないよう設計されている。フロートバルブのロッドに弱いスプリングが組み込まれているのもその一環だ。

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KZ900用キャブレターのフロートチャンバーに付くドレンパイプはフロートチャンバー内の油面が高くなりすぎた際のオーバーフローパイプであり、ドレンスクリューを緩めてもこのパイプからはガソリンは出てこない。したがってここにチューブタイプのフューエルレベルゲージを差し込んでも実油面は測定できない。

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フロートチャンバーのドレンスクリューを取り外し、スクリューアダプター付きのフューエルレベルゲージを取り付ける。これによりフロートチャンバーにガソリンを流すと油面と同じ位置までパイプ内を上昇する。

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キャブボディとフロートチャンバーの合わせ面にレベルゲージの目盛りを合わせて、そこから下に3±1mmの位置に油面があれば正常だ。標準値内から外れていた場合、チャンバー内のガソリンを抜いて取り外し、フロートの調整板を曲げて調整する。

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実油面は実際のフロートの動きと油面が分かるのが利点だが、油面調整の際にはフロートチャンバーを外さなくてはならないので手間が掛かるのが難点。調整板の曲げ量と油面の変化量は、実際に作業して確認する。

フューエルレベルゲージを使って実油面測定を行う際には、キャブボディとフロートチャンバーの合わせ面を基準として油面高さが規定されています。多くの場合、合わせ面より下に標準油面を設定しているようですが、カワサキゼファー用のケーヒン製CVKキャブのように合わせ面下0.5mmから合わせ面上1.5mmが標準値となっている機種もあるので、愛車のサービスマニュアルを参照することが重要です。一般的に、ボディとフロートチャンバーの合わせ面より油面が高くなると、合わせ面からガソリンが滲みやすくなることが懸念されますが、標準値を知らず合わせ面より下になるよう調整すると、油面が低すぎて空燃比が薄くなってしまうかも知れません。

これに対して、ここで紹介している1976年モデルのカワサキKZ900用ミクニ製VMキャブレターの場合、実油面の標準値はフロートチャンバー合わせ面から下2mmから4mmが標準値となっています。このキャブレターで合わせ面近くまで油面を上げると、空燃比が濃くなるだけでなく、オーバーフローを起こしやすくなるので注意が必要です。

実油面測定で標準値から外れていた場合、一度フロートチャンバーのガソリンを抜いてフロートチャンバーやフロートを取り外して調整板の曲げ直しを行い、再測定時にはチャンバーを取り付けてガソリンを入れなくてはならないため、フロート高さによる測定と調整より明らかに手間が掛かります。しかし実油面測定には、実際にキャブレターが機能する状態でチェックできる魅力があります。

どちらの測定方法を選択するかはキャブレターの形式や専用工具によりますが、重要なことはキャブメンテやセッティングの際には最初に油面の高さを確認して調整しておくことです。基準がバラバラな中でジェットやニードルを交換しても理想的な結果は得られないことを理解しておくことが重要です。

POINT

  • ポイント1・フロートチャンバー内の油面がボディとチャンバーの合わせ面の上下どちらに来るかは、キャブレターの形式や装着されるバイクによって異なる
  • ポイント2・フロート高さでも実油面でも、油面はサービスマニュアルに記載された標準値に合わせることが重要

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