全国に直営300店舗超を展開し、“国内最大手のバイク販売店”として躍進を続けているレッドバロン。近頃、バイクショップは減少の一途だが、なぜここまで元気なのか? 取材の結果、「ヒト」と「モノ」の両輪に秘密があることがわかった。――その模様を徹底レポートしよう。
⚫︎写真:関野 温
⚫︎取材協力:レッドバロン
目次
【ヒトづくり編】メカニック経験ゼロからプロに育て上げるスクール
レッドバロンには、多彩な国内外の新車、高品質の中古車が並び、高度なアフターサービスに定評がある。その理由をアピールすべく、愛知県岡崎市でメディア向けの説明会が実施された。
まず見学したのは「レッドバロンテクニカルセンター」。社内向けに、整備技術を体系的かつ専門的に学べる機関だ。こうした機関は二輪では珍しく、全国から定期的に中堅・ベテランサービスマンが招集され、日進月歩で進化する最新技術の研修を絶えず行っている。
かつての二輪業界は、四輪とは異なり、整備技術を体系的かつ専門的に学べる機関がほとんど存在しなかった。自己流の習得が当たり前という風潮が長く続いていたが、これにレッドバロンは危機感を抱き、工場長に就任するサービスマンを対象とした「同期の研修制度」をスタート。これが1997年の出来事で、わずか2年後にテクニカルセンターが完成した。一度に100名が整備実習可能な規模の研修センターを、短期間で完成させたのだから凄まじいスピード感だ。
2002年から敷地内に「二輪整備専門スクール」も併設。こちらは、工具すら握ったことのない整備未経験者が、基礎知識から高度な技術までをゼロから学ぶためのスクールだ。約140名が泊まり込みで研修できる専用宿舎を完備し、研修期間中、スクール生は学費や宿泊費が一切無料。しかも正社員としての給与までも全額支給されるというから驚く!
店舗網拡大に合わせた育成や、将来的な整備士不足を見据えた戦略が目的とはいえ、企業が全責任とコストをかけてプロへと育て上げてくれるのだから、意欲ある若者には実にありがたい存在だ。
「ボルトが緩まない整備」という基本品質を徹底的に教育
二輪整備専門スクールでは、高度なスキル習得を前提に、基礎を徹底的にレクチャー。特に「ボルトが緩まない整備」という基本品質を執拗なまでに教育する。

(株)レッドバロン 取締役副社長の藤田貴弘さんは、第一技術部長などを経て、2004年に現職へ就任。テクニカルセンターと本社工場が生まれた背景を話してくれた。「教育ポリシーは『技術の前にまず心構え』を教えること」と語る。
藤田副社長は「バイクの凄まじい振動の中では、たった一本のボルトの締め忘れが重大な事故に直結します。『エンジンを分解する技術と、外装のボルトをたった一本、正確に締める技術。その難易度と責任の重さは全く同じである』という真理を学ぶ、まさに『神聖な道場』なのです」と話す。
さらに、技術をお客さんのために活かす“心構え”も重視。「いくら優秀な技術を持っていても、ライダーのために活かせなければお客様に不快な思いをさせ、ライダー離れを招きます。接客面では、高い説明力を養う以前に、まずはマナーを徹底しています。機械と向き合う前に、人と向き合う。サービスマンという職業に誇りを持てる人材を育成することが最大の目的です」と藤田副社長は話す。
テクニカルセンターは、レッドバロンに所属する約1000名の全サービスマンを、生涯にわたって育成し続ける、まさに“道場”と言える存在だ。
「山手線方式」とタイムトライアルで効率的に学習
ここからは実際の二輪整備専門スクールの講義を見てみよう。
午前に学科、午後に実車を使った実技という実践的なスタイル。そして「山手線方式」と呼ばれる画期的なカリキュラムが特徴だ。1日単位でテーマが独立かつ完結しているため、効率的に学習でき、いつ入学していつ店舗に配属されても即戦力になる。
午後の実技では、現場と同じ「ツールキャディ(工具セット)」や設備を使用。毎日「タイムトライアル」を実施することで、自分の実力を客観的なタイムとして認知できる。一般的な販売店であれば数か月に1回しか行わない作業を1日に何度も反復することで、一般的な販売店の4~5年分に相当する圧倒的な経験値を一気に積めるという。
この二輪整備専門スクールでは、学習速度が早い人は30日ほどで卒業。最大90日間学習でき、それぞれの学びのペースに応じて進められるのが嬉しい。
バイクの積み込みや接客も学習、何もかもが実践的
講習では、単なる修理技術だけでなく、「不調の原因を分かりやすく説明し、お客様の不安を取り除き、最後は笑顔で帰っていただくための接客技術」も重視。そのため、店舗のサービス工場と同じカウンターを設け、接客の練習も行う。
さらに、店舗の業務で必須の取り回し、バイクの積み込みも練習するなど、実践的な講習を実施している。心構えから技術まで学べるテクニカルセンターは、まさに“道場”だ。
宿舎は完全個室、食堂もしっかり完備する
専用宿舎が用意され、受講生は「整備技術の習得」に集中できる。併設の食堂では、実費負担ながらリーズナブルに食事可能。合宿のようにみんなで一緒に過ごす時間が長いため、年齢に関係なく仲良くなれるそうだ。
【生徒インタビュー】整備経験ゼロから成長を実感、設備の充実度や教育制度が入社の決め手に
二輪整備専門スクールで研修中の江上瑠星さんは、高校を卒業したばかりの18歳。班をまとめるサブリーダーを務めている。
「私を含め、ほとんどの研修生が整備未経験です。最初は不安でしたが、工具の持ち方からとてもわかりやすく教えていただけるので、どんどん知識と技術を吸収できています。
私は様々なバイク販売店でアルバイトをしてきたのですが、レッドバロンを選んだのは制服がカッコイイことが理由の一つ。そして、設備が最も充実しており、扱うバイクの種類と台数が多く、多くの知識を得られると思ったことが入社の決め手になりました。
もちろん二輪整備専門スクールの存在も理由の一つです。整備を学んでから社会に出たいと思っていたので、とてもいい経験をさせてもらっています」
【校長先生インタビュー】“「ありがとう」と言ってもらえる人”を育てています
20年間、テクニカルセンターと二輪整備専門スクールで講師を務め、現在は校長を務める瀬野さんにお話を伺った。
「心構えを教える上でモットーとしているのは、“技術を身につけるのは誰のため”ということです。成長して技術を発揮するのは自分のためではなく、レッドバロンで買っていただいたライダーのため、人に喜んでもらうため、なんです。
だから生徒には『ありがとう』と言ってもらえる人になりなさい、と指導しています。その気持ちがあれば懸命に取り組み、成長したいと思うはずです。レッドバロンでは1人に1台バイクを用意しますし、教材も1人に1個ずつ用意しますので、技術を身につけたい人は、どんどん成長できるチャンスがあります。メカニックを目指したい人はぜひ、門を叩いて下さい。我々講師が全力でサポートします」
【モノづくり編】高度な技術力とストックパーツで愛車を守る
続いて、同じく愛知県岡崎市にある「本社工場」に向かった。
この本社工場は1万坪(=東京ドームのグラウンド約3個分)の敷地面積を誇り、ダメージ車を効率よく解体。3700機種&60万点もの部品をストックし、絶版車のパーツ供給に役立てている。また、高度な加修技術でパーツをリサイクルし、エンジンオーバーホール専門工場も設置。高度な技術を有する“職人”も多数在籍しているのだ。
レッドバロンがなぜこんな施設をつくったのか。その理由は絶版車の「部品供給不足」にある。
一般的に車両メーカーのパーツ在庫義務は、生産終了からわずか約7年。加えて、バイクのEV化が進めば、古い人気車の部品供給はますます困難になってしまう。部品が入手できないことで愛車に乗り続けることができなくなる可能性がある。
そこでレッドバロンは、35年以上前から部品供給不足に対応すべく、リサイクルパーツを収集する専属部署を開設。2002年に本社工場を設立した。
レッドバロンでは最長3年間の純正パーツ供給を含む『5つ星品質』を導入し、優良な中古車を販売しているが、これも本社工場があってこそ。まさに「モノづくり」の中枢だ。
全バラまで50分。点検、保管まで超スピーディだ
本社工場に集結した車両は、点検を経て、スピーディに解体される。熟練サービスマンが専用機器を使い、たった50分で1台のバイクをパーツリストに掲載されている状態にまで解体。以前は年間1500台だったが、効率化によって年間3000台もの分解が可能になった。
さらにパーツの分類や検品、クリーニング、そして必要に応じて加修した後に厳しい品質チェックを通過し、高品質な中古パーツとして甦る。この膨大なパーツは前述のパーツ保証のほか、店舗で販売される中古車にも役立っているのだ。
またパーツ保証には、それぞれの車種固有のパーツ情報や整備情報が整っていることも重要。年間105万台もの整備実績から収集される情報を40年以上にわたって蓄積し、「US(ユニットサービス)データ」として全店に還元している。
職人ワザが光る! パーツを復活させる「加修技術」
潤沢に中古パーツを確保するには、貴重な部品のストック量を減らさない循環サイクルが必要だ。そこでレッドバロンでは、破損や劣化したパーツを修理&再生する「加修技術」を磨き続けている。これによって入手困難な純正部品をストックでき、ユーザーは修理費を抑えられるメリットもある。
加修技術は、外注での対応が困難なものを優先的に開発。エンジン・サスペンションのオーバーホール、点火不良ユニットの再生、ステーターコイルの巻き直し、キャブレターの摩耗・破損箇所の補修などが挙げられる。
“職人ワザ”と呼ぶべき高度な技術を積み重ね、設備には109億円もの莫大な投資を行い、絶版車の好調さを維持している。中でも加修技術こそシステムの根幹であり、最も大事な要素だ。
【エンジン】高度な設備&独自工具で難しい修理にも対応
第9工場と呼ばれる「エンジンオーバーホール専門工場」では、1/1000mm単位で加工可能なマシニングセンターや、ボーリングなどの高度な設備を完備。オーバーホールをはじめとした難しい整備と修理が可能だ。店舗から排気量を問わずエンジンが運び込まれ、熟練の社員が素早く対応している。

キャブレターの一部が破損した場合、普通なら丸ごと交換になるが、現在はキャブ自体が入手困難だ。写真はカタナ250用で、スターターバイパスパイプをリビルドし、壊れにくい構造に変更(左側)。同社なら破損部分をリビルドして使い続けられる。
【サス】分解不可のリヤサスもプロの技なら新品並みの性能に再生
サスは、シールの経年劣化などで十分な減衰力が発揮できなくなるが、純正リヤサスは基本的に非分解式。しかし同社ではプロの技術と独自設備でオーバーホールを実現し、月に400本を再生している。
ダンパーロッドの点サビなどは、再メッキ処理で対応。入手困難な消耗品は、独自に調達&作製することでオーバーホールの手段を確立した。
【塗装】AI調色と職人の合わせ技で、純正カラーを忠実に再現
四輪と違い、バイクは純正色の配合データが公開されていない。そのため、色を分析するAI調色を導入している。キャンディ色やメタリック、ラメなど一部の色はAI調色でも出せないが、職人の感覚による調色で見事に再現している。
外国車の色は、日本にはない特殊な原料を使う場合もあり、再現が難しい場合も多いが、職人なら正確に調色できるという。
【シート】表皮も中身も再生、カスタムにも応える
走行に支障はない外装もしっかり再生。シートは表皮の張り替え、ウレタンの削れを補修する。また、高周波で圧着したタックロール表皮も用意し、カスタムにも対応可能だ。
【電装系】旧車の泣き所にもしっかり対応
古いバイクは電装系のトラブルが発生しがち。CDIなど点火不良ユニットの再生、セルモーターや、発電装置の修理など繊細な作業も行う。
【その他】クリーニング技術は多彩、検品は膨大なデータが活きている
パーツは一品ごとに洗浄と磨きを行う。ウェットブラストなどの機械や、手作業による丁寧な磨きでピカピカに。その後、検品で年式をチェック。品番の調査は非常に重要で、同社が40年以上蓄積してきたパーツ情報で厳重に点検する。
【まとめ】ヒトづくりとモノづくり、両輪が原動力になっている
とにかくスケールが圧巻。テクニカルセンターにせよ、本社工場にせよ、圧倒的な規模感だ。これだけの巨大な設備やシステムがなければ、残念ながら安心して絶版車に乗るのが難しい時代になりつつある。
早い時代から危機感を覚え、「ヒト」「モノ」の両面から備えてきたレッドバロンの先見の明には率直に感心してしまう。改めて、同社はライダーにとって心強い味方だと思った。その根底にあるのは、ヒトづくりとモノづくり。その両輪が噛み合い、同社を前に押し出す原動力になっている。
個人的には「エンジンを分解する技術と、ボルト一本を正確に締める技術を同一に捉えて教育している」という言葉が刺さった。そんな誠実な心構えを持っている人に愛車を任せたい。
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