今ではほとんどの新型バイクに標準装備されているABS。強いブレーキ操作などの際に、タイヤがロックして滑るのを防ぐ安全装置で、法律で装着が義務化されているのですが、どんな経緯があるのでしょうか? また、近年、似たようなシステムにCBSというのもありますが、ABSとどう違うのでしょう? さらに、2025年から導入された新基準原付の場合はどうなるのかなど、ABSのイロハについて紹介します。

タイヤのロック防止装置がABS

ABSとは、「アンチロック・ブレーキ・システム(Anti-lock Brake System)」の略称です。ここでいうアンチロックとは、「車輪をロックさせない」という意味。また、「ロック」とは、ブレーキによって車輪の回転が完全に止まってしまう状態です。

要因は、たとえば、走行中に強くブレーキを掛けたこと。前方からクルマや人が急に飛び出してきたときのパニックブレーキなど、急制動時に起こる可能性が高いですね。そして、そんなときに、もし車輪の回転が止まってしまうと、おのずと地面と接地しているタイヤが滑り(コントロールを失い)、転倒などの事故につながってしまうことも多いのです。

ABSは、可能な限り、そんな状況にならないようにするための装置です。制動時にタイヤのロックが発生した場合、これを検知し、すばやくタイヤの回転速度を回復し車体の安定を保つ役割を担います。

仕組みは、メーカーや機種によっても多少違いはありますが、たとえば、ホンダ車の場合、前後輪に搭載されたセンサーにより前後のタイヤ回転速度を検知し、これらに差がある場合は遅いほうのタイヤがロックしていると判断。そして、ロックしているタイヤに対してはブレーキを緩めて回転速度を回復させた後、再度ブレーキングを実施します。これを1/1000秒単位で繰り返し行うことで制動力を確保し、車体の安定を保つのだといいます。

ABSのシステム例(ホンダ車の場合)

なお、ABSには、ホイールのスピードを読み取るセンサーを使いますが、一般的なバイクであれば、ブレーキディスクの中心付近に設置してあります。円盤状のスリット入りパーツと、そのスリットを利用しホイールスピードを検知するセンサーが付いていることが多いですね。そして、これらを見れば、そのバイクがABS付きかどうかが分かるというワケです。

ホンダ・CBR650Rのリアブレーキに付いているABSのセンサー類

2018年から装着が義務化

バイクへのABS装着義務化は、2015年1月に、国土交通省が「道路運送車両の保安基準」などの関係省令を改正したことによります。目的は、「交通事故死者数の削減」。転倒や制御不能になりやすいバイクのロック現象を可能な限り防ぎ、事故の死者を減らすための対策だとしています。そして、これにより、二輪車の制動装置について「先進制動システムの装備を義務付ける」ことになったのです。

より具体的には、排気量125cc超の二輪自動車の場合、一定の技術的要件に適合したABSを装着することが必須となりました。また、50cc超~125cc以下の原付二種(第二種原動機付自転車)も対象となりましたが、こちらの場合は、必ずしもABSでなくてもよく、CBSの装着でもいいとされています。

ここでいうCBSとは、「コンバインドブレーキシステム(Combined Braking System)」の略。いわゆる前後輪連動ブレーキのことです。一般的なバイクのブレーキは前後を個別に操作しますが、このシステムでは、前または後のいずれか一方のブレーキ操作で、前後輪どちらのブレーキも作動するようにしています。

たとえば、ホンダの110ccや125ccなどのスクーターに採用されることの多い「コンビブレーキ」。このシステムでは、左レバー(後輪ブレーキ)を握ると前輪にもほどよく制動力を配分し、バランスのいいブレーキングをサポートするといいます。

コンビブレーキはホンダ製の125ccや110ccのスクーターに採用例が多い(写真はリード125)

CBSのメリットは、複雑な電子制御やセンサー類などが必要なABSと比べ、システムをよりシンプル化でき、コスト面でも優れていること。そのため、車体が小さく、価格も比較的安い小排気量のスクーターや、小型バイクなどに採用されることが多いといえます。

なお、ABSやCBSの具体的な適用時期は、新型車が2018年10月1日から。また、継続生産車に関しても、2021年10月1日以降に販売する機種に関して装着が義務化されています。

ABSもタイプはさまざま

このように、バイクに装着が必須となっているABSですが、装着するモデルの性格や性能などに応じて、主に以下のようなタイプがあります。

【シングルタイプABS】
タイヤのロックが転倒につながりやすい前輪のみに作用するタイプ。小排気量モデルに採用例が多い

【デュアルタイプABS】
高速域からの安定性を高めるため、前後輪に作用するタイプ。幅広い排気量のモデルで採用

【スーパースポーツ向けABS】

サーキット走行など、よりハードな走りに対応したタイプ。車両の挙動を検知することで、過度なノーズダイブを抑制するほか、コーナリング中のブレーキングなどもサポートする

スーパースポーツ向けABSは、サーキット走行など、よりハードな走りに対応したタイプ(写真はCBR1000RR-RファイヤーブレードSP)

【オフロード向けABS】
オフロード走行などの状況下で前後ブレーキの使い分けが必要とライダーが判断した場合に、スイッチ操作でリアブレーキのみABSの作動を解除できるシステム

オフロード向けABSは、スイッチ操作でリアブレーキのみABSの作動を解除できる(写真はCRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES)

【コンバインドABS】
前後輪の制動力を自動で適切に配分する「CBS」と、ロックを抑制する「ABS」を組み合わせたシステム。大型ツアラーなどに採用例が多い。たとえば、ホンダの「ゴールドウイングツアー」では、フロントブレーキをかけるとリアブレーキにも制動力を配分し、リアブレーキをかけるとフロントブレーキにも制動力を配分。前後輪のブレーキを同時にバランス良く作動させることで、ブレーキングによって発生する過度なノーズダイブを抑制。また、デュアルタイプABSにより、タイヤのロックも抑制する

電子制御式コンバインドABSを採用するゴールドウイングツアー

新基準原付にもABSは必須?

以上が、現在バイクのほとんどに装着が義務化されているABSやCBSの概要ですが、従来、50cc以下の原付一種(第一種原動機付自転車)は対象外。装着は義務化されていませんでした。

では、2025年4月から導入された新基準原付の場合はどうなのでしょう?

新基準原付とは、最高出力を4.0kW(5.4PS)以下に制限した排気量125cc以下のバイクのこと。2025年11月から導入された新排出ガス規制の影響で、対応できない50ccバイクは基本的に生産終了となっており、その代わりとして登場したものです。

排気量125cc以下というと従来の原付二種と同じですが、パワーを抑えることで性能面を50ccバイクと同等としていることがポイント。対応モデルは、原付免許でも運転できるなど、交通ルールや法規上の区分を原付一種と同じ扱いにしています。

では、新基準原付の場合、ABSやCBSの装着はどうなるのか? これに関して、ホンダが発表した新基準原付の4タイプには、基本的にどちらかのシステムを採用しています。

まず、ビジネスバイクの「スーパーカブ110ライト」「スーパーカブ110プロライト」「クロスカブ110ライト」。いずれも、110ccの「「スーパーカブ110」「スーパーカブ110プロ」「クロスカブ110」をベースに、109cc・空冷単気筒エンジンの最高出力を5.9kW(8.0PS)から3.5kW(4.8PS)へ抑えて、新基準原付に対応したモデル群です。

これらの場合は、前輪ディスクブレーキと前輪のみに作用する1チャンネルABSを採用。原付二種のベース車と同じ設定となっています。

スーパーカブ110ライト

スーパーカブ110プロライト

クロスカブ110ライト

また、スクーターモデルの「ディオ110ライト」。こちらは、「ディオ110」をベースに、109cc・空冷単気筒エンジンの最高出力を6.4kW(8.7PS)から3.7kW(5.0PS)にダウン。同じく新基準原付に対応させたモデルです。

ディオ110ライト

このモデルの場合も、原付二種のディオ110と同じで、CBSのコンビブレーキを搭載。前述の通り、左レバー(後輪ブレーキ)を握ると、前輪にもほどよく制動力を配分し、バランスよくブレーキングをサポートするホンダ独自のブレーキシステムを採用しています。

なお、これら新基準原付へのABSまたはCBSの装備に関し、ホンダの担当者は。「法規的には装備の義務はないがあえて付けている」といいます。ベースの110モデルにも付いているのでそのまま採用しているということもありますが、大きな目的は「より安全性を高めるため」。

とくに、新基準原付は、ベースが110ccなどの原付二種のため、車両重量も50ccモデルより重くなっています。つまり、従来の原付一種よりも止まりにくい状況やケースも考えられるため、よりブレーキの装備を充実させているのです。

ディオ110ライトはコンビブレーキを装備

このように、今では新車で買えるほとんどのバイクに標準装備されているのがABSやCBS。タイヤのロック防止や制動の前後バランス最適化などを生む有り難いシステムたちですが、気をつけたいのは、これら装置は必ずしも万能ではないこと。くれぐれも、無理をせず、まさかの時には安全に停止できるようなライディングを心がけることが大切です。

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