ブレーキフルードやワイヤーを使わず、電気信号で作動させるブレーキシステム「ブレーキバイワイヤー」がブレンボから量産化されることになった。一般的な油圧ブレーキに比べ、高いメンテナンス性やより高速&繊細な制御など様々なメリットがある! その一方で不安点も?

電気信号+モーターでパッドを動かす、ブレンボのSENSIFY

高性能ブレーキメーカーでおなじみ、イタリアのブレンボが新型ブレーキシステム「SENSIFY」の量産化を開始した。これは、センサーと電動アクチュエーターでブレーキを制御する「電子制御ブレーキ」。従来の油圧ブレーキのようにブレーキフルードやホースが存在せず、電気信号とモーターで制動力をコントロールするシステムだ。

システムとしては、スロットルを物理ワイヤーに代わって電気信号で制御するスロットルバイワイヤーと同様であり「ブレーキバイワイヤー」と言える。メンテナンスフリーやより繊細なブレーキ制御&タッチが可能となり、ブレーキに大きな変革をもたらす可能性があるのだ。

ブレンボの四輪向け電子ブレーキシステム「SENSIFY」。油圧を用いず、電気信号で通信して制動力を発生させる。

 

バイクはワイヤー式のドラムブレーキもまだ現役だが、現代の二輪&四輪とも油圧ブレーキが主流。運転者がブレーキレバーやペダルで入力すると、マスターシリンダーが油圧を発生させ、ブレーキホースを通じてキャリパーに圧力を伝達する。キャリパー内のピストンが押し出され、ブレーキパッドをローターに押し付けることで摩擦を生み、車両を減速させる仕組みだ。

一般的な油圧ブレーキとSENSIFYの比較。油圧ブレーキは、リザーバータンク内のブレーキフルードを、テコの原理やパスカルの原理で押し出し、キャリパー内のピストンとパッドを作動させる。

 

一方、「SENSIFY」では、ブレーキフルードやホースが一切存在しない。ブレーキレバーやペダルへの入力はセンサーによって読み取られ、電気信号としてケーブルを通じてECU(車載制御ユニット)に送信。ECUが適切な制動力を計算し、各ホイールの電動モーターに信号を伝達する。モーターがパッドをブレーキディスクに押し付けて制動力を発生させる仕組みだ。

今回のSENSIFYは四輪用で、具体的な採用メーカーや搭載車種は明かされていないものの、年間数十万台規模の供給を予定。オプションではなく、標準装備されるという。バイク用に関するアナウンスはないが、機構的にはシンプルで、バイクにも搭載可能と考えられる。

最大のメリットは油圧系ナシによるメンテナンスフリー化か?

電子ブレーキの大きなメリットは、メンテナンスフリーであること。油圧ブレーキで用いるブレーキフルードには吸湿性があり、定期的な交換が必要(一般的に2年ごとが推奨)だが、電子ブレーキでは不要に。また、パッド交換時のエア抜き作業も不要になる。

加えて、峠道の下り坂で連続してブレーキングした際にフルードが沸騰してブレーキが効かなくなる「ベーパーロック現象」も発生しなくなる。

マスターシリンダーやブレーキホースが不要になり、軽量化やレイアウトの自由度アップにも貢献する。ただ、バイクへの搭載が実現した場合、クルマより遥かに高度な制御が必要だ。バイクは、ブレーキオンや解放時の荷重変化で車体姿勢が乱れやすい。また、ブレーキを引きずるといった繊細なタッチも重要。バイク向けが登場するなら、こうした高度な制御はもちろん、バイクに特化した制御プログラムも期待したい。

電子ブレーキでは、ブレーキフルード交換が不要に。バイクショップの仕事は減ってしまうが、ユーザーにはありがたい。※撮影:たぐちかつみ

レスポンス爆速、スポーツ性のアップにも期待

レスポンスやタッチの改善も期待できる。反応速度は油圧の300~500ミリ秒に対し、わずか80ミリ秒という超高速レスポンスを実現(四輪の場合)。自動緊急ブレーキがかかるまでの応答速度も圧倒的に早く、100km/hからの制動距離を最大9m短縮できる。

レバーやペダルは信号の入力装置となるため、設定によって「スポーティ」または「街乗り向け」といったタッチの変更も可能という。

特にスポーツバイクは、ブレーキ入力時やリリース時のフィーリングがクルマより重視される。現在の油圧ブレーキは、リリース時にキャリパー内のピストンが戻る際(=ロールバック)、ゴム製のピストンシールでロールバック量を規制しているが、ゴムならではの劣化による膨張や変形でタッチが損なわれるケースも。こうしたアナログな部分も電子ブレーキなら解消されるわけだ。

また電子ブレーキでは、ABS特有のキックバックや振動がなくなるのも利点だ。

さらに四輪の場合、4つの車輪をそれぞれ異なる圧力でブレーキをかけられるのもメリット。路面の微妙なグリップの差をリアルタイムで検知し、必要な車輪に必要な力をかける。これは従来の油圧ブレーキでは不可能な制御だ。

なおブレンボによると、EVに搭載される「回生ブレーキ」との相性も良好という。回生ブレーキは、ブレーキングによって発生する減速時のエネルギーを電力として回収するシステム。電気ブレーキと協調制御することで、より効率的なエネルギー制御が可能になる。

万一の際の安全性やフェイルセーフは?

一方でデメリットはあるのだろうか。まず思いつくのは信頼性だが、同様のブレーキバイワイヤーは航空機や電車で長年採用されており、安全性は高いと言える。ただし、飛行機などに比べ、自家用車はメンテナンスのスパンが長いのは懸念ポイントだろう。

さらに問題なのは、電源がなくなった場合だ。バッテリー上がりなどのトラブルで車両の電源がゼロになった場合、車両を停止させる別の手段(フェイルセーフ)が必要になる。これに関してブレンボは、複数系統の電源や通信回路、センサー類を用意したり、独立した電源で作動する緊急ブレーキ、パーキングブレーキによる減速機構を確保するとしている。

バイクの場合、メインスイッチをオフにして押し歩きするケースがあるが、こうした場合にもブレーキが作動する仕組みが必要だろう。また、前後ホイールにアクチュエーターを搭載するため、バネ下重量が増加する可能性もある。

コストも気になるところだ。高級車専用のように思えるが、ブレンボは様々なモデルに対応可能としている。「車両のサイズやカテゴリーを問わず、あらゆるタイプの車両に対応」でき、ジャンルも「シティカーからセダン、スポーツカーや高性能車、さらには小型商用車まで。加えて、電動車や自動運転車といった新しいモビリティにも適応」。設計上の制約が少なく、車両のコンセプトや用途に応じて、デザインや技術を柔軟に組み合わせることができるという。

ボッシュも電子ブレーキを開発中、油圧に代わるシステムとなるか

ブレンボが先制した格好だが、ドイツの世界的な電子部品メーカー、ボッシュも同様の電子ブレーキを2024年末に発表済み。量産化には至っていないものの、今後はブレンボと電子ブレーキのシェアを巡る戦いが始まるかもしれない。

今まで主流だった油圧ブレーキの歴史は長く、バイクでの量産化は1969年発売のCB750フォア以来、クルマでは100年の歴史がある。ついに電子ブレーキは、これに代わるシステムとなるか。

繰り返しになるが、バイク用はアナウンスされておらず、本記事ではあくまで予想を書き連ねてきた。普及しつつあるバイクのスロットルバイワイヤーも四輪車の搭載を経て二輪に採用されたように、電子ブレーキも同様の歴史を辿るのかもしれない。個人的には、電気仕掛けよりもアナログの方が安心かつ好みだが、安全性が担保できるならぜひ使い心地を試してみたいものだ。

ボッシュの電子ブレーキシステム。ホイールの小型電動モーターで油圧を発生させ、ブレーキパッドをディスクに押し付ける。ブレンボと違って、油圧機構を残しているのが特徴。

二輪量産車で初めて油圧式ディスクブレーキを採用した、ホンダのCB750フォア。ワイヤーで引くドラムブレーキも小排気量車を中心にまだ採用されているが、ABSの義務化もあり、徐々に減ってきている。

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    すでに4輪でも問題になっている消費電力増大問題がさらに膨れ上がりますね。
    対策は四輪同様オルタネータの出力向上度動作電圧の向上(四輪では24Vにするか48Vにするかで色々議論進んでますよね)。
    しかしバイクの場合脈流こそあるものの基本交流発電ではないので、電源周りで問題が起きた時最悪ライダーが感電しする危険が増える。
    ちなみに私は旧型CB-1300SF時代二度整流器破損を経験しています。一度目はオープンモードでバッテリーが過放電して一度停車したらエンジンかからなくなる程度でしたが、二度目はショートモードでバッテリー液蒸発。よく発火しなかったなという。

    電動ブレーキではこう言った他所の故障由来で発生する不具合にも対策を取っておかないと最悪ライダーが死ぬ。
    最終的に導入するとはいえ、そこまでの実践テストをきちんとやってもらわないと困るな。最悪うちらが死ぬのだから。

  2. 匿名 より:

    技術革新の転換期、日本勢に期待したいですね。

  3. 匿名 より:

    「ブレーキバイワイヤー」
    ベンツの初期型w211でひどい目にあわされた思いでしかない

  4. 匿名 より:

    4輪それぞれに別々にブレーキをかけてコントロールするのは横滑り防止装置でやってます。
    車輪速をモニターしていて4輪それぞれ個別にコントロールしてますね。電子制御ほど緻密では無いでしょうし、ヒステリシスも有るのは確かです。
    その辺の制御系も有るのでブレンボだけでリリース出来るとは思えない。
    ヨーロッパなので通常ブレーキはブレンボ、横滑り防止装置のプログラムはコンチネンタル(名前変わったっけ?)やTRWやボッシュがソフトウェアを提供するとかするんでしょうね。ある種のSDVでしょうか。

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