さる7月28日、川崎重工業は「SAFE ADVENTURE MEDIA SESSION」と題した報道機関向けの発表会を開催した。これは昨年の大阪・関西万博でカワサキが展示した四足歩行型モビリティ”コルレオ(CORLEO)”を軸とした、カワサキが提案する近未来モビリティの事業化計画。カワサキはコルレオの実用化に本気で取り組んでいるのだ。

●文と写真:淺倉恵介

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2030年にデモラン披露、将来的には「コルレオランド」で乗って楽しめる?!

昨年の大阪・関西万博で川崎重工が展示し、大きな話題を呼んだ四足歩行型モビリティ“コルレオ”。SNSでのサーチ数は実に12億を超え、世界中から注目を集めた。

コルレオは駆動にタイヤこそ用いていないものの、人が跨って操るというところにバイクと大きな共通点がある。実際、コンセプトや開発手法にはカワサキがバイクの開発で培ってきた多くの技術が投入されているという。

そのコルレオを軸にカワサキが描いている“SAFE ADVENTURE事業”の発表会が開催された。コルレオは荒唐無稽な未来の乗り物ではなく、近い将来の実用化を目指して開発されていることは以前もお伝えしたが、今回はその事業化計画について発表されたのだ。

発表会では乗車可能なコルレオのモックアップモデルが公開。跨っている人物は、開発を担当する川崎重工業株式会社 SAFE ADVENTURE事業統括部で統括部長を務める天辰祐介さん。

 

具体的には、まずは2030年にサウジアラビアで開催予定のリヤド万博にて、実際に人がライディングしてのデモ走行を披露するのが目標。その後、2035年には実用機となる”コルレオX”をローンチし、さらに将来的にはコルレオXに乗って楽しめる、テーマパーク的なアクティビティの建設まで構想されているという。

パークの建設予定地は、現在のところサウジアラビアが有力候補であるそうだが、社会情勢によっては流動的な部分もあるとのこと。中東ならではの荒涼とした山岳地帯や砂漠を、コルレオXを駆って縦横無尽に駆け抜ける。なんとも心躍るアクティビティだ。

今回発表された、コルレオを楽しめるテーマパークのイメージイラスト。絵空事ではなく、実現に向けてプロジェクトが動いているのだ。

 

こんなイメージで…楽しめるようになる?!

発電用の水素2ストは303cc&スパチャ仕様に進化!

コルレオのコンセプトモデルが発表された時、バイク乗りの注目を集めたのがそのパワーユニットだった。コルレオ自体は各部のアクチュエーターにより駆動する一種のEVと定義できるが、その電源はエンジンによって発電するシリーズハイブリッド方式を想定している。

その発電機となるエンジンが、排気量150ccのターボ付き水素2ストロークと公表されたことが話題を呼んだのだ。燃料がゼロエミッションを実現しやすい水素であること、排気ガスの浄化が難しい2ストロークエンジンの問題点を過給機でカバーできることで、2ストロークエンジンの復活に繋がるからだ。

今回の発表会では、注目のこのエンジンの開発状況も聞くことができた。パワー増大を狙って排気量は303ccまで拡大、過給機は当初予定されていたターボではなく、現在はスーパーチャージャーが有力視されているとのこと。開発は順調で、完成間近といえる段階にあるという。

昨年公開されたコルレオの透視図。前脚上の部分に、ターボ付き水素2ストロークエンジンが搭載されている。エンジン後部のボックスはバッテリーもしくはインバーターと考えられる。車体後部の青い円筒状のパーツは、燃料となる水素のタンクだろう。

 

エンジン部のアップ。ターボに加え、グリル直後にはインタークーラーも見て取れる。また、吸気経路は燃焼室に直接繋がっていて、クランクケースは経由しないように見える。

 

ただし残念ながら、このエンジンをそのままバイクに搭載することはあり得ないという。その理由は、低燃費性能と安定した発電性能を追求した設計であり、バイクに搭載したとしても楽しめるパワーフィーリングを得られないためとのこと。

だが、将来的な過給機付き水素2ストロークエンジンをバイクに搭載する可能性は否定されなかった。コルレオで培った技術により、白煙を吐かずオイルも撒き散らさないクリーンな排気ガスを得て、刺激的な2ストロークエンジンの乗り味が再び味わえるのかもしれない。これは期待せざるを得ない。

奇しくもカワサキは、新開発の2ストロークエンジンを搭載したモトクロス/エンデューロマシンのKX327/Xを発表したばかり。競技専用車で公道走行は不可だが、カワサキ内部に2スト復興に向けた動きがあるのは間違いない?!

バイクの開発も変える!? 新世代ライディングシミュレーターを並行開発

コルレオの開発では他にも技術面でのエポックがある。それが新次元のライディングシミュレーターの開発だ。

ライディングシミュレーターのイメージイラスト。ライダーの操作がマシンの挙動にどう反映されるか。また、路面状況が、ライダーにどう影響するかといったデータを、バーチャルで徹底的に煮詰められる。

 

コルレオは、ただ四本足で歩くロボットではなく、あくまで人が操るモビリティとして開発されている。実のところ、四本足で歩行し人を乗せるだけなら難しいことではなく、カワサキとしての実証例もあるという。

だが、人が操るとなると全く別次元の話になるそうだ。現状のコルレオはオフロードビークルとして考えられているが、仮に多脚型ロボットを不整地で自律走行させ人を乗せると、乗り手が跳ね飛ばされるレベルで車体が暴れてしまうという。不整地で操る乗車型の多脚型モビリティを実現させるのは、様々な要因から極めて難易度が高いのだ。

また、重要なのが“人が操る”という点。人が乗って、安全で楽しいモビリティを作り出すには、テストライダーの存在は欠かせない。ただしコルレオは、これまで世界のどこにも存在しなかったコンセプトのモビリティである。そこで、実機の開発と同時にバーチャルで走りの性能と乗り味を突き詰め、開発期間を短縮するため、ライディングシミュレーターの開発が同時進行している。

走りのステージとして考えられているのはオフロードだから、路面のグリップは悪く地面が平坦な場所ばかりでもない。浮石などで不安定な路面も多い。そうした不整地のあらゆる状況を再現可能なシミュレーターを目指しており、すでに第一世代の開発は完了。現在は第二世代の開発に取り掛かっているとのこと。

シミュレーターのシステム概念図。ライダーからの入力は固定式のハンドルバーとシート、さらに”あぶみ”と呼ばれるステップがメイン。操作系に可動部分は持たず、加減速や操舵は各部への荷重コントロールで行うため、複数のセンサーやカメラでライダーの動きを感知する。Physical AIを活用し、開発にはnVIDIAなど世界の先端企業とも協力する。

 

人を乗せる四足歩行モビリティというだけで難しいのに、さらに道なき道を進むオフロードモビリティとなると…開発のハードルの高さが窺い知れる。

 

コルレオは、バイクと同じくライダーが操作して楽しむためのモビリティ。乗り手のスキルの違いにより走りが変わる作り込みがなされるという。ライディングシミュレーターは、現在でもバイクの開発に使用されているが、コルレオで開発中の新世代のシステムは従来のものとはレベルが違う。当然、バイク開発への流用も考えられているだろう。

つまり、コルレオは様々な面で、今後のカワサキのバイク開発やモデルの方向性に大きな影響を及ぼしそうなのだ。コルレオ自体も非常に面白そうなモビリティだが、カワサキのバイクファンとしても今後の推移に注目して行きたいプロジェクトである。

筆者もコルレオに跨ることができた。固定された状態ではあるが、乗車感はバイクそのもの。モックアップ製作時には、人が乗ることを前提に形状が決められたというのも納得。オフロードバイクやネイキッド的な、アップライトで自然なライディングポジションだ。

 

コルレオのモックアップモデルは、現在2体しか存在していない。大阪・関西万博で展示された可動するモデルは、神戸のカワサキワールドに展示中。人が跨がることができるモデルは今後、海外で展示される予定。

 

発表会で登壇した二人。左は川崎重工業株式会社 社長直轄プロジェクト本部 SAFE ADVENTURE事業統括部 統括部長 天辰祐介さん。大のバイク好きで、カワサキに入社したという人物。右は、同部 特別主席 上野高廣さん。工業用ロボットの開発を多く手がけ、国産初となる医療用手術支援ロボット”hinotori”も手がけた

 

コルレオをデザインした福本圭志さん。カワサキで長年バイクのデザインに携わり、数多くの名車を生み出してきたレジェンドデザイナーだ。代表作はNinja ZX-Rシリーズほか。

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