カワサキGPZ900Rに装着されたケーヒンFCRキャブレター。鋭いスロットルレスポンスと全開時のパワーの伸びは純正のCVキャブレターの比ではない。キャブ本体、インテークマニホールド、シリンダーヘッドのいずれにも負圧取り出しニップルはなく、バキュームゲージを使った同調調整はできない。
FCRキャブの経年変化で避けられないボディ内部の段差(スロットルバルブローラーによる摩耗)補修などで4連キャブを分解する際は、スロットルバルブを開閉するリンクアームとスロットルシャフトの位置関係を決める同調スクリューと同調ナットの取り外しが必要で、組み立て後は同調調整が不可欠となる。
真円のスロットルシャフトに対して、シャフトが通るリンクアームの穴は長円で六角頭の同調ナット、その内側に同調スクリューがある。基準キャブレターはシャフト上部とリンクアームの隙間が0.6mmになるよう調整する。ここでは0.6mmのステンレスワイヤーをゲージ代わりに使って隙間を設定する。
ステンレスワイヤーに伝わるフリクションを感じながら、同調スクリューを回して0.6mmの隙間を作り、同調ナットを締め付ける。その際に隙間が変わってしまった場合は再度調整する。キャブレター単体で同調を合わせる場合、基準キャブレター以外のリンクアームの隙間は0.6mmにこだわる必要はなく、ボア底部とスロットルバルブ下部の隙間が基準キャブレターと同じになるように調整する。
吸入空気量を測定するためのエアーフローメーターはシンクロテスターと呼ばれることも多い。太鼓状の本体は吸気抵抗にならないよう多数のスリットがあり、内部のフラップが受けた吸入空気量に応じて指針が作動する。ファンネルなどに密着させるため、オプションとしてさまざまなエルボーやアダプターが用意されている。
写真で見やすいように右端のキャブレターにセットしているが、本来は基準キャブレター(この場合は左から2番目が基準となる)の空気量を最初に測定して。他のキャブレターの測定値をそれに合わせていく。メーターを押しつけることで、吸気抵抗は直キャブ状態より増加するが、すべてのキャブレターが同条件となるため、同調調整に対しては正しい測定が可能。
測定は一定のエンジン回転数で行う。この場合、基準キャブレターの吸入空気量は2.75kg/hぐらいだった。
それに対して他のキャブレターでは1.8kg/h程度しか空気が吸えていないので、基準キャブレターよりスロットルバルブが閉じていると判断できる。エンジン側の問題で、基準キャブレターのシリンダーより吸入負圧が低くて吸えていない可能性もあるが、ここでは空気量基準で同調を調整する。
写真で分かりやすいように、左端のキャブレターで調整の様子を紹介する。同調ナットを緩めて同調スクリューを調整すると、スロットルバルブの開度に合わせて吸入空気量が増減するので、基準キャブレターの数値に合わせる。
同調ナットを締めて同調スクリューをロックする。ナットを回す際にリンクアームがスロットルシャフトに押しつけられることで、スロットルバルブの開度が僅かに変化して吸入空気量が変わることもあるので、その際は再調整する。すべてのキャブレターのキャブレターの吸入空気量が一致したら、同調調整は完了となる。